本稿はちょっとしたメモです。米メディアWSJに、日本時間の昨日、何やら気になる記事が掲載されていました。「市場が評価する新興市場諸国のデフォルトリスク」が低くなった、という話なのですが、これはいったいどういう意味なのでしょうか。そしてこれを素直に信じて良いものなのでしょうか。個人的には原油価格下落や武漢コロナの第二波、さらには米中対立激化など、世界経済には不安要因で溢れているように思えてならないのですが…。
EM諸国の国債価格が上昇
例の武漢コロナ騒動により、3月中旬から4月上旬にかけ、新興市場諸国からいっせいに資金が流出した、という出来事がありましたが(『日本主導で(特定国除く)アジア通貨安全網の確立を!』、『インドネシア、米国に対しても通貨スワップ締結を要求』等参照)。
ただ、こうした資金フローに逆転の兆しが出ているようです。
米メディアWSJに、日本時間昨日夜付で、興味深い記事が出ていました。
Investors Climb Back Into Riskiest Emerging-Market Bonds(米国夏時間2020/06/05(金) 06:40付=日本時間2020/06/05(金) 19:40付 WSJより)
(※なお、これらの記事は有料会員でなければ読めないこともあるらしく、かつ、読めたとしても英文であるという点についてはご了承ください。)
WSJによると、「最もリスキーなエマージング・マーケッツ(EM)」、つまり信用リスクが非常に高い新興市場諸国の債券の価格が上昇している(つまり利回りが低下している)のだそうです。
ちなみに債券市場では、債券価格は債券利回りと逆の関係にあります。具体的には、
- 債券価格が上昇しているときには債券利回りは下落する
- 債券価格が下落しているときには債券利回りは上昇する
という関係ですね(このあたりの議論の詳細については『「韓国トリプル安」報道:キャピタルフライトとは何か』や『金融機関を苦しめているのはマイナス金利政策なのか?』あたりをご参照ください)。
信用リスクスプレッド
債券市場では、同じ米ドル建て国債であっても、新興市場諸国の米ドル建て国債は、米国債に対してプラスアルファの利回りで取引されることが一般的です。この「プラスアルファの利回り」のことを、俗に「信用リスクスプレッド」などと呼びます。
つまり、この「プラスアルファ」が存在する限り、債券市場では米国債よりも高い利回りで(つまり低い価格で)取引されるのですが、この「信用リスクスプレッド」が縮小(つまり利回り格差が縮小)すれば、債券価格が値上がりし、米国債により近づくのです。
では、なぜ信用リスクスプレッドが存在するのか。
その理由は、『レバノンのデフォルトと「国債デフォルトの3条件」』や『アルゼンチン9度目のデフォルトとTPPスワップ構想』などでも述べたとおり、新興市場諸国の米ドル建て国債にはデフォルトリスクがあるからです。
金融市場参加者は、デフォルトリスクがある債券に対しては追加的な利回りを求めます。しかし、この「追加的な利回り」は、その債券の年限や発行国だけでなく、その時点における金融市場のリスク選好にも大きな影響を受けるのです。
つまり、「市場の信用リスクスプレッドが縮小した」というのは、「市場が評価するその国のデフォルトリスクが低下した」という意味だと報じられることも多いのですが、それと同時に個人的には、たんに「市場参加者のリスクテイク余力が増大した」というだけの話ではないかと思う次第です。
実際、WSJによると、JPモルガンチェースが公表する「EMボンド・インデックス」(米国債に対するEM債のスプレッド)は、3月下旬の12%ポイントから、6月4日時点で8.5%ポイントにまで縮小したそうですが、それだけ市場のリスク選好が回復している、ということを示唆しています。
もっとも、例の武漢コロナ騒動や原油価格の下落などにより、ザンビアやエクアドルのデフォルトリスクが高まっているなかで、このEM債の価格上昇(信用スプレッド縮小)は、やや行き過ぎという気もしますね。
むしろデフォルトリスクは高まっていませんか?
さて、わが国では武漢コロナ騒動について、すでに緊急事態宣言は解除され、おそるおそる、世の中の経済活動が正常化に向かいつつありますが、その一方で世界的にはまだまだ武漢コロナの収束が見られない、というケースも多いようです。
こうしたなか、現在の「隠れたテーマ」は、石油価格の低迷やコロナ騒動の「第二波到来」、さらには米中対立激化による世界的な通商の混乱などによる、「体力の弱い新興市場諸国の外貨建国債のデフォルト懸念」ではないかと思います。
今年に入ってからも、すでにレバノンやアルゼンチンなどのデフォルト事例が発生していますが(※これらのデフォルトは必ずしもコロナと関連するものとは限りませんが)、インドネシアなど、対外債務が大きい国を中心に、再び資金流出リスクが意識される局面が到来するかもしれません。
そうなってくれば、たとえばインドネシアなどの体力の弱い新興市場諸国から日本に対し、通貨スワップの増額要請が来たりするかもしれません(※個人的には『インドネシアとの通貨スワップ発動の可能性に注目か?』などでも触れたとおり、インドネシアとの通貨スワップ協定の増額には否定的ですが…)。
その点では、世界最強の通貨ポジションを持つ国であるわが国が世界経済にどう貢献できるか、あるいはそのことをどう国益増強につなげていくのかについて、考える機会が増えるのかもしれません。
View Comments (13)
経済危機の第二波は、何がきっかけになるんでしょうか。
本命は、米中関係悪化が、深化したタイミングかな?
それとも、トランプ大統領が、落選した時?>上がるんかな?
だんな 様
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この辺りは、どうでしょう?
