むしろ貴重なワクチンだからこそ、大事な友人に優先提供すべき
日本政府が台湾にアストラゼネカ製のワクチンの提供を検討していると、本日までに複数のメディアが報じました。報じたメディアによって微妙に焦点の当て方は違うのですが、この報道が事実であるならば、さまざまな意味で歓迎すべきことは間違いありません。なぜなら台湾は日本にとって、地理的にも歴史的にも、経済的にも軍事的にも、極めて関係が深い「友人」であり「パートナー」だからです。
AZ製ワクチンの台湾への提供=毎日新聞
日本政府が確保した英アストラゼネカ(AZ)社の新型コロナウィルス感染症ワクチンを巡って、日本政府がその一部を台湾に提供することを検討していると、昨日の深夜から本日の昼前にかけて、いくつかのメディアが報じました。
ここでは毎日新聞、産経新聞、日経新聞の3つの媒体の記事を並べておきましょう。
まず、毎日新聞の記事では、「日本政府が調達分の一部を台湾に提供する検討をしていることがわかった」、などとしつつ、「ワクチン調達が進まず中国と摩擦を起こしている」台湾にワクチンを提供することで、「中国に対抗する狙いもありそう」、などと報じています。
アストラゼネカ製ワクチン 政府、台湾へ一部提供を検討
―――2021/5/28 00:58付 毎日新聞デジタル日本語版より
もっとも、毎日新聞の記事では、AZワクチンについては「欧州でごくまれな副反応として血栓症が報告されている」などの問題点を指摘。
そのうえで、AZ社と日本政府の間で「接種後に健康被害が起きた場合の賠償を日本政府が肩代わりする」という内容の契約があることから、「台湾に提供した場合の責任の所在が課題となる」、などとしています。
産経新聞は「日台は相互に助け合っている」
一方、毎日の記事の少しあとに、産経ニュースには情報源を「複数の政府・自民党関係者が27日に明らかにした」としたうえで、やはり日本政府がAZワクチンの一部を台湾に提供する「方向で検討している」ことがわかった、などと報じています。
<独自>政府、台湾へのワクチン供給支援を検討
―――2021/5/28 05:00付 産経ニュースより
産経はまた、「日本と台湾は大規模災害などの際に相互に助け合っていることも踏まえ、今回は緊急措置として支援が必要と判断した」としていますが、このあたりの報じ方は、「責任問題」に言及する毎日新聞と大きく異なる部分でしょう。
いずれにせよ、毎日、産経ともに、今回のワクチンについては、先進国などがワクチンを共同購入し、途上国などに提供する「COVAXファシリティ」などの仕組みを通じて台湾に提供する、などの案も浮上しているとしています。
その一方で、日経新聞の本日正午まえの報道では、自民党の外交部会が28日の会合でAZ製ワクチンを台湾に提供することを求め、これを受けて、政府が緊急支援策としてその検討を始める、としています。
台湾にワクチン提供、自民部会が要請 政府検討へ
―――2021年5月28日 11:50付 日本経済新聞電子版より
このあたり、「いつ、だれが検討し始めたか」、などの点において、毎日、産経、日経の報道には微妙な違いがありますが、いずれにせよ複数のメディアがこれを報じたということは、「日本政府が台湾にワクチンを提供することを検討中である」という情報は、確度としてはかなり高いと考えて良いでしょう。
「貴重なワクチンを外国に提供して良いのか」
そもそも論ですが、私たち日本国民が使うべきワクチンを外国に提供してしまって良いのでしょうか。
これらのメディアの報道でも出ているとおり、日本政府はAZとの1.2億回の供給契約以外にも、すでに米ファイザーと米モデルナのワクチンで約2.4億回分(つまり約1.2億人分)を確保しています。
そして日本政府はAZワクチンについては21日に薬事承認したものの、欧州でごくまれに血栓が生じている事例などを受け、「当面は日本国内の公的接種対象から外す方針」としています。
また、先ほどの毎日新聞にあった「責任問題」に関しては、日経電子版は「政府は接種後に健康被害が起きた場合の賠償責任などの課題を整理し、調整を進める」などとしています。
その一方で、AZワクチンの血栓問題は気になるところですが、これに関連し、韓国メディア『中央日報』(日本語版)にはこんな記事も出ていました。
ドイツ研究陣「AZ・ヤンセンの血栓原因突き止めた…問題解決可能」
―――2021.05.28 10:27付 中央日報日本語版より
