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イージス・アショア配備中断、河野太郎氏が丁寧に説明

イージス・アショア、つまり陸上ミサイル防衛システムの導入中止を巡り、河野太郎防衛相が個人ブログや外国人特派員協会での記者会見などを通じ、積極的に情報発信をしています。こうした情報を調べていたところ、河野氏がもうひとつ、(ついうっかり口を滑らせたのか)金正恩の健康状態に関して「非常に疑わしい」と述べた、という話題も発見しました。これについてどう考えていけばよいのでしょうか。

イージス・アショアの配備中断問題

少し前、「イージス・アショア」、つまり陸上ミサイル防衛システムの配備プロセスを「中止する」と河野太郎防衛大臣が発表した件について、少し前から一部のメディアを中心に話題になっています。

ただ、これについては情報がさまざまに錯綜している部分もあるのですが、個人的に「いちばんわかりやすくまとまっている」と思ったのは、次の記事です。

イージス・アショア

Q イージス・アショアとはなんですか。
A イージス・アショアとは、イージス艦の弾道ミサイル防衛に関する装備、すなわち、レーダー、指揮通信システム、迎撃ミサイル発射機などで構成されるミサイル防衛システム(イージス・システム)を、陸上に配備したものです。<<…続きを読む>>
―――2020.06.18付 『ごまめの歯ぎしり』より

リンク先記事は『ごまめの歯ぎしり』というブログで、執筆したのは配備中止を決定した「本人」である河野太郎氏その人です。

当事者が執筆した記事でもあるため、中立性に問題があるのではないかと感じている人もいると思いますが、ひととおり読んでいただければわかりますが、記載されている内容は基本的に客観的に確認できる事実関係が中心であり、河野氏が明確な虚偽を記載しているようにも思えません。

河野氏の説明は丁寧

河野氏の説明をまとめると、次のとおりです。

  • 2017年の夏、北朝鮮が弾道ミサイルの発射を繰り返すなど、わが国が安全保障上の脅威を受けたこともあり、イージス・アショアの導入は2017年12月、国家安全保障会議(NSC)の議論を経て閣議決定された
  • 現在、自衛隊のイージス艦は24時間・365日運営されており、乗組員は長期間の洋上勤務を余儀なくされるなど、極めて厳しい勤務環境にあるが、イージス・アショアの導入はこうした負担を減らす目的もあった
  • イージス・アショアを稼働させた場合、発射後に切り離されて落下するブースター(第1段ロケット)が周辺住民に被害を及ぼすことがないよう、落下場所をコントロールするためにソフトウェアの改修が必要だが、その後、ミサイルそのものの回収も必要だと判明した
  • この回収にはかなりのコストと期間が見込まれ、また、ミサイル性能が確実に向上するという保証もないため、イージス・アショアの配備プロセスを停止するに至った

…。

また、河野防衛相によると、ブースター自体、米国が開発したものであり、ソフトウェア等の回収には米国側の情報が不可欠で、日米間で協議を続けていた、としていますが、言外に「米国側の協力が得られなかった」という状況を示唆しています。

当然、これまでに支払った経費がどうなってしまうのかは、私たち納税者としては非常に気になるところですし、また、河野氏が配備プロセスのなかで「不適切な対応があった」と述べるとおり、地元に大きな迷惑を掛けたのだとしたら、このあたりは真摯に反省し、適切な謝罪をすべきでしょう。

しかし、個人的には河野氏の説明を盲信するつもりはないものの、この説明で、だいたいの状況は理解できたこともまた事実です。河野氏は外相時代からツイッターなどを使い、旺盛な情報発信に努めて来ましたし、また、要所要所で大臣本人がこのような情報発信をしています。

インターネット時代にあっては、河野氏のこのような情報発信は歓迎すべきであると言わざるを得ません。

河野氏の外国特派員協会での記者会見

さて、河野氏は昨日、外国特派員協会で記者会見に応じました。

※河野氏は英語で説明しているのですが、発音は明瞭であり、さほど難しい語彙を使っているわけではありません。ある程度の英語力があればおぼろげながら内容は理解できると思いますので、是非、直接視聴してみてください(河野さん、なかなかユーモアも豊かです)。

河野氏は記者会見のなかで、おもに予算的な理由からイージス・アショアの導入を断念したとしつつ、中国が尖閣諸島への侵入を常態化させていることなどを受け、日本の防衛環境が極めて厳しいものになっていると強調。

