先ほどの『【速報】BREXIT確定?保守党が過半数も』で「速報」的に触れましたが、英国の総選挙で保守党が1987年以来約32年ぶりの圧勝となる見込みです。例の「アイルランド国境問題」やEUへの支払いなど、課題は残されているようですが、「とにかく1月末に離脱する」という方向性は決まったのであり、これからの注目点は、英国が西側諸国で孤立しないよう、わが国が積極的に英国に手を差し伸べるという姿勢ではないかと思います。
保守党が圧勝!
英国でボリス・ジョンソン首相が率いる保守党が木曜日の総選挙で勝利を収めました。
参考:ボリス・ジョンソン首相
英国の欧州連合(EU)離脱問題(いわゆるブレグジット)を巡り、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に続報が出ていました。
Boris Johnson Secures a Comfortable U.K. Election Win(米国時間2019/12/12(木) 17:56付=日本時間2019/12/13(金) 07:56付 WSJより)
リンク先記事の概要を意訳して要約すると、次のとおりです。
- ボリス・ジョンソン首相が率いる保守党が木曜日の総選挙で、下院の全650議席中、364議席を獲得すると見られており、ほかの全政党を合わせたよりも68議席も多く、保守党の獲得議席数としては1987年以来、最大
- 今回の選挙により長年、労働党が地盤としていたイングランド、ウェールズでも保守党が勝利。「一世代に一度の再編」の保守党圧勝によって、2016年の国民投票を契機とする一連の英国の欧州連合(EU)離脱問題も、来月末のブレグジット実現の方向が事実上決まった
- 労働党の獲得議席は201議席にとどまる見込みで、獲得議席数としては1935年以来最低水準で、ジェレミー・コービン党首は「反省と議論」の期間が終了するまでは党首を務めるものの、次期選挙に出馬しないと述べた
(※どうでも良いのですが米メディアであるWSJが労働党を “Labor” ではなく英国風に “Labour” と綴っているのは意外な発見でした。固有名詞だからでしょうか?)
最初の文章については、「下院の650議席中、364議席」とあるので、「ほかの全政党を合わせたよりも78議席多い」の間違いではないかと思うのですが、計算間違いはWSJのご愛嬌、といったところでしょうか。
なお、WSJに述べられている獲得議席数予想はわが国のメディアの予想とは違っているようであり、とくに日経は「労働党が200議席を割り込む」との予想を示しているようですが、保守党が圧勝し、労働党が大敗したという結果自体については大きく変わるものではありません。
思えば長かった
いずれにせよ、今回の選挙結果を受けて、英国は来年1月末のEU離脱に向けて動き出すことになりそうです。
あらためて振り返っておくと、英国のEU離脱問題は、じつに長丁場に及びました。
もともと、英国では移民労働者問題を受け、EU加盟国の地位であることにたいする国民の不満が強く、2013年の総選挙で、当時のデビッド・キャメロン首相が国民に対し、「2017年までにEU離脱の是非を問う国民投票を実施する」と約束。
キャメロン氏自身はEU残留派だったものの、2016年6月に実施された国民投票で、思わず僅差でEU離脱が決定されてしまい、そこから英国は迷走を始めます。
キャメロン氏は6月23日の国民投票から1ヵ月も経たない7月13日に英国首相と保守党の党首を退任。事態混乱の収拾を付けるために、キャメロン政権下で内相だったテリーザ・メイ氏が後継の首相・保守党党首に就任したのです。
メイ氏は自身がEU残留派に投票したにも関わらず、国民投票の結果を受けて、EU離脱を完遂させると宣言しましたが、その道は決して平坦ではありませんでした。
まず、2017年4月に下院を解散し、総選挙を実施したものの、6月の選挙では保守党が選挙前から議席を減らし、単独過半数を割り込んだため、辛うじて少数政党の閣外協力で第二次メイ政権を発足させました。
また、今年1月のEU離脱を巡る法案については下院が大差で否決する一方、メイ首相の不信任案については否決され、進退窮まって、今年6月に辞任を表明(実際の辞任は7月)。
【参考】テリーザ・メイ首相
いわば、政権を3年弱で投げ出した格好となったのです。
英国は再び栄光の孤立の道を歩む?
さて、今回の保守党の圧勝を受けて、これから英国のEU離脱が再び推進されるのですが、先ほどのWSJも
Mr. Johnson’s EU deal covers divorce issues needed to unwind the U.K.’s 45-year membership in the EU, including the rights of their respective citizens, a settlement of the debts the U.K. owes the EU and an arrangement to prevent a border arising on the island of Ireland.
