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対韓輸出管理の厳格化は日本を守るために必要だった?

とある理由に基づき再開した『数字で読む日本経済』シリーズ、本稿で第8回目となりました。今回は「中韓がなくても大丈夫な日本経済」をテーマに、おもに数字を使いながら日中関係、日韓関係について議論しているのですが、日韓関係に言及した際に欠かせない論点のひとつが、安全保障上の措置に基づく輸出管理の強化・適正化措置です。

追記:本文中で数ヵ所表現などを修正しています(詳細はコメント欄などをご参照下さい)。

韓国との関係をどう見るか

両国関係を数字で読むことの重要性

数字で読む日本経済』シリーズとして、現在展開している「中韓がなくても日本は大丈夫」編では、基本的に「日本と中韓の関係を、極力、数字で把握すること」を基本としつつ、日本にとって中国や韓国が「切っても切れない関係にある」、といった主張の妥当性を検証しようという試みです。

一応、自戒を込めて申し上げておくと、両国関係のすべてを数字「だけ」で把握できるとは思いませんし、また、数字だけを見ていると、ときとして変な誤解をする可能性もあります。また、「数字はウソをつかないが、ウソツキは数字を使う」という格言もあります。

したがって、本シリーズは「数字万能論」ではなく、どちらかといえば、「最低限、客観的な数字をきちんと把握したうえで、両国関係はどういう状況なのかについて考える」、というスタンスで議論をしたいと思っています(実際にそれが実践できているかどうかは別として)

ただし、昨日の『価値共有を信じて構築した日韓関係は日本に有害だった』に関しては、「数字で読む」のと言いながら、ほとんど数字の議論が出て来なかったのですが、それでも著者個人としては、昨日の議論は日韓関係を議論するうえでは欠かせない論点だと思っています。

というのも、「日本が韓国との基本的価値を共有しているとの前提で構築した関係は、日本にとって有害だったのではないか」、という点については、日韓関係を議論するうえで、どうしても触れておきたい論点だったからです。

韓国は「腹が立つから距離を置く」のではない

当ウェブサイトをご愛読下さっているような方であれば、韓国がなかば常軌を逸した反日行動の数々を日本に対し仕掛けて来ているという点について、知らないという方はいないでしょう。それはそれで、確かに腹は立ちます。

ただ、勘違いしないでいただきたいのですが、著者自身が主張したいのは、「韓国が反日でムカつくから、韓国と断交せよ」、という話ではありません。「韓国とお付き合いすることが、長い目で見て日本の国益に資するのかどうかを見極めるべきだ」、という話です。

身もふたもない言い方ですが、もしも韓国とお付き合いすることが日本の国益に役立つならば、日本はプライドも何もかもかなぐり捨て、韓国に土下座してでも日韓関係を継続する、という考え方は成り立たないではありませんし、また、韓国が望むなら、日本は韓国がもう良いというまで謝罪するという点についても同様でしょう。

しかし、現実には、韓国とのお付き合いは日本の国益に資するどころか、その逆であるというケースも散見されます。つまり、単に「日本にとって不快な行動をとる国である」というだけでなく、日本の平和と安全を阻害するような行動を取る国でもあります。

たとえば、韓国は日本と同様に米国の同盟国という地位にありますが、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」にかたくなにコミットしようとせず、また、軍事同盟の関係にないはずの中国に対し、良い顔をしようとしています。

また、38度線を挟んで向かい合う、核兵器をはじめとする大量破壊兵器を開発している北朝鮮に対しても、それを牽制しようとしないばかりか、むしろ国連安保理制裁の解除を主要国に呼びかけるなど、自由民主主義国に属しているわりには、あまりにも無責任なのです。

これから日本は「日韓友好」の歴史を冷静に振り返る必要がある

思うに、韓国が民主化する前後から、日本側では「韓国とは未来に向けてともに手を取り合い、発展して行ける関係にある」とする幻想のようなものがあったのかもしれませんし、だからこそ、日本は国を挙げて、韓国の産業の高度化、経済発展を助けて来たのでしょう。

しかし、韓国が1人あたりGDPで日本と並ぶ経済大国に成長した現在、「日本とともに未来に向けて発展していく」どころか、わが国の海自哨戒機に火器管制レーダーを照射したり、日韓GSOMIAを破棄しようとしたりするなど、韓国の行動はとうてい友好国の振る舞いとは思えません。

だからこそ、日本が韓国との友誼を結び、韓国の経済発展を助けたという行動自体が、果たして日本自身のためになったのか、私たち日本人はこれから、きちんと時間を掛け、じっくりと検証すべきではないかと思うのです。

経済関係

輸出管理とホワイト国待遇とは?