さらには、北朝鮮のミサイル開発に伴い、防衛力の抜本的な強化が日本の防衛の課題だ、としています。とくに、「敵基地攻撃能力」に関する外国人記者の質問に対し、河野氏は会見で「ディスカッションの前に最初から選択肢を排除すべきではない」などと述べています(動画の18:56~)。

河野氏が外国人記者に対してこのような情報発信をすることは非常に有益で、実際、ロイターなどは次のとおり、河野氏の発言を記事にして世界に配信しています。

Japan to consider strike capability to replace missile defence system(2020/06/25 16:44付 ロイターより)

このような情報発信はぜひとも続けていただきたいと思います。

河野氏、金正恩の健康状態について「疑わしい」

さて、この記者会見のなかで、もうひとつ興味深いのが、北朝鮮の独裁者・金正恩(きん・しょうおん)の健康状態について述べたくだりです(動画の30:12~)。

We are trying to find out what is going on in North Korea… recent movement is quite strange; We suspect No.1 ; Covid-19 is spreading around NK as well and Kim Jong Un is trying not to be infected Covid-19…We have some suspition about his health.

要するに、武漢コロナの蔓延が北朝鮮でも深刻化しているとみられるなか、金正恩はコロナ感染を避けるために姿を隠しているのか、それとも健康状態に不安があるから表に出て来られないのかがよくわからない、といったニュアンスですね。

“I” ではなく “we” と述べているのですが、果たしてこれは防衛省、あるいは日本政府としての見解なのでしょうか。この点、河野氏は英フィナンシャルタイムズ(FT)のロビン・ハーディング記者の追加質問をスルーしましたため(動画の41:20~)、その詳細はわかりません。

金正恩死亡説と北朝鮮の行動

ただ、日本政府のことですから、立場上は当然、米国からの情報もある程度は得ているでしょうし、この「疑わしい(suspitious)」という表現にはさまざまな意味を感じます。もっといえば、「金正恩危篤説」、あるいはすでに金正恩自身が閻魔大王様に裁かれるために、冥途に旅立ったという可能性です。

このように考えたら、金正恩の妹である金与正(きん・よしょう)が最近、やたらと表に出て来て、韓国が建設した南北連絡事務所を派手に爆破して見せるなどのパフォーマンスに興じているのも、権力承継と関わっている可能性を疑うのが自然でしょう。

『中央日報』(日本語版)の次の記事によれば、北朝鮮は「軍事行動に出る」などといいながら、「直前になって軍事行動を留保した」、などとしています。

与正氏が悪役を、正恩氏はなだめ役を…北朝鮮の軍事挑発「ひとまず保留」

韓国戦争(朝鮮戦争)70周年を控えて軍事的に緊張が高潮していた局面で決定的瞬間を回避した。先月31日、脱北者のビラ散布を問題にして「報復」を明らかにしていた北朝鮮が24日、軍事行動を「保留」にしたためだ。<<…続きを読む>>
―――2020.06.24 14:11付 中央日報日本語版より

しかし、韓国ウォッチャーにとっては、これなどは北朝鮮や韓国が常套手段とする典型的な「瀬戸際外交」であることなど明らかであり、金与正が「軍を掌握する」という目的を持って行動していたのだとしたら、直前になって軍事行動を止めるのは当たり前すぎる発想です。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

いずれにせよ、私たち日本国民はこの2年間、文在寅(ぶん・ざいいん)政権下の韓国が日本に対して仕掛けてきたさまざまな瀬戸際外交、ウソツキ外交、告げ口外交の数々を目撃して来ました。慣れていない人は、彼らの言動には何かと戸惑いますが、よく分析していくと、驚くほどワンパターンです。

そして、韓国の行動パターンを見ていけば、北朝鮮の瀬戸際外交もまったく同じ文脈で理解すべきだということはよくわかるでしょう。現在の北朝鮮の行動は、「じつは非常に困っている」というサインと見るべきではないでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (41)

  • 配備プロセスの停止は、防衛大臣が判断し、総理大臣の了承を得たのだったんのですね。
    冷戦期にはアメリカによって自衛隊はソ連用対戦哨戒部隊にされてしまいましたので今回もアメリカのミサイル防衛部隊にされる恐れがありました。向うの言値で導入する理由はないので大臣の決断は面白い判断だと思います。

    イージス艦を日本海に並べておく負担をどうするのか、またpac3でも増設するのか対基地攻撃能力を保有するのか今後の展開が気になります。コスト的にはどれが一番なのか分かりません。

