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【資料】米韓2+2共同声明文の内容をざっと確認する

16日の日米2+2会合に続き、昨日は米韓2+2会合も実施されました。本稿では取り急ぎ、米韓両国の公式声明文のなかで、目についた部分をいくつか紹介するとともに、それに対する個人的な見解についても述べておきたいと思います。

米韓2+2公式の共同声明

日韓などを歴訪中のアントニー・ブリンケン米国務長官、ロイド・オースティン国防長官は18日、滞在先の韓国・ソウルで鄭義溶(てい・ぎよう)韓国外交部長官、徐旭(じょ・きょく)韓国国防部長官との、いわゆる「2+2会談」に臨みました。

その共同声明が、米国外務省、韓国外交部のウェブサイトにそれぞれ掲載されています。

Joint Statement of the 2021 Republic of Korea – United States Foreign and Defense Ministerial Meeting (“2+2”)

―――2021/03/18付 米国務省HPより

2021米外交・国防長官(2+2)会議共同声明【※タイトル韓国語、本文英語】

―――2021/03/18付 韓国外交部HPより

共同声明文自体の長さは800語少々ですが、本稿では「資料集」的に、この共同声明の中の米韓同盟に関わると思われる部分を抜粋し、紹介しておきたいと思います。

米韓同盟は「朝鮮半島とインド太平洋のリンチピン」

まずは、この部分です。

“The Ministers and Secretaries reaffirmed that the ROK-U.S. Alliance, forged in blood on the battlefield 70 years ago, serves as the linchpin of peace, security, and prosperity on the Korean Peninsula and the Indo-Pacific region. Amid increasing global threats, the Alliance has never been more important.”

意訳は次のとおりです。

米韓双方の長官は、米韓同盟が70年前の戦場において血を流すことで得られた同盟が、朝鮮半島とインド太平洋地域における平和、安全、繁栄のリンチピンとして機能していることを確認する。国際的な脅威が高まるなか、同盟はかつてないほど重要だ。

リンチピンを一部の韓国メディアは「核心軸」などと訳しているようですが、本稿ではあくまでも「リンチピン」は「リンチピン」として示しています(※この「リンチピン」の表現は、バイデン政権が米韓同盟を呼称するときのレトリックでもあります)。

ここで「朝鮮半島とインド太平洋の」、とありますが、これが本当に「インド太平洋の」リンチピンとなるのか、それとも「朝鮮半島だけ」のリンチピンに留まるのか、はたまた「朝鮮半島のリンチピンにすらなれない」のかについては、今後の注目点、といったところでしょうか。

韓国が「法の支配」尊重、笑うところでしょうか?

次に紹介するのは、この記述です。

“They also acknowledged that the ROK-U.S. Alliance has developed into a comprehensive global partnership grounded in mutual respect and trust, close friendship, strong people-to-people ties, and shared values of freedom, democracy, human rights, and the rule of law.”

意訳すると次のとおりです。

両国は米韓同盟がいまや相互尊重と信頼、緊密な友好関係、人々の強い結びつき、自由・民主主義・人権・法の支配という共通の価値に基づく包括的なグローバル・パートナーシップに発展したことを確認した。

ずいぶんと力強いレトリックですね(それとも皮肉でしょうか)。韓国が「法の支配」を尊重しているとするくだりは、笑うところでしょうか。冗談だとしても、あまり面白くないのですが、これについては流し、次に進みましょう。

“They vowed to further promote mutually-reinforcing and future-oriented cooperation across a wide range of areas encompassing a robust trade relationship, cooperation on combatting the climate crisis, and coordination on pandemic relief and post-COVID-19 economic recovery.”

これについても意訳しておきましょう。

両国は強いな貿易関係、気候変動との戦いに関する協力、パンデミック支援やアフター・コロナの経済回復に関する調整を含む、幅広い分野にわたる相互強化と未来志向の協力をさらに促進することを誓った。

ま、どうぞ勝手に誓ってください、としか言い様がありません。

米韓同盟強化

続いて、米韓同盟強化に関する宣言についても、いくつか確認しておきましょう。

“Both sides reaffirmed a mutual commitment to the defense of the ROK and to the strengthening of the ROK-U.S. combined defense posture, consistent with the ROK-U.S. Mutual Defense Treaty.”

