現在、英国で開催されているG7外相会合では、英国のチョイスにより、ASEAN議長国であるブルネイに加え、豪州、インド、南アフリカ、韓国の4ヵ国が招待されているようです。こうしたなか、本稿では「小ネタ」的に、「なぜこの4ヵ国なのか」という視点に加え、もしも日韓外相会談が実現しなかった場合には、英国がどう感じるのか、という点についての主観を述べておきたいと思います。
現在、状況をまとめ中
現在、英国ではG7外相会合が開催されています(正式な会合名称は『G7外務・開発大臣会合』だそうです)。これに関連し、現時点で外務省のウェブサイトに掲載されている会談・会合は、次の6つです。
この6つの会談に加え、米国・国務省が発表している “Secretary Blinken’s Meeting with Japanese Foreign Minister Motegi” などの内容も踏まえ、現在、現時点における「途中経過」を取りまとめている最中です。
茂木外相「『7ヵ国で』ディナーを実施」
その際、参考になるのが次のリンクです。
茂木外務大臣臨時会見記録(令和3年5月4日(火曜日)5時43分 於:英国)
―――2021/05/04付 外務省HPより
リンク先では茂木外相の英国での記者会見と記者との質疑が記録されており、文章自体は2000文字少々で、その気になれば、さほどの負担なく全文をご確認いただくことができると思います。
こうしたなか、これらの記事を読んでいて、ふと引っかかったのが、次の記述です。
「先ほど、G7外務・開発大臣会合の最初の行事でありますG7の外相ワーキング・ディナーを行いました。G7の外相が対面でじっくり議論するのは2年ぶりということになります(以下略)」。
G7外相会合なのだから、日米英仏独伊加の7ヵ国(+EU)でじっくり議論するのは当然じゃないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、ここで思い出しておきたいのは、今回のG7外相会合では、議長国である英国が豪州、インド、韓国、南アフリカの4ヵ国をゲストとして招いている、という点です。
Members & Guests
―――G7 UK 2021ウェブサイトより
(※厳密には、外務省の4月27日付資料によれば、この4ヵ国に加えてASEAN議長国であるブルネイの外相も招待されています。)
それなのに、茂木外相の発言だと、この5ヵ国は、月曜日のワーキング・ディナーには呼ばれていない、ということです。
火曜日のディナーで呼ばれるのだと思うが…
もちろん、主催国である英国がそこまで無礼な国だとは思えません。
これについて調べていくと、英メディア・BBCの5月4日付 “G7: Foreign ministers discuss global threats at London summit” には、こんな記述がありました。
“Mr Raab is expected to urge stronger co-operation between the G7 and the guest nations at a working dinner on Tuesday evening.”
要するに、ワーキング・ディナーは火曜日も行われるらしく、その際にはゲスト5ヵ国も招待されるようです。
実際、茂木外相も会見で、次のように述べています。
「明日の夜からはアウトリーチ国の参加も得て、じっくりと意見を交わすことになっております」。
「アウトリーチ国」というのが、この5ヵ国のことでしょう。
英国の意図vs仏独伊の意図
では、この5ヵ国のうち、ブルネイを除く4ヵ国は、いかなる意図で選ばれたのでしょうか。
まず、4ヵ国ともにG20構成国であるという特徴があります(G7とこれら4ヵ国以外は、ロシア、中国、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン、トルコ、インドネシア、サウジアラビアの8ヵ国)が、それだけではありません。
このうち豪州とインドは、日米が歓迎する、という見立てがあったのかもしれません。というのも、この2ヵ国は、日米とともに「クアッド」を構成しているからです。
しかし、豪州、インドは「クアッド」を構成する日米両国にとっては好ましいメンバーですが、それと同時にフランスやイタリア、ドイツなどからは警戒されているかもしれません。
なぜなら、豪州は英語圏、インドは準英語圏で、どちらもコモンウェルスの加盟国だからです(しかも、豪州に関しては、エリザベスⅡ世を国家元首として戴いている国でもあります)。
さらには、ブラジル、アルゼンチン、メキシコなどのラテン・アメリカにおける「地域大国」を差し置いて、コモンウェルス加盟国である南アフリカが招待されているというのも、なんだか微妙です。
やはり、欧州諸国から見れば、ただでさえ英語圏である英国、米国、カナダでG7の半数近い勢力を占めているのに、ここに英語圏・準英語圏がさらに加わるのは、決して気分の良いものではないでしょう。
韓国を招いたのは「英国の大失態」?