これは、現地時間26日付の英フィナンシャルタイムズ(FT)の報道をもとに、AZや米国のヤンセンのワクチンで血栓症が発生することの原因を、ドイツの科学者が突き止めた、とするものです。現段階で予断は禁物ですが、AZの血栓問題にも解決のめどがたつことを期待したいところです。
日本にとって台湾は…
いずれにせよ、AZワクチンを外国に提供するという点については、「日本国民を後回しにして、貴重なワクチンを外国に提供するのか」、という批判は当たりません。
むしろ、日本国民にとって必要な量を確保したうえで、さらに余ったものを外国の大事な友人に提供するというのは、外交・安全保障上も非常に正しいやりかたでしょう。
では、その貴重なワクチンの提供先、本当に台湾で良いのでしょうか。
結論からいえば、日本政府がその貴重なワクチンを台湾に提供するのは、日本政府としては首尾一貫した行動です。
なぜなら『外交青書:基本的価値の共有相手は韓国ではなく台湾だ』でも述べたとおり、日本は台湾を、「日本にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人である」と認識しているからです。
この記述は、『外交青書 令和3年版』(※PDFファイル/大容量注意)の55ページに出て来るもので、また、日本政府が「基本的価値を共有している」と認識している相手国は、近隣国の中では台湾のみでもあります。
逆に言えば、「貴重なワクチンだからこそ、私たちと基本的価値を共有し、私たちの大事な友人である台湾に優先的に提供するのだ」、という言い方をしても良いでしょう。
ただ、台湾にワクチンを優先提供することは、こうした「価値観」の観点だけではなく、非常に重要な意味があります。
さきほどの日経電子版の記事の続きを読むと、自民党の外交部会が28日に取りまとめた提言についての記述があります。具体的には次のとおりです。
- 台湾が環太平洋経済連携協定(TPP)に参加するよう日本政府が働きかける
- 海上交通路(シーレーン)の安定確保や抑止力の向上へ防災や海難救助での日台間の海上保安連携を強化する
- 台湾との議員外交を促進するため、外交部会長と国防部会長同士の会談実現にも取り組む
地図で見れば明らかですが、台湾は日本にとっても海上交通の要衝にあり、また、日本に最も近い隣「国」であるとともに、日本列島とともに中国を太平洋から隔絶する役割を果たしています。
日本にとって台湾は、単なる友好国であるだけでなく、名実ともに、経済的にも安全保障上も重要なパートナーであることは間違いありません。その台湾に対するワクチンの供与が実現すれば、日台友好はまた一段の高みに上る可能性があり、その動向からは目が離せないところです。
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中国製は怖くて使えないと報道官が言ってましたねw
ソニーとtsmcが熊本に合弁会社作るって話とセットかも
COVAX通すと、乞食の中抜きや中国の妨害がありそう。
期限切れが近いので直接交渉すべきでしょう。
親中派の妨害必発ですが、AZで良ければお持ちくださいの気持ちで
交渉お願いします。
ポプラン 様のアイディアが実現しそうで良かったですね。
血栓対応では50歳未満の女性は別のワクチンを使ってもらった方がよさそうです。
ドイツの論文ではアデノウイルスを使っていることが原因のようですが、対策があるのでしょうか?、
農家の三男坊 様
私、専門領域が違うのと卒後35年もたっている老兵なので知識不足です。
ただ、開発から短期間で臨床応用した薬にはいろいろ起きることは経験
しております。道修町の某大製薬会社が鳴り物入りで売り出した抗生物質が
日本全国でスティーブンス・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群)を
引き起こして忽ち販売中止になったことなど自分の受け持ち患者でも
経験しました。
あ、興味があってwikipediaを検索する際は写真がすごいのでご注意を。
走りながら開発した薬の副反応は走りながら解決するしかないので
世界の研究者が追いかけていると思います。
研究が上手くいってデータが揃い半年から一年、
それから論文を書いて学会発表や論文投稿して数か月で掲載されて
議論されて定説として認められるまで、異論反論objectionありましょう。
インターネット利用が進んだ現在では、時間短縮していますが
研究の時間短縮は、なかなかできません。
アデノウィルスの何が問題なのか?
