先日の『日本とトルコの通貨スワップがロシアに対する牽制に?』に「続報」が出てきました。なんと、トルコの現地メディアが「トルコの中央銀行は日本銀行との100億ドル相当の通貨スワップ締結に合意する直前だ」などと報じたらしく、同国の通貨・リラが買い戻される展開となったようです。私たち日本国民にとっては「寝耳に水」ですが、関連する報道をよく読んでみると、現地メディアの報道は日本の「3本建のスワップ」の区別もついていないようです。
トルコ、3月に外貨準備が156億ドルも減少!
先日の『日本とトルコの通貨スワップがロシアに対する牽制に?』では、中東の地域大国であるトルコが外貨不足に陥るなか、そのトルコが日本に対して通貨スワップの締結を求めている、という話題を紹介しました。
トルコといえば、サウジアラビアと並び、「G20」入りしている中東の地域大国ですが、通貨的に見れば、なにかと問題が多い国でもあります。というのも、トルコの通貨・リラ(TRY)は、ときどき、「プチ暴落」を発生させています。
たとえば、2018年8月には米国とトルコの外交関係悪化などを契機に、トルコリラが米ドルに対し、年初来40%も一気に下落するという「トルコ・ショック」が発生し、アルゼンチンなどいくつかの国に飛び火しました(『トルコ・ショックはアルゼンチン、韓国などに波及するのか?』参照)。
また、その後も2019年4月にはトルコの金融政策に対する不信感から「トリプル安」や外貨準備の急減などに見舞われる(『トルコショック再び?怖いのは局地的ショックではなく波及効果』参照)など、トルコの金融市場は安定していません。
さらに同年7月にはレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が中央銀行のムラート・チェティンカヤ総裁を電撃的に解任し、後任にはエルドアン氏に「忖度」するムラート・ウイサル副総裁が昇格したことで、中央銀行の独立性に疑義が生じ、トルコからの資金が流出しやすい状況が続いています。
そして、こうした状況に襲い掛かったのが、例の新型コロナウィルス騒動です。IMFのデータ(IRFCL)によれば、トルコの2020年3月時点の外貨準備高は921.45億ドルで、前月(1077.24億ドル)と比べて1ヵ月で155.79億ドルも減っていることがわかります。
これなど、コロナ騒動の余波を受けて3月に新興市場諸国からの大々的な資金流出が発生した際、トルコの通貨当局が通貨防衛のために外貨準備を「溶かした」という証拠でしょう。
トルコがカタールとのスワップを3倍に!
こうしたなか、その「続報」がいくつかあったようです。
英フィナンシャルタイムズ(FT)が昨日(※日本時間の本日早朝)に配信した記事によれば、トルコとカタールはトルコリラとカタールリヤルを交換する通貨スワップ協定の規模を、これまでの50億ドル相当額から一気に150億ドル相当額に3倍増することで合意したそうです。
Turkey secures sought-after currency swap with expanded Qatar deal
Agreement will bolster Ankara’s depleted reserves in a boost to ailing economy / Turkey’s central bank has been searching for swap agreements with G20 group members that will allow it to secure foreign currency <<…続きを読む>>
―――2020/05/20付 FTオンラインより
FTによると、トルコの中央銀行はこれについて「二国間でお互いの通貨を融通し合うことで両国の金融の安定を図る」と述べたそうであり、FTはこれを「トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と豊かな中東湾岸諸国との緊密な関係が示された格好だ」と評しています。
ところで、「カタール」と聞けば、少し中東情勢に詳しい人であれば、2017年にサウジアラビアなどほかの中東諸国と断交した国だ、と思い出す方もいらっしゃるかもしれません。
中東主要国が「テロ支援」でカタールと断交、イラン反発(2017年6月5日 13:16付 ロイターより)
FTはカタールにとってトルコ支援が「重荷」になる可能性があるとしつつも、中東で孤立するカタールにとってはトルコという「友軍」が存在することの価値は大きく、今回のスワップ3倍増も、カタールにとっては「いかなるコストを払ってでもトルコを金融的に支援する」という意味買いがありそうだ、としています。
ただし、一般論として、「ソフト・カレンシー」(国際的な資金市場で自由に取引できるとは限らない通貨)同士のスワップだと、危機の際にそのまま役に立つとは限りません(『弱小通貨同士の通貨スワップの「融通手形」説』等参照)。
