本日のマーケットでは、ここ数日の株安が反転し、とくに日経平均は前日比1200円以上も上昇するという展開となっています。また、ここ数日、下落していた韓国ウォンも、本日は対米ドルで１ドル＝1240ウォン台にまで買い戻されるなど、市場のリスク選好もやや小康状態に入った感があります。ただ、隣国では相変わらず「日韓通貨スワップ待望論」があるようですが、なぜそれが復活しないのかに関する自省がまったく見られません。本稿では少し前の『朝鮮日報』の記事などを、メモがてら紹介しておきたいと思います。

為替スワップとは金融機関への流動性供給

為替スワップについては、当ウェブサイトでは2017年11月の『【速報】カナダ・韓国間の為替スワップは通貨スワップではない！』や2018年５月の『危険なパンダ債と「日中為替スワップ構想」』などで、かなり早い時期から解説して来ました。

これは、ごくわかりやすくいえば、金融危機や通貨危機が生じた場合に備えて、中央銀行が自国の民間金融機関に対し、外貨を貸し付けるための協定（外国中央銀行とのスワップを通じた流動性ファシリティ）のことです。

コロナショックの影響で全世界的にリスク資産の投げ売りが続くなか、現地時間の３月19日に米ＦＲＢが世界の９つの中央銀行・通貨当局との間で為替スワップ（流動性供給目的のスワップライン）を一時的に創設しました。

Federal Reserve announces the establishment of temporary U.S. dollar liquidity arrangements with other central banks

The Federal Reserve on Thursday announced the establishment of temporary U.S. dollar liquidity arrangements (swap lines) with the Reserve Bank of Australia, the Banco Central do Brasil, the Danmarks Nationalbank (Denmark), the Bank of Korea, the Banco de Mexico, the Norges Bank (Norway), the Reserve Bank of New Zealand, the Monetary Authority of Singapore, and the Sveriges Riksbank (Sweden). These facilities, like those already established between the Federal Reserve and other central banks, are designed to help lessen strains in global U.S. dollar funding markets, thereby mitigating the effects of these strains on the supply of credit to households and businesses, both domestically and abroad.<<…続きを読む>>
―――米国夏時間2020/03/19 9:00付　米ＦＲＢウェブサイトより

欧州はスワップ引出実績が多い

ＦＲＢのプレスリリースの本文にもあるとおり、このスワップ（米ドル流動性ファシリティ）は「ドルファンディング市場」（たとえば米ドル建てのコールローン、レポなどの市場）で資金供給難という状況を解消するためのものであり、極めてパワフルな政策手段です。

なぜなら、2008年のリーマン・ショック時や2010年の欧州債務危機当時、世界の金融機関が最も困ったのがドルの流動性（＝短期借入金）の確保であり、実際、ドル資金が取れなくなると、これらの金融機関は資金繰りが付かずに連鎖破綻する可能性すらあったからです。

また、ＦＲＢに加え、日本、英国、欧州、スイス、カナダの各中央銀行は2013年10月、この中銀間為替スワップを常設化しており、とくにユーロ圏などの金融機関は欧州中央銀行（ＥＣＢ）を通じて頻繁に米ＦＲＢから米ドルを借り入れて来ました。

ちなみに先週も欧州（ユーロ圏、英国、スイス）の金融機関はＦＲＢからトータルで1300億ドルという資金をＦＲＢから借り入れています。

European Banks Get $130 Billion, Easing Dollar Stress From Virus（2020年3月18日 19:08 JST Updated on 2020年3月18日 19:34 JST付　Bloombergより）

もっとも、ニューヨーク連銀のウェブサイト上、データの更新が遅いらしく、この欧州３中銀の「1300億ドル」という金額についてはまだ公表されていないほか、新たに締結された９つの中銀・通貨当局とのスワップラインについては、具体的にいくら引き出されているかを確認することはできません。

これについて興味深い話題があれば、追ってお知らせしたいと思います。

まさかの米韓為替スワップ、そして…？

さて、個人的には、米国がまさか韓国を含めて為替スワップを復活させるとはまったく思ってもいなかったのですが、その一方で、意外なことに米韓為替スワップ締結後、「日韓通貨スワップ」論が強まっています。

今朝の『韓国メディア「五輪延期なら日本も韓日スワップ必要」』では、３月19日に急遽締結された米韓為替スワップに加え、日韓通貨スワップも必要だ、とする、韓国側の奇妙な言説を紹介しました。

ただ、その後冷静に調べてみると、「日韓スワップ待望論」については、ここ数日、韓国メディアからはかなりたくさん出て来ているようですので、２つほどメモがてら紹介しておきたいと思います。最初に紹介するのが、『韓国経済新聞』（韓経）に昨日掲載された記事の日本語訳です。