以前雑談記事に投稿した細菌兵器問題で取り上げましたが
ロシアのスプートニクは、10年前から開発して一回目と二回目では
アデノウイルスの株を変えて免疫系にアデノウイルス本体に対する抗体産生
は抑制しながらコロナ関連部分の抗体を産生させる方法をとっているとか。
いま日本で使用されているのはより安全と言われるm-RNAワクチンです。
ただ、まさに昨日勤務した施設ではワクチン二回目接種後2週間になる
40代のスタッフが突然くも膜下出血を起こして入院しました。
ワクチン接種との関連は全く不明ですが因果関係を完全に否定することは
難しいです。
万一亡くなったら裁判まで行くでしょう4000万円が掛かってますから。
現代にペストが甦り、人類は戦っている。
鳥の嘴のようなマスクが、ワクチンにかわったことは人類の進歩です。
私もリスク承知の上で接種しました。
また医療職以外の家族も可及的速やかに接種しようと話し合っています。
接種します。
答えにはなっていませんね、すみません。
兎角、中国の話が出てきますが、中国が台湾に提供すると言っているのだから、日本が台湾に提供すると言って問題はないでしょう。
中国が台湾は中国の領土というならば、理屈としては日本が中国にワクチンを提供するのと変わりがないのですから。
まあ、これは明らかに屁理屈かもしれませんが、第一義は日本と友好関係がある台湾の人々が安定した生活を送れるようにするということですから、台湾の人々が喜ぶならば誰に遠慮がいるものか!ってなもんです。
東日本大震災をはじめとした台湾の恩に報いるチャンスです。
当たり前のはなしが早々にでてきて良かった良かった。
使用期限のこともありますし、台湾ではAZを主に接種しているという話も側聞しましたからASAP供出すべく動いてもらいたいもんであります
オセアニア大陸辺縁部の某半島から「うりが貰ってやるにだ」などという寝言が来そうではありますがきっと空耳ッス
台湾は既にアストラゼネカ製ワクチンを使用しているので受け入れは問題なさそうですが、日本で使わない、使えないワクチンで支援したと思われないように注意深く慎重に支援する必要がありますが
マスコミがアストラゼネカ製ワクチンの副作用について過剰報道しそうですね。
アストラゼネカ製ワクチン=使えないワクチンとのすり込みで副作用のあるワクチンで支援するのか!、とかで妨害するかもしれません。
ほんと、南極大陸の某国を変に刺激せず、生成粛々と行動に移して欲しいですね。
5/20 審議会においては AZ ワクチンは政治的に認可しないのではないかとの見方もありました。しかしそうしてしまうと、備蓄 AZ は処分するほかなくなるうえ、使い物にならない(と判断したとしか言いようがない)ワクチンは譲渡しようにも倫理が建たない。こうゆう議論があったのでは、と。
台湾へのワクチン提供は、同じAZ製ワクチンを使用し、かつ数が不足している隣国に対しての、サイレント型(経済)制裁、あるいは消極的(経済)制裁ですね。 ようやく発動ですか。
3つの新聞は、薬害責任、供給手段、道義的あり方をそれぞれ記載しており、何やら情報の出し方を握っている感が漂いますなw
しかし、これを総合すれば、薬害責任はブログ主ご指摘の報道が正しければ、時間経過と共に解決法が期待されるでしょうし、そもそも台湾はAZワクチンの手配を自ら進めておりますからね。
