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南北揃って「てんでお話にならない」=日韓局長級協議

新型コロナウィルス感染症拡大のため、なかなか実現しなかった対面での日韓局長級協議が昨日、8ヵ月ぶりに開催されました。一般に膝を突き合わせた対面での協議には実りが期待できるのではないかと思ってしまいますが、昨日の協議に関しては、日本にとっての韓国が「基本認識すら合致させられない相手」に成り下がったという思いを新たにせざるを得ないものでした。

韓国・ソウルで日韓局長級の対面協議

かねてより当ウェブサイトでも報告してきたとおり、自称元徴用工問題をはじめとする日韓間の諸懸案は、いまや日韓関係を破滅のふちに追いやりかねないほど深刻化していますが、こうしたなか、今朝の『自称元徴用工判決から2年:徹底的に不誠実な韓国』ではあえて「スルー」した論点がひとつあります。

それは、外務省の滝崎成樹アジア大洋州局長が韓国を訪問し、同国外交部の金丁漢(きん・ていかん)アジア太平洋局長と会談した、とする話題です。

メディアの報道や外務省の発表などをいろいろと調べていたのですが、ボリューム的にもまとまった記述があるのは韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)の次の記事でしょう。

韓日局長が8カ月ぶり対面協議 強制徴用問題で溝埋まらず

日本の菅政権発足後初となる韓日の外交当局による局長級協議が29日に開かれ、強制徴用問題など両国の懸案について協議したものの、立場の違いを埋めることはできなかった。<<…続きを読む>>
―――2020.10.29 19:54付 聯合ニュース日本語版より

聯合ニュースの記事は1000文字を超えているのですが、読めば読むほど、「日韓両国政府は意思疎通どころか基本認識すら合わせることができなくなりつつある」と悲観せざるを得ません。

いや、もっときついことを申し上げるならば、後述するとおり、「基本認識すら合致させられない相手」という意味では、北も南も一緒なのかもしれませんね。

日韓の主張は正面から対立

本稿では、気になった部分を順不同でいくつか選び、日本語表現を整えたうえで、個人的な感想を述べておきたいと思います(記事原文についてはリンク先で直接ご確認ください)。

まず、日本側の主張は次のとおりだったそうです。

  • 旧朝鮮半島出身労働者(※)への賠償を日本企業に命じた韓国の司法判断は1965年の日韓請求権協定に反し、国際法違反であり、韓国側が解決策を用意すべき。また、韓国に対する輸出管理の運用変更は同問題とは無関係である。
  • 日本企業の資産の現金化が行われた場合、両国関係にとって大きな打撃になり得るため、韓国政府がこれを防ぐ必要がある。

(※自称元徴用工に関し、聯合ニュース記事原文では「強制徴用被害者」ですが、日本政府の公式用語は「旧朝鮮半島出身労働者」であるため、ここでは日本政府の用語に合わせています。また、輸出管理厳格化措置についても聯合ニュースの原文では「輸出規制」と誤記されています。)

これに対し、韓国側の主張は、次のとおりです。

  • 強制徴用判決を巡り、日本政府と企業側が問題解決のために誠意ある態度を示す必要がある
  • 日本が問題提起した輸出管理体制を改善したが、依然として日本が不当な輸出規制を維持している

正直、まったくお話になりません。

そういえば、2018年12月に発生した、韓国海軍駆逐艦「広開土大王」によるわが国自衛隊機に対する火器管制レーダー照射事件の際も、韓国軍は自分たちの責任を頑なに認めず、それどころか「日本が低空威嚇飛行を仕掛けた」などとウソをついて日本に責任をなすりつけようとしたことがありました。

今回、滝崎氏が「協議」しようとした自称元徴用工判決問題や資産の強制売却問題についても、韓国側は日本の認識にただの一歩も近づかず、それどころか国際法に反した彼ら独自の強引な主張をゴリ押して終わった、というのが実情でしょう。

聯合ニュースさん、突破口は「だれが」用意するのですか?

