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戦犯探しは後回し まずは「韓国人事務局長」阻止を

先日の『韓国人候補者がWTO事務局長選の最終ラウンド進出へ』でも触れた、世界貿易機関(WTO)の事務局長選を巡り、共同通信は昨日、「日本政府は韓国候補を支持しない方針を固め、近くWTOに伝達する」と報じました。これについて、朝日新聞の牧野愛博氏の論考なども手掛かりに考察してみましょう。

韓国人候補者が最終ラウンド:日本に厳しい状況

世界貿易機関の次期事務局長選挙を巡り、現在、韓国人候補者である兪明希(ゆ・めいき)氏がナイジェリア人候補者と並んで最終ラウンドに残った、という話題については、先日の『韓国人候補者がWTO事務局長選の最終ラウンド進出へ』でも取り上げました。

この兪明希氏を巡り、当ウェブサイトでは、「正直、国際政治の舞台における韓国の交渉力は、侮りがたい」と申し上げました。もともと兪明希氏は8人の候補者中、「泡沫候補」のひとりだったはずが、いつのまにかナイジェリアのヌゴジ・オコンジョ・イウェアラ候補との一騎打ちとなったからです。

そして、こうした状況は、日本にとっても非常に厳しいものです。

なぜなら、日本政府が2019年7月に発表した対韓輸出管理適正化措置を巡り、韓国政府みずから「不当な輸出『規制』だ」などと偽って世界に流布しようとしているなかで、その韓国政府の高官がWTO事務局長に就任しようとしているからです。

そして、韓国政府は日本の輸出管理適正化措置を巡って、日本を提訴しているという状況にあります。

韓国政府が兪明希氏をWTO事務局長に出馬させたのは、表向きは「WTO初の女性事務局長」、「WTO改革」などを売りにしているようですが、その真の目的は対日輸出「規制」撤回を巡る訴訟当事国でもある韓国自身が訴訟を有利に進めることにあるのではないかと警戒せざるを得ません。

なにより、兪明希氏自身、日本の輸出管理適正化措置を巡り、国際社会に大々的に「不当な輸出『規制』だ」などと喧伝して来た人物のひとりでもありますし、日本を理不尽な訴訟に巻き込んだ責任者のひとりでもあります。

いずれにせよ、兪明希氏は能力の不透明性もさることながら、そもそもWTOを舞台としたさまざまな日韓貿易訴訟の当事者のひとりであり、その中立性には大いに疑問があると言わざるを得ません。

牧野愛博氏「日本政府の読み違い」

では、なぜ日本はこの重要な局面で、韓国に遅れを取るようなことになってしまったのでしょうか。

これについて、朝日新聞系のウェブ評論サイト『アエラドット』に今朝、こんな記事が掲載されていました。

「冷や飯」危惧しハラハラ WTO事務局長選で日本政府の「読み違い」

次期WTO事務局長に韓国候補が就く可能性がある。韓国と係争問題を抱える日本はナイジェリアの候補を推すが、選挙の裏で何が起きているのか。AERA 2020年10月26日号では、事務局長選挙の裏側に迫った。<<…続きを読む>>
―――2020.10.26 08:00付 AERAdot.より

リンク先記事を執筆したのは、朝日新聞編集委員の牧野愛博氏です。

書かれている内容の妥当性については、個人的にそれが正しいのかどうかを判断する手段を持っていませんが、内容自体は説得力もありますし、日韓問題に関心がある人であれば、一読の価値はあるでしょう。

内容について詳しい知りたい方は、是非とも直接、リンク先を読んでいただきたいのですが、ここでは当ウェブサイトなりに牧野氏の主張を要約してみましょう。

  • 日本政府の戦略は “anything but Korea” だ。輸出管理措置のWTO提訴、水産物輸入禁止措置の訴訟など、日本政府に言わせれば、兪明希氏を支持する合理性はまったくなかったからだ
  • しかし、日本は戦術でいくつか失敗した。外務省は首相官邸などに対し「ナイジェリア候補の勝利間違いなし」と大見得を切ったが、日本が推したオコンジョイウェアラ氏に対し、国際社会は冷たかった
  • 一方の兪明希氏は、国際社会での地位向上にこだわるお国柄もあり、韓国政府が全面的にバックアップし、最終ラウンドに進出する2人に滑り込んだ
  • さらに、米中貿易摩擦を抱える米国の事務局長選での基本戦略は “anything but China” だ。最終ラウンドに進出した2人のうち、中国の影響がより少ない候補者を選ぶとみられている
  • 今回の選挙戦を通じて「日本の韓国嫌い」は公知の事実となっている。今回負ければWTOで今後4年間、ポスト配分などで冷や飯を食わされるのは間違いない

