連日、メディアなどに取り上げられているのが、今年9月に辞任した安倍晋三総理の事務所が「桜を見る会」の前夜祭で費用を一部負担していた、とされる疑惑です。これについては当ウェブサイトでも少し前から何度か取り上げているのですが、これについて考えるうえで、大手ウェブ評論サイト『アゴラ』の編集長が執筆した論考が非常に有益です。
【参考】桜を見る会(※クリックで拡大)
(【出所】首相官邸ウェブサイト)
目次
「検察が情報リーク」説
改めて振り返る、「検察が捜査情報をリークしている」説
「『桜を見る会』の前日、安倍晋三総理の個人事務所が支持者らを招いて開催した『前夜祭』で、事務所側がどうやら金銭を支出していたらしい」――。
これは、今週に入って、急遽持ち上がってきた疑惑です。
この報道、当ウェブサイトでは『「桜を見る会」で各社が一斉に同じ内容報じる不自然さ』でも取り上げたとおり、読売新聞やNHKなどが先導する形で、複数のメディアが一斉に報じたという点がきわめて不自然だと考え、「検察内部のリークではないか」という仮説を最初から提示していました。
この「検察が積極的に一部メディアに対して捜査情報をリークした」というのは、あくまでも状況証拠から推理したものにすぎず、べつにその確たる証拠があるわけではありません。
ただ、過去に野党や一部メディアなどから、捜査情報に基づくのではないかと疑われるような情報をもとにした政権追及という動きが発生していたことを思い出す必要もあるでしょう。
山本真千子「容疑者」の件はどうなった!?
たとえば、江田憲司衆議院議員(現在は立憲民主党に所属)が2018年4月4日付で、こんな内容のツイートを投稿しています。
江田憲司(衆議院議員)
#森友 大阪地検の女性特捜部長のリークがどんどん出てくる。NHK「何千台分のトラックでゴミを撤去したと言ってほしい」と本省理財局の職員が森友学園に要請と。ネタ元はメールらしい。今のところ、特捜部は「やる気」みたいだが、法務省と財務省の関係からすると、どこまで貫けるか!?頑張れ!
―――2018/04/04 19:26付 ツイッターより
ツイートに出てくる「リークをどんどん出してくる大阪地検の女性特捜部長」とは、おそらくは山本真千子部長(当時)のことです。もし江田憲司氏のこのツイートが事実ならば、山本真千子氏は公務員でありながら、メディアに対して捜査情報をどんどん漏らしている、ということです。
これなど、氷山の一角でしょう。
アゴラ編集長の見立ては?
「桜の再燃、じつは官邸のシナリオどおり」とは?
では、もしも検察が特定メディアに対して捜査情報を漏らしているということであれば、それはいかなる場合なのでしょうか。
大手ウェブ評論サイト『アゴラ』に昨日、アゴラ編集長で報道アナリストの新田哲史氏が、こんな記事を投稿しています。
「桜」の再燃、実は官邸の“シナリオ”通り?
桜を見る会の前夜祭疑惑が3連休終わりに再燃した。安倍政権下の「モリカケ桜」の3大騒動のうち、「桜」だけは役所が関与しておらず、防御が最弱というのは以前から指摘されており、アンチ安倍の人たちも「突破口」に見立てていた。安倍シンパにとっては杞憂が的中したような構図だ。<<…続きを読む>>
―――2020年11月26日 06:01付 アゴラより
個人的に、新田氏の普段の記事をあまり読んでいないので、新田氏が普段からいかなる政治的主張をされている人物なのかについては存じ上げません。
ただ、リンク先記事を読んだ限りでは、執筆者のスタンスは「親安倍」、「反安倍」といった先入観を排し、あくまでも、「政治とメディア」という視点から公正に執筆しようと努めている、という印象を抱きます。
記事の分量は3000文字近くに達する力作ですが、「検察がメディアに情報をリークする際の意図を知る」という意味では、とても参考になるのです(ただし、後述するとおり、個人的には検察による情報漏洩については大変に大きな問題だと考えているので、この点についてはご注意ください)。
それはさておき、新田氏の目の付け所の興味深いところは、騒ぎの発端となったのが、「反安倍メディア」として知られる朝日新聞ではなく、どちらかといえば自民党政権に近い立場と見られているはずの読売新聞だった、という点です。
具体的には、11月23日に読売新聞が朝刊で、安倍総理の公設秘書らを東京地検が任意聴取したと特報し、これにNHKが「800万円以上負担」という金額をスクープ。