意訳しておくと、次のとおりです。

双方は米韓相互防衛条約に従い、韓国の防衛に加えて、米韓双方の防衛力を強化することで合意した。

またしてもTHAADのようなグダグダな展開で終わりそうな気もしますが…。

“U.S. officials reaffirmed the U.S. commitment to the defense of the ROK and its extended deterrence using the full range of U.S. capabilities.”

米国当局は、韓国の防衛への米国のコミットメントと、米国の全能力を使用したその拡大抑止を再確認した。

このあたりは、オースティン国防相が訪韓直後に述べていた内容とも整合していますので、とくにコメントすることはありません。

“Both sides committed to strengthening the Alliance deterrence posture, and they reiterated the importance of maintaining joint readiness against all shared threats to the Alliance through combined training and exercises.”

双方は、同盟の抑止力をより強化することにコミットするとともに、訓練や軍事演習を組み合わせることで、同盟に対するすべての共通の脅威に対する共同の準備を維持することの重要性を繰り返した。

このあたりは、トランプ政権下で米韓軍事演習のいくつかが中止されたことを意識したものでしょうか。

戦時作戦統制権、北朝鮮、日本

さて、共同声明はまだ続くのですが、ここからは3点ほど抽出しておきましょう。

ひとつ目は、戦時作戦統制権の返還に関するものです。

“The Ministers and Secretaries noted that since both sides decided to pursue the transition of wartime Operational Control (OPCON) in 2006, the ROK and the United States have achieved great progress through their combined efforts and reiterated their firm commitment to wartime OPCON transition consistent with the Conditions-Based OPCON Transition Plan (COT-P).”

これは、いわゆる戦時作戦統制権を米国が韓国に返還するという作業工程に関する合意であり、引き続き戦時作戦統制権の返還に向けて双方が努力する、というものです。

次に、北朝鮮に関する記述です(これは前半のみ紹介します)。

“The Ministers and Secretaries emphasized that North Korean nuclear and ballistic missile issues are a priority for the Alliance, and reaffirmed a shared commitment to address and resolve these issues.They affirmed the importance of full implementation of relevant UN Security Council resolutions by the international community, including North Korea. The ROK and the United States are closely coordinating on all issues related to the Korean Peninsula.”

米韓双方は北朝鮮の核・弾道ミサイルの問題を「同盟の優先事項」に置き、これらの問題の解決に向けてコミットする、と宣言しました。とくに、北朝鮮に対しては国連安保理制裁の着実な履行で合意してしまいました(どうせ口だけで中身を伴わない、といった指摘もあるかもしれませんが)。

さて、私たち日本人にとって、いちおう関心を払っておくべきは、次の部分でしょう。

“The Ministers and Secretaries affirmed the importance of ROK-U.S.-Japan trilateral cooperation and pledged to continue promoting mutually-beneficial, forward looking cooperation to promote peace, security, and prosperity in the region.”

これについては意訳を付しておきます。

米韓双方は日米韓3ヵ国協力の重要性を確認し、地域の平和、安全、繁栄を促進するために、相互に有益で前向きな協力を引き続き促進することを約束した。

この点、日米2+2でも(「日韓」に言及はなかったにせよ)「日米韓」には言及されていましたので(『「日米2+2」で中国を名指しも「日韓」には言及なし』等参照)、「日米韓」が出てくること自体はべつに不自然ではありません。

それに、この「日米韓3ヵ国連携」については、特にバイデン政権に切り替わって以降、米国から何度も出ているメッセージでもあります(もっとも、それと同時に正直、これほど空虚に響くものもないと思いますが…)。

中国については名指しせずも…

続いて、中国を念頭に置いていると思しき記述です。

“Against the backdrop of increasing challenges to the regional security environment, the shared values of the ROK-U.S. Alliance undergird the two countries’ commitment to opposing all activities that undermine and destabilize the rules-based international order.”

「米韓の価値同盟」は「ルールベースの国際秩序を不安定化させるすべての活動に反対することを約束する」、という記述であり、明らかに中国を念頭に置いていると思われるものの、日米2+2のときとことなり、「中国」という単語は出てきません。

また、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」に関しては、こんな記述もあります。

“The ROK and the United States reiterated their resolve to continue to work together to create a free and open Indo-Pacific region through cooperation with the ROK’s New Southern Policy.”

