本稿は「資料」です。ロンドンで開催されていたG7外相会合やそのサイドライン会合については、『FOIP巡りG7で仲間作り:日英はもはや「準同盟」』や『日韓外相会談の発表自体「後回し」にされたことの意味』などでも触れたとおりです。こうしたなか、G7外相会合の共同声明(コミュニケ)が出ていましたので、その内容のごく一部を抜粋し、紹介しておきたいと思います。
ロンドンG7外相会合のコミュニケ
G7外相会合の共同声明(コミュニケ)が出ていました。英語版に関しては次のウェブサイトで全文を読むことが可能です。
G7 Foreign and Development Ministers’ Meeting, May 2021: communiqué
―――2021/05/05付 G7 UK 2021ウェブサイトより
ただし、全部で87項にも及ぶ長大な文章であり、読むのにはかなり骨が折れますが、ここでは『Ⅱ外交・安全保障政策』の部分のタイトルを紹介しておきたいと思います。
- ロシア(第4項~第7項)
- ウクライナ(第8項)
- ベラルーシ(第9項)
- 西バルカン(第10項)
- インド太平洋(第11項~第12項)
- 中国(第13項~第18項)
- 朝鮮民主主義人民共和国(第19項~第20項)
- ミャンマー(第21項~第24項)
- 東シナ海と南シナ海(第25項)
- アフガニスタン(第26項~第28項)
- リビア(第29項~第31項)
- シリア(第32項~第35項)
- イラン(第36項)
- イラク(第37項)
- イエメン(第38項)
- G7−アフリカパートナーシップ(第39項)
- エチオピア(第40項)
- ソマリア(第41項)
- スーダン(第42項)
- チャド(第43項)
- サヘル地域(第44項)
- モザンビーク(第45項)
- 海上セキュリティ(第46項)
- 核不拡散と軍縮(第47項)
…。
アフリカ問題の深刻さ
外交と安全保障だけで第4項から第47項までが消費され、そのうち中東・アフリカに関するものが第29項から第45項と、項目にして半数近くを占めています。
以前の『「基本的な社会インフラ」の大切さがよくわかる旅行記』では、「チャリダーマン」ことこと周藤卓也さんが実際に自転車でアフリカ旅行をして執筆されたブログ記事をもとに、アフリカ社会の問題点に少しだけ触れたのですが、やはり、アフリカでは各所で問題だらけ、というわけですね。
この点、アフリカとアジアは欧州諸国の植民地支配を受けたという共通点を持っていますが、さまざまな問題も内包しつつも、工業化などに成功して経済発展している国も多く見られるアジア諸国(とくにASEAN諸国)とは大きな違いがあります。
正直、批判を覚悟で「個人的な感想」を申し上げるならば、アフリカが「ASEAN」になれなかったのは、「地理的に近い場所に日本がなかったからだ」、という気がしてならないのです(※本稿ではちゃんとした論拠を示していません。あくまでも「個人的感想」です)。
このあたり、いちどじっくりと情報を収集したうえで、考察・議論してみても面白いかもしれませんね。
安倍総理の置き土産である「FOIP」に言及
さて、アフリカ以外に関しては、引き続き、ロシア、ウクライナなどに言及がありましたが、そのこともさることながら、やはり注目したいのは「インド太平洋」「中国」「北朝鮮」「東シナ海・南シナ海」という4項目に言及があったことでしょう。
このうち、とくに「インド太平洋」に関しては、第12項にこんな記述が確認できます。
We reiterate the importance of maintaining a free and open Indo-Pacific which is inclusive and based on the rule of law, democratic values, territorial integrity, transparency, the protection of human rights and fundamental freedoms, and the peaceful resolution of disputes, and underscore our intention to work together with ASEAN and other countries on these endeavours through a wide range of activities
ここで、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」という表現が出てきました。
意訳すると、「法の支配、民主主義的な価値、領土的一体性、透明性、人権擁護、基本的自由を裏付けとした自由で開かれたインド太平洋」、「紛争は平和的手段で解決するという原則」、というわけですね。
