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日韓首脳会談は「形だけ」?「韓国外し」は粛々と進む

韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝、来月ロンドンで開催されるG7首脳会合の機会を使い、日韓首脳会談などが開催される、との観測記事が掲載されています。これについて個人的には「バイデン大統領の顔を立てて首脳会談が行われる」という可能性を否定するつもりはありませんが、現実には首脳会談を1回や2回開催したくらいでどうにかなるような状況ではなくなりつつある、という点についてもまた指摘しておきたいと思う次第です。

日韓首脳会談という観測

日韓関係はどこに行く?

地理的に見て、韓国は日本にとって安全保障上はかなり重要な場所にあります。そして、あくまでも一般論で申し上げるならば、味方は多ければ多いほど良く、敵は少なければ少ないほど良いわけであり、隣国である韓国とも、基本的価値を共有し、未来に向けて発展して行ける関係になるのが理想でしょう。

しかし、「理想論」はもちろん大事かもしれませんが、それと同時に、こうした「理想論」は「唱えていれば実現する」というほど甘いものではありませんし、もし「理想論」を唱えるだけでそれが実現するならば、政治も外交も必要ありません。

現実には、ある理想について「どうやっても実現しない」と判断したならば、その理想を捨て去り、新たな戦略を構築しなければなりません。なぜなら、そうしなければ、この激変する国際社会において、平和と繁栄を維持し続けることなどできないからです。

ただ、どんな国の関係においても、ある日突然関係が断絶する、というものでもないでしょう。その変化は、水面下で徐々に進行する、というわけです。そして、表面上はいったん両国関係の修復が(なかば強引に)演じられる局面もあるかもしれません。

そうした観測を裏付ける記事が、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝、掲載されていました。

韓日首脳会談は開かれるか…日本メディア「来月G7会議で接触の可能性」

―――2021.05.17 08:05付 中央日報日本語版より

これは、共同通信や東京新聞などの日本のメディアの報道をもとに、来月英国で開かれるG7首脳会合で、菅義偉総理大臣と文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領との「初めての対面会談が開催されるだろうとの見方が出てきている」、とする記事です。

パッと浮かぶ2つの疑問

G7メンバーでもない韓国がG7会合に出席する理由は、今回の主催国である英国が韓国を招待したからですが、ここで疑問が2つほど浮かびます。

1つ目は、本当にそんな会談が行われるのかどうか、そして2つ目は、そんな会談が行われた何か意味があるのかどうか、です。

このうち前者については、ジョー・バイデン米大統領の「韓日関係改善に対する意志が強い」、という事情がある、というのが中央日報の見方です。中央日報が引用するのは、「東京のある外交消息筋」による、次の観測です。

韓日関係改善に対するバイデン大統領の意志が強いことを受け、どのような形になっても首脳会談が行われる可能性が高い

中央日報に限らず、韓国メディアが「東京のある外交消息筋」と伝える場合には、在京韓国大使館関係者であることが多いようですが、おそらく今回もそうなのかもしれません。

ただ、後者に関しては、疑念は晴れません。

実際、この「外交消息筋」も「選挙を控えた両首脳が従来の立場を繰り返す場合、会っても大きな進展を期待することは難しそうだ」などと述べたのだそうですが、個人的にはこの見方にほぼ同意せざるを得ないからです。

いちおう中央日報によると、バイデン米大統領が北朝鮮の非核化に向けた連携強化を「韓国と日本に要請する」、菅総理は「北朝鮮の日本人拉致問題解決に向け韓国と米国が協力すること求める」、文在寅氏は「韓国政府の北朝鮮対応に米国と日本の理解を求める」、などとする見通しを示しています。

つまり、表向きは日米韓3ヵ国とも、「3ヵ国首脳会合」ないし日韓首脳会談を実施する目的がある、というわけです。

無理に会談をしても、ねぇ…

この点、そして、コロナ禍の影響で首脳らの往来も極端に減っている現状に照らすなら、一堂に会する数少ない機会を捉え、日韓首脳会談が行われても、べつに不思議はありません。

しかし、日韓首脳会談に関しては、菅義偉総理がこれまで、自称元徴用工判決問題などに関連し、「韓国側が解決策を提示しなければ首脳会談に応じない」とする立場を堅持して来たという事情もあります。

こうした状況から中央日報は「短時間での非公式接触」に留まる可能性もある、などと報じているのですが、いずれにせよ「バイデン大統領の顔を立てて不毛な日韓首脳会談を実施する」というのが、シナリオとしてはもっとも可能性が高そうです。

実際、中央日報自身も2018年10月の韓国大法院(最高裁)の「強制徴用判決」(※自称元徴用工判決の間違い)と2019年7月の「日本の輸出規制」(※輸出管理適正化措置の間違い)以降、「韓日首脳会談は一貫して冷たい雰囲気の中で進められてきた」としています。