この点、カタールは事実上の固定相場制を採用しており、ここ数年に関していえば、「断交騒動」が発生した2017年頃を除けば、リヤルの相場は1ドル=3.64リヤル前後で安定しています。
もしもトルコがカタールとのスワップを引き出すとなれば、リヤルをそのままトルコに提供するのではなく、カタールが持つ400億ドル弱の外貨準備から米ドルなどの外貨でトルコに提供する、という形を取らざるを得ないのではないでしょうか(著者私見)。
「日銀が100億ドルのスワップを提供してくれる」
ただ、個人的に気になったのは、その続きです。
FTはトルコがG20諸国に対し、通貨スワップの締結を目指しているとしており、こうしたなか、現地メディアはトルコの中央銀行が100億ドル相当の通貨スワップについて、日本、英国の両国と合意が間近であると報じたことで、通貨・リラが5月初旬以来の水準に戻したとしています。
ちなみにWSJのマーケット欄によると、トルコリラは5月6日には1ドル=7.1988リラと数年ぶりの最安値水準にまで下落していたものが、昨日時点では1ドル=6.7888リラに戻しているようです。
ただ、この「100億ドルの日土通貨スワップ」という具体的な金額まで入った構想、正直、初耳です。
実際、FTも、英国政府当局者が(イングランド銀行とのスワップ締結の合意が間近であるとの同国の報道に)「驚いている」と述べたとしているほか、日本政府でスワップ締結に詳しい当局者も「ハードルは高いだろう」と述べたのだそうです。
また、FTが報じたトルコ国内での報道も、不自然です。
というのも、日本が外国に対して提供するスワップは、財務省が提供する「ドル建ての通貨スワップ」と「円建ての通貨スワップ」、日銀が提供する「円建ての為替スワップ」の3本建てであり、トルコが必要としているのは「ドル建ての通貨スワップ」だからです。
この点について、FTの記事には「日本政府で通貨スワップの実務に詳しい関係者」が「日本には日銀のスワップと財務省のスワップがある」とする記述もあり、「(トルコ国内で報じられた)日銀スワップをトルコと締結する名分は立ちづらい」、などの指摘もあります。
このことから、現時点においては現地メディアが報じたとされる「日土通貨スワップ構想」は、現在のところはトルコの中央銀行関係者の希望的観測に基づく「飛ばし報道」の類いであるという可能性が高いと見て良さそうです。
「カタールの支援だけでは不十分」
さて、今回のトルコ・カタールの通貨スワップを巡り、サウジアラビアの英字メディア『アラブニューズ』には「G20の支援のないスワップに意味はない」との論説も出ています(報じているのがカタールと対立するサウジアラビアのメディアである、という点については、少し割引いて考える必要があるかもしれませんが…)。
Qatari support ‘will not have major impact on Turkish lira’
Turkey needs additional outside assistance, expert tells Arab News<<…続きを読む>>
―――2020/05/21付 Arab Newsより
アラブニューズは米国、英国、中国、日本の4ヵ国の名前を挙げ、トルコがこれらの国と何度もスワップ交渉をしていると報じられているとしつつ、トルコはG20諸国とはまだ1ヵ国とも通貨スワップを締結していないと述べます。
そのうえで、アラブニューズはロンドンのEM(新興市場諸国)アナリストであるティモシー・アッシュ氏にインタビューを行い、「G20とのスワップがなければ国際通貨基金(IMF)の支援を受けざるを得ない」などと述べたのだそうです。
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もっとも、個人的には「G20とのスワップ」にこだわる理由がよくわかりません。
そもそもヒトクチにG20と言っても、G7諸国やオーストラリアのような先進国・準先進国もあれば、BRICS諸国、アルゼンチン、メキシコ、韓国、インドネシアなどの新興市場諸国、サウジアラビアやトルコのようなイスラム圏もあるなど、非常に雑多な集団です。
当然、G20諸国が使っている通貨に関しても、米ドル、ユーロ、日本円のような「ハード・カレンシー」もあれば、人民元、サウジリヤルのようなドルペッグ通貨、トルコリラ、ロシアルーブル、韓国ウォンのような不安定な「ソフト・カレンシー」などもあるからです。
いずれにせよ、トルコスワップについては続報が出て来るかどうかにも注目したいところです。
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独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