と述べています。
英国がEUに加盟してからまだ45年間しか経っていなかったという事実を突きつけられると意外な気がしますが、結局のところ、英国は「大陸国家」ではあり得なかった、ということでしょうか。
もちろん、これからEUとの離脱条件、EUに対する債務の支払い、アイルランドとの国境問題など、実務的にさまざまな問題に対処していく必要があるのですが、私見ではあるものの、これらについては乗り越えられない課題ではありません。
とくに、『欠陥通貨・ユーロとギリシャ問題を日本に当てはめるな』でも報告したとおり、英国がEUに別れを突きつけたとしても、もともと欧州統合というもの自体がなかば中途半端な形になってしまっていて、英国がEUから離脱すれば、むしろ国境・通貨統合の阻害要因がひとつ除去されるともいえます。
ちなみに、繰り返しですが、「ヒト・モノ・カネの統合」という視点から現在の欧州を見ると、次の6つの種類の国があります。
- ①EU、ユーロ、シェンゲン協定のいずれにも加盟している国
- ②EU、ユーロには加盟しているが、シェンゲン協定には加盟していない国
- ③EU、シェンゲン協定には加盟しているが、ユーロには加盟していない国
- ④EUには加盟しているが、ユーロ、シェンゲン協定には加盟していない国
- ⑤シェンゲン協定には加盟しているが、EU、ユーロには加盟していない国
- ⑥EU、ユーロ、シェンゲン協定のいずれにも加盟していない国
シェンゲン協定とは国境を自由に行き来できるとする規定で、いわば、ユーロとシェンゲン協定にセットで参加して初めて、EUの「ヒト・モノ・カネ」の統合に参加できる形です。
①の国はドイツ、フランス、イタリア、ベネルクス3国など、EUの中核国17ヵ国が含まれますが、英国はこの①~⑥でいうところの④、つまり、ブルガリア、ルーマニア、クロアチアと並んで「通貨圏」にも「シェンゲン圏」にも入っていない国でした。
今後、アイルランドという「EU加盟国」が英国という「EU非加盟国」とのあいだで国境をまたぐ自由を維持して良いのかという問題が議論されるでしょうが、もともとパターン⑤、つまりスイスやノルウェー、アイスランドのようなケースもあるので、この点がさほど問題になるとも思えないのです。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
さて、英国がEUから出ていくのであったとしても、英国が「西側諸国」から出ていくわけではありませんし、また、安全保障面(とくにNATO)の枠組みについては、いささかも揺らいではなりません。
当然、英国は「海洋同盟国家」の一角を占めていますが、今後はますます、米国、カナダ、豪州、ニュージーランド(いわゆるファイブアイズ)などとの連携を強めていくでしょう。
そして、英国の今回の決定は「大陸を捨て、海洋を選んだ」というものでもあります。同じ海洋国家として、日本が英国に手を差し出すとともに、「ファイブアイズ」に参加する絶好の機会が到来している、という言い方もできます。
英国のTPP参加も現実の選択肢として浮上する可能性もありますし、そうなれば、およそ120年ぶりに日英同盟を復活させる、という議論があっても良いのではないでしょうか。
わが国の野党やメディアは「桜を見る会騒動」を追いかけている間に、世界の情勢は大きく変化していることは間違いないでしょう。
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イギリスのEU離脱が確定すると、日英同盟の話になるんですかね。
イギリスがTPCPPに加盟したい話は、進むと思いますけどね。
島国の大国同士として、友好関係が強まると良いなと思います。
イギリス人は変化を恐れない。未知の領域に果敢に挑む。すごいですな。日本人は変化を好まない。しかるに変化が避けられないと分かった瞬間に、驚くべき速さで変化に順応する。その能力たるや、イギリス人もまねできない。日本人は自らの力に自信をもってもいい。パヨクは消滅するだろうけれどね、
更新ありがとうございます。
英国がEU離脱。やはりEUは、もっと詰めてからスタートしないと、駄目だったかなと思います。複雑過ぎるのと、国力の強弱がハッキリし過ぎ。
但し米国にロシア、そして日本、その後の中国の拡大振りを勘案すると、欧州陣営としてはタイムリミットだったのかもしれません。
英国について、知欧人でも無い私が言うのもなんですが、海洋国家陣営に戻って良い判断をしたと思います。このままEUに残っても、特にドイツ(フランス)にやられるだけ。それと自国通貨ポンドを残して置いた事。