安倍総理の置き土産がG7を動かしたという意味では、まさに日本が国際的な外交上、これまでとは明らかに異なった舞台に立った証拠でしょう。
また、今回、英国政府がインド、豪州、韓国、南アフリカの4ヵ国と、ASEAN議長国であるブルネイをゲストとして招きましたが、第11項では「インド太平洋及びASEANからのゲストを歓迎する」という表現が確認できます。
言い換えれば、南アフリカ以外の4ヵ国は、いずれも「インド太平洋・ASEAN」というカテゴリーで認識された、というわけであり、その「インド太平洋国家」(?)であるはずの韓国が、頑なにFOIPにコミットしていないという点は皮肉ですね。
「中国は知財窃盗をするな」「北朝鮮はCVID方式の非核化を」
中国に関しては、第13項から第18項までを費やし、とくに第13項と第14項で「新疆ウイグル自治区、チベット、香港」などの具体的な地域を名指しして人権に懸念を表明したほか、第17項には「サイバーを利用した知的財産の窃盗の実施または支援を控えて欲しい」とも言及されています。
言い換えれば、G7としては中国が「サイバー空間で知的財産の窃盗の実施や支援を行っている」と認識した、ということでしょう。
さらに北朝鮮については、コミュニケでは北朝鮮が名乗る正式国名の略語である「DPRK」の用語を用いたうえで、「人権侵害と虐待」「広範囲な政治犯収容所」などに言及。
さらには非核化、大量破壊兵器と弾道ミサイルプログラムを「完全で検証可能かつ不可逆的な方法で破棄するように求める」と明言しています。まさに、「CVID」そのものですね。
原文は次のとおりです。
“We remain committed to the goal of complete, verifiable and irreversible abandonment of all of the DPRK’s unlawful Weapons of Mass Destruction and ballistic missile programmes in accordance with relevant UN Security Council resolutions (UNSCRs).”
総評
個人的に今回のコミュニケに強い不満があるとしたら、北朝鮮による日本人拉致事件の解決について言及がなかったことです。また、フランスのル・ドリアン外相、イタリアのディ・マイオ外相に至っては、日本人拉致事件解決への支持を言明しませんでした。
ただ、それと同時に、FOIPに関してはG7諸国のなかでは、ドイツ以外のすべての国から、協力ないしは関与するとの確約が得られたのは、非常に良かったのではないかと思う次第です。
なお、個別の外相会談のリンクは次のとおりです。
5月3日
5月4日
5月5日
本稿、『FOIP巡りG7で仲間作り:日英はもはや「準同盟」』、『日韓外相会談の発表自体「後回し」にされたことの意味』」などで述べた内容に関しては、基本的にはこれらのリンクを参考にしているつもりですので、付記しておく次第です。
View Comments (13)
第18項では「台湾がWHOの討論と世界保健総会に有意義なかたちで参加することを支持する」としていますね。
正式な加盟国としてではなく。
一寸残念です。
さすがに大陸を不法占拠している共産党集団を大陸反抗で追い出すと言っている国を正式な加盟「国」として認めるわけにはいかないですから。
「地理的に近い場所に日本がなかったからだ」
これ誰が言ってたんでしたっけ?インドネシアでしたっけ?植民地がほしかった訪米と違って日本は仲間がほしかったので、日本の側に相手を発展させるというニーズがあったので当然の結果ですね。
早晩このサイトでも取り上げるでしょうが、環球時報がお決まりのリアクション芸を見せてくれています。
https://www.globaltimes.cn/page/202104/1222051.shtml
要約すると以下のような感じですか。
・G7は斜陽国家の集まりで、かつてのように世界経済をリードする力は無い
・米国とEUは一枚岩ではなく、根拠のない中国叩きを唯一の共通目標として辛うじて連携を保っている
・EUは米国と違って対中関係においてより賢明で国益に資する判断をするであろう
EUから切り崩しを図るぞ、という宣戦布告のつもりなんでしょうね。
対途上国のように恫喝は効かないでしょうから、EUに対して具体的にどういう餌を用意するのか気になるところです。
>「地理的に近い場所に日本がなかったからだ」
アフリカ諸国が窮してるのは、日本からのODA等で獲得した資金・技術・人材(現地人雇用で育成)をそっくりそのままアフリカ諸国に融資・輸出・派遣して(現地人雇用無しで)搾取の限りを尽くした『中国の所業』のような気がします。
