X

「韓日信頼回復と軍事協力強化」という議論は周回遅れ

韓国メディア『中央日報』(日本語版)に数日前、「韓日関係を解決する方策のひとつが、韓日軍事協力の強化だ」、「最近、韓日の軍事的信頼に亀裂が生じているが、これを克服しなければならない」といった記事が掲載されました。日韓の信頼関係を踏みにじってきたのは韓国の側なのですから、大変に厚かましい主張でもありますが、それ以上に中国の台頭とFOIPの存在を無視した、周回遅れも甚だしい議論だと言わざるを得ないのです。

新刊書の著者献本分が届きました

先日より報告しているとおり、このたびワック株式会社より、「対韓制裁論」を刊行させていただきます。著者自身の手元には、本日、その著者献本分が届きました。

【参考】『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』(新宿会計士 著)

(【出所】アマゾンアフィリエイトリンク)

この書籍の趣旨は、度重なる韓国の不法行為に対し、大きく次の3つの理由に基づき、日本がその不法行為の対価を韓国に支払わせなければならない、とするものです。

  • ①韓国の自主更生は期待できないこと
  • ②日本人に対する二次被害、三次被害などを防止すること
  • ③日本が国際秩序の守護者たらねばならないこと

ただし、「韓国にコストを支払わせる」ための具体的な手法は、どうしても「広い意味での制裁」、すなわちサイレント型制裁、消極的制裁、セルフ経済制裁などによらざるを得ません。現在の韓国に対し、金融制裁を含めた「狭い意味での経済制裁」を発動するのは難しいからです。

そして、その「広い意味での経済制裁」という観点からは、すでに日本は部分的に韓国に制裁を課し始めているという言い方をしても良いかもしれません。日本政府が少なくとも現在の韓国政府とマトモに対話をしようとしていないことは、その証拠でしょう。

見たところ、日本政府は最近、韓国を積極的・戦略的に放置していますが、これについて当ウェブサイトなりの言い方をすれば、「消極的制裁」、つまり「相手が困っていたとしても、あえて手を差し出さずに放置する」という行動だという言い方ができます。

周回遅れの韓国人

FOIP連携強化は日韓関係消滅に備えた動きでもある

もっとも、あまり誤解していただきたくないのですが、当ウェブサイトでは「日本が韓国に対して不法行為の対価を支払わせなければならない」と主張していますが、だからといって「日本の側から積極的に日韓関係を破壊すべき」、という話ではありません。

たとえば、北朝鮮問題などを巡る「日米韓3ヵ国連携」、「日米韓防衛協力」などのという枠組みにしても、壊れるのは時間の問題でしょう。火器管制レーダー照射事件やGSOMIA破棄騒動などに象徴されるように、韓国側がその信頼関係を壊そうとしているからです。

しかしながら、この「日米韓3ヵ国連携」にしたって、少なくとも日本から今、破棄を言い出すべきではありません。

日本がやらねばならないのは、「日米韓3ヵ国連携」がいつ壊れても良いように、米国との連携を強化しつつ、「日米韓」に代わる安全保障の枠組みの構築を急ぐことです。その典型例が「日米豪印(クアッド)連携」であったり、日英防衛協力であったりするのでしょう。

というよりも、米国でバイデン政権が発足してしまったことを受け、米国が再び「日米韓3ヵ国連携」に回帰しようとするフシがあるなか、日本としては豪印両国や英国などを引き込み、米国を「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)側に留めておかねばなりません。

要するに、日本が日米韓3ヵ国連携を積極的に壊す必要はありませんが、韓国がこれを壊すのを止める義務は日本にはありませんし、むしろこの日米韓3ヵ国連携が近い将来破綻するであろうことを見越して、今から準備を進めなければならない、というわけです。

というよりも、これからますます増長するであろう中国に対する包囲網を構築するうえでは、「日+米+英+豪+印」などの多国間でスクラムを組んだ際に、韓国のように結合力の弱い国を含めておくことは、むしろリスクでもあります。

その意味で、FOIP同盟に頑なにコミットしない韓国には、むしろFOIP同盟からは外れていただき、日米韓3ヵ国連携が完全に形骸化するほどFIOP同盟を強化することが必要です。