今回の会合も、もし行われたとしても、菅総理がバイデン氏の「顔を立てる」以外の目的はなさそうですし、下手をすれば米国自身にとっても「同盟国同士の間を取り持とうとして失敗した」という悪評が付きかねません。

日米プラスアルファの重層化

日米プラスアルファから除外される韓国

ただし、日米同盟に関しては、重層化という動きが進展しています。

中央日報には本日、こんな記事も掲載されていました。

中国を牽制する日米仏豪の共同訓練が定例化へ

―――2021.05.17 08:58付 中央日報日本語版より

これは、16日付の産経新聞が「防衛省は現在、仏艦隊が日本に寄港するたびに共同訓練を実施する方針だ」などと報じたことなどを手掛かりに、「米仏豪が日本と共同で中国を仮想敵国とする訓練を始めた」、などとする記事です。

日本の意図は明確:問題は韓国メディアの関心事

中央日報が引用した「16日付の産経新聞の記事」とは、おそらく、産経新聞電子版には5月15日夜10時過ぎにアップロードされた『【動画】日米仏、共同訓練を定例化へ 中国念頭、離島防衛戦』などの記事のことを指しているのだと思います。

日本は現在、これらの訓練を、「中国を仮想敵国としたものだ」などと表だって述べているわけではありませんが、なかば公然たる事実のようなものでしょう(※実際、産経の元記事にも「中国を念頭に置いている」などとハッキリ記載されています)。

ちなみに当ウェブサイトでは、日本が日米同盟を基軸とし、そこにさらに別の国を加える動きを見せていることを、「日米プラスアルファ」と称して「歓迎すべきだ」と考えている点については、『日本は「日米プラスアルファ」の同盟重層化を急ぐべき』などでも報告しているとおりです。

問題は、なぜ中央日報がこの話題を取り上げたのか、という「動機」の方にあります。

日本の防衛戦略上、数年前まで「日米プラスアルファ」に入っていた国の筆頭は、韓国でした。それが「日米韓3ヵ国連携」です。日本が外交青書などの記載上、韓国を「基本的価値と戦略的利益を共有する最も重要な隣国」と位置付けていたのも、韓国の重要性の裏返し、というわけです。

しかし、『日本政府、外交青書でFOIPから中韓を明らかに除外』や『外交青書:基本的価値の共有相手は韓国ではなく台湾だ』などでも報告したとおり、日本の外交においては近年、明らかな変化が生じています。

たとえば、外交青書上、韓国はすでに「基本的価値を共有する相手国」ではなくなってしまっていますし、いまや日米同盟に次ぐ2番目に重要な外交上のテーマは、日中・日韓・日露関係ではなく「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)なのです。

これが、「韓国の格下げ」という論点でしょう。

FOIPに言及した数少ない記事

もちろん、弱体化しつつあるとはいえ、現実に米韓同盟は存在していますし、日米同盟-米韓同盟を通じ、日米韓は依然として、密接に協力しなければならない関係にあります。とくに北朝鮮問題への対処においては、「韓国との協力が欠かせない」、というのが現時点の日本政府の認識です。

しかし、日米仏、日米豪、日米英などの協力実績が着々と積み上がることで、米国にとっても、日米関係を基軸に、インド、豪州、英国、フランス、台湾などとの複次的な協力関係が構築されていくのであれば、なにも米韓同盟にこだわる必要は消滅していきます。

こうしたなか、この中央日報の記事にはひとつ、他の記事には見当たらない特徴があります。

それは、次の記述です。

米国防総省は『4ヵ国共同訓練の目的は自由で開かれたインド太平洋の実現』と説明した。自由で開かれたインド太平洋は米国が主導する国際秩序だ。内面には中国封じ込めの意図がある。

中央日報を含めた韓国メディアが頑なに直視しようとしないのが、この「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」というキーワードです(中央日報がFOIPの用語に言及せざるを得なかったのは、米国防総省のコメントを紹介したからでしょう)。

韓国メディアはFOIPを無視し、しきりに「クアッド」(つまり「日米豪印4ヵ国連携」)の話ばかり強調して報じるきらいがありますが、実際にはFOIPこそクアッドの前提条件にあります。そして、FOIPにコミットしない以上、米国の防衛戦略上、韓国の地位が低下するのも必然、というわけです。

韓国外しは必然

いずれにせよ、日韓関係を巡っては、おそらくよっぽどの事情でもない限り、文在寅氏が監獄の向こう側に転居されるより前に、1回か2回は首脳会談が行われるなどの小康状態が発生しても不思議ではありません。