それにもかかわらず、聯合ニュースは今回の日韓局長級会談について、次のように述べています(原文ママ)。

ただ韓国側は菅首相が就任してから日本側は問題解決の意思が高まったようだと評価しており、強制徴用訴訟を巡る大法院(最高裁)判決に基づき早ければ年内に実施される見通しの日本企業の韓国内資産の現金化問題について、突破口が用意されるのかに注目が集まる。

この文章、末尾で「突破口が用意される」と受動態になっていますが、「突破口」とやらを「用意する」のは、いったい誰なのでしょうか?まさか、「日本政府が用意してくれる」とでも思っているのでしょうか?

主語も曖昧で、いったい何が言いたいのかわからない文章ですが、あえて当ウェブサイトなりに、やや強引に解釈するならば、次のとおりでしょうか。

  • 対韓強硬派だった安倍晋三総理が辞任し、かわりに菅義偉総理大臣が就任したことで、日本政府内では韓国の主張に配慮を示す形での問題解決に向けた意思も高まっている(と韓国政府が評価している)
  • とくに日本企業の資産売却問題を巡り、日本政府が突破口を用意することへの期待が(韓国政府内で)高まっている

ちなみに韓国政府外交部当局者は記者団に対し、「対話による問題解決の必要性という点では一致した」と述べたうえで、菅総理就任により日本の立場に変化があったかについては「解決すべきという意思の水準が多少高まったのではないかと思われる」、と述べたのだそうです。

韓国政府も韓国政府なら、韓国メディアも韓国メディアですね。

北朝鮮、日本人拉致問題で日韓協力は絶望的

ただし、個人的に気になっているのは、やはり北朝鮮の核・ミサイル等の開発に関する問題です。

聯合ニュースによると、滝崎氏は北朝鮮核問題を担当している関係で、同問題の韓国側の首席代表を務める外交部の李度勲(り・どくん)朝鮮半島平和交渉本部長と会談し、「対話の早期再開に向けて協力を続ける必要がある」との認識などで一致したのだそうです。

ただし、この問題に関しても、聯合ニュースの記事を読む限りにおいては、CVID(※)ないしFFVD(※)方式の非核化については触れられていないようです。

(※CVIDは「完全な、検証可能な、かつ不可逆的な廃棄」 “complete, verifiable and irreversible dismantlement” 、FFVDは「最終的な、完全な、かつ検証可能な非核化」 “final, fully verified denuclearization” の略。)

従来、日本や米国は北朝鮮に対してはCVIDまたはFFVD方式の非核化が実現できて初めて経済制裁を解除し、経済支援を実施するなどの考えを示しているのですが、韓国政府は文在寅(ぶん・ざいいん)大統領自身が「朝鮮戦争終戦宣言」に言及するなど、認識の齟齬は拡大しています。

著者自身に言わせれば、韓国はすでに日米などのCVIDを妨害する存在に成り果てていると思うのですが、それでも滝崎氏としては立場上、北朝鮮の非核化問題を巡って、韓国と協議をせざるを得ないのでしょう。不毛な時間です。

また、聯合ニュースの記事や、わが国の外務省の『日韓局長協議の開催について』などを読んでみても、日本政府が最大の課題のひとつに掲げている日本人拉致事件の解決に向けた協力については、韓国側と話題にすら出ていないようです。

これも正直、極めて失望する話です。というのも、考えようによっては、拉致事件については「北朝鮮の犯罪」ではなく、「韓国の犯罪」である、という見方もできなくはないからです。

韓国は軍事境界線で北朝鮮と分断されていますが、大韓民国憲法では北朝鮮の領域も含めて「大韓民国の領土」と規定されています。ということは、見方によっては、日本人拉致事件は北朝鮮という「国家」の犯罪ではなく、「大韓民国の国民による犯罪」です。

(※その意味ではなぜ日本政府が拉致事件の解決や損害賠償を韓国政府に要求しないのかが不思議でならないと思う次第です。)

