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不動産の稼ぎで「科学否定の硬派な新聞」発行しては?

先日の『朝日新聞社、単体の中間決算は営業赤字に転落』の「続報」とでもいうべきでしょうか。現代ビジネスというウェブサイトに、朝日新聞社が12月以降、45歳以上の従業員(とくにデスク、支局長といった層)を対象に、最大6000万円の退職金をチラつかせた早期退職を募集する、という話題が掲載されています。リストラクチャリングをうまく遂行し、経営体力を回復することは必要かもしれません。しかし、紙媒体の新聞販売に依存したビジネスモデルが限界を迎えつつあるなかで、いっそのことビジネスモデルの大転換も必要ではないでしょうか。

朝日新聞社の経営

単体営業損失の衝撃

当ウェブサイトでは先日、「朝日新聞社の単体中間決算が営業赤字に転落した」という話題を取り上げました。

朝日新聞社の決算短信によると、2019年9月までの半期における単体決算上、売上高は1208億円で、前年同期比で見ればむしろ3億円弱の増益だったのですが、営業利益段階では一気に3億円あまりの赤字に転落していることが確認できます(図表1)。

図表1 朝日新聞社の単体中間決算ハイライト
項目 2019年9月期 2018年9月期 増減
売上高 1208億28百万円 1205億55百万円 +2億73百万円
営業利益 ▲3億39百万円 9億62百万円 ▲13億01百万円
経常利益 19億33百万円 33億05百万円 ▲13億72百万円
中間純利益 128億01百万円 26億21百万円 +101億80百万円
総資産 4329億08百万円 4202億73百万円 +126億35百万円
純資産 2255億53百万円 2141億81百万円 +113億72百万円

(【出所】朝日新聞社の決算短信

営業利益が赤字ということは、「本業」であるはずの新聞事業をやればやるほど赤字になるという、非常におかしな事態になっている、という意味です。

もちろん、この朝日新聞社の決算自体、不可解な部分は多く、とくに売上高が約3億円増えていながら、営業利益段階で13億円もの減益になるということは、コスト(売上原価または販管費)が約16億円増えた、という意味でもあります(物流コスト・製造コストが劇的に上がったのでしょうか?)。

この点、残念ながら、大手新聞社で決算短信を開示している会社は朝日新聞社しか存在せず、物流コストなどに焦点を当てた他社(たとえば読売新聞社や日経新聞社)との比較分析もできないため、このあたりの実態についてはよくわかりません。

また、経常利益については19億円の黒字で、中間純利益は128億円という巨額の利益が計上されていますが、最終利益については連結決算で消えているため、おそらくこれは株主に対する配当金を支払うなどの目的のため、子会社に何らかの資産を売却したことで「益出し」をしたのだと考えて良さそうです。

不動産部門の利益を食い始めた?

もっとも、当ウェブサイトではいつも報告しているとおり、朝日新聞社は過去の利益の蓄積があるためでしょうか、有価証券などの金融資産に加え、都心部に優良不動産物件などを持っており、いまや不動産業で食っているような会社でもあります。

あらためて、連結決算を確認しておきましょう(図表2)。

図表2 朝日新聞社の連結中間決算ハイライト
項目 2019年9月期 2018年9月期 増減
売上高 1794億11百万円 1837億41百万円 ▲43億30百万円
営業利益 6億53百万円 30億02百万円 ▲23億49百万円
経常利益 29億69百万円 58億54百万円 ▲28億85百万円
中間純利益 14億28百万円 45億14百万円 ▲30億86百万円
総資産 6097億31百万円 6141億14百万円 ▲43億83百万円
純資産 3829億43百万円 3823億68百万円 +5億75百万円

(【出所】朝日新聞社の決算短信

いかがでしょうか。

営業利益水準は前期比23億円も減少しているものの、単体決算と異なり、一応は黒字決算です。とはいえ、やはり新聞などのメディア部門が不振であるためでしょうか、この数字だけを見る限りでは、不動産部門の黒字の足を引っ張り始めているのではないかとの疑念を払拭することはできません。

いちおう、朝日新聞社は不動産部門が堅調であるため、極端な話、不動産部門で黒字を出しながら、新聞・メディア部門の赤字を補填するということも可能なのですが、やはりなまじっか新聞部門の規模が大きいためでしょうか、営業損失の穴を埋めきれなくなっている可能性がありそうです。

「165万円賃下げ」はどうなったのか

このように考えると、いずれ新聞事業が赤字を恒常的に垂れ流すようになり始めるのも時間の問題ですが、こうしたなかで定期的に出て来るのが、朝日新聞社で賃下げだの、リストラだのが計画されている、といった話題です。