しかし、『菅総理の要求を無視し半年以上も放置し続ける韓国政府』などでも指摘したとおり、日本側の真摯な要請を無視し続けているのはほかならぬ韓国の側であり、自称元徴用工判決問題を筆頭とする日韓の諸懸案においては、「日本が譲歩する」という選択肢はありません。

このように考えていくならば、「日韓首脳会談には(形だけ)応じる」が「韓国がなくても大丈夫だという状況を水面下で着々と構築する」という日本政府の現在の姿勢は、非常に一貫していると感じざるを得ないのです。

新宿会計士:

View Comments (25)

  • 韓国は「会談がしたい」しか要求しないから、ただ会えば良いならと、形式的な会談をセットするだけ。日米の対応はそんな感じですね。

    韓国としては、「膝を交えて話せば打開できる」と言う発想なのでしょう。国内向けにはその発想で一時抑えることが出来る。ただ、会うだけなので、なにも進展しない。

    日本は、「会談さえ行われれば良い」というところだけ叶えてあげて、あとはなにもしないという対応です。

    まあ、日韓首脳会談なり、ALPS処理水に対する日韓対話などは行われるのでしょう。ただ、すべて日本は形式対応、ごく一般的な話しかしない。なんらコミットは与えない。

    • G 様
      会えば会ったで、外交慣例に外れようが、会談時の約束に反しようが、あることないこと自国に有利なように報道するに決まってます。
      会った時点で日本の負けです。

  • 会ってもこの前の外相会談同様、20~30分程度、バックに国旗なしじゃないでしょうか。
    韓国側はなにか具体的な手土産を出せるわけもなく、日本側は「韓国が国際法を守れ」を堅持。
    なにも進展しないでしょうね。
    そもそも直接会えばなにか事態が好転するという考えがおかしいです。
    会社の終業持に同僚に「飲みにでも行こうか」などと持ちかけるようなノリで国家間の取り決めが決まるわけありません。

  • 会談というと、外務大臣だった河野大臣が南駐日韓国大使の無礼を止めたのを思い出すのです♪

    >会っても大きな進展を期待することは難しそうだ
    なんて心配をするくらいなら、首脳間で同じことが起きないようにお祈りしとけば良いのにって思うのです♪

  • 日韓は同盟関係ではないし、絶対に同盟関係にはしないとよそで約束しているみたいなので、
    日本からあまり親しげに接するとあらぬ疑いを受けて、おそらく韓国にはご迷惑になりますしね。

  • 日韓は同盟関係ではないし、絶対に同盟関係にはしないとよそで約束しているみたいなので、
    日本からあまり親しげに接するとあらぬ疑いを受けて、おそらく韓国にはご迷惑になりますしね。

  • せっかくの日韓首脳会談ですから、外相会談の決裂を繰り返す意味のない会談をするぐらいなら、議題は北朝鮮の東京オリンピック参加問題に絞ったらいいと思います。ムンたんは北参加という言葉に嬉ションでしょうし、日米韓、米韓の後にそんな話をすれば北の疑心暗鬼は必至、東京放射能オリンピックの成功を祈願するなんて言えば韓国人も盛り上がるしか無いし、法則が発動して東京オリンピックの中止も確実で日本の反対派もニッコリ。あちこちでWinWinです。

  • 4月の日米首脳会談で半導体のサプライチェーン構築で協力することで合意しましたが、半導体の供給が特定の地域に偏っていることを念頭に置いたものです。ここからは推測ですが、米国も最先端の半導体を中国側に肩入れする韓国に依存することの危険性を認識し、密かにサムソンの弱体化に向かうのではないかと見ています。米穀が韓国を切り捨てられないのは中国が絶対に手に入れたい最先端の半導体技術が中国に渡るのを恐れているからではないかと思うからです。文在寅の次も極左になれば韓国外しはハイテク分野にも徐々に及ぶのではないかと見ています。

  • バイデンさんはガザ問題で忙しいので、5月21日か、G7か、どちらかの米韓首脳会談を行わないに1票。
    恐らくそれはG7で、その『おかげ』で、どうせやっても結果のでない日米韓首脳会談(当然日韓も)が行われないにもう1票。

  • 昨年のポンぺオ前国務長官の訪韓中止のように、諸般の事情で米韓首脳会談のドタキャンがあるかも…
    ドキドキしながら(ナマ)温かく見守ります。もしソウルを飛び立った後の決定だったら、ムンムンは何処へ??

  • 南朝鮮が米国に泣きつき、何らかのバーターが
    成立した場合が最悪のパターン
    日米で話しが出来てるという面があるという
    のは希望的観測が強いと思う
    米国の対南朝鮮対策は信用なりません
    米国から圧力がかかった場合に日本はどうする
    のか、心配しかありません

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