さて、昨日も予告したとおり、本稿は政治・軍事的側面に加えて、経済的側面から、改めて日韓関係を振り返っておきたいと思います。ただし、本稿もどちらかといえば、数字というよりも、現在の法令の解説に主眼を置いています。

議論の前提として抑えておきたいのが、「輸出管理」という仕組みです。

「外為法」、正式には「外国為替及び外国貿易法」という法律の第48条第1項には、こんな規定が設けられています。

【参考】外国為替及び外国貿易法 第48条第1項(輸出の許可等)

国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

これは、いったいどういう法律なのでしょうか。

これは、簡単にいえば、「民生品」と偽って外国に輸出された品物が軍事転用されてしまうことを防ぐための制度であり、日本政府(経産省や外務省など)はこの制度を「輸出管理」と呼んでいます。

そして、日本の輸出管理の仕組みは、国際的に合意された「輸出管理レジーム」を実施するために構築されているのですが、考えてみれば、これは当たり前の話です。テロリストや無法国家の活動は簡単に国境を越えるわけですから、取り締まる側も国同士が協力しなければらないからです。

この点、外務省の輸出管理レジームに関する説明によれば、日本が現在参加している国際的な輸出管理レジームには、次の5つがあるそうです(レジーム名の次の数字は参加国の数)。

日米欧などの先進国は、たいていの場合、これら5つの輸出管理レジームのすべてに参加しています。

しかし、必ずしもすべての国がすべてのレジームに参加しているとは限らず、たとえば「世界で2番目の経済大国」である中国の場合、参加しているのは「原子力供給国グループ(NSG)」と「ザンガー委員会(ZC)」2つだけです。

そして、この輸出管理レジームのうち、NSG、AG、MTCR、WAの4つについては、後述するとおり、これらのすべてに参加しているかどうかで、輸出管理の取り扱いが異なってきます。

ちなみにこの4つに参加している国は、日本や米国、英国や多くの欧州連合(EU)加盟国などを中心に30ヵ国です。

「グループA~D」とは?

また、現在の輸出管理の仕組みについては、経産省が公表する『リスト規制とキャッチオール規制の概要』という資料の説明がよくまとまっていてわかりやすいです。これによると、輸出管理は大きく「リスト規制」と「キャッチオール規制」の2つの柱から成り立っています。

このうち「リスト規制」は、先ほど挙げた国際的な輸出管理レジームで合意された個別品目を外国に輸出する場合などに、経産大臣の許可が必要、という仕組みです。また、「キャッチオール規制」は、「リスト規制」の対象ではない品目であっても、一定条件を満たす場合、やはり許可が必要、という仕組みです。

つまり、「うかつに輸出すると、軍事転用されてしまう可能性が高い」という品目をあらかじめ「リスト規制品」として指定しておいて、それ以外にも別途、「それを輸出すると軍事転用されるかもしれない」というケースを「キャッチオール規制」でも引っ掛ける、という、二重の仕組みで軍事利用を防止しているのです。

ちなみに「キャッチオール規制」が適用される条件は、次のどちらかに該当したときです。

  • ①経済産業大臣から通知があった場合(インフォーム要件)
  • ②契約書等により、兵器の開発などに悪用される懸念がある場合(客観要件)

ただし、ここで先ほど挙げた輸出管理レジームのうち、NSG、AG、MTCR、WAの4つに参加していて、かつ、日本政府が「輸出管理令・別表3」に指定している国に関しては、「グループA」と呼ばれる優遇措置の適用を受けます。

具体的には、リスト規制品の多くについては、「一般包括許可」と呼ばれる非常に緩い許可の仕組みを使うことができるようになるほか、キャッチオール規制そのものが適用されないという恩恵を受けることができるのです。

これに対し、「グループB」は、先ほど挙げた輸出管理レジームのどれかに参加していて、かつ、一定の要件を満たしている国・地域が区分され、「グループA」ほどではないにせよ、それなりの優遇措置を受けることができます(ただし、「グループB」以下の国に対しては、キャッチオール規制が適用されます)。