読者の望むことを飛ばし記事として書くのは、日本マスゴミ村や韓国
メディアだけでなく、世界的な傾向でしょうか。(もしかしたら、トル
コは日本に、「すでにトルコ国民に報せたのだから、スワップを結んで
くれなければ困る」と言い出すかもしれません)
駄文にて失礼しました。
> すでにトルコ国民に報せたのだから、スワップを結んでくれなければ困る
世界が韓国化していくわけですね。
というか、韓国は特殊な国ではなく、日本人が頑なだけです。「無理が通れば道理引っ込む」は普通のことで、誰もが先進国と認めているアメリカ合衆国様も、ごり押しが普通じゃないですか。それぞれの国がそれぞれのやり方で精一杯無理を通しているのですから、日本も日本のやり方で無理を通せばいいんです。
日英で、円とポンドなら有っても、おかしくない話だと思います。
新聞記事だけで、こんなに通貨が戻るなら、スワップの威力は、凄いですね。
ホントに凄いことになってますね、今の円は。
ポンドというと、1ポンド千円越えという記憶しかありません。
それが今や1ポンド130円をきることがある。
こうしたことからハードカレンシー『円』を有する日本とスワップできるという新聞の妄想記事だけでトルコの通貨安が解消されたという凄いことを惹き起こした。
いやホントに今の『円』は凄い!とトルコに教えられました。
確かに本当か分からない時点での記事だけでトルコ通貨が上がるとは驚きです。
しかし、個人的な見解ですが日本はトルコに通貨スワップをしてあげても良いと思います。
1985年、イラン・イラク戦争の勃発直前に日本政府お得意の不手際で中東テヘランに260人の日本人が取り残されました。ミサイル攻撃予告まであと1日しか無いのに、救援機を派遣することが出来ません。
他国に救援機の依頼をしても、何処も自分の国の国民を救うだけで精一杯です。
万策尽きた。かと思われた時、トルコが自国民用の救援機を日本人脱出に使用することを許可してくれたのです。 自国民は自動車で脱出するように指示を与えて。
信じられない様なトルコの好意ですが、これは1890年、日本の和歌山沖で遭難したトルコ船の乗組員を
日本人が救助し手厚い看護をしてくれた事に対する感謝の気持ちだとの事でした。
現在、トルコは以前と政治形態が変わってきており国同士としての付き合いは、それ程、親密では
ないようです。 しかも、嫌なことですが、あの韓国にもスワップを申し入れたとのニュースも
有ります。 ただ、それ程、トルコが困っていると言うことだと考えれば、通貨スワップをしてあげても
良いと思います。 我々は日本人です。隣の半島国家の人間と違って恩というものを知っています。ここは恩返しをするべき時だと思うのですが。
トルコリラ持ってます。スワップしてください、怖くて仕方ない。
FX やっちゃいましたか?
トルコの場合,経済基盤が弱いので,スワップ等でいくら援助しても,それは一時しのぎにすぎず,援助金が尽きると再び問題が再燃するのではないかと思います。トルコでも安い人件費のために外国資本の自動車工場など,製造業はそれなりに盛んです。しかし,所詮外国資本なので,自国の利益の取り分はそれほど多くありません。平時なら観光収入は多いのですが,コロナで現在はアウトです。農業は大土地所有者については,採算に乗った経営ができているようですが,小規模農家のほうはかなり貧困化しているようです。軽工業について,例えばトルコ絨毯の生産者などは,恐ろしく安い時給で働いています(絨毯自体は上質ですが手作りなので結構高価です)。あと,人口増加が貧困化に拍車をかけているようです。
あと,通貨政策のおかげで,インフレ率が結構高いです。トルコリラで貯金しても意味がないですから,まとまったお金があったら外貨に替えたいですよね。そういうわけで,リラはどうしても,どんどん構造的に安くなってしまいます。ですから,スワップで一時的に助けても,長続きはしないと思います。中国にある工場にいくつかでも移転してあげたほうがいいかもしれません。ただし,イスラム教国ですから,宗教に関する理解と寛容は必要です。
日銀が当事者としてスワップするのと、財務省の代理人としてスワップする違いについて着目すべきですよね。
スキームの細かいところは置いといて、日銀が独自でスワップ出来るのは円ベースだけです。ドルが少しでも絡むと財務省が主体とならざるを得なくなります。財務省が管轄する外貨準備に関係するからです。
トルコはもちろんドルスワップが欲しいのですが、そんなスキームをやってくれるアメリカ以外の国は日本くらいしかありません。G20に次々声かけてるのは流石にその国の自国通貨建スワップでしょう。そもそもドルスワップなど常識的ではないからです。
どうもトルコは韓国同様のスワップに対する勘違いをしてるようなので、このまま放置となるでしょう。日銀もトルコにスワップの何たるかを教えるとは思いますけどね。
E・C・B!E・C・B!
トルコには韓国人アドバイザーがいるようですね。