そこでカギとなるのは韓国です。
あくまでも主観ですが、韓国は米国の同盟国であるとともに、「日本とも非常に親しい国である」、という判断が、英国にはあったのかもしれません。要するに、コモンウェルスから3ヵ国選び、それにアジアから1ヵ国選ぶことでバランスを取ろうとした、という仮説です。
このチョイスは、結論的には大失敗だったのではないでしょうか。
米韓同盟が存在していることは事実ですが、日韓両国は同盟関係にありませんし、それどころか近年、韓国側の異常な不法行為の数々が仕掛けられていることを受け、日韓関係が破綻しそうになっている状態にあるからです。
すなわち、
- 豪州、インド、南アフリカを招いたにもかかわらず、ブラジル、メキシコ、アルゼンチンを招かなかった→フランス、ドイツ、イタリアなどをいら立たせる行為
- 韓国を招いた→日本をいら立たせる行為
というわけです。
いずれにせよ、もし英国が「日本に配慮する」という目的で韓国を招待したのであれば、その試みは大失敗だったといえるかもしれません。
こうしたなか、一部メディアは明日以降、ロンドンで日米韓・日韓外相会談が実現するかどうかに関心を抱いているようです。
このうち日米韓3ヵ国外相会談に関しては、実現する可能性が高いでしょう。もともと開催に向けて調整していたのですから。
しかし、日韓2ヵ国外相会談が実現するかどうかは微妙です。日本政府の立場としては、韓国が作り出した国際法違反の状態を、韓国自身が解決しない限り、首脳会談、外相会談を実施しても意味がない、と判断している可能性が非常に高いからです。
その意味で、もしも今回、日韓外相会談が実現しなかった場合には、韓国を招いたことで却って日韓間の不協和が浮き彫りになったとしたら、そのことが主催国である英国にとっての本意といえるのかどうかについては微妙だな、と思う次第です。
View Comments (18)
イギリスの諜報機関は優秀だという評判がありますが(イメージだけという説もあり)、どうも今世紀に入ってからの対アジア情報については少々怪しいものがあります。特にキャメロン内閣の頃、閣内にオズボーン蔵相などというパンダハガーを抱えていたせいかもしれませんが、無闇に中国へと傾斜していました。イギリスがAIIBに真っ先に加盟したのもキャメロン内閣の時です。
これが諜報機関の劣化によって齎された誤判断なのか、それとも単に指導者が愚かだったのかはわかりませんが、3,4年ほど前に出たイギリスのシンクタンクによるレポート(発行元は失念)でも、「中国の未来はバラ色」と褒めちぎる内容だったので、一読して呆れた記憶があります。日本から見れば容易に看取できる中国の脆弱性について、見ないふりをしていたからです。もし、このような分析が諜報機関からも上がっていたとしたら、誤判断もやむを得ないかもしれないと思わせるものでした。
一応、メイ内閣以降、なんとか軌道修正を図ろうとはしているようですが、どの程度正しい分析情報が上げられているのか、少々心許ないかもしれないという印象があります。
このように考え、もしイギリス諜報機関の劣化が事実であるとすると、日韓関係の現状に関する情報もかなりいい加減なものであった可能性があります。老獪さを謳われるイギリスのことなので、「アメリカと韓国は同盟国だ。そしてアメリカと日本も同様に同盟国だ。ならば韓国を呼んでも問題あるまい」程度のナイーブな発想だったとはあまり思いたくありませんが、諜報機関からの情報がいい加減なものだったとしたら、そしてここ数年の韓国の「怪しい動き」についてまともに情報が上がってなかったとしたら、G7に韓国を呼んじゃうなどという真似をしでかしても不思議ではありません。
しかし、日本としても、もしもイギリスの諜報能力の劣化が事実だとしたら、イギリスとの付き合い方を再検討する必要がありそうで、少々頭の痛い話だと思います。まあ、穿ちすぎや杞憂であってくれたらいいなとは思いますが。
龍様
龍様>日本としても、もしもイギリスの諜報能力の劣化が事実だとしたら、イギリスとの付き合い方を再検討する必要がありそう
どうでしょうか?