…。

牧野氏は日本政府の言い分などについてもきちんと取材をしたうえで、論考を執筆しているものと思われます。たとえば日本の対韓輸出管理適正化措置のことを「輸出『規制』」とは呼ばずに「輸出管理措置」と表現するなど、事実関係を踏まえているからです。

なにより、 “anything but Korea” (韓国以外なら何でも)、 “anything but China” (中国以外なら何でも)、といった表現がスッと出てくるあたり、冷徹な視線で国際政治の現実を見つめる牧野氏ならではの文章でしょう。

この論考を100%正しいと信じてください、などと申し上げるつもりはありませんが、実際にこれまでもWTOでは韓国のわけのわからない言い分が通り、日本が敗北したという事例はあります。「日本の戦術的敗北」、「外務省の大失態」という牧野氏の主張は、私たち日本人には頭の痛い指摘ではないでしょうか。

いま、日本政府がなすべきこと

しかし、外交上の戦犯探しはとりあえず後回しにして、まず現在は韓国候補のWTO事務局長当選を阻止するために努力すべきでしょうし、最悪のシナリオが実現した場合に備えて、国際社会を味方につける努力を今以上にしなければなりません。

なにより、非常に残念な話ですが、日本政府の情報発信力は低いです。このままだと慰安婦問題などと同様、諸外国は日本の対韓輸出管理適正化措置を巡って、韓国政府の「不当な輸出『規制』」なる言い分をそのまま信じ込んでしまうかもしれません。

では、具体的にどうすれば良いのでしょうか。

まずは、国としての原理原則を大切にすべきであり、牧野氏のいう “anything but Korea” を最後まで貫けるかどうかがポイントでしょう。

もちろん、もし日本政府が韓国人候補を推さず、結果として韓国人が事務局長に就任した暁には、今後4年間、WTOで日本が冷や飯を食うことになりかねません。しかし、それでもやはり、国としての原理・原則については曲げてはなりません。

こうしたなか、現在のところ、日本政府としては公式にどちらの候補者を推すか、意思を明らかにしていませんが、観測報道はいくつか流れて来ます。そのひとつが、昨晩、共同通信が報じた次の記事でしょう。

日本、韓国候補を不支持へ

―――2020/10/25 22:13付 共同通信より

この記事は、「複数の政府関係者」が25日に明らかにしたところによると、日本政府は韓国候補を支持せず、ナイジェリアの候補を推す方針を固め、近くWTOにその立場を伝える、とするものです。

この点は、先ほどの牧野氏の記事でも少し触れられているのですが、もしもこの報道が正しいのだとすれば、日本政府としてはさまざまなリスクを取ったという気がしますし、個人的には日本政府の方針を全面的に支持したいと思います。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

なお、牧野氏の指摘が正しいという前提に立てば、米国が “anything but China” をポリシーとして掲げているのであれば、米国政府に一番言いたいのは、「正直、兪明希氏でも、オコンジョ・イウェアラ氏でも、結果はあまり変わらないよ」、という意見です。

なぜなら、韓国自体、米韓同盟が実質的に無力化しつつあるなかで、韓国が米国の意向どおりに動いてくれるという保証はどこにもないからです。

いずれにせよ、WTO事務局長選については、日本政府にとって気をもむ展開が続きそうです。

追記:官房長官の発言

※2020/10/26 11:11追加

本文中でも触れましたが、日本政府は現在のところ、どちらの候補者を支持するのかについて明らかにしていません(※当たり前の話ですが…)。

ただし、共同通信の報道を念頭に置いたのか、加藤官房長官は本日午前の記者会見で、「WTO改革を遂行し得る人材がWTO事務局長に選ばれることを望む」、と述べています。念のため、付記しておきます。

新宿会計士:

View Comments (36)

  • 「韓国をナメてかかり、いつの間にか出し抜かれる」という「ウサギとカメ」のパターンはもはやお約束です。日本は慢心したウサギです。

    「韓国経済はもうすぐ破綻する」
    「韓国は国際社会で孤立する」
    「韓国の卑劣さが国際社会に知れ渡ることとなった」

    何十年も同じ寝言を言い続けていないで、本気で韓国を叩き潰すモードに転換しないと、何度でも辛酸を嘗める続けることになります。

    • 阿野煮鱒さまの嘆息さたん、あるいは「またか」の焦燥いらだち、当方も同じように感じてなりません。
      ところで三星転職者は在職時代に100%産業スパイを働いているから、そこをお払い箱になってクビになったあともニッポン企業は間違っても採用してはならないと聞かされたことがあります。

  • どこかのニュースで中国支持候補が過半数確約を得たと聞きましたが、こちらの方がまだ欧米と連携が取れるだけマシでしょうね。外務省もそうですが多数決の世界でアメリカの影響力は相当落ちてますから、特に今回は欧州の選択で決まった感があります