  •  独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (そう書かないと、自分を自分で勘違いしそうなので)

     (他の国のことは分からないので、日本人だけに限定させてもらいます
    が)自分が気に入らないことを丁寧に説明されても、それを丁寧な説明と
    認める人が、どれだけ,いるでしょうか。『モリカケ問題』など、どれ程
    丁寧に説明されても、「安倍総理が悪い」という先入観で、それを丁寧な
    説明と認められない人も、いるのではないでしょうか。

     スレ違いで、申し訳ございません

    • 同意してコメントします。
      気に入らない人間を全否定したい人、職場にいます。

      上司の主張A、私の主張Bで背反して、平行線を張っても物事は進まないので、
      私が主張Aに同意した瞬間、私の主張Bで、さも主張Aを私の元々の主張として否定してくる…意味不明。
      そんな相手に、このサイト様のとある国の論考を参考に、丁寧な無視を可能な限り実行中で、
      不毛な話し合いを振られる機会が少なくなってると思うので、効果ある様な…?

      政治家はじめ注目される立場だと、無視は余計に悪役として騒がれかねないので可哀想です。
      決められない、人の邪魔をする、大事を作ってから逃げる否定だけの論理破綻者、
      関わった人の気力と時間が奪われるだけでメリットないから、ホント、イラネ。

  • よくまとまった記事でとても分かりやすい。また、メディアに一次情報のベールの位置を恣意的に操作される恐れがない発表の仕方も喜ばしいことです。
    北朝鮮がビラを根拠に爆破パフォーマンスをしたときに、殆どのメディアはこれを継承儀式とは微塵も考えず、単なる支援要求の恫喝と判断していました。
    まだまだ情報は不足していますし、複合的な原因ももちろんあるのでしょうが、妹の継承儀式というファクターが強まって来たように感じます。
    コロナ騒動時もそうですが、既存メディアの分析能力が事件発生時では悲しいほど当てにできない。

  • 以前、JBPressで「仮にイージス・アショアを秋田県と山口県への配備が完了し、イージス艦との連携を図ったとしても、日本全土を網羅することはできず、大陸・半島勢力からの攻撃を完全に防げるわけではない」という主旨の記事を読んだことがあります。

    私は軍事的なことは全く疎いのですが、少なくとも今回の配備停止に至るまでの過程において、秋田県と山口県の対応は疑問を持たざるを得ません(別案件での愛知県知事の対応も、一つも賛同できる点がありませんが・・・)。

    あくまで個人的な見解ですが、両県の対応は「新型コロナ狂騒曲」とも一致する部分が多いと感じています。「数発のミサイルのブースターが落ちてきて被る被害」と、隣の大陸・半島勢力による「同時飽和ミサイル攻撃によって被る被害」のどちらが深刻なのか、という視点が全く欠けているのではないでしょうか。

    私はHNのとおり愛知県名古屋市在住であり、秋田県でも山口県でもないよそ者が何を言うか?という誹りを免れないかもしれません。
    しかし、同時飽和ミサイル攻撃ではなく、万が一複数の核兵器が五月雨式に発射されたら、秋田も愛知もありません。
    「敵対国ミサイルを打たせない抑止力の整備」こと日本の国益に密接にかかわる喫緊の課題であり、「新型コロナによる1人の感染者や死亡者も、1発のブースターの落下による被害も絶対にあってはならない!」というような、あまりにも近視眼的な発想からそろそろ脱却できないものでしょうか。

    これが大陸・半島勢力による情報戦(相手国の疑心暗鬼を図り、世論を誘導する)の一環だとしたら、日本の行く末を案じざるを得ません。

  •  名古屋の住人さま

     同意見です。国会でもそうですが、日本全体で議論や推測→対策の思考プロセス訓練がなされなさすぎです。
    ゼロサム(「やるくらいならやられたい」(!?)や「無辜の民に傷一つつけるな!」)な意見ばかりで、防衛を米国に任せっぱなしにして思考停止が著しい。
     

  • 核ミサイルが撃ち込まれた時ブースターの心配などしてる場合じゃないだろ?
    まるで B29を撃ち落とせば破片が落ちるので高射砲は撃たないでね‥と言ってるみたいな話だ。
    住民はそんなことまで注文を付けたのか?出来もしないことを約束した防衛省の役人が倒閣の罠を仕掛けたのか?文春の出番ですよ。

  • うーん、お題を見て、河野防衛相から、イージス・アショアの代替案が伺えると思いましたのに。まあ、河野防衛相がペラペラと手の内を明かすようでは、別の意味、不安ではあります。それに、今回の中断については、アメリカ側から特段の異が唱えられていません。ちょっと、妄想してしまいそう(笑)。

    韓国についても、北朝鮮についても、その行動はパターン化していて、私でも読めてしまいます。まるで水戸黄門ですね(笑)。ひょっとして、おまけ?