具体的には、「特別一般包括許可」などの仕組みが使えますが、この仕組みを使うためには、輸出業者自身が「輸出管理内部規定」などを整備する必要があるなど、「一般包括許可」と比べるとやや厳しい仕組みです。

一方で、「グループD」には、いわゆる「懸念国」、つまりイラン、北朝鮮など11ヵ国が指定されていて、基本的にリスト規制品については全品目が「個別許可」、つまり輸出の都度、許可を取らなければならないという制限の対象とされます。

そして、「グループA」、「グループB」の優遇措置が受けられないにせよ、「グループD」ほど厳しい制限を受けていない国が「グループC」です。

具体的な国の名前は?

さて、経産省は「グループA」と「グループD」の一覧については公表していますが、「グループB」と「グループC」については、具体的な国名を公表していません。

ただし、「経済法令研究会」が公表する『改訂新貿易取引 追加情報』という資料によれば、「グループB」に含まれているのは韓国、ウクライナ、トルコ、ブラジルなど16ヵ国であり、「グループC」に属しているのは中国、台湾など百数十ヵ国・地域だそうです(※ただし、これが正しいかどうかの確証はありません)。

グループAの一覧(経産省資料による)

アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、米国

グループBの一覧(「経済法令研究会」資料による)

韓国、ウクライナ、トルコ、ブラジルなど16ヵ国

グループCの一覧(「経済法令研究会」資料による)

中国、台湾など百数十ヵ国・地域

グループDの一覧(輸出貿易管理令別表3の2、別表4)

アフガニスタン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、イラン、イラク、レバノン、リビア、北朝鮮、ソマリア、南スーダン、スーダン

韓国のホワイト国外しの「真相」とは?

対韓輸出管理厳格化措置

さて、どうしてこの制度について詳しく述べたのかといえば、日本政府は2019年7月1日、突如として、韓国に対する輸出管理を厳格化すると発表したからです(この措置のことを、本稿では以降、「対韓輸出管理厳格化措置」または「対韓輸出管理適正化措置」と呼ぶことにします)。

これについて、経産省は次のような趣旨の発表を行いました。

対韓輸出管理適正化措置の発表(経産省、2019年7月1日)
  • 輸出管理制度は、国際的な信頼関係を土台として構築されているが、関係省庁で検討を行った結果、日韓間の信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況である
  • 韓国との信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっていることに加え、韓国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生した
  • 輸出管理を適切に実施する観点から、韓国をいわゆる「ホワイト国」から除外するとともに、フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3品目の輸出等を包括輸出許可の対象から外し、個別許可に切り替える

ちなみにこの「ホワイト国」の表現は、同年8月に入って「グループA」という表現に改められています。

おりしも、2019年7月といえば、自称元徴用工判決問題を巡り、日本政府は韓国に対し、日韓請求権協定に基づく第三国仲裁の付託を通告していた時期でもあります。

こうした事情を踏まえ、この輸出管理適正化措置を巡っては、一部メディアは「待てど暮らせど日本政府の要求に応じない韓国政府に対し、日本政府による報復措置として実施された事実上の禁輸措置だ」、などの観測報道も出ました。

また、韓国政府は直ちに「不当な輸出規制措置だ」と強く反発し、無関係な国際会議の場などを使って公然と日本政府を批判したり、まったく無関係の軍事情報秘密保護協定(いわゆる日韓GSOMIA)を破棄しようとしたりするなどして、日本政府に「輸出規制の撤回」を求めています。

はたして、これは報復だったのか?

ただし、著者個人が法令に加え、さまざまな統計データを読むなどした結果、現時点においては、日本政府の対韓輸出管理適正化措置は、「輸出規制」でもなければ「経済報復」でもなんでもありません。そう考える根拠はいくつかあるのですが、ここでは事実関係を3つほど確認しておきましょう。

まずは、この措置を発表した時期です。自称元徴用工判決問題を巡る第三国仲裁手続の委員指名期日は7月19日であり、もしこの措置が自称元徴用工判決問題の解決に向けて協力しない韓国への意趣返しであるならば、この措置を7月19日以前に発表したこと自体が矛盾します。