  • 全加盟国の合意が必要なのでしょう?
    日本が反対すれば難しいのでは
    アフリカの候補に反対する国はあるんでしょうかね

  • 今回の牧野氏の記事は、私の認識と乖離が有ります。
    結論は、「ナイジェリア候補の勝利間違いなし」です。
    根拠は、
    欧州議会(EP)は、世界貿易機関(WTO)事務局長候補であるナイジェリアのンゴジ・オコンジョイウェアラ氏を承認した。
    https://www.theabujatimes.com/european-parliament-backs-okonjo-iweala-wto-job-bid/
    という記事です。
    ナイジェリア候補は、既にアフリカの票を中心に70票近くを固めて、EUの20数票が入れば決まりだと思います。
    韓国候補が、これを受け入れて満場一致で決まる事はありませんので、投票で決定する事になるでしょう。
    牧野氏は、文大統領がドイツやロシアなど各国首脳に、電話やメールで支持を訴えている事を評価していますが、勝敗に影響する効果は無いと思います。
    また、日米がWTOに期待しているのは、改革できるWTOです。それが出来ないと日米が認識すれば、今の機能不全から脱出させないでしょうし、嫌なら新しい枠組みを新たに作ると思います。
    牧野氏の記事は、いい記事も有るので、残念に思います。

    おまけ
    「日本からみれば、韓国は中国に配慮しているという印象が強いが、韓国は米国の同盟国でもある。アフリカ諸国よりは中国の影響力は及んでいないという判断なのだろう。」
    私から見れば、よっぽど韓国の方が、中国に取り込まれていると思いますけどね。

    • だんな様の分析が当たることを心から願っています。
      でも I have a bad feeling about this なのです。
      上に書いたように、日本は過去何度もやらかしていますからね。

    • EUがどこ支持するかはこの記事の言わんとするところの根幹みたいなもんなんですけどね(当記事はEUが韓国人支持と断言、ただし伝聞)
      そこの真偽はさておいじゃあ先に進めませんね、論ずる価値がない
      残念ながらどこの情報からとかどこに取材した結果とか一切書いてませんから・・・

  •  独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (なにしろ、素人考えなので)
     アメリカのトランプ大統領としては、今のWTO自体を(事実上の)解散するために、事務局長が選ばれること自体を阻止するのではないでしょうか。
     駄文にて失礼しました。

    • 思わず膝を叩きたくなるご意見です。
      アメリカは中国押し候補も日本が嫌う候補も選ばないでしょう。アメリカはWTOが機能不全に陥ることを何ら恐れていません。そもそもパネル上級委員を誰も承認せずに放置してるのですから。

      全会一致がならず投票となりそうになったら、アメリカがまず異を唱えます。そして日本がそれに同調します。

      そもそもこの二人が最終候補に残ったのも事務局長を選ばない策略の一部なような気がしてます

    • 引きこもり中年 さま
      なかなかの斜め上からのコメント。
      座布団2枚です。

    •  すみません。追加です。
       中国はWTO事務局長として、韓国とナイジェリアの候補のどちらを(最終的に)支持するのでしょうか。(個人的見解ですが)「自国が安全保障名目で行う対米輸出規制を違法としないで」、「国内に米軍基地がなくて」、できれば「アフリカ諸国の反発を買わない」国の候補を支持すると思うのですが。
       駄文にて失礼しました。

  • どちらが事務局長になろうと、WTO改革が進まないと判明した時点で脱退でしょう。
    どちらの候補者も中共の影響下にあるでしょうから。

    •  WTO脱退は、対日本貿易を律する国際ルールの喪失を意味する。当該国が日本に対してどのような貿易制限的措置を採っても違法不当すら主張することができない。韓国を忌避してWTOを逃げ出しても日本には何のメリットもない。

  •  戦略はよいが戦術がともなわない

     まるで
    サッカー日本代表みたいですね w

  • 外務省の分析力が低いのが気になりますね。
    先々これで国の舵取りを間違えなければいいのですが。

  • >ただし、共同通信の報道を念頭に置いたのか、加藤官房長官は本日午前の記者会見で、「WTO改革を遂行し得る人材がWTO事務局長に選ばれることを望む」、と述べています。念のため、付記しておきます。

    韓国政府にしても国連にしても日本ボクシング協会にしてもコリアンをトップにすると組織が腐る(或いは腐った組織でトップに立つのがコリアンは上手)な様子なので、コリアンがトップになった時点でその組織はコリアン以外の手による改革が必須なんじゃないかと思う次第です。

  •  国際条約を守らない韓国が、国際機関の議長とかあり得ない!
     韓国がWTO議長に立候補する理由が「韓国の国際的地位や発言力の向上」と
    「韓国が貿易調停で有利になるため」なんて言ってるわけですから、
    もう、話になりません。
     もし、間違って兪明希が投票によりトップになったら、日本としては
    上記を理由として「拒否権」を発動し、阻止するべきです。
     

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