当ウェブサイトでは国際金融協力の世界でいう通貨スワップや為替スワップについて、かなり強い関心を払っており、その成果の一端は『【総論】4種類のスワップと為替スワップの威力・限界』などでも触れたとおりなのですが、通貨スワップといえば「お騒がせ」な国がひとつ存在しています。そんな国で昨日、「満期が到来する通貨スワップの延長を推進する」という方針が示されたのだとか。
韓国政府「米中との通貨スワップ延長を推進」
当ウェブサイトが有名(?)になるきっかけのひとつは、国際金融協力の世界でいう通貨スワップや為替スワップについて詳しく言及するようになったことだったのですが、それだけに、「スワップ」という用語を見ると、つい条件反射(?)的に反応してしまうのは悪い癖でしょうか。
韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、こんな記事を発見しました。
韓国、米中との通貨スワップ延長で対外安全弁拡充
韓国政府が対外安全弁を拡充するため満期が到来する通貨スワップの延長を推進する。<<…続きを読む>>
―――2020.06.02 10:18付 中央日報日本語版より
中央日報によると、韓国政府は1日、文在寅(ぶん・ざいいん)大統領が主宰した会議で、金融リスク最小化に向け、「満期が到来する通貨スワップの延長を推進し対外安全弁の拡充を図る」とする方針を発表したのだそうです。
ファクトチェック
の文在寅氏が通貨スワップについて理解しているのかどうかはさておき、いちおう、事実関係を確認しておきましょう。韓国が外国の通貨当局などと結んでいるスワップ(あるいは「結んでいる」と自称しているスワップ)は、ざっくり次の3つです。
- ①ローカル通貨建て二国間通貨スワップ…6ヵ国と総額約859億ドル相当
- ②米ドル建て多国間通貨スワップ(CMIM)…384億ドル
- ③二国間為替スワップ…米国と600億ドル、カナダと常設型・金額無制限
これを図表にしておきましょう。
図表 韓国が諸外国と結んでいるスワップ(自称含む)
相手国と失効日 | 金額とドル換算額 | 韓国ウォンとドル換算額 |
---|---|---|
中国(2020/10/13?) | 3600億元 ≒ 505.6億ドル | 64兆ウォン≒522.4億ドル |
スイス(2021/2/20) | 100億フラン ≒ 104億ドル | 11.2兆ウォン≒91.4億ドル |
UAE(2022/4/13) | 200億ディルハム ≒ 54.4億ドル | 6.1兆ウォン≒49.8億ドル |
マレーシア(2023/2/2) | 150億リンギット ≒ 34.9億ドル | 5兆ウォン≒40.8億ドル |
オーストラリア(2023/2/22) | 120億豪ドル ≒ 81.4億ドル | 9.6兆ウォン≒78.4億ドル |
インドネシア(2023/3/5) | 115兆ルピア ≒ 78.6億ドル | 10.7兆ウォン≒87.3億ドル |
二国間通貨スワップ 小計 | 859.0億ドル | 106.6兆ウォン≒870.1億ドル |
多国間通貨スワップ(CMIM) | 384.0億ドル | ― |
カナダ(期間無期限)※ | 金額無制限 | ― |
米国(2020/09/19)※ | 600億ドル | ― |
(【出所】各国中央銀行ウェブサイト、報道などを参考に著者作成。※印で示したカナダ、米国とのスワップは、通貨スワップではなく為替スワップ。米ドル換算額は本日午前11時ごろのWSJのマーケット欄を参考に試算)
金額上限のないカナダドルとの為替スワップを除けば、①~③の合計額は1843億ドルといったところでしょうか。
この点、韓国が自称する外貨準備高は4000億ドル少々であることを考えると、わざわざ二国間通貨スワップや多国間通貨スワップ、為替スワップなどを結ばなくても、外貨準備から流動性を確保することは十分に可能です。
たかだか12億ドルの米ドル建て国債をデフォルトさせたレバノンでもあるまいし(『レバノンのデフォルトと「国債デフォルトの3条件」』等参照)、韓国の資金構造だと、外貨準備は1000億ドルもあれば大丈夫なはずです。
それなのに、必死に外国とスワップを結ぼうとしているのは、なにやら不思議ですね。
米中との通貨スワップはそもそも存在しない?