いずれにせよ、日本側はこの認識で早急にまとまるべきでしょう。

中央日報「軍事協力強化に向けた韓日防衛相会談を」

このような立場に立てば、日本政府が韓国を無視している(あるいは「戦略的・積極的に放置している」)ことは、現時点においては決して悪い話ではありません。とりあえず韓国を刺激せずに放置しつつ、時間を稼いでいる間に、韓国以外の国との連携を強化する、ということができるからです。

日韓の防衛対話が完全に途絶えることは望ましくないにせよ、「日米韓3ヵ国連携」にコミットし続けるそぶりを見せながら、必要最低限の対話に留めることは、日本の将来を見越した行動としては、大きく間違ったものではありません。

さて、こうした議論と比べ、「周回遅れ」極まりない議論を発見しました。

韓国メディア『中央日報』(日本語版)に数日前に掲載された、こんな記事です。

【リセットコリア】韓日軍事不信解消のため国防長官が会うべき

―――2021.02.15 10:36付 中央日報日本語版

この「リセットコリア」シリーズは、中央日報にときどき掲載される論考で、今回の執筆者は例の「韓日ビジョンフォーラム」の委員のひとりで「韓国国防外交協会」会長の権泰煥(ごん・たいかん)氏です。

権泰煥氏の文章は日本語にして1500文字弱ほどですが、日本語表現を整えつつ、あえて著者自身の文責で要約すると、だいたい次のような主張です(ニュアンスを含め、正確な内容が知りたいという方は、リンク先記事で直接ご確認ください)。

  • 韓日関係を解決する方策のひとつが、韓日軍事協力の強化だ
  • 最近、韓日の軍事的信頼に亀裂が生じているが、これを克服しなければならない
  • そのための第一歩として、韓日国防長官会談を提案する
  • 北東アジアの平和と安定のリンチピンであり礎石である韓日のコミュニケーションが求められる
  • バイデン政権も韓日国防長官会談を期待している

…。

相変わらず、すごい議論ですね。読んでいて、思わず苦笑してしまいます。

すでに日本がFOIPに舵を切っているにも関わらず、この論考にはFOIPの「F」の字もありません。周回遅れも甚だしい議論です。

この論考、まともに取り上げる価値すらない

そもそも論ですが、少なくともここ2~3年に関していえば、日韓の信頼を踏みにじる行動は、すべて韓国側が取って来たものです。

自称元徴用工判決や主権免除違反判決などで国際法を踏みにじり、慰安婦合意を事実上破棄して政治的信頼信頼を踏みにじり、輸出管理適正化措置を巡る対日提訴などを通じて経済界の信頼を踏みにじるなど、日本の韓国に対する信頼が地に堕ちる要因を作ってきたのは、いずれも韓国です。

こうした信頼を、「日韓軍事協力の強化」で回復できると考えるのは、大変に甘いと言わざるを得ません。

いや、それどころか、韓国が日本の信頼を踏みにじる行為は、軍事協力の分野でも発生しています。その典型例が、権泰煥氏の論考でも出てくる2019年8月の日韓GSOMIAの破棄騒動であったり、2018年12月の火器管制レーダー照射事件であったりするわけです。

とくに、火器管制レーダー照射事件については、状況を一歩間違えれば準戦闘行為として戦争に突入してしまう危険性すらあるにも関わらず、韓国側はいまだに「日本が低空威嚇飛行をしてきた」などと問題をすり替え、歪曲しています。

本来、韓国が今すぐやらねばならないことは、火器管制レーダー照射事件に関わったものの処分と再発防止策の策定、そして日本に対する真摯な謝罪です。時間が過ぎれば過ぎるほど、日本の韓国軍に対する信頼は戻らなくなるにも関わらず、すでに2年間が徒過してしまいました。

それなのに、権泰煥氏の論考では、この火器管制レーダー照射事件のことを「哨戒機の問題をめぐる葛藤」などとボカして表現しています。こういう最も基本的な要素でゴマカシが入った論考など、正直、本来ならばまともに取り上げる価値すらありません。

その周回遅れぶりに驚きあきれる

ただし、本稿でこの権泰煥氏の論考を取り上げた理由は明快です。

さまざまな意味で、韓国的な考え方が凝縮されているからです。

日韓関係が悪化していて、軍事的信頼にも亀裂が生じているという点については同意するのですが、その一方、この権泰煥氏の議論で根本的に欠落している重要な要素が、「どちらがその原因を作ったのか」という視点です。