金融緩和と倒産のピークが重なれば、アメリカ発で有りかと
日銀と金融庁もレポートを出してます。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200603/k10012455861000.html
CLOね。
あっ、間違えちゃいましたぁ。(*^◯^*)
お金があふれ過ぎちゃって、新興国に流れ込んでるのかしら?
最近の韓国ウォン高と関係があるのかしら?
韓国は国債をたくさん発行する予定のようですが、このままだと無事に資金を集められそうですね。つまんないなあ。
ムンムンのラッキーさ、しぶとさには、ほとほと感心する。
株式相場の異常な上昇は,アメリカ大衆の何も考えないギャンブル的な投資,ということである程度理解できるのですが,そういう人達は外国国債を買うかどうか。アメリカでコロナ対策のためにばらまいた2兆2,000億ドルが最大の要因なのは確かです。プロの投資家だと,この巨額のお金は,将来アメリカ国債の暴落を引き起こしそうなので,リスクヘッジのために,ドル以外のいろいろな通貨に分散投資しておこう,という考えになるのかもしれません。その割には円高になっていませんので,そうでもないのかな。
話題は変わりますが,中国ではダウの回復のあと,また,不動産ミニバブルが発生しているようです。これは,人民元に対する不信感があって,現金より不動産という信仰のためかもしれません。
いずれにせよ,実体経済を無視して株価や債券が上昇するのは,どう考えても異常というかバブルというか,怖くて買い向かうことはできません。「頭と尻尾はくれてやれ」という気持ちです。暴落時は買う気まんまんでしたが。
アメリカが、武漢ウィルスの経済失速に莫大なお金を投入した。
忽ち株価が暴騰し、通貨はドル高/円安に転じた。
これは、莫大なお金が庶民より超大金持ちに配布されたからだろうね。
そのおこぼれが新興国に回ったんじゃないかな。
最初に安倍政権が莫大なお金を庶民にばらまきはじめた→ドル安/円高になった
が
トランプ大統領の武漢ウィルス不況対策への莫大なドルばらまきで円安に転じた...みたいですね。
団塊様
逆ではないでしょうか?
奇跡の弾丸さんへ
売上激減に、ん十万円とか
貧困家庭に三十万円とか赤ちゃんまで一人十万円それも在日外人まで支給
と
世界で最初に安倍政権が武漢ウィルス不況に立ち向かおうと国民(含む個人営業主、商店)に現ナマばらまきするみたいだゾとニュースになり実際に宣言した。
この頃だと思いますよ、1ドル100円近くまでドル安/円高になって、106円~107円台をうろうろしていた。このまま円高が続くのかな株はまた下がってくれるかなと期待していたら
トランプ大統領の莫大なばらまきで、
109~110円台にドル高/円安←
あれっ、送信されてしまった。
直前の※は、団 塊 です。
>109~110円台にドル高/円安←
は
109~110円台にドル高/円安 ← 今ここ
と
なるはずでした。
団塊様
>世界で最初に安倍政権が武漢ウィルス不況に立ち向かおうと国民(含む個人営業主、商店)に現ナマばらまきするみたいだゾとニュースになり実際に宣言した
なるほど、そこの認識は間違っていました。アメリカのほうが早かったイメージでした。
もう一点ありまして、
一般的には
日本で円をばらまくと円安に。
ドルをばらまくとドル安になりませんか?
奇跡の弾丸さんへ
>一般的には
日本で円をばらまくと円安に。
ドルをばらまくとドル安になりませんか?
為替市場に円をばらまきゃ(何兆円もの日銀のドル買/円売介入)円は安くなると思いきや、4営業日後には、介入前より ドル安/円高 になっていましたね、民主党政権の時。
これとは別に安倍政権のばらまきは、家庭引きこもり要請で仕事激減して貧窮化した国民と会社という実社会への見返りなしのお金(円というよりお金)の配付であり、一時しのぎのそのお金で生き延びてくれというすぐ消費されてしまうお金です。(為替市場に行かないお金(円)ですね)
だから、安倍政権のばらまきは、消費を喚起し日本経済が少しでも上向く。
また、外国から見れば日本は武漢ウィルス被害がゼロに近い。それなのに国民一人一人赤ちゃんにまで10万円支給してくれる、それも日本に住む外人にまで。
そんな景気の良い国・人種は、地球上唯一日本だけ。
こういう日本から資金を引きあげてしまった超大金持ち、為替市場で通貨を売買するような超大金持ち白人が、大急ぎで円を買い日本株を買い直した。
武漢ウィルスで世界中が不景気になった。破産するのは後進国でありアメリカではない。世界中の後進国からドルが逃げ出したから(ドルを買ってアメリカに送金)ドル高になる。
おまけにトランプ大統領が、武漢ウィルス不況に勝つために莫大な予算を組んだ。となれば世界中不況のなかアメリカ経済躍進を期待して世界中(含む日本)で莫大なドルが買われアメリカ株に投資し出したからのダウ平均暴騰なんじゃありませんか。
機関投資家は集めた資金を運用しない訳にはいかないんですよね。
米国が量的緩和やバラマキ政策で自国通貨流通量の増加を図れば、即ちドル安の誘導措置と同義でありそれを嫌った向きが運用先を多様化(株式・不動産・EM債ほか)してるのではないのでしょうか?
米ドルの金利引き下げも手伝って、値ごろ感の出た発行済み債券への運用先シフトは、利殖行為の継続を課された機関投資家の立場ではごく当然に検討され得る選択肢なのだと思います。
*「新興市場国債の価格上昇」は、運用先資産の価格上昇に伴うプチバブルって側面も無きにしも非ずなのですが・・。