つまり、「日本は北朝鮮の犯罪の被害者だ」という認識では甘く、「日本は自国の北の片割れが発生させた犯罪による被害者だ」ときちんと認識してもらうくらいでなければ、国際社会に対して責任を果たす意思がある国だとは言えません。

また、百歩譲って日本人の拉致問題に関心がないと言い張るにせよ、韓国は自国民も北朝鮮により大量に拉致されている被害国であるはずです。きつい言い方をすれば、拉致問題を巡るこうした韓国の無責任な姿勢は、拉致問題を「解決済み」と言い放つ北朝鮮当局とまったく同類です。

いったい何をしに行ったのですか?

いずれにせよ、今回の滝崎氏の訪韓により、新型コロナ感染症拡大以来8ヵ月ぶりに対面での日韓局長級協議が実現した格好ですが、本当に「何をしに行ったのですか?」と言いたい気持ちでいっぱいになった、というのが、日本国民の1人としての偽らざる感想だと言わざるを得ないでしょう。

新宿会計士:

View Comments (31)

  • > いったい何をしに行ったのですか?

    外務省だから行った、でしょう。官僚の前例主義は国益よりも重く、中でも外務省は国益を売って省益を守ってきた組織だからです。

    外務省はこれまで何度も日韓局長協議を行ってきました。外務省のサイトで“日韓局長協議”のキーワードで検索すると、その回数の多さに驚きます。ここ数年、この協議のほとんどを滝崎成樹外務省アジア大洋州局長が担当していることもわかりました。

    この二年の間、日韓の懸案事項は山のようにあるわけですが、何度協議を重ねようと何一つ解決できていません。問題の大きさが滝崎局長の権限や裁量を超えています。

    それでも仕事をしている振りを続けないと霞ヶ関では生きていけないのでしょう。

    • >それでも仕事をしている振りを続けないと霞ヶ関では生きていけないのでしょう
      すごいですね
      「無目的な穴を掘らされる それを埋めさせられる そしてそれをひたすら繰り返す」の拷問を思い出してしまいました

    • >この協議のほとんどを滝崎成樹外務省アジア大洋州局長が担当していることもわかりました。

      揚げ足取り対策ですかねぇ。
      複数の人員が絡むと発言にゆらぎが生じ、そこでいいように取られる可能性があります。

  • 今回の協議は、韓国側に関係改善の為に譲歩する気が有るかどうかを確認しに行ったのでしょう。 
    局長級協議で成果が有りませんので、外相や首相か会うのは、時間の無駄です。
    新宿会計士さんは、わざと書いていると思うんですが、「韓国は、日韓関係を必ず日本が解決する」と考えています。
    大事な事ですので、何度も言ってます。
    「韓国は、必ず日本に解決させる」とも考えています。

    • 彼等は、
      日本にとっては「解決」が「ハナシの通じない相手だし限り無く疎遠にしてたらいつのまにか居なくなってた、でも別にカマワナイ」、
      かもしれないとは考え及ばないのでしょうナァ

  • >本当に「何をしに行ったのですか?」と言いたい気持ちでいっぱいになった、

     話が進まないことはわかりきってます
    積極的に対話に応じる という内外に対する 「ポーズ」だと思います
     ただ行って対話らしきものをした
    ということが重要かと思います

    • (関係破綻に至るまでには)出来るだけ努力シマシタヨ、というポーズの為には呼びつけるよりは行く方が…つうこってすかね?