韓経：「４６００億ドルなら十分」ｖｓ「まだ不足」…適正外貨準備高めぐる議論加熱＝韓国

６００億ドル規模の韓米通貨スワップを１９日に締結したが国際金融市場の「ドル不足」は解消されていない。新型コロナウイルスパニックで萎縮した外国人投資家が引き潮のように<<…続きを読む>>
―――2020.03.24 09:57付　中央日報日本語版より

くどいようですが、韓国が締結したのは「米韓通貨スワップ」ではなく、「米韓為替スワップ」です。

通貨スワップは通貨当局同士が通貨を交換する協定であり、為替スワップは民間金融機関に対して外貨を貸し付ける協定であって、両者は役割も使途もまったく異なります。

とくにニューヨーク連銀のスワップの場合、ニューヨーク連銀に開設された貸付を受ける金融機関のドル資金口座に直接振り込まれるため、通貨スワップと違って韓国銀行がニューヨーク連銀から直接引き出して為替介入に使う、といったことはできません。

それはさておき、韓経のタイトルにある「4600億ドル」とは、韓国銀行が保有する（と自称する）外貨準備約4000億ドルに、今回のニューヨーク連銀との為替スワップ600億ドルを足したものだと思いますが、韓経は、現在の韓国のが外貨準備がそれでも不十分だ、などと指摘しています。

本来、ＢＩＳ統計などから判明する韓国の短期債務の額に照らせば、外貨準備が本当に4000億ドルもあるのなら、べつに米韓為替スワップなども必要ありません。

しかし、韓国側で「外貨準備だけでは不十分だ」という議論が出てくるのは、本心では韓経自身も自国の外貨準備の実在性に怪しさを感じている証拠であるように感じられてならないのですが…。

朝鮮日報の日韓通貨スワップ待望論

もうひとつ紹介したいのが、『朝鮮日報』（日本語版）に数日前に掲載されたのが、この記事です。

8年前に終了した韓日通貨スワップ…政治に阻まれている

600億ドル（約6兆6600億円）規模の韓米通貨交換（スワップ）協定締結で、外国為替市場の不安がやや落ち着いた中、「もう1つの安全弁」である韓日通貨スワップを再開するかどうかに関心が集まっている。<<…続きを読む>>
―――2020/03/21 09:00付　朝鮮日報日本語版より

なかなか驚くべき記事です。というのも、この記事、本当に自国のことしか考えていないからです。

朝鮮日報は記事冒頭で、

「日本が相手の通貨スワップは米国よりも歴史が古いが、2012年に中断して以降、再開されていない。専門家らは『外国為替市場の潜在的な不安を解消するには、通貨スワップはできるだけ多く締結した方がいい』と話す」

としたうえで、2012年の李明博（り・めいはく）元大統領の島根県竹島上陸や天皇陛下侮辱発言などを受けた日韓関係悪化に伴い、日韓間の通貨スワップ協定がすべて失効したという日韓通貨スワップの歴史をざっと振り返ります。

（※ただし、朝鮮日報の記事には事実関係の誤りがあります。日韓通貨スワップのうち「ＣＭＩスワップ」が終了したのは2015年２月16日のことです。）

そして、リンク先記事で看過できないのが、次のような記述です。

• 「2016年に英国の欧州連合（EU）離脱（Brexit＝ブレグジット）や米金利引き上げなどで金融市場の不確実性が高まったことから、韓国から日本に通貨スワップを提案したが、日本は釜山にある日本領事館前に慰安婦少女像が設置されたことを問題視して交渉中止を宣言した。」
• 「昨年の日本による輸出規制以降、韓日関係が悪化の一途をたどっていることが壁になっているとの声もある」

などと述べているのですが、まるで日本の側に問題があるかのようなこうした言い方、いかにも韓国メディアらしいと思ってしまいますね。

ちなみに「輸出『規制』」とはいうまでもなく、昨年７月に日本政府が発表した、韓国に対する輸出管理適正化措置のことを指していると考えられます。輸出管理の論点を輸出「規制」などとしつこく誤記し続けること自体、日本に対する侮辱ではないかと思えるのですが…。

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さて、ぶっちゃけて申し上げるならば、日本側に日韓通貨スワップを再開することの「メリット」はないのですが、ただ、『韓国メディア「五輪延期なら日本も韓日スワップ必要」』でも報告したとおり、韓国側では無理くりに理屈をでっち上げ、「日韓通貨スワップは日本にもメリット」とする論調が出て来ています。

そして、本当に懸念すべきは、韓国側の屁理屈だけではありません。日本側にもこれに呼応し、「日韓通貨スワップを復活させよう」とする動きが出て来ることです。過去にわが国でどんな議論があったのかについては、できれば近日中に、改めて詳しく報告申し上げたいと思います。