実際、今年5月には、朝日新聞社が従業員1人あたり一律で165万円の賃下げに踏み切ったとする説が出ていましたが(『「朝日新聞社が165万円の賃下げ」という報道のインパクト』参照)、ただ、上記の決算データで見る限りは、人件費を抑制したようには思えません。

なぜなら、朝日新聞社単独の従業員数は2018年3月期で臨時従業員を除いて4000人弱であるため、もし「年間165万円の賃下げ」が断行されていれば、単純計算で半年間に33億円(≒年間165万円×4000人÷2)前後の増益要因になるからです。

そうなると、朝日新聞社が人件費の値下げを断行しようとしたものの、従業員側の反発で先送りになった、といった可能性も出て来ます。本件については引き続き情報を収集する価値はありそうです。

朝日新聞社・希望退職説

最大6000万円の退職金も!

こうしたなか、同じ賃下げ・リストラに絡んで、先日はもうひとつ、興味深い記事が出て来ました。

朝日新聞、45歳以上の「早期退職」募集…退職金の「驚きの金額」(2019/12/04付 現代ビジネスより)

執筆したのは、ジャーナリストの松岡久蔵氏です。

松岡氏によると、朝日新聞社の従業員に対する取材をもとに、同社がこの12月以降、デスクや地方支局長などを狙い撃ちにした大規模な早期退職募集をかけると述べています。

ちなみに対象者は次の3月末時点で満45歳から59歳(勤続10年以上)の「バブル入社の大量採用組」で、早期退職に応じる場合、退職金上限は6000万円だとか(※ただし、年齢45歳だと「バブル入社組」には当たらないと思うのですが、この点についてはとりあえず突っ込まないことにします)。

といっても、この「最大6000万円の退職金」は一時金として支給されるのではなく、60歳までは年齢に応じて年収の4割程度の月額を支給し、60歳以降は定年まで毎月10万円を支給する(※なお、支給期間は最長10年)、というスキームだそうです。

そして、6000万円を満額もらえるのは、社内でもごく少数と見られるそうですが、それでも年俸1200万円で45歳の従業員であれば、その4割を12で割って、毎月40万円を55歳になるまで受け取り続けることができる計算です。

ただ、もしかすると退職後に同業他社に転職した場合には、退職金の支給が打ち切られる、といった条件があるのかもしれません(※松岡氏の記事からは詳細な条件はよくわかりませんが…)。

(※余談ですが、先ほどの「165万円賃下げ」説は、この松岡氏の記事にも出て来ています。)

良いリストラ、悪いリストラ

今回の朝日新聞社のリストラを、どう見るべきでしょうか。

あくまでも一般論で申し上げるならば、リストラには「良いリストラ」と「悪いリストラ」があります。

「悪いリストラ」とは、「誰でも良いから早期退職に応じてくれ」、といった形で早期退職を募集するという形態であり、この場合、優秀な人間から順番に辞めていく、という特徴があります。さらには、残った従業員にとっても、「うちの会社は将来がない」などという意識を植え付ける結果となりがちです。

多くの場合、若手の中には、「何であの人が辞めて、あの人は辞めずにしがみついているのか?」といった不満を抱く人も出て来るでしょうし、極端な話、優秀な若手であれば、潰しが効くうちに、さっさと同業他社(あるいは違う業界)に転身していくでしょう。

(※なお、個人的にはこの「悪いリストラ」に関連して、非常におもしろい経験をしたこともあるのですが、本稿でそれについて述べるのはやめておきます)。

これに対し「良いリストラ」とは、ターゲットを絞って辞めさせる、というタイプのリストラであり、しかもリストラ実施後に残った従業員に対しては賃上げによってモチベーションを引き上げる、という善後策がセットになっています。

この場合、残った従業員に対しては、自分たちがその会社に残ったことで自身を植え付け、さらに賃上げをセットにすることで、「一緒に頑張って、これからこの会社を盛り立てて行こう!」と鼓舞する効果があるのです(※外資系企業だと、こちらのタイプのリストラが多いと思います)。

ジリ貧への道

いずれにせよ、報道されている記事を読む限り、朝日新聞社のリストラは、「悪いリストラ」です。

どんな組織でも人材が大事ですが、希望退職を募れば、「社外に出てもやっていける」という自信がある人から順番に出ていくのは当たり前の話だからです。

今の時代だと、文章力に自信があれば、それこそフリーランスで『現代ビジネス』を含むさまざまなウェブサイトに論考を寄稿することで稼いでも良いでしょうし、べつに新聞記者でなくとも、自分自身でブログなり、ウェブ評論サイトなりを開いて情報発信をする、というやり方もあります。

(※もっとも、その文章が世の中から評価されるかどうかはまったく別の問題ですが…。)