    •  心配性のお姉さま
       単純に代替案=現状維持、つまりイージス艦による哨戒の継続ということになると思います。メディアに色がついていないのであれば、「では海自隊員の負担やコストの問題をどうするのか」というツッコミがあって然るべきですが。色が赤すぎるので「イージスアヨア撤回だやったぜ!」で止まってるのでしょうか。
       ともあれ、問題があったのだから取りやめる、という展開は健全かと思います。効果が確かであれば屁理屈での強行も考えうるのですが、そこが揺らいだのですから。
       個人的には、「アベはアメリカの言うがままに兵器を買わされているからダメだ!」と叫ぶ方々の理屈が、素人丸出しのイチャモンだという証左になった点を強調したいですね。F-35AもMV-22も導入に高い効果があるから買ったという当たり前の話ですから。(こちらは自国開発すべきだった等の方向での批判はありますし、逆に新型小銃などは豊和工業製でも批判されたりと色々です。)

      • 農民様 

        日本を取り囲む脅威については、認識はしなくてはなりませんが、騒いでもしょうがない。ということでしょうか(笑)?騒いでみても、脅威は減りませんものね、確かに。

        ただ、日本防衛の動向については、半島や中露は注視しているハズなので、それを充分、ご存知である河野防衛相のこの発信であることを考えると、おばさんの妄想がふつふつと(笑)。

  •  いつもお世話になっております。
     イージスショア問題は落下物の問題もあるけれど
    北朝鮮の持っているミサイルで日本に到達できそうなもの
    全てを破壊できないし、破壊した物を空中で消滅できないから
    仕方ないんですよね。 昔と異なり現在は完全ゼロリスク
    でないといけない時代に
    なったから。 しかも、攻撃側の兵器より防御側の
    兵器を開発する方が時間がかかるんですよね。
     でも、イージス性能を持った艦艇を日本海のある一定海域で
    遊弋させないといけないから、自衛官の負担がものすごく
    大きいんです。
     所で巷で噂されており、日本のマスコミで報道されないから
    本当の事だと思う三峡ダム決壊見込みの件どうなるんでしょう?
    どっちみち決壊しても、尖閣諸島侵略は変わらないんですけどね。

    • ちょろんぼ様

      >どっちみち決壊しても、尖閣諸島侵略は変わらないんですけどね。

      三峡ダム決壊からは繋がらないとは思うのですが、中国の人権派団体の人が、意外な事、言ってました。だいぶ以前の記事なので、ご紹介できないのですが。中国共産党支配が瓦解する混乱が恐ろしい。とのことでした。

      ちょろんぼ様は、中国共産党指導部が人民解放軍を掌握しているとお考えですか?こちらは、半島問題中心のお題が多いのですが、半島どころじゃない脅威が中国崩壊かもしれませんね。ソ連の崩壊は一応、静か?でしたが、民族性からいって、中国はどうでしょう?

  • イージス・アショアに替わるものとして、防衛省は国産のミサイル防衛システム「イージス阿修羅(アシュラ)」の採用を決めた。イージス・アシュラは三面六臂(三つの顔に六つの腕)構造により中国・朝鮮半島・ロシアの3方面を常時警戒、同時に飛来する6発までのミサイル攻撃に対応できる(1基あたりの性能)とされている。配備地および総数は未定だが、配備候補地の地元仏教界と協議の上で決定される【虚報通信社】

    失礼、読者雑談専用記事むけの書き込みになってしまいましたね(汗)

  • カネもヒトも時間もかかりますが、海自のイージス艦を増やすことで代替すべきと考えます。
    イージスは最低あと9隻、それだけ追加できれば運用に余裕を持たせることもできます。…って倍増以上かい!
    当然他の艦種も増やす必要があります。まあ海洋国ですから。

    あとは、「一発殴りかかったら半殺しにされる」と相手国に思わせることが“専守防衛”を成立させる為に肝要かと

    抜かずの剣こそ平和の誇り

    でしょう

      • イージス一隻あたり約300人ですので
        9隻追加で他の艦艇のことも考えるとなると
        海自隊員が足りないですね。
        練度も必要ですので時間もかかります。

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