これは、韓国自身がFOIPにコミットする、という意味ではなく、「韓国が掲げる新南方政策に沿ってFOIPを作るための協力を行う」という、非常にあいまいな記述に見受けられます。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

以上、「米韓2+2」についてざっと一読し、目についたところを紹介しました。

これを巡って、いくつかのメディア報道も出てくるでしょうから、それらについて取り上げる価値があるものがあれば、紹介したいと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (26)

  • 確かに韓国は法の支配を実行しています。「独特の、ユニークな」アレですけどねぇ。

  • いつも知的好奇心を刺激する記事の配信ありがとうございます。

    >「ルールベースの国際秩序を不安定化させるすべての活動に反対することを約束する」

    このメッセージは本当に中国向けですかねぇ(笑)。
    メッセージする英語で話す隣でブーメランに当たってのたうつ人が幻視できちゃうのですが(笑)。

    以上です。駄文失礼しました。

  • 色々ありますが、まあ韓国側の話を真面目に聞いても、無駄だと思います。
    アメリカは、まだ韓国の弱い輪に執着が、残っているように思います。

  • 特になにも成果はなかたった。
    そんな評価でしょうか。
    韓国の消極さで共同宣言で目新しいことがなにも書けなかった。

    もしかしたら、実質はかなり厳しく韓国が詰められたのですが、その内容すべて非公開で、ということをとりあえず米韓で合意したのかもしれません。

    まあ、共同宣言の内容そのものは事前に準備されてたものそのままって感じですものね。

    • 今回の米韓2+2ですが、米国の韓国への見方を頭の良い韓国人に見せることが出来た位の効果はあったかと思います。
      以前から米国は北朝鮮の人権蹂躙についてジャブを打っていましたが、国務長官到着後即座にストレートを打込み、韓国側が慰安婦、元徴用工を言及できなくしたアメリカの作戦勝ちですね。
      おそらくアメリカは韓国側に色々と厳しく要求したが、韓国側は保留、実質拒否をしたのが共同発表の内容に繋がっていると思います。
      まあ、予想通りの展開ですが。

  • 更新ありがとうございます。

    いわゆる戦時作戦統制権を米国が韓国に返還するという作業工程に関する合意は、引き続き戦時作戦統制権の返還に向けて双方が努力する、という発表で終わってます。

    しかし、オースチン長官は「近いうちに米国から韓国に返還するというものでは無い」とインタビューに答えてます。当然ですよね。隙さえあれば、文は北朝鮮に宥和工作をする気マンマンなのに。

    韓国に渡したら駐韓米軍基地が韓国軍の指揮下に入るって、あり得ない。それなら撤退して沖縄、九州、日本海側、グアム、台湾に米軍を配置した方がマシです。半島は全部敵だ。さ、そこまでの腹をくくって韓国は米軍基地を追い出せれるか?私はふらふら外交なんで、無理だと思う。

  • 米国が韓国の首輪に短い鎖を繋いだ図が思い浮かびます。
    対北朝鮮について個人的に注目したいのは以下の2点です。

    >>They affirmed the importance of full implementation of relevant UN Security Council resolutions by the international community, including North Korea.
    国連安保理決議の完全な履行。

    >>Both sides shared the view that these issues should be addressed through a fully-coordinated strategy toward North Korea between the ROK and the United States.
    「米韓間の完全に調整された対北戦略の下で扱われるべき」(だがそうはなっていない)
    これまで勝手な事やってたの知ってるぞ、これからは許さねえぞって事でしょうか。

  • >ずいぶんと力強いレトリックですね(それとも皮肉でしょうか)。韓国が「法の支配」を尊重しているとするくだりは、笑うところでしょうか。冗談だとしても、あまり面白くないのですが、これについては流し、次に進みましょう。