もっとも、冒頭に紹介した「米中との通貨スワップ」という文言、結論からいえば、どちらも存在しない(あるいは存在しない可能性が高い)と考えて良さそうです。とくに中国との約505.6億ドルの通貨スワップについては、次の2つの点で、「危機の際に使い物になるのか」が怪しいです。
- ①そもそも中国人民銀行当局は2017年10月時点で韓国との通貨スワップ協定を延長したとは発表しておらず、韓国側が一方的に「中韓両国は口頭でスワップ延長で合意した」と述べているに過ぎない
- ②もし中韓通貨スワップが存在していたとしても、中国の通貨・人民元は国際的には「ソフト・カレンシー」であり、自由に利用することも米ドルなどに交換することも難しい
あるいは、中国のことですから、もしも自国が通貨危機に陥りそうになったとしたら、韓国から64兆ウォンのウォン資金を引き出して外為市場で米ドルに両替し(=当然、ウォンが暴落します)、入手した米ドルで通貨防衛(人民元買い・ドル売り)をする、という可能性もないわけではないでしょう。
自然に考えて、中国との通貨スワップなど「百害あって一利なし」です(意外と知られていませんが、実際、日本もインドとは「日印通貨スワップ」を締結しているにも関わらず、中国とは「日中通貨スワップ」を締結していません。詳しくは『【速報】やはり中国とのスワップは「為替スワップ」だった!』等もご参照ください)。
また、米国との為替スワップは、あくまでも「FIMA流動性スワップ」であり、通貨スワップではありません。それなのに、韓国政府、韓国銀行自身が「通貨スワップだ」とウソの発表を続けているのです(『韓銀、為替スワップを通貨スワップと意図的に誤記か?』等参照)。
そういえば日本の輸出管理適正化措置を頑なに「輸出『規制』だ」と騙っているのを見ると、やはり韓国の当局に「正しい用語遣い」を求めるのは酷というのかもしれませんね。
米ドル為替スワップは貴重
もっとも、米韓為替スワップは通貨スワップではないため、使途は民間金融機関の短期資金繰りに限られているものの、それでも韓国が喉から手が出るほど欲しがっていた米ドル建てのものであり、恒常的なドル不足に悩まされている韓国にとっては、非常に貴重です。
こうした観点から韓国が米韓為替スワップの延長を目指すというのは自然な流れではありますが、それと同時に「米中の板挟み」にあう可能性を自ら高める行為でもあります。
なぜなら、韓国は米韓為替スワップの3分の1近くに手を付けてしまっている(『【資料】米ドル流動性・FIMA為替スワップ最新残高』参照)以上、米国から為替スワップを打ち切られること自体が韓国にとっては流動性リスクになりかねないからです。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そういえば以前、韓国メディアに、「日本が韓国の真の友人なら韓日スワップを締結せよ」などとする、非常に困った主張が掲載されたことがありましたが、現時点において、日韓通貨スワップの復活の可能性はゼロに近いと考えて良いでしょう。
そもそも財務省の外為特会や日本銀行の最終的な所有者は、日本の主権者たる私たち日本国民です。私たちの国の大使館や総領事館の前に私たちの国を侮辱するヘンテコな銅像を建立するような国に、その私たち日本国民の血税が少しでも提供される可能性がある以上協定を結ぶこと自体、背任です。
麻生太郎総理が財相である間は、日韓通貨スワップが再締結されるということはないと考えて良いかもしれませんが、日銀あたりが勝手に日韓為替スワップを締結するという可能性は皆無ではなく、その点は若干のリスク要因です。
くどいようですが、以前の『日韓スワップ、あえて「日本のメリット」を考えてみる』でも報告したとおり、日本が外国と通貨スワップを締結することによって日本に対してメリットを生じる条件については、思いつくまま列挙しても、次のようなものがあります。
- 相手国の金融を安定させることで、相手国の経済成長を支援し、ゆくゆくは日本にとっても多大な恩恵をもたらすこと