次に、措置の内容も韓国を「グループA」から除外するとともに、フッ化水素など3品目を個別許可に切り替えるというものですが、これ自体「禁輸措置」ではありません。というよりも、もしこれが報復措置なのだとすると、措置自体、少々緩すぎます。

なぜなら、韓国は依然として「グループB」という優遇対象国であり、また、日本の輸出管理適正化措置以降もフッ化水素などの輸出許可は継続しているからです。

そして、法令の規定を読み込んでみると、日本政府がこの措置を発動した根拠法は、あくまでも「外為法第48条第1項」の輸出管理です。韓国は日本が「輸出規制」を適用したと大騒ぎしていますが、そもそも輸出規制自体、外為法第48条第3項に基づくものであり、根拠規定自体が異なっています。

つまり、「時期がおかしい」、「措置が緩すぎる」、「根拠規定が違う」という3つの理由により、著者自身は自信を持って、日本政府の措置があくまでも輸出管理の運用変更であり、少なくとも輸出「規制」ではない、と断言したいと考えているのです。

政策対話自体が実施されていない

もちろん、日本政府関係者のなかに、自称元徴用工判決問題などの解決に向けて誠実でない韓国に対する不信感を抱いている人が増えていたとしても不思議ではありませんし、輸出管理適正化措置自体、内心で快哉を叫んだ人もいたかもしれません。

また、自称元徴用工判決問題、レーダー照射問題、上皇陛下侮辱問題などの不法行為の数々は、経産省がいう「韓国に対する信頼が損なわれたこと」の遠因になっている可能性があることは、著者としてもあえて否定するつもりはありません。

しかしながら、本件をさらに深掘りしていくと、さらにいくつかの重要な事実が出てきます。そのひとつに、たとえば日韓両国の輸出管理担当者同士での政策対話が途絶えてしまっている、という点が挙げられます。

経産省は、韓国を「(旧)ホワイト国」(現「グループA」)に区分し続けるうえで、日韓両国の政策対話が欠かせない、との立場を示していますが、肝心のその政策対話自体が2016年6月を最後に開催されていなかったという報道もあります。

実際、この政策対話自体は、輸出管理適正化措置発動後の2019年12月16日にやっと第7回目が、ついで2020年3月11日に第8回目が実施されたのですが、その後は韓国が日本の「輸出規制」を世界貿易機関(WTO)に提訴したため、現時点では再び途絶えてしまっています。

ちなみに2020年7月29日に開催されたWTOの紛争解決機関(DSB)において、韓国側が「日本の輸出規制は不当だ」などと訴えたのですが、これに対し米国側は次のような趣旨の主張をしています。

  • 安全保障上の重要な利益を守るうえで必要な事項を判断できるのは日本だけである
  • 安全保障の問題と通商の問題を混同した訴訟が増加すれば、安全保障の問題にWTOが巻き込まれることになりかねない

要するに、「安全保障の問題を通商問題に持ち込むな」という苦言ですね。

韓国はフッ化水素をどこに輸出していたのか?

また、もうひとつのアプローチは、普通貿易統計により、個別品目の対韓輸出がどうなっていたのかを分析することです。

日本が対韓輸出管理を厳格化した3品目のうち、フッ化水素に関しては独立した品番「2811.11-000」が存在しているのですが、日本から外国への「2811.11-000」の輸出高の国別明細を分析してみた結果、興味深いことが判明します(図表1図表2)。

図表1 品番2811.11-000の輸出高(金額ベース)

(【出所】財務省『普通貿易統計』より著者作成)

図表2 品番2811.11-000の輸出高(数量ベース)

(【出所】財務省『普通貿易統計』より著者作成)

ここから判明するのは、日本政府が輸出管理適正化措置を発動する直前まで、「2811.11-000」の輸出の約8~9割が韓国向けだった、という事実です。そして、輸出管理適正化措置発動後は、「2811.11-000」の輸出は、数量、金額ともに、ゼロになってはいないものの、激減しています。

(※なお、フッ化水素は「2811.11-000」だけでなく、「再輸出品」にも紛れている可能性があるため、この「2811.11-000」が日本から輸出されたフッ化水素の全量とは限らない点にはご注意ください。)

この点、フッ化水素は半導体製造工程において使用されることでも知られており、「12N」などの高純度品については日本企業が圧倒的な強みとシェアを維持しているとされていますが、それだけではありません。原発や原爆の材料であるウラン235を濃縮する際に使用される物資でもあります。