翌・24日には読売もNHKに続いて「800万円超補填」と報道し、同日夜には日経電子版やNHKが「安倍氏周辺が一部負担認める」などと報じ、さらに25日に読売が朝刊で「安倍氏側が領収書廃棄か」などと特報した、といった流れです。
新田氏は「事件報道の『特ダネ合戦』としては、読売が先陣を切り、NHKも独自情報を一部交えて対抗」するという意味で、この2社が主導したと指摘します。つまり、第一報が「反安倍派」の急先鋒だった朝日新聞ではない、というのがポイントなのだとか。
そういえば「山本真千子事件」
そこで思い出すのが、例の「山本真千子疑惑」です。これは、2018年3月、森友学園への国有地売却を巡り、財務省が近畿財務局の決裁文書を書き換えたという疑惑を朝日新聞が報じた、という事件であり、新田氏は「山本真千子部長」という個人名を出していないものの、次のように述べています。
「このとき、大阪地検特捜部の捜査資料の流出が疑われたが、検事総長人事を巡り、安倍官邸と暗闘していた検察側が朝日を使って倒閣を仕掛けたとの見方が強かった」。
ここで、少しだけ脱線しておきます。
「検察が総長人事を巡って安倍官邸と暗闘していた」、「公文書改竄疑惑は大阪地検から朝日新聞にリークされたものだ」、といった情報は、おもにゴシップ誌などで取り上げられていたものですが、当ウェブサイトとしてはその情報の信憑性を判断する材料を持ち合わせていません。
しかし、説明としては非常にすっきりとしていて、説得力があることも間違いありません。そして、これが事実であるならば、検察という国民から選挙で選ばれたわけでもない組織が、捜査情報のリークという違法な手段を使って政権を転覆しようとした事件であり、内乱そのものではないでしょうか。
実際、この公文書改竄疑惑を巡っては、その後、大阪地検が会見を開き、佐川宣寿・元財務省理財局長らを嫌疑不十分として不起訴処分にしたと発表しました(2018年5月31日付朝日新聞『森友改ざん・背任容疑、佐川氏ら全員を不起訴 大阪地検』等参照)。
皮肉なことに、それをメディアに対し説明したのは山本真千子特捜部長です。「嫌疑不十分」というよりも、公文書改竄自体、もともと立件するのが極めて難しいと踏んでいたからこそ、山本真千子氏がメディアにわざとリークし、情勢を引っ掻き回したというのが真相に近いのではないでしょうか。
もしも山本真千子氏が安倍政権を転覆することを目的に捜査情報をメディアに漏洩していたのであれば、刑法第77条第1項第1号に従って山本氏は死刑または無期懲役に処する必要があるように思えるのですが、いかがでしょうか?
なぜ「読売」だったのか?
脱線はこのくらいにして、本論に戻りましょう。
先ほども申し上げたとおり、新田氏の着眼点は、「リーク先が読売新聞だった」という点です。
「今回、検察がリーク先に選んだとみられるのは読売新聞だ。(中略)リークする側の視点に立つと、どのメディアにするか影響力や媒体特性もトータルで勘案するのが当たり前だ」。
つまり、安倍総理自身が絡む事件である以上、地検特捜部が捜査情報をリークしているという動きを、官邸側も「黙認している」のではないか、というのです。これが記事タイトルにもある「官邸のシナリオ」という新田氏の仮説の根幹部分でしょう。
首相官邸(あるいは菅義偉総理大臣自身)がこれを「黙認」している、というのであれば、リークする側としては、おのずから反権力の朝日ではなく、コントロールしやすい読売を選ぶだろう、というのが新田氏の説明であり、この点についてはそのとおりだと思います。
もっとも、少し余談を述べておくと、新田氏はサラッと、
「検察担当の現場記者は連日、夜討ち朝駆けで命を削って取材している。その積み上げた成果が特ダネにつながっているのは間違いない」
などとすごいことを書いています。
大変申し訳ないのですが、個人的にはこのくだり、まさにメディアと野党と官僚が癒着し、腐敗し切っている証拠にしか見えません。検察からのリーク情報など、しょせんは検察が持っている情報を与えてもらっているだけだからです。
この「官僚、メディア、野党議員」という「腐敗トライアングル」については、これまでも当ウェブサイトでしばしば言及してきたものですが、はからずも新田氏の論考から、自説の正しさの証拠を感じ取れたというのも良かったのかもしれません。
情報小出しの正体は「官邸によるコントロール」?