日本とは昨年既に「日英同盟」的な動きが出てますが、TPPに英国が加入するなら、他の11か国にもかなりのインパクトがあります。また、タイも参加希望です。
アイルランドとは島の中で国境を接してるので、ただでさえ仲が悪いのに、行く末が心配です。米対墨のように壁を作る、、のはトランプ大統領ぐらいでしょう(笑)。
EU発足時には予想していませんでしたが,結局EUはドイツ帝国みたいになってしまいました。当面の困難はあるにせよ,長期的に考えればイギリスはEUを離脱するほうが賢明でしょう。フランスも相当不満を持っているはずですが,今後,どうするでしょうか。英仏とも移民人口が増えすぎてしまって,もう手遅れかもしれません。だんだん,モスクが目立つ国になるでしょう。現在,ロンドンは移民の街で,イギリスもアメリカのような多民族・多文化国家になりました。最後にイギリスに行ったのが1年以上前の入国審査が厳しかったときで,また,少し変わっているかもしれません。
日本のパスポートを持っていると現在はE-gate(顔認証入管)の利用ができるので入国審査はあっけないです。EU以外には日本のほかあと6カ国の旅券所持者が対象です。また手間がかかり個人的には大嫌いだったLanding CardもEU以外の国で日本を含む7か国は廃止されています。とは言ってもこの措置はごく最近で今年の5月からですが。
イングランドはcityを守り発展し続けられれば勝ちでしょう。
スコットランド、ウェールズはグレートブリテン島の中でイングランドと地続きなので、独立は無理。
問題は北アイルランドですが、これはもはや切り捨てかもしれません。
20世紀中にIRAで知られた血で血を洗うような独立抗争の末にUKに入った(無理くり入れさせられた?w)なったのに、
あっさり切り捨てとなると両者とも”心中穏やかならず”ってところでしょうが、
北アイルランドは独立(またはアイルランドと合併)してEUに残る選択をするんじゃないかと。
(イングランドも面倒だからもういいよって感じ?)
しかし全ての問題は、やはりイングランドのcityの行く末でしょうか。
既にドイツ・フランクフルトに移りつつある金融街をどうやってcityに呼び戻すか。
私の予想ではブレグジット後に大規模な税制改正(≒法人減税)を実施し、
フランクフルトどころか、全世界規模のタックスヘブン国家を作るつもりなんじゃないかなぁ・・・
海という天然のお堀に囲まれ、海軍力によって安全を確保された国で、
「どうぞお好きなだけ金儲けを」ってなキャッチコピーですね。
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となると・・・さ、ここで日本はどうするの?って問題よ。
それでも法人減税しないの?
ほとんど同じような地理的条件なのに、ここで有効な別の選択肢があるのだろうか?
労働者だらけの民主社会主義国家を続ける?www
スリークッション様
>既にドイツ・フランクフルトに移りつつある金融街をどうやってcityに呼び戻すか
そんな話あるのですか? 詳しいことを御存知でしたら 投稿して頂けだけるとたいへん有り難いです。
>フランクフルトどころか、全世界規模のタックスヘブン国家を作るつもりなんじゃないかなぁ・・・
タクスヘブンは最貧国(植民地)のみに許された(?)ものです。先進国は決してそこには行きません。それを利用しているだけですし それを作ったのが先進国です。
韓国への投資金額からも分かるように 英国は投資大国です。 それと保険、ロイズとか時々出てきますね。
やはり英国は大陸と絡むべからずですね。
「光栄ある孤立」時代の英国は、海軍力2位+3位国の倍となるロイヤルネイビーを常備して欧州大陸方面に対してのパワーバランサーを務めていましたが、現代の英仏独の3か国では、経済力は英<<仏+独ですし、海軍力も英≦仏+独(最近はドイツ海軍の稼働率が怪しいですが)です。しかも独仏がEUを牽引しているので、EU内での英国の発言力低下は避けられず、結果としてメルケル首相のスタンドプレーで始まった移民難民受入れという暴挙も止められませんでした。そしていよいよ流入してくると、移民問題への不満・不安を高め関心を持っていた英国民の一部が2016年の国民投票で無関心層よりも積極的に投票へ行ったのでしょう。そして、3年も経てば英国民の中でブレグジットに無関心・無知な有権者はほぼを消滅し、今回はとうとう離脱確定路線を表明する保守党を英国民は勝たせた、というのが個人的考察です。