また、ウランはプルトニウムと比べて比較的小さな設備で濃縮が可能であるため、北朝鮮やイランなどが地下に秘密のウラン濃縮施設を作って隠していても不思議はないでしょうし、もし韓国から日本産のフッ化水素がこれらの国に横流しされていたとしたら、これは大変な事態です。

というのも、直接横流しした国が仮に韓国だったとしても、そんな韓国に「ホワイト国」の地位を与え、核兵器の製造に流用されかねないフッ化水素を「一般包括許可」制度で無制限に輸出していたこと自体、日本の問題になりかねません。

迂回貿易、目的外使用

では、韓国が迂回貿易ないし目的外使用をしていたという証拠はあるのでしょうか。

これについては、世耕弘成経産相(当時)は2019年8月8日付の記者会見で、韓国に対する輸出許可を出す方針について、次のように述べています。

輸出許可申請についても引き続き厳格な審査を行って、迂回貿易ですとか目的外使用といった事例が出ることがないように、厳正に対処をしていきたい」。

この発言自体、「韓国が迂回貿易や目的外使用を行ったと世耕氏自身が断言したものだ」と早とちりすべきではありませんが、ただ、「2811.11-000」の対韓輸出が異常に水膨れしていたという事実を踏まえるならば、韓国に輸出された品目が、何らかのかたちで不正利用されていた可能性は十分に疑われます。

他にも、経産省が2020年9月に公表した『安全保障貿易管理について』という資料には、「最近の主な違反事例」というものが掲載されています(同資料P36)が、韓国を経由した迂回貿易の事例が2つほど紹介されています(図表3)。

図表3 韓国を迂回するなどした事例
違反行為 判決・行政処分などの内容 備考
炭素繊維の中国への輸出 元社員に対し罰金100万円、法人に対し罰金100万円(2015年6月15日)等 韓国迂回
大型タンクローリー等の北朝鮮への輸出 社長に懲役3年(執行猶予4年)、法人に対し罰金500万円(2009年8月7日)等 キャッチオール違反、インフォーム無視、北朝鮮制裁違反(奢侈品)あり、韓国迂回

(【出所】経産省『安全保障貿易管理について』P36を抜粋)

つまり、韓国が日本からの「ホワイト国」としての地位に基づき、キャッチオール規制が適用対象外となるほか、リスト規制品に関しても一般包括許可という非常に緩い仕組みが使用可能という状況を悪用した可能性は濃厚といえるでしょう。

韓国経済団体「輸出規制撤回を」

以上を踏まえて、こんな記事を紹介しておきます。

韓国経済団体 日本政府に対韓輸出規制緩和を要請

―――2020.10.22 08:55付 聯合ニュース日本語版より

韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)の報道によると、韓国の経済団体である「全国経済人連合会(全軽連)」の副会長は、22日、駐韓日本大使を招いての朝食懇談会の場で、「素材・部品・装備分野の対韓輸出規制の緩和」を要請したのだとか。

そもそも日本が韓国に対し「輸出規制」を適用した事実はありませんが、ずいぶんと不思議な記事ですね。

なにせ、韓国政府や韓国メディアはこれまでさんざん、次のような「輸出規制論」を唱えてきたからです。

韓国政府の輸出「規制」論
  • ①日本の対韓輸出「規制」措置は強制徴用問題に対する報復である
  • ②韓国は順調に「脱日本化」を進めているため、日本の輸出「規制」では困っていない
  • ③日本の輸出「規制」はノージャパン運動を通じむしろ日本に打撃を与えている
  • ④日本は今すぐこの輸出「規制」を全面撤回すべきだ

上記②と④が猛烈に矛盾しているのはご愛敬ですが、ただ、客観的な統計を含め、さまざまな状況を踏まえるならば、日本が韓国を再び「グループA」に指定し、再び韓国で輸出管理を巡る不適切な事例が発生すれば、こんどは日本自体が欧米から輸出管理を厳格化されかねません。

いずれにせよ、韓国の経済団体の手前勝手な主張にも呆れますが、それと同時に痛感するのは、韓国をうかつに信頼して「ホワイト国」に指定したこと自体が、日本の国益にとって有害であった可能性が高い、という点でしょう。