あえて今回英国が韓国(を通じた中国)を招待しているのはFOIPの中長期的な勝率を考えると「やむを得ない」と思います。
当方は2020年代のFOIPが戦略的目標である中国の海洋支配地域を増やすことを防ぐ、ぶっちゃけ台湾と沖縄を中国の主権に取り込みを防ぐことを達成できるのはひいき目で3割、おそらく1割もないかと思います。
成功する為の必要条件がAND条件を多数必要として、複合、補完的なOr条件があまりに少ないからです。
アメリカがモンロー主義に転んではダメ。
日本が台湾有事の際に報復攻撃を受けても台湾を自衛隊で直接支援できるコンセンサスが持てなくてもダメ。
日米の防衛組織が中国の電撃的な併合作戦を阻止できなくてもダメ。
台湾や日本に新種の伝染病が蔓延しアメリカの支援がアメリカへの伝染病の持ち込みになる形ではダメ。
これらは全部中国の「自助努力(笑)」で勝利条件を達成可能であると思いませんか(笑)。
向こうの手下には日米のマスゴミと言う第4の権力がついているのですから。
その場合、欧州半島の離れ小島である英国は中国とのラインを切らないまま、韓国を通じて西側の意向を伝える方が「二枚舌」を基本とする英国外交の本領発揮ではないでしょうか(笑)。
以上です。駄文失礼しました。
いや、イギリスとの連携強化に反対したり、疑問視しているわけではありません。むしろ望ましいことだと考えています。
しかし、アメリカの対アジア理解がダメダメなのには今更驚きませんが、もしかするとイギリスも怪しいとなれば、日本としては、そのような前提で戦略を構築していく必要がありそうだということです。
まあ、イギリスの対アジア理解も、東南アジアまでは何とか及んでいるものの、元々東アジアまでは及んでいなかったのかもしれません。
龍様
当方の駄文にコメントを賜りありがとうございました。
龍様>イギリスの対アジア理解
当方は日本以外のイギリスのアジア理解は恐らく正しいと思います。
アジア人は契約を重視しないので二枚舌を「相互主義」の観点で使ってかまわない。
アジア人はいわば非キリスト教の人間と「救済対象外」のキリスト教の人間ですので契約無視して二枚舌を使ってかまわないと彼らは捉えているのです。
ただし日本は国際関係の契約を重視します(笑)
おそらく戦前も対日の最前線では正しい認識と報告がされていたはずですが、上記の意識フィルターが正しい対日政策の阻害になったと思います。
以上です。駄文失礼しました。
>もしも今回、日韓外相会談が実現しなかった場合には、韓国を招いたことで却って日韓間の不協和が浮き彫りになったとしたら、そのことが主催国である英国にとっての本意といえるのかどうかについては微妙だな、と思う次第です。
ホスト国の英国のみならず英国と同じくアジアから遠く離れた仏独伊の欧州三国も日韓関係の現状を漸く理解出来るでしょうから、それで宜しいと思いますよ。
それにしても英国も極東に虎の子の最新鋭空母QEを基幹とする空母機動部隊を展開してくれる前に、極東の国際情勢についてもう少し観察・分析して正確に理解しておいて頂きたいものです。
G7のうち、日米以外の英、仏、独、伊、加は、米国の同盟国であるはずの韓国が、国際法を無視して覇権主義的戦狼外交を加速させている中国や、国民の貧困や基本的人権を無視して核開発を続ける北朝鮮に対してどのような姿勢で対応しているかについては、知らないのだと思います。距離的にも遠く離れ、日頃の付き合いもほとんどないのですから、当然なのかも知れません。
しかし、英国が、何も知らなかったとは言え今回のG7に文在寅政権の韓国を招待したことは、結果的には「怪我の功名」になる可能性が高いと思います。
文在寅大統領様や鄭義溶外交部長官様には、是非、G7各国に遠慮や忖度すること無く、普段通りの率直な発言を積極的に行っていただくことを大いに期待しております。