    「法の支配」の意味するところが韓国と自由民主主機国家では全く異なるだけだと思います。

    • >「米韓双方は日米韓3ヵ国協力の重要性を確認し、地域の平和、安全、繁栄を促進するために、相互に有益で前向きな協力を引き続き促進することを約束した。」

      これも、「相互に有益で前向きな協力」が日米と韓国では異なり、韓国としては「日本が永世戦犯国としての立場を弁え、永世被害国の韓国に対する謝罪と賠償をし続ける」が「相互に有益で前向きな協力」なのでしょうね。

    • >「米韓の価値同盟」は「ルールベースの国際秩序を不安定化させるすべての活動に反対することを約束する」、という記述であり、明らかに中国を念頭に置いていると思われるものの、日米2+2のときとことなり、「中国」という単語は出てきません。

      日米豪印の自由民主主義クアッドから中韓朝露の権威主義クアッドに向けた記述だからかもですね。

    • >「法の支配」の意味するところが韓国と自由民主主機国家では全く異なる

      ぶっちゃけ、儒教社会なので法より正義が優先されてる気がする。
      問題はその正義とやらが大統領次第なわけでして・・・

  • 共同声明には当然出てきませんでしたが、韓国は慰安婦問題等の歴史問題が未解決な状態では日本と軍事的な連携を強化することは難しいと主張し、慰安婦問題などの歴史問題についてアメリカの見識を声明に織り込むことを主張したに違いありません。

    実際どのようなやり取りがあったかは定かではありませんが、声明後にKBSがインタビューを行い、おそらくアメリカに事実上の声明追加とさせるべく、慰安婦問題とラムザイヤー教授の論文に対する質問をブリンケン国務長官にぶつけています。

    ブリンケン国務長官は、「第2次世界大戦当時、旧日本軍によることを含んで女性に対する性的搾取は深刻な人権侵害ということをわれわれは長い間語ってきた」と回答しましたが、この「性的搾取」という言葉が微妙ですね。

    従来アメリカ政府は慰安婦につき、「我々はsex slaveと呼ばずにcomfort Womenと呼んでいる」と言ってきましまたが、この「性的搾取、多分Sexual exploitation」をどういう意味合いで使用したのか知りたいところです。

    • 普通なら、ブリンケン国務長官に対して、韓国政府の人間が「慰安婦問題は終わっていない」なんて恐ろしくて言えないですよねぇ。

      • そうですね、だから文政権はマスコミに言わしめたんでしょうね。
        私として気になるのは、ブリンケン国務長官の発言、「性的搾取」です。

        comfort Womenより、sex slaveに近い表現のような。。

        圧倒的な韓国の口撃に閉口し、妥協点として「性的搾取」と言ったのかなと。

        • PONPON様

          >>性的搾取
          確かに微妙な表現ですね。
          以下のサイトを参考にすると、むしろ性産業従事者に近いような。。。

          性的搾取と性的消費
          https://note.com/benli/n/n5dae49ddb425

          「性的搾取」という言葉は性産業自体を女性差別とする文脈で使われている印象があります。
          ブリンケン国務長官の回答は、(性奴隷かどうかに関わらず)慰安婦制度そのものの批判に聞こえますが、慰安婦=性奴隷説が一般化してしまった世界では「慰安婦問題は人権問題」という認識がまたひとつ広まった、と言えるかもしれません。残念ながら。
          回答が、WW2に限定されている(ように見える)のも上手いな、と思います。

  • 2+2の場で米国政府より韓国政府に北朝鮮のマネロン、瀬取り、麻薬密売、人身売買、偽札製造等々、国際犯罪の取り締まりを強化を要請してほしかったなぁ。

    『北朝鮮、マレーシアとの国交断絶を発表 「無実の市民」の米引き渡しで』 AFP 2021年3月19日 7:49発信 https://www.afpbb.com/articles/-/3337527

    米国と犯罪人引渡条約を締結国で(100カ国以上しているらしい)、かつ北朝鮮と国交のある国において北朝鮮国籍の者をマネロン等で摘発後、被疑者を米国へ移送すると漏れなく北朝鮮から断交の特典が受けられますので。おーっと、失礼。大韓民国政府は朝鮮民主主義人民共和国を国家としては認めていないのでしたね。

  • >「米国当局は、韓国の防衛への米国のコミットメントと、米国の全能力を使用したその拡大抑止を再確認した。」

    「ただし、在日米軍は除く」とはなっていないのでしょうかね。

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