- 相手国に対して通貨の安全弁を提供することで、日本に対し感謝の念を持ってもらうことなどを通じ、相手国が親日国となること
- 日本円の国際化がさらに進展すること
逆に言えば、これらのメリットが生じない(あるいはメリットを上回るデメリットが生じる)のならば、日韓通貨スワップを締結「すべきではない」のです。
いずれにせよ、韓国で外貨資金繰りが困難になったときに、私たちの国・日本に影響が皆無であるとは申し上げませんが、それでも同国の外貨資金繰り状況はしょせん「他人事」として眺めるのが正解でしょう。
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そもそもアメリカの為替スワップに外国を通貨危機から守ろうなんて意図はありません。ドルをきっかけにした金融システム危機を防ぎたいだけなのです。為替スワップの相手方になっている外国中銀はそんなFRBの意向にそってお手伝いをしてるにすぎません。あくまで救うのは担保をしっかり差し出せる健全な先だけです。不健全な先の延命など、市場原理に逆らうことは絶対しません。
為替スワップが延長されるかは、市場のドルが不足することがあるかどうかで決められます。相手国の事情を酌むことなどあり得ません。
日韓通貨スワップは、韓国からすると「上位のウリナラを下位のイルボンが助けるのが当然ニダ」というのが最低線で、ともすれば「防疫先進国のウリナラが、コロナ禍で衰退しているイルボンをスワップで助けてやったニダ、感謝しろ」になりかねないものです。
日本政府は、前回の日韓通貨スワップの締結から終了に至るまでのプロセスをきちんと振り返って、それを前提に今後に備えていただきたいです。
その中央日報の記事なんですが、多分ハングル版の記事が無いんですよね。たまにあるんですが、日本語版にしか無い願望記事のような物だと思います。考えられる原因としては、
1.日本語版担当の記者が書いたから(後日ハングル記事を出す)
2.以前のハングル記事を、遅れて日本語化したから(しかし検索した限り、同様の見出しは見つからない)
3.日本人に圧力をかけるため、または韓国人に見せると批判に晒されるから(たぶん後者)
もし理由が3だとしたら、よっぽど状況がマズくて日韓スワップを結ばないと破綻する、という危機感が強いからではないかと思います。ある意味では現状をよく把握してるけど、それを韓国人に伝えられないというのは、なんとも皮肉な話です。
fcr 様
日本語版に「日韓通貨スワップ」の記事を書くと、日本人の閲覧数が増えるからだと思います。
スワップ ネタは、私も大好きです。
韓国がそう決めた、って言ったってしょうがないことばかりですな世の中は。
韓国人が自業自得を理解しようとしないのは、他罰的で被害者意識を持った方が上に立ってるような意識のせいでしょうか。
そうなんですよね。
本来なら被害者意識を排除するところから始めないといけないんですけどね。
でも彼らにそんなこと無理か・・。
被害者の被害者による被害者のための社会なのですから。誰もが一番偉い「可哀想な被害者」になりたがっているのですしね。
(◞‸◟)ざんねんだけど。
近年まで葬式での「泣き女」の風習が残ってる国ならではなのかも知れませんね。
お早う御座います。評論のアップ有り難う御座います。
Money1というサイトに、楽しい記事が掲載されていましたのでご紹介します。
【速報】またぞろ『中央日報』に「通貨スワップ」の記事登場。韓国が合衆国・中国と契約延長模索!
〉合衆国と中国のどちらからも「お前はどっちの味方なんだ?」と確認されそうです。さて、希望どおりにうまく運ぶでしょうか。
https://money1.jp/archives/21737
ちなみに5月30日には『中央日報(日本語版)』に「通貨スワップ」が入った記事は通算68本目と数えて教えてくれました。これで68回目になりますね。
5月30日Money1 https://money1.jp/archives/21474