更新ありがとうございます。
議長国は英国なので、G7以外の国を(オブザーバー、今回限り)選ぶ権利は英国に有りますが、いかんせんこの5国のチョイスは、G7国から歓迎されざるメンバーだと思います。
豪州とインドは、日米とともに「クアッド」を構成しているから配慮があった(英国も興味がある)。更に地域性を勘案したとしても、南アフリカの招待は、コモンウェルス国であり独、仏、伊には気分の良いメンバーでは無いです。メンバー選びで南アフリカと韓国は、どうみても失策でしょう。
アジアからベスト2を選ぶなら日本、中国、いやもとい自由主義民主主義なら、第2位は(いちおう)韓国で「日本とも非常に親しい国である」(失笑)という認識かも知れません。
で、会合が終わった後、日韓会談が無かったとすれば、G7+アウトリーチ国らは「日韓は近いから普段から会議体を持っているんだろう」でしょう。「いや、長い事、2国間で会った事はないよ。約束を守らないから」と帰り際に茂木大臣が言えば、韓国に対する見方も、少しはチェンジするのではないかと。少なくとも英国(と日本)はもう呼ばないでしょう。
茂木大臣の発言で、「既にG7の外相ワーキング・ディナーを行いました。ワーキング・ディナーでは、北朝鮮とイラン、この問題も取り上げられ、北朝鮮については私が議論のリード役を務めて、突っ込んだ意見交換を行った」。
この言い方、「既に北朝鮮については、私が説明し、各国の意見を取りまとめた」と言う事です。さあ、韓国の翌日の発言に、北朝鮮問題を再度蒸し返す事は出来るのでしょうか?それとも手ぶらでお帰りか?
日米韓の外相会議が、終わったあと、日本の外相を拉致ろうと、策略してると思います。
まあ、トランプのG7拡大構想に乗っかったんだろうけど、韓国呼ぶんならインドネシアかマレーシア呼んでほしかったわ。ブルネイ入れたのは日本の入れ知恵なのかな?
今回のG7(神セブン?)の主目的は対中で結束を図るという事でしょう。
そう考えると豪印は勿論ASEANは当事者ですから当然オブザーバとするでしょうし、中国の進出著しいアフリカにも目配りと言うのも判ります。
じゃ韓国を何故呼んだのか?難しいですね。
日本への配慮?それはないでしょう。いくらナポレオン・ソロが無能でもそんな情報は上げないと思います。
米としては対中国の民主主義陣営(?)で「最も弱い環」である韓国をハンドリング出来てるのを見せつけたいのでしょう。
英もそれは判ってるので日米韓の蜜月を演出する機会を用意した。単純に考えればこんな所でしょう。
韓国としては何らかの言質を取られては堪らないのでジタバタするでしょうが、日米がどう抑え込むか、見所はそんなところじゃ無いでしょうかね。
尤も言質を取られても、韓国ならそんなものはいくらでも引っ繰り返すでしょうけど。
イギリスが韓国をゲストとした理由は、韓国の現状を理解していない国が殆どで、二股外交は韓国にとって悪影響がない事を裏付けていると思います。
日米韓外相会談は、今日開催予定ですので、明日には結果がわかるでしょう。
英国の情報機関の話がありましたが それ以前に 駐英大使は日本及び周辺の状況を英国に伝えていなかったのかと大いに疑問です。
文大統領は2018年の欧州歴訪で北朝鮮への制裁緩和を訴え、昨年の国連演説では北朝鮮、中国、日本、モンゴル、韓国が参加する「北東アジア防疫・保健協力イニシアチブ」とやらを提言しました。
これらから、G7各国は韓国の異質さ異常さをある程度承知していると思います。そんな中で韓国をゲストに招いたのは、一種のトラップではないかと推測します。或いは、よりきつい首輪をはめるためかもしれません。もし、自由と民主主義を堅持する国々を欺く行為を取ったなら、中国側に有利な行動をしたならば……以上、勝手な想像でした。