相当昔ですが、社会学者の方で「経済的に発展するには、近隣に経済のコアになる国が必要で、アジアでは日本がコアとなったが、アフリカではコアとなる国が無い云々」という話を読んだ記憶があります。曖昧で恐縮ですが(^_^;)
〉地理的に近い場所に日本がなかったからだ
所感として、間違いとも言い切れないのではないかと思いますよ
アフリカが「ASEAN」になれなかったのは、「地理的に近い場所に日本がなかったからだ」
⇒これについて、「差別的発言」との批判を覚悟で「個人的な意見」を申し上げるならば、黒人の「遺伝的能力」に原因があると思います。
何故なら、アフリカにも「ヨーロッパ」という、ASEANにとっての「日本」に匹敵する地理的に近い地域(国)があったにもかかわらず、ASEANと同じような発展を遂げることができなかった(できていない)からです。
また、黒人が白人よりIQが低いことは、1960年代には既によく知られた事実でした。
2点ばかり反論を。
すべて私観なので、反論ってより感想と言うべきものです。
あれこれ書きながら事実検証に基づく意見でないことは容赦ください。
時代を19世紀に限ったとしても、「ヨーロッパ」(+イギリス)という強大な勢力と、「日本」という辺境のローカル国家を同等の影響力を持った存在として考えるのは無理があると思います。
そもそも「ヨーロッパ」は全体として一体の帝国でなく、そのなかの一国でさえ日本を圧倒するような帝国の集団でした。それらの国がアフリカ利権で争っていた、それがヨーロッパ。
これを当時の東南アジアに適用して、いまASEAN諸国となっている国を、日本の諸藩が勝手に支配して争っていたらどうだったのか。そんな話はナンセンスですよね。
当時のいわゆる「ヨーロッパ(+イギリス)」と「日本」はまったく比較対象にならない、構造が違うことに留意すべきと思います。
アフリカはヨーロッパの諸帝国に分断支配されたから発展できなかったという考え方もできるはずです。
また、これは完全に私観なのですが、IQとは、脳の機能障害を除けば先天的に決定されるものではないと思っていて、高IQ=高知能という考え方に私は疑いを持っています。
IQ計測はいわばクイズ大会みたいなもので、知的水準と関係なく瞬発的な解答反応を計測しているだけなのでは。
そもそも、アフリカ人とほかの民族とのIQデータサンプルはどのように構成されているのか。それぞれにおける幼少期の教育水準はいかなものであったか。
無教育な黒人と、教育を享受している白人が同列にIQテストを受けたのだろうか。多分そうではないような気がする。その結果を恣意的でないと言えるのか。
なので、私はIQと知性は無関係だと思っていますし、「1960年代には既によく知られた事実」ではなく、「1960年代そのように考えられていたのは事実」と表現するのが正確だろうかと思います。
まとめますと、
・アジアにおける日本と、アフリカにおけるヨーロッパを同じと見なすのは無理がある。
・黒人は白人にIQで劣るという客観的な根拠はないと思う。
といった感想を抱いたといった話でした。
テーマがあまりに多いので,コメントも難しいです。中国,ロシア関係の話は,後日機会もあると思うので,今日は割愛します。ウクライナ,ベラルーシはロシアと一蓮托生なので,これも割愛。ミャンマー問題は,かなり理解できてきましたが,独立後の歴史によって形成されてきた社会構造そのものに原因があるので,如何ともし難いところがあります。
アフリカは,私は詳しくなくて,多少なりとも現状を理解できているのはエジプトと南アフリカぐらいで,あとは全然ダメです。ケニアや,カルタゴ遺跡のあるチュニジアは日本からの観光客も多いかな。でも多くは,日本人にとっては南米以上に「遠い国」だと思います。不思議なのは,ヨーロッパが地中海沿岸諸国すら経済発展させようとしなかったことです。ドイツ・イギリスの関心が低かったからなのでしょうか。イタリアだと力不足でしょう。植民地という歴史問題もあるでしょうが,人種差別も根底にある気がします。あと,アフリカもカトリック教徒の多い国は比較的安定しているようです。プロテスタント中の福音派が入ってくると,逆に面倒を起こすように見えます。イスラム国はあまり援助しない,という不文律があるのでしょうか。
中東問題はイギリスの責任が大きいですが,宗教問題だけでなく,経済格差問題と教育問題が根本にある気がします。ただし,イランは教育水準の高い国です。
ちょっと雑談、失礼します
上に掲載されたG7外相揃い踏み写真
前中央が開催国のラーブ外相、その後ろが茂木さん
なんかこれ、小さい茂木さんを中心に主を守る七人衆みたい…黒のマスクが効いてる!