この点については、日本政府は輸出管理に限らず、安保、金融、産業、文化など、さまざまな分野の交流の在り方を見直す良いきっかけになるのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (25)

  • >韓国をうかつに信頼して「ホワイト国」に指定したこと自体が、日本の国益にとって有害であった
    >可能性が高い、という点でしょう。
    >
    >この点については、日本政府は輸出管理に限らず、安保、金融、産業、文化など、さまざまな分野
    >の交流の在り方を見直す良いきっかけになるのかもしれません。

    おっしゃる通りの情勢になることを切に願っております。

  • 輸出管理体制の見直し自体、韓国の自主的な是正(更生)を促すための措置にすぎず、彼らの生産活動に何らかの打撃を与えるものではありません。

    彼らの反発は、単に「日本から格下げされた」ことに対してのものなのでは?(プライドと見栄は似て非なるものです)

    先ずは輸出管理体制見直し以前に大量輸入されたフッ酸の使用用途を明かし、日本側のもつ目的外使用に対しての懸念を払拭することです。

    少なくとも、本題に入る前の「会合の位置づけ」の説明に少なくない時間を要するなど、話が通じない相手との対峙に外交ソースが費やされてるのですから、韓国のことを決して軽視してのことではないと思うんですけどね。

    *プライド(=誇り)、見栄(=ホコリ)?

    • 韓国語で言うところの「体面が傷つけられた」ということなんでしょうね。
      日本語や中国語にも「面子」という言葉があります。以前中国人と話をした限りでは、日本と中国とではかなり近い意味で使われているようです。しかし、韓国語の場合、そこにさらに序列意識が含まれているような印象があります。そして、その分、限りなく「虚栄心」という概念に近付いているように見受けられます。

      まあ、なんとも厄介なという感想しかありません。

      • 龍様

        >限りなく「虚栄心」という概念に近付いているように見受けられます。

        やはり彼らの本質は「自大の寵児」、いや『事大の寵児』なのかもですね。

        *返信ありがとうございました。

  • >身もふたもない言い方ですが、もしも韓国とお付き合いすることが日本の国益に役立つならば、日本はプライドも何もかもかなぐり捨て、韓国に土下座してでも、日韓関係を継続すべきですし、また、韓国が望むなら、日本は韓国がもう良いというまで謝罪すべきでしょう。

    国益に役立つとしても、それはどうでしょうか。
    韓国なしでは日本は国家存続の危機となり立ち行かない、唯一無二の存在であるなら理解できます。

    議論の本質ではありませんが、とても気になりました。

    • 転勤族 様

      ご指摘の箇所、そのとおりです。少しニュアンスがおかしいので、「〜の考え方も成り立つ余地がある」などとすべきですね。記載を修正します。

      引き続きご愛読とお気軽なコメントを何卒よろしくお願い申し上げます。

      • 新宿会計士さま

        柔軟な対応、おそれいります。
        今後ともよろしくお願いいたします。

  • グループAの一覧に、日本、韓国が入っていますので、確認されてはいかがでしょう。

    韓国への輸出管理強化の適用は、ある意味突然でした。
    その為、G20でアメリカから、何かを言われた為、このタイミングだったと妄想してます。
    その理由としては、やはり一番に迂回貿易が考えられます。
    また、
    「日韓両国の輸出管理担当者同士での政策対話が途絶えてしまっている」
    「韓国経済団体「輸出規制撤回を」」
    日韓議連、日韓フォーラムなる物を使って、日韓関係の解決をしたい。
    このように、韓国政府は日韓間の問題を、韓国政府が関与しないで解決しようという、卑怯な姿勢を続けているという事です。
    昔は、日韓議連などによる、密室外交で解消出来ていた事が、日本政府の態度が変わって、出来なくなっており、電話首脳会談の内容を終了後すぐに記者会見する。オープンな日本政府に変わった事は、良い事だと思います。
    今日も横道にそれたかな。

    • だんな 様

      大変失礼しました。修正します。
      引き続きご愛読とお気軽なコメントを何卒よろしくお願い申し上げます。

    • だんな 様
      形式的には輸出管理レジームに参加していても、実際には守っていない疑いが強い某国を特別扱いするために「り地域」が指定されたのでしたね。条約や協定を守らないのだから当然でしょう。
      あらためてグループAを見ると、オーストリア・ブルガリア・チェコ・ハンガリー・ポーランドと中央〜東欧の国が結構入っていることに驚きました。
      例えばハンガリーにはロシア人が沢山います。
      あっ、それを言い出すと、日本は中国人や朝鮮人に侵食されていますね。裏でこそこそ動かないよう監視が必要かもしれません。

  • 格下げに対する不満プラス、迂回貿易でポッケナイナイ出来なくなったことの恨み辛みかと…

    >*プライド(=誇り)、見栄(=ホコリ)?