  • 更新ありがとうございます。

    「日韓局長級協議」は、とりあえず日韓局長が会った、話しあったの実績作りだけですかね。話が平行線で、というか韓国が無理矢理折れて曲げて真実から遠く離れた事を、捏造しているだけなのに。

    年内に「日中韓首脳会議」なんて、やりたがっているのはソウル開催というホスト国の韓国だけでしょう。「中止など、プライドが許さぬ!」ってか〜(笑)。11月近いのに、もう無理でしょう。日本なんかホイホイ参加しようものなら、菅総理が叩かれますヨ。

    徴用工の日本企業資産現金化出来るなら、是非やって貰いたい。で在日韓国人が淘汰されるなら、これほど嬉しい事はありません(爆笑)。

    • 日韓基本条約を破棄されるということで方向としてはとりあえずいわゆる在日特権は解消に向かうのでしょうが、帰化する人と 在日朝鮮人とが増えるだけで、ヘル半島に戻る数はそうでもないのではありませんかね?

  • 元々誰一人、おそらくは外務省内だって誰も成果があることなど期待していなかったでしょう。つまりは、予定通りに平行線のまま終わったということです。
    最初から成果がないことをわかっていながら局長が訪韓したのは、単に「訪韓して対話した」という事実だけに意味があったからです。あるいは、日本は外交儀礼をきちんと守る国であるという実績作りのためだけだったと言い換えても良いでしょう。であれば、「訪韓&対話」が報道された、そして言ってもないことを言ったとはされなかったというだけで、今回の局長訪韓は目的を果たしたと言って良いでしょう。それで十分です。
    外交儀礼は、時には迂遠で、しばしば面倒くさく、形式主義的な側面がありますが、ある意味長年の経験知の蓄積ですので、とにかく守ってさえおけばいいのです。相手国や他国からつまらんケチを付けられずに済みますので。

    結局のところ、日本にとって韓国とは、相互理解だの対話だの交渉だのを考えるべき相手ではなく、ただ外交儀礼さえ守っておけば、残りはどうでも良い相手だということが明示されたと考えておけばいいのではないでしょうか。

  • 滝崎成樹アジア大洋州局長の韓国訪問は、最後通告に近いものになるかもしれませんね。

    韓国は、日本が韓国最高裁判決を受け入れない限り、差し押さえ資産の現金化に踏み切るものと思います。
    彼らにとっては、何よりも大切な民族のプライドをかけた闘いであり決して後には引けない、ということなのでしょう。

    日本も同じこと、嘘とねつ造、国際法違反を繰り返す韓国への妥協などあり得ません。

    大法院判決が覆る、或いは政権交代によって締約国としての義務を果たす、といった状況が望めない以上、日韓は、当面は武力を伴わない長期の戦争状態へ突入となりそうです(将来は武力衝突となる可能性もあるかと・・)。
    そうなると在日の人々の立ち位置等どうなるのでしょうか・・?

    民族至上主義的発想が強い韓国・朝鮮民族にとって、”下等民族”の日本に併合された事実は恥辱・痛恨の極み、復讐・仇討ちなくしてはそれを消し去れないといったところだと思われます。

    どうも解決策はなさそうなので、当方として”備え”をしっかりしていくしかないと思います。

  • 「賢者との論争に勝つことは難しいが、馬鹿者との論争に勝つことは不可能である」
    てノーベル賞授賞したこともあるチャーチルの言でしたっけ?

    • 来月になれば悪のおくびょうなにほんしゃかいを正義のかんこくが現金化でついに打擲してくださるんでしょうか。いやーたのしみだなー。

      • 大鋸屑(おがくず)のような何か。
        腐った糠味噌のような何か。

        大鋸屑さん、腐った糠味噌さん、喩えてしまってごめんなさい。

  • 北朝鮮による邦人拉致については先週あたり"日本が北朝鮮拉致を言い続ける限り問題解決はない"との噴飯物のコメントが韓国議員よりでていたかと思います。北も南も同じ穴の狢←あ、ムジナさんに失礼か…

  • >「何をしに行ったのですか?」
    1.日本は韓国の国際法違反に目をつぶる事は無いという意思表示
    2.韓国が相変わらず無理筋な要求を繰り返している事の確認
    といったことろでしょうか?
    個人的には日本が事務的に原理原則を貫く姿勢を続けてもらえれば良いかなと

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