行き当たりばったりでビジョンのない賃下げやリストラを繰り返していれば、一時的に新聞事業のキャッシュ・フローは改善しますが、櫛の歯が抜けるように優秀な人材がいなくなることで、組織としての体力は確実に低下していきます。

朝日新聞は2019年3月末時点で公称576万部程度の部数を誇っていることになっていますが(図表3)、それと同時に朝日新聞朝刊の部数は毎年4~6%ずつ減っており、この減少ペースがあと5年もすれば400万部を割り込むのは確実です。

図表3 朝日新聞の部数

(【出所】株式会社朝日新聞社・有価証券報告書より著者作成)

いや、現在の576万部という部数には、かなりの「押し紙」(実際には販売されていない部数)が含まれているという噂もありますし(一説によると3割が「押し紙」だそうです)、押し紙を除外した5年後の部数は300万部割れも視野に入って来ます。

また、インターネット化の進展がさらに加速する場合、紙媒体の新聞の減少率がは、年間5%では済まなくなる可能性もあるでしょう。

万が一、ここに広告主からの「押し紙訴訟」が相次ぐような事態が発生すれば、最悪の場合、リストラが間に合わず、いかに朝日新聞が優良資産を抱え込んでいるにしても、資金繰りに窮するような事態も発生するかもしれませんね。

割り切りが大事!?

個人的な感想を申し上げるならば、朝日新聞社はせっかく優良な不動産物件をたくさん持っているのですから、今後は不動産を本業と割り切って、不動産の稼ぎの余りを使って、趣味の世界で「徹底的に科学を否定する硬派な新聞」を刊行すれば良いと思います。

あれは不動産屋が発行する「科学否定のオカルト紙」?(2019/10/21 05:00付 当ウェブサイトより)

極端な話、不動産事業の足を引っ張らない限り、新聞事業は赤字でも構いませんし、いっそのこと紙媒体の新聞の刊行をやめてしまい、ウェブに特化して、ブログっぽく無料で記事を配信して広告収入で稼ぐ、というのも良いかもしれませんね。

優秀な人間は新聞部門(新聞記者、新聞営業担当者)ではなく、不動産部門に配属すべきであり、今後は不動産の経営、維持、管理に特化して優秀な人材を多数採用すべきと思うのですが、いかがでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (26)

  • 更新お疲れ様です!

    ノキアは色々中核事業を置き換えているようですし、朝日新聞が中核事業を置き換えるのは良い事だと思います。

    朝日新聞の経営陣の「賢明な判断」が望まれますね!

  • 新聞の拡張員とのやりとり。

    私「申し訳ない。私は朝日新聞のようなねつ造記事を書く新聞は絶対に読まないのでいりません。」

    拡張員「分かりました。でもスーパーのチラシとか便利な情報を沢山挟んでるんでとりませんか?」

    私「月々4000円を払ってスーパーのチラシをとって欲しいと言う意味ですか?そして毎回分厚い余計な物ついてくる。それって罰ゲームですか?」

    拡張員「ですよねー。申し訳ありませんでした。本末転倒ってこの事ですね。気持ちが変わって、朝日新聞も良いかなってなったらご連絡ください。」

    って言うのを最近した覚えがあります。

    • 歳をとっていくら人間がまるくなっても、絶対に朝日新聞も良いかなって気持ちにはならないだろうな。
      まともな取材もせずに、デタラメを書いてる新聞なんて。

  • ここで更に追い打ちをかけるように、新聞の軽減
    税率取りやめる事にしたって話をしたら、

    「僕たち軽減税率対象にされる代わりに、あまり消費増税の事を書かないって密約があったから書かなかったのに!
    嘘つかれた。」ってなるんだろうな。

  • 毎日の更新お疲れ様です。いつも興味深く読ませていただいてます。

    「個人的にはこの「悪いリストラ」に関連して、非常におもしろい経験をしたこともある」とありますが、ぜひその経験を記事に起こしていただけませんでしょうか?「どんなリストラがいいのか」と同じ位、「こういうリストラはだめだ!」というのは勉強になると思います。
    ご検討いただけましたら幸いです。よろしくお願いします。

  • 更新ありがとうございます。

    趣味の世界で「徹底的に科学を否定する硬派な新聞」を刊行すれば良いと思います。

    書店に置かず通販とかで、マニアックな狂信的左傾本の月刊誌、日本に残る防空壕や工場跡地や寮を強制的に入れさせられた痕跡とかデッチ上げ集会、又は北朝鮮ツアー(軽労働付)等、企画してはいかがですか。

    新聞販売と、不動産業とは利益のケタが違います。私が定年まで勤めた企業も、新聞やマスコミではありませんが、本体は経常利益はほぼ0、無理矢理会計士さんによる指南?で十億円台の発表はしてますが、売上対経常利益率は1%無い。