供給手段の妥当性からいえば、オブザーバー参加さえ拒否されるWHO関連組織を通ずるのは個人的にどうかと思いますし、そもそもCOVAXの供給対象は低所得国を原則にしてますから、台湾が当該手段を拒否する可能性もあるのではないでしょうか。
ならば、最後の日経の記事にありますよう、緊急時の人道的対処として、日台の2国間交渉(当然AZ社の了を得る必要はあるでしょうが、既に台湾がAZ社に供給交渉を行っていることを勘案すれば、AZ社側から異を唱えることはないと思われますが。)で提供するのが最も妥当な線かなと私は思います。
更新ありがとうございます。
確か2週間ほど前の報道で「ノルウェーが接種後、血栓や脳出血などの重症例が出たため、3月から使用を見合わせてその後、政府の諮問委員会が使用を取りやめるよう勧告した」(ロイター通信)でした。でも台湾はAZを既に接種しているんですね。
日本が余ったからあげる、と受け取られないよう、何しろ貴重なワクチンですから。毎日新聞の記事では本当に日本の脚を引っ張る書き方、「もし健康被害が出たら」って(嘲笑)。大規模災害でお互いに苦労している国同士、そんな支援を後ろ指差すような新聞社だから、真っ赤っかなんだヨ!
でも一言、「副反応が出たら貴国の責で当たる事」と文書を残すべきです。外国相手なんだから仕方ないです。外務省、厚労省、しっかりやれよ。
COVAXを経由してたら、クレクレとうるさい半島に回るかもしれない。アイツラは、なんでも言いがかり付けるから、日本から回って来たと分かると必ず騒ぐ。だから台湾と直取引(ワクチンは差し上げます。でTPPに入らないか?日台で安全保障を強くしよう)で良いでしょう。
ワクチン瓶にもれなく旭日旗ラベルを貼り付けておけば、クレクレとうるさく言わなくなると思います。
匿名29号様
なるほど〜。旭日旗は「魔除け」になるんですね(笑)。隣国民なら「COVAXから韓国が貰うのは、日本経由以外にしろ!」と駄々をこねそうです。
その想定はちょっと甘いような。
まずはクレクレと騒いでタダでもらう。そのうえで精神的苦痛を受けたとして賠償金請求。
相手はプロですから。あらゆる難癖でもってワクチン賠償金請求の国家事業を検討中と思います。
失敗しても所詮はタダです。やらないわけがないでしょう。
旭日旗つきワクチンをシレッと貰ったうえで杜撰な扱いをした挙げ句「バイアルから旭日旗が見えたから副作用が出たニダ謝罪と賠償するニダ曾孫にも影響が出るニダ」は火病を見るより明らかであります。
日本が台湾にワクチン供与するのは、ワクチンの政治利用アル。
未来のおまゆうでした。
これは完全に日本の勝利です。余裕を持ったワクチン輸入を実現し、より効果のあるワクチンだけを選んで使っても問題ない状況にしておいて、さらにかき集めたワクチンの一部を国としての地位を上げるために使える。
軍事力で国力を誇示することは日本には出来ませんが、それ以外のことで国力を見せることは大事です。こうやって国際的地位を上げていきましょう。
G様
「ワクチンスワップ」とか「ワクチンハブ構想」とか
ほざ言っていた国がやりたかったのはこういうことだったんでしょうねえ。
スワップなどと言い出さず、正当な手段(対価を払う、契約を交わす)でまずは数をそろえた日本政府の政治力、外交力をもっとマスコミは取り上げてほしいと思います。
を