ことに、日韓防衛相会談を提案すると述べた節に含まれる次の記述を読むと、「よくぞぬけぬけとそこまで言えるな」と呆れてしまいます。

韓日の軍事的な信頼は韓日関係の支柱だ。韓日軍事関係は米国との同盟に基づいて友好的な協力関係を増進し、その土台は簡単には崩れないけれが、ダムの崩壊は亀裂から始まる。いま軍事的信頼を回復しなければ、有事の際、危機が現実になるという歴史的教訓を忘れてはならない」。

日韓軍事関係はそもそも米国との事実上の「三角同盟」だったはずですが、康京和(こう・きょうわ)前外交部長官が2017年、中国に対して「三不の誓い」を立てたことからもわかるとおり、その三角同盟を機能不全に追いやってきたのは韓国です。

また、「いますぐ軍事的信頼を回復しなければ、有事の際に日米韓3ヵ国連携が機能しない」という指摘もそのとおりですが、そもそも日韓の軍事的な信頼を損ねて来たのは韓国ですので、信頼回復のためには、まずは韓国が行動で示さねばなりません。

太平洋版NATOに韓国の席はない

もっとも、くどいようですが、韓国との信頼関係が崩れているにも関わらず、「日米韓3ヵ国連携」に依存したままの状態が続けば、日本の国防にとっても深刻な脅威が生じかねません。

しかし、日本がやるべきは「韓国との信頼回復」ではありません。信頼を突き崩すような相手には現段階で見切りをつけ、韓国に代わる連携相手を見つけて連携を強化することです。

実際に日本はすでに「日米豪印クアッド」の協力体制を始動していますし、最近では日英連携も強化しています。将来的には、カナダ、ニュージーランド、フランスなどの諸国に加え、可能ならば台湾も含めて、価値同盟にまで高めていくべきでしょう。

さらには、必ずしも日本と基本的価値を完全に共有しているとはいえない東南アジア諸国連合(ASEAN)とも、是々非々で協力体制を敷いていくことが不可欠です。

そこでカギとなるのは、おそらくインド太平洋版の集団的安全保障機構としての「太平洋版NATO」というアイデアです。現在のところ、日本政府は「太平洋版NATO」の創設には明言していませんが、将来的にはこのような構想も視野に入って来ます。

ことに、この「太平洋版NATO」に英国が寄せる期待は非常に大きいのではないでしょうか。

実際、英国が1997年に香港を中国に返還した際、「50年間は現在の体制を維持する」という約束を、中国は「香港国家安全法」などの法制を通じ、いとも簡単に破りました。これに対するペナルティを中国に与えるうえで、国際社会の連携は何よりも大事です。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ただし、その「太平洋版NATO」に韓国の席はありません。

いとも簡単に約束を破るからです。

そして、この「太平洋版NATO」感性の暁には、「日米韓3ヵ国連携」の枠組みが正式に消滅するのでしょう。その日が来るよう、日本政府は努力すべきでしょうし、また、私たち有権者たる日本国民の側も、しっかりと覚悟を決めるべきではないでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (19)

  • 日韓の軍事面については、レーダー照射事件について、韓国から謝罪と再発防止策を出さないと、軍事協力について話し合いする事は出来ません。
    世界の兵隊さんは、どちらの主張が真実か分かっています。
    韓国軍は、既に兵隊さんのネットワークから、実質的に除外されているんだと思います。
    この記事も、会えば解決するという妄想と、バイデン政権向けのポーズだと思います。

  • 何でも「会えば解決する」という思い込みがキモいです。
    リスカブス。

    • イーシャさま
      韓国と会うというのは、韓国が譲歩して貰えると思っている乞食ニダ。
      その上何も貰えないとケチだと言いふらす「偉そうな乞食」ニダ。

  • >ただし、その「太平洋版NATO」に韓国の席はありません。

    >いとも簡単に約束を破るからです。

    太平洋に面してないから!…でよいでしょう。
    約束という概念がない国に約束云々は酷やもしれませんので、ここは単純に太平洋に面してないから!

    • あるんジャネ?!