    半して、系列の不動産業はリーシングが好調で本体を遥かに凌ぐ利益を出してます。同じくクレジットも好調、今や新卒の優秀層はそちらを希望します(笑)。

    本体に居るのはデキの悪い社員と定年を控えた予備役(笑)です。朝日新聞は実質300万部切ったら、東京、大阪だけにして最後の抵抗をすると思います。

  • 紙の新聞って、つまるとこ広告用の媒体なんでしょうね 全国向けは紙面で、地域向けは折り込みでって感じかな テレビも似たようなものだけど、地域向けが新聞より広くて県単位って感じなのかな

    その収入で、日々の記事やら論説やらを載せてる訳なんだと思うのです

    広告はネットに行って、論説もまぁもしかしたら書籍なんかにまとめたら収入になるのかもしれないけど、日々の記事はどうなのかな? 
    あると便利だし、いろんな基礎だからないと困ると思うのです でも、それだけにあまりお金をかけたいとは思わないし・・・・
    それこそNHKがネット事業するなら、受信料なんかじゃなくて、税金で、いろんな官公庁とか団体・企業なんかの発表ものとか、その他いろいろ記録を収集・整理するみたいな仕事が必要な気がするのです
    ここまで書いて、NHKじゃなくて、図書館みたいなとこでも良いような気がしてきたのです

    受信料も税金みたいなものだし、それを辞めて、目的税みたいなの作って図書館業務の拡充して、
    で、記録収集に反対する人が過激化して、図書館戦争みたいになって・・・・・

    なんか、ワクワクしてきたのです♪

    脱線ごんなさいでしたm(_ _)m

  • 素朴な疑問ですが、そもそも朝日新聞に「優秀な人材」っているのでしょうか。
    事実に基づいて客観的な記事を書くような記者は、経営陣から見て一番使えない人材ではないでしょうか。

    • 書き物するときに私情とか先入観を排除するって、実はとっても難しいことですよね♪

    • いるにはいるんじゃないですかね。
      私の所感では一定規模以上の組織はできる人できない人の割合が均質化しているように思います。
      今回の再構築の判断とて兆候の段階は過ぎていますが、早期に外科的手法を断行するとはなかなか侮れません。なにより当座それを可能とするだけの資産を蓄積した経営手腕(新聞社経営ではなく)は素直に評価したいところです。
      気になるのはその次、幹部クラスの特定思想に凝り固まった人々を排除した後です。ものわかりの悪い方々を排除した結果、朝日新聞の紙面はどちらに向くのでしょうか。
      馬鹿を排除すれば従来の極左を志向する筈もなく、かといって中道左寄りに軌道修正すればハードコアな客層から非難は必定です。
      個人的には中長期で収益化が厳しいセグメントを延命できるほど猶予はない気もしますが、今回の施策で変革を余儀なくされる朝日新聞、そしてそこに残った人々の生存戦略に注目です。

    • 民主党政権が発足した年に悪いリストラをやらかした会社をいちはやく抜けて百姓化した私が通りますよ

      はともかく、牧野愛博ソウル支局長 などはお耳にしたことはありませんか?牧野氏ご本人の思想は存じませんが、韓国政府絡みの取材力(都合の悪い裏事情まで)は相当なようですね。

      中日・東京新聞では長谷川氏ですとか。ウルトラレフト紙なので、大勢が左壊滅なんて事態になったときのための保険で繋ぎとめている…とかなんとかは噂レベルですが。

      かりにも最大手(あ失陥してましたっけテヘペロ)の大企業ですし、全員ボンクラだということはやはり無いようです。

  • 更新ありがとうございます。

    >「科学否定の硬派な新聞」

    科学を否定する時点で内容が想像の埒外ですね。
    オカルト分野だって科学的検証を交えるから面白いのであって、それがなければせいぜい怪談話か出所不明な予言書です。

    リストラは事業内容の不調を反映しているので朗報と言えるのですが、事業内容そのままで人を減らすというのは、元々人が余っていたか質を落としていくかのどちらかでしょう。
    新人を雇用して若返りを画策しているとしても、朝日新聞入社を目指す新卒ってわかってて入社しますよね。どんどん先鋭化する未来しか見えない。

  • 10月ABC部数
    朝日:5,379,640
    毎日:2,317,522
    読売:7,933,596
    日経:2,292,118
    産経:1,363,010

    8月
    朝日:5,421,982
    毎日:2,331,493
    読売:7,945,137
    日経:2,293,805
    産経:1,361,847

    公称発行部数があまり減っていないのは、10月の数値を基に、広告主と半年先までの契約交渉をする為らしいです。

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