この新田氏の仮説が正しければ、こんなストーリーも成り立ちます。
「検察と官邸は、最初からこの『事件』の落としどころを、『秘書が安倍総理に虚偽報告をしていた』というシナリオに落とし込むために、3日間かけて少しずつ情報をメディアに小出しにした」。
とくに、検察の捜査に対し「指揮権」を持つのが、安倍政権で2回法相に任用され、菅政権でも引き続き法相を務めている「実力派」の上川陽子氏であるため、検察も官邸も、民意をにらみながら落としどころとしての「秘書の虚偽報告」シナリオに落ち着かせようと入念に進めていく、というのが新田氏の見立てです。
では、この新田氏の見立ては正しいのでしょうか。
これについて、昨日はこんな趣旨の報道がありました。
- 安倍総理側が前夜祭の費用を一部負担していた問題で、東京地検特捜部は公選法違反(有権者らへの寄付の禁止)を適用することは難しいとみており、収支報告書に収支を記載しなかったという政治資金規正法違反を軸に調査を進めている
- 2015年から19年にかけ、5回の費用総額は2343万円で、5年間で安倍氏側が負担していた金額は916万円。単純計算で1人あたり2300~3800円ほどを安倍氏側が補填していたが、これは選挙区内の有権者らに対する寄付を禁じた公選法違反のおそれがある
- しかし、寄付行為と認定するためには、拠出する側と受け取る側の双方が「寄付」と認識していたと証明する必要があるが、複数の参加者は地検に対し、「食事も物足りず、寄付を受けた認識はない」などと説明している
…。
結果的に、アゴラの新田編集長が述べているのと同じようなストーリーですね。
しかも、『「やっぱり安倍は怪しい」?うさん臭さ漂うリーク記事』などでも述べた、金額が文中で矛盾しているなどの記事と比べると、こちらの記事はいちおう計算の辻褄は合っているなど、はるかにマシです。
では、これを報じたメディアはどこでしょうか。
正解は、こちらです。
政治資金規正法を軸に捜査 「桜」夕食会費問題で特捜部
―――2020年11月26日 5時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より
意外なことに、朝日新聞がこういう冷静な(?)記事を出しているのです。個人的には、素直に驚いてしまった次第です。
大山鳴動、ネズミ一匹
こうしたなか、おそらくこれも検察によるリークではないかと疑われる記事が、昨日の夜、時事通信から出てきました。
安倍氏側、収支報告書で事前照会 記載必要性認識か―「桜」夕食会・東京地検
―――2020年11月26日21時23分付 時事通信より
時事通信によると、前夜祭を巡り、「安倍氏側」が2013年の時点で政治資金収支報告書への開催日の記載方法を総務省に問い合わせていたことが、「関係者への取材」の結果、わかったのだそうです(※それにしても「安倍氏側」という書き方もいかがなものかと思いますが…)。
これも、「安倍氏の政治団体が前夜祭の費用の一部を負担していたならば、それを政治資金収支報告書に記載しなければならないという点を、秘書は認識していたはずなのに、それを安倍総理に報告しなかった」、というストーリーに合致する情報ですね。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
自然に考えて、もし安倍総理側が「桜を見る会」の会費の一部を負担していたとしても、それは金額的にも小さく、これで立件するのは難しいというのは、おそらくは間違いないでしょう。
それに、安倍総理のような人物であれば、べつに「買収」などしなくても、衆議院議員選挙では小選挙区で難なく勝ち残ることが可能です。金額から判断して、やはり安倍総理自身が指示したのではなく、秘書が独断でやった、というストーリーに落とし込むのが自然な流れです。
つまり、1人あたり5000円で開催してみたものの、支持者が思ったほど集まらず、金額に不足が出てしまったので、やむなく事務所側が追加で費用を負担した(または立て替えた)、というのが、説明としてはしっくりきます。
いずれにせよ、ツイッターなどでは日本共産党支持者や「反安倍」派とみられる人たちによる、「安倍を逮捕せよ」といったツイートも見られるのですが、新田氏の見解が正しければ、今回の「疑惑」も結局は選挙を遅らせるくらいしか効果がない、ということなのかもしれませんね。
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答え合わせ感があります。事態が進行しないとピースが集まってこない。
民間(専門職でない部外者が行うという意味)調査ジャーナリズムなるものがこの世にあるなら、我々読者はその実力発露、実力発揮をみているということですかね。
>複数の参加者は地検に対し、「食事も物足りず、寄付を受けた認識はない」などと説明している
これは前回の桜騒ぎのときも出てた話だったけど、ということはこれはホテルに対する賄賂ってことになるのかな?