ちなみに、G7+ゲストの写真では、日韓の外相はソーシャルディスタンスを守った位置取りだったようで…
共同声明の内容は多岐にわたっていますが、アフリカに関する項目を除くと、おおむね日米2+2と日米首脳会談で示された方向性に沿ったものであり、幾つかの異同はあるものの、日本としては、そしてアメリカとしてもだいたい満足のいく内容だったと思います。
しかし、ちょっと驚いたのは、欧州勢がよくこの内容に合意したなという点です。1年ちょっと前だったら、ドイツを始めとした媚中派はまず肯んじなかったでしょう。欧州での風向きの変化についてはいろいろと報じられてましたが、正直なところ、あまり信用してませんでした。しかし、G7の公式な共同声明として出されたということは、思っていた以上に欧州での風向きの変化は確かなものだったのかもしれません(まだ多少疑っている)。なにしろ、あのドイツですら異を唱えなかったということですから。
案の定、早速中国は猛反発しているようですが、当然それは織り込み済みであるはずです。おそらく、中国はイタリア、ドイツあたりをターゲットにして切り崩しを図ってくるものと思われるので、両国が日和らないよう対応を考える必要がありそうです。
ところで、もはやどうでもいい話になりつつありますが、韓国はどうするつもりなんでしょうね。共同声明ではFOIPが強調され、対北朝鮮についてもCVIDを目指すと明記されました。つまりは、韓国の願望は悉く一蹴されてしまったわけです。中国はもとより、北朝鮮としても共同声明には大いに不満でしょう。これでは「折角会議に参加していたのになにやってんだ」と両国から八つ当たりされかねません。
韓国としては「いや、オブザーバーとして参加したので、発言権はなくて......」と言い訳するでしょうが、両国としてはそんなことは百も承知で「お仕置き」して、憤懣を一時晴らそうとしてくる可能性もあります。韓国は「G7参入ニダ。なんだったら日本と入れ替えでアジアの代表国になるニダ」と鼻息も荒く、嬉々として参加したようですが、もしかしたら今頃は「参加しなければよかった......」と後悔しているかも(そんな殊勝なタマではないって?)。
これでは、21日の米韓首脳会談や来月のG7首脳会議も、先が思いやられますね。何と言うか、とても面白い...もとい、心配されるようなことになりそうです。
部分的に反応します。
おサル電車国は、アメリカに対して「北朝鮮の非核化」を「朝鮮半島にの非核化」と言い換えさせることに成功した模様です。
これに先立って、バイデン政権は「朝鮮半島の段階的な非核化」を認めるような報道ありました。
しかし「朝鮮半島」の前段に「北朝鮮の完全な非核化」があるのは明らかで、米軍に撤退してほしくば北の核放棄が条件だ、と突き付けたようにも見えたりします。
ま、相手はあと一年の命と考えれば、数々の裏切りを考えれば、突っ込んで来そうな罠を仕掛けておけばいいという作戦でしょうか。
この件に関する茂木外相のコメントが従来の態度と変わっていないとこが重要と思います。
日米外相会談として「北朝鮮の非核化」って含みをもたせている。日本側の発表は事前にアメリカと調整してるはずで、日本が勝手にこだわった一方的な表現とは思えないし、むしろアメリカが日本に言わせた可能性もある。
もっと深読みすれば、「もはや朝鮮半島とは北朝鮮のことを指す」という意味で、おサル運転手はガン無視する作戦実行中とも見えなくもなく。
個人的希望的観測ですけど。
自分には「おい南朝鮮政府、お前の魂胆もバレてるんだよ」と言っているようにしか見えないですね。