    自分の中では、プライド=大義のために頭を下げられる、
    見栄=頭を下げれば治まることでも踏ん反り返ることしかできない、だと思っています。
    韓国の態度がどちらだと思ってるかは、あえて言いません。(苦笑)

    • かえる様

      (彼らは自身を「より強く叩いた」方に従う・・。)

      ・自身の確固たる矜持によるものが「誇り」で、
      ・叩かれて仕方なく出てくるものが『ホコリ』なのかと・・。

      *返信ありがとうございました。

      • カズさま
        返信したつもりが操作を間違えて投稿になっちゃってましたね。お恥ずかしい(汗
        誇りとホコリ、大違い。
        お気遣いくださりありがとうございます。

  • 更新ありがとうございます。

    韓国は輸出相手国として、Bはやり過ぎでしょう。中国並みのCか、今となっては北朝鮮並みのDが相応しいと思います。当然火病を起こすでしょうが。

    フッ化水素は半導体製造工程において使用されますが、原発や原爆の材料であるウラン235を濃縮する際に使用されます。つまりプルトニウムの代わりに北朝鮮やイランへ横流ししていた可能性は高い(確定)。

    また世耕大臣の言われた「迂回貿易、目的外使用」で、こんな事例がありました。3年ぐらい前、朝鮮総連の若手幹部が北朝鮮・金正恩から表彰された、という記事が総連系の出版物で確認出来ます(在日朝鮮人青年同盟=セセデ)。若手と言っても40歳代です。

    彼は本国のブルドーザー等土木機械が旧式で、人馬に頼っていたので、最新式動力、自走式が渇望されているのを知りました。特にその前に映像で北朝鮮人らが見たという「KATO」製が良いと。

    「KATO」「KATO」と言うから何の事か分からなかったが、「KATO製が欲しいのか」と分かり、ブルドーザー、ローラー車、クレーン車、スクレイパー等を韓国経由北行きで輸出してます。

    こんな事が昨年秋までは、まかり通ってたんですね。滑走路かミサイル発射台か、掩体壕、貯蔵庫に使われた可能性は高いです。今からでも訴追出来ないかな、と思います。ちなみに大阪出の人です(やっぱり!)

  • 主要部分は、中国のサムソンに迂回輸出していたのでは?

    対韓輸出管理厳格化により中国サムソンが直接輸入を依頼するようになったように記憶しています。

  • ウラン濃縮に使用するフッ化水素はそこまで高純度でなくても良いので、北鮮やイランがわざわざ日本から高価な12Nグレードを迂回輸入する必然性には欠けます。6N程度ならロシアからでも手に入ります。となると、日本政府の輸出管理は、超高純度フッ化水素の主用途である半導体目的の横流しがターゲットになっているのだと思います。

    中国で半導体需要が大幅に変動した場合、必須加工材であるフッ化水素の輸出/輸入新規手続きに時間を要します。需要逼迫を回避するとりあえずのバッファーとして韓国枠を利用するという弥縫策は、彼らなら忌避することもなくやりそうです。その場凌ぎが常態化して目に余るために、ついに日本からダメ出しがでた、というところではないでしょうか。

    日本の輸出管理は米国の肝いりだと思いますので、韓国が文句言うのは無駄、どころか米国の通知簿に罰点を積み重ねる行為です。その米国の介入も、北鮮やイランの核開発ではなく、ファーウェイ抑圧の方にリンクしているのだと思います。

    • いつもお世話になっております。

       このコメント欄でウラン濃縮するのに、高純度フッソ製品でなく、低純度フッソ製品で十分だという意見が前から多く見られましたが、それは日本や欧米の技術関係者の意見ではないでしょうか? 
       名前の言えない国(朝日新聞で当該地域の国・名称等を使用する事は差別だとしておりましたので)の技術者がフッソ製品の純度の事が解っているのでしょうか?
       名前の言えない国が高純度フッソ製品を造る事ができたという報道を、毎月見受けられるのは何故なんでしょうか?
       結局低純度と高純度の差異・利用方法が解らないんだと思います。 という事は高純度も低純度もウラン濃縮に使っていると思わざるをえません。