支持者向けイベントの補填は与野党問わず各議員みんなやっているというのが実際のところじゃないでしょうか。
結局は政治資金規正報告書の記載漏れ(記載漏らし、報告漏れの責任は秘書)という線で終わるような気がします。野党も追及しようにも自分も間違いなくやっていて反撃喰らう。
官邸も安倍総理陣営も了承の上の「スクープ」なんだと思います。
騙されやすい自分としては、もし誰かに、検察幹部のマージャン相手がY新聞記者だったとか、GHQの元で設立された特捜がいまだに影響を受けていて、混乱する大統領選から目を背けさせるためにリークしたとか言われたら、信じてしまうと思います。
メディア転がしは知己を活かして柿崎がいい仕事をしたんでしょう。桜にケリを付け、早くも湧き上がる安倍待望論を潰して安倍氏(と細田派)の政治力を削ぎ、安倍氏サイドの政治資金規正法違反の立件で検察の面子も立てて貸しを作り、菅総理にとっては一石三鳥。来るべき解散総選挙を取り仕切る二階も噛んで官邸と与党内での暗闘でしょう。
菅総理の狙いは次期総裁選に勝利し(バイデンと重なる)2024年まで総理総裁を務め、(自分を総理に押し上げてくれたけれど、これから)衰えていく二階麻生を尻目に次の総裁を事実上決定するキングメーカーとなり総理を退いた後も党内政治力を維持すること。これからも自分の地位を危うくしてくる者は容赦なく潰すでしょうね。
更新ありがとうございます。
桜の夕食会、一人当たり2〜3,000円の事務所負担なら、国会議員なら誰でもやっているでしょう。選挙区の支持者の葬儀代やら結婚式なら、もっとはずむ。
秘書が勝手にやった、というストーリーに落とし込むのが自然です。しかし桜が一番弱いという見方は、恥ずかしながらなるほどと感じました。
これが本当なら、野党の目の前のエサには何でも食いつくダボハゼ性質が際立っちゃいますね。
正直、チョロいかも。
正直云って、なんでこんなことで野党やメディアが大騒ぎしているのか全く理解に苦しみます。
招待却全員が安倍元総理の選挙区の選挙民であった訳でもなく、この行為が公職選挙法に抵触したとすること自体、無理があると云わざるを得ません。
敢えて申せば、政治資金収支報告書虚偽記載程度の事案ではないかと考えます。
野党諸氏もメディアも、この程度の事大騒ぎするよりもっと他に取り組むべきことがあるだろうにと、毎度の事ながらこの国の行く末が案じられてなりません。
招待却 ×
招待客でした。
どんな設営だって基本料(固定費)+歩合(変動費)なのだと思います。
想定値(招待数)で予約されたものを実数(来場数)で除して想定単価との差額を比較することに特別な意味はあるのでしょうか?
数が足りねば話にならず原則多めの手配は当然のこと、手配時に総額は確定してるのだから来場数が少ないときの差額負担も当然のこと、けれど想定外の支出には適正な事務手続きも当然のこと・・。
*誰の私腹が肥えた訳でなし、錯誤の主張は通るのでしょうか?
検察内の極左シンパが音頭をとってアベを倒す!という筋書きにはリアリティを感じる要素がありません。できないし必要もないしタイムリーでもない。
私が考えているのはまったく別の理由です。報道しない自由のために試験電波を流し続けるわけにもいかないので、マスゴミ様方がスクラムを組んでそれっぽいネタをお仕込みになられたのだろうと勘ぐっておりますw
何を報道しないのかって、そりゃもちろんアメリカ大統領選挙ですよw
今週は認知機能やばいでんさんの厄ネタが目白押しでしたから、多少なりとも国民の目をそらしつつ「”国内政治の重大事件”を優先した」と言い訳するにはジャストタイミングでした。
もりかけさくらの中ではさくらが最も内容がないので、想像の翼を自由に羽ばたかせるには最適な題材なんですよね。なにしろ出てくる固有名詞が久兵衛さんくらいですからwww なんとなくワルそうな数字を並べさえすればよいので楽です。
ちょうどシナHKさんがこの話題をやってたので見てたら、「アベ事務所関係者が〜〜〜と周囲に説明していた」ですって。近所の住人が飲み屋でホラ吹いた、みたいな?
#放送法の厳格適用を求めます
ちなみに21時のニュースで大統領選の話題はゼロ秒でしたw