      奸酷に用意サレル椅子は、…。
      この『インド太平洋版NATO』の“敵(エネミー)”という名のイスである。

      デモデモ実際は、吊し上げ用の電気ショック椅子だったりして…。

  • そもそも日本は専守防衛ですからね。他国の防衛は管轄外です。日本の防衛に関与してくれる国とだけしか話せないのです。だから基本アメリカだけ話すわけです。条約による同盟国ですから。
    GSOMIAはそう考えるとかなり異例な協定です。まあ、完全にアメリカの便宜のためでしょうね。

    防衛相会談を断ったら、またGSOMIA破棄とか騒ぎ出してくれるかな。それはそれで面白そうですが。

    日本は韓国に対して何も用事がないのが現状です。全てのことを事務的にこなしていく単なる隣国です。

    まあ、韓国としてはなにかと日本に頼りたいでしょうけど、「次期大使」さんがあの人ですからね。そもそも日本と意思疎通出来ないでしょう。

  • そもそも国家間の信頼が霧散して久しいのに軍事的信頼て…
    コレもお得意のつーとらっくとやらですかね?

  • アジアの安定に関する最大の課題は今は中国の海洋侵略です。相対的に北朝鮮に関する脅威は後回しにされていることを、権泰煥氏はアメリカのリンチピンという外交辞令を信じて理解していないかのような書き方ですねん。どこまでも自分中心の考え方しか出来ないようです。

  • 更新ありがとうございます。

    タカリ屋で慰安婦や徴用工で永遠の謝罪を受け取るつもりの韓国を、日本は最近、放置しています。まともに相手しない、「共に未来志向で〜」と言いだしたら、「台湾から至急な話が入った」と遮る(笑)。

    「消極的制裁」ですネ。何か近づいて来たら避ける(笑)。コチラから話しかけない。

    「日韓軍事強化」って何の冗談ですかね(笑)?古くは南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)に参加する陸上自衛隊部隊が、壊滅的に囲まれた韓国軍に、自衛隊から提供した銃弾1万発が、正式な謝意も無く国連から返還されました。

     いくら「現場の隊長が感謝した」(小野寺五典防衛大臣)と言っても、韓国陸軍のトップや三軍の長は知らん顔ですか?憎い日本陸自から貰った事は秘匿したいのですか?それとも現場の隊長は降格か(笑)。

    「太平洋版NATO」完成の暁には、日米豪加印英始めASEANからも参加があるでしょう。韓国は、、招待の誘いも無いし、『外す』ミーティングが極秘で始まっているのではないでしょうか?

  • 文春オンラインの河野克俊・前統合幕僚長インタビュー(2020/12/26)の題名が「韓国軍は無礼を通り越していた」です。

    >軍というのは国益を担って、ある場面ではお互いに戦う。ただ、そこいらの喧嘩とは違って、別に軍同士が憎しみ合って戦うわけじゃないんです。お互いに国益を担っている、大いなる使命を担っているという共有感がある。だから軍同士は互いに尊重し合うわけですよ。それを象徴しているのが旗であり、軍はお互い旗の下に戦うわけなんです。だから、相手の軍旗を尊重するというのは軍における常識であり、紳士協定であり、マナーです。

    私は河野前幕僚長のこの発言に尽きると思います。中央日報の主張は周回遅れどころか、語るに足らずですね。

    強いて言うなら「国際法を守れ」。

    以上です。

    文春オンラインの河野克俊・前統合幕僚長インタビュー(2020/12/26)
    https://bunshun.jp/articles/-/42206

  • 彼らの言動って、内向き(内政)優先で ”ことの本質”が見えてないんですよね。
    対外交渉しても議事内容そっちのけで、会うのが目的と化してるのかと・・。

    会わなければ始まらないのは、その通りなのだとしても、「必ずしも会えば始まるとは限らない」ってこと、いい加減に学習しないのだろうか?

    あゝ、いい加減な学習の結果がこうなのか・・。

  • 豪州やニュージーランド・インド東南アジア諸国の国防関係者の間では、韓国が中国側に立つ事は近年常識の様です。また、2019年のG20首脳会議(大阪)で、韓国ムン大統領が大方の首脳達からほぼ無視に近い侮辱を受けていた様を見て、コリャもうダメだろうな〜とつくづく思った次第です。

1 2