  •  昨年7月に、日本政府が韓国に対して実施した措置が、「輸出規制ではなく、輸出管理適正化措置であった」ことは間違いないと思います。
     ただし、この措置の背景に、
    ➀ 自称元徴用工に関する韓国大法院判決(日韓請求権協定第2条違反)
    ➁ 韓国大法院判決を受けた、日本政府の紛争解決に向けた働きかけに対する韓国政府の不誠実な対応(日韓請求権協定第3条違反)
    ➂ 日韓慰安婦合意の実質的破棄
    ➃ 韓国海軍駆逐艦による自衛隊機への火器管制レーダー照射事件
    ⑤ 韓国国会議長による天皇陛下(当時)侮辱事件
    など、度を過ぎた不法行為を繰り返す韓国に対し、「いい加減にしないとタダでは済まないことを(合法的な手段で)思い知らせてやれ」あるいは「一発かましてやれ」という安倍総理や麻生副総理をはじめとする日本政府の意図があったことは間違いないと思います。
     安倍総理も麻生副総理も、国会議員選挙や自民党総裁選挙をはじめ、数々の修羅場をくぐり抜けてこられた猛者ですし、(合法的な)喧嘩の仕方も十分に心得ておられると思いますので、それまでの経験を踏まえて判断されたのだと思います。
     実際に、この輸出管理適正化措置は、十分な効果を発揮したと思います。というのは、その後、韓国から、新規の「度を過ぎた不法行為」はされていないからです。
     韓国政府が、その後、仕掛けてきたのは、「日本政府の『輸出規制』措置のWTO提訴」、「日韓GSOMIA破棄通告」、「日韓政策対話への復帰」など、日本政府の輸出管理適正化措置を撤回させることを狙いとしたものばかりで、最近では「WTO事務局長選挙への立候補」も加わり、韓国政府が、日本政府の輸出管理適正化措置の撤回に躍起になっていることは明らかです。
     韓国政府が、何故、これほどまで躍起になるのかですが、日本政府の輸出管理適正化措置以前に大量に輸入していたフッ化水素を、北朝鮮やイランに横流しできなくなったからというのは、ウラン濃縮のためのフッ化水素は高純度でなくても良いことから無理があると思います。大量のフッ化水素は、サムスン電子が国内または中国工場で使用するためだったというのが妥当ではないでしょうか。
     韓国政府が、これほどまで大騒ぎして躍起になるのは、やはり、差し押さえた日本企業の財産を現金化した場合に予想される日本政府の対抗措置として、「半導体関連3品目の輸出禁止措置」を心の底から恐れているためだと思います。

  • 連座を回避するためですわな。

    戦争を目指す訳でもないのに鞘当てめいた事をする必要もなく、国民のガス抜きが必要な程窮しているわけでもない安倍政権が余計な思惑を持っていたとは思えません。

    • 日本政府が輸出管理強化の発端となっている「不適切な事案」を頑なに明らかにしない理由も気になりますね。
      そこを明確にすると、日本国内にも累が及ぶ恐れがあるのかもしれない、と疑ってしまいます。そうなったら正に連座です。真相はいつになったら明かされるのでしょうか。

      • > 「不適切な事案」を頑なに明らかにしない理由
        あくまでも推測ですが、おそらくは国連安保理制裁決議にあからさまに違反する事案だったのではないかと思います。つまりは、明るみになれば、国際社会が韓国に対して厳重な制裁を加えざるを得ないようなケースであり、制裁実施となればたちまち韓国が窒息しかねないような重大な違反です。万が一、そんなものを放置したまま明るみになってしまえば、当然日本も制裁対象となるりかねません。
        現時点ではまだ韓国はアメリカの同盟国であり、それを窒息させるとなると、アメリカの了承なしに実施するのは困難でしょう。アメリカは当然「不適切な事案」に関するほぼ全ての情報を持っているだろうと思われるので、事案非開示はアメリカの意図であると推測されます。つまり、アメリカが米韓同盟破棄やむなしと決断し、GOをかければ事案も開示されるのではないでしょうか。

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