とにかく日本としては、ここ2,3年は英国のゴタゴタ具合を忌避してフランスに急接近しているようでしたが(安倍=トランプ並に安倍=マクロンもお似合いかと笑)、これでアングロサクソンの親分たる英国ともようやくガッチリ手を握れる時が来たと思います。英国のTPP加入は大賛成ですし、日英同盟を復活させ(現時点でも準同盟国のような感じですが)、日英連携の更なる強化が両国相互の利益になる思います。
未熟な19歳男性さま
久しぶりの投稿ですね。
客観的な分析だと思います。
今後の日英関係の展望も含めて、エクセレントだと思います。また、投稿を楽しみにしています。
ありがとうございます
記事は毎日チェックしているのですが、皆様のコメントが早い、かつ言いたいことを分かり易く書かれてあるコメントが多かったので、なかなか入る隙というか、まあ僕がコメントしなくてもいいか…とサボり気味でした(笑)
今後の日英は、次期新型戦闘機開発で手を組むのでしょうか。個人的には日英ハーフの戦闘機を見てみたいです。英国製の航空機デザインは何かとユニークなので笑
未熟な19歳男性さま
返信ありがとうございます。
次期新型戦闘機開発に関しては、戦闘機好きな人が居ますので、レスしてくれると思います。
年取ると、累積した情報は増えますが、当然先入観になります。先入観は、限定した分野では有効ですが、客観的な思考を邪魔する事も有ります。
昔は、情報が偏っていたので、バランスも悪かったとも思います。貴方が生まれる前は、科学論文も紙ベースでしか存在せずに、手元に届くまで、何週間と言う時間がかかることが、普通でした。今では、論文検索で、大体の内容はリアルタイムで分かります。
今の方が、知識を蓄積するには効率的な環境にあり、結果的に客観的な物の見方を身につけやすいと思います。良いものは良い、悪いものは悪いという、判断が正しく出来る可能性も、十分有ります。
おかしな事も書いてますので、積極的に絡んで来て欲しいです。
未熟な19歳男性様
英国TPP加入は世界的に衝撃ですよね(笑) でもその可能性は大きいと思います。既にメイ首相の頃にこの話がありました。 何も進めない英国(日本で言うと民主党政権)が終わり 期待大です。
TPP拡大が日本の戦略のと私は思います。 その内米国が入れば BESTかな。
隣国はOUTですが、、、(笑)
返信ありがとうございます
ようやく方向がしっかり定まった英国がTPPという日本などの民主主義国家による環太平洋自由貿易同盟に加入すれば、中国やロシアへの牽制には充分使えると思います。英国加入によりアジア-英国間のシーレーン防衛の口実ができ、海上版一帯一路や北極圏航路で英海軍艦艇が堂々とパトロールすることも出来ると思います。ご指摘の通り、これでアメリカも入れば本当にBESTな組織になれると思います。
久々にコメントさせていただきます。
コメントはしていませんでしたが、記事は拝見させていただいておりました。
ある英国人がコメントしていましたが、『日本は北京に通貨発行権を有する銀行があり、ソウルに東亜の国際法廷があることに納得できるのか?イギリスもまた、欧州大陸にそうした機関があることに納得できない』
これはイギリス人の極めて保守的な考え方であり、日本人も納得するコメントです。イギリス人は、どう揉めようともこの考え方に回帰せざるを得ません。
ヘンリー8世・エリザベス1世は、カトリックが大陸からイギリスに介入することに我慢できずに、イングランド国教会を立ち上げました。日本が聖徳太子以来、中華歴代王朝への朝貢を通じてその冊封体制に入ることを拒否し続けたことと同じ意味があります。
これに納得できるのは、双方が海洋勢力であることの何よりの証明でしょう。
安倍総理、麻生総理の最後の大仕事は、イギリスをTPPに引き込む仕事になるでしょうね。
これを成さずして、総理の座を退けますか?
英国も昔日の大帝国の面影はありません。単独で『栄光ある孤立』を維持するだけの力量や自信はないはずです。
いよいよ日英同盟でしょうね。
中国に近付き過ぎるのは米国は
許さないでしょうが、英国なら
大丈夫でしょう
習を国賓なんかで呼ばずに
ジョンソンに来てもらっては
どうでしょう
EU離脱が実現すれば、それがモデルケースになります。それに続く国も出てくるのではないでしょうか。
離脱後に「離脱してよかった」となれば尚更です。
今後も注目したいと思います。
ドイツが主導した移民政策は酷いですよね。 ハンガリー、セルビア、クロアチアは大声(笑)を上げて欲しい。
現ドイツ首相はほんとうにひどい自分は思ってきました。東西分断時代の亡霊が首領をやっている。じっくりやるならともかく拙速な対応で欧州を壊してしまった人物として21世紀に記憶されることになるのではないでしょうか。