「雇用が失われ、輸出が低迷し、順調にデフレ化する韓国経済…」。どうも隣国がデフレに陥りつつあるようです。日本のように「基礎体力のある国」ですら、デフレで「失われた20年間」に苦しんできたなか、隣国のように「基礎体力のない国」がデフレに陥ったらいったいどうなるのかについては、経済事象としては非常に興味深い点です。おりしも今夏、『失業率が低いはずの韓国で「若者の4分の1がニート」』のなかで、「どうも韓国の失業率統計が信頼できないのではないか」と申し上げたのですが、デフレという状況を眺めていると、こうした当ウェブサイトなりの問題意識が正しいという証拠に思えてならないのです。
デフレとは?
先月掲載した『数字で読む日本経済』シリーズでは、「国の借金」についてひとしきり議論したのですが、その際、「インフレ・デフレ」について簡単に触れました。
経済学の原理に従えば、世の中のありとあらゆる財やサービスの値段は、需要と供給の関係で決まりますが、これはおカネであっても同じことであり、
- おカネの供給量が需要に比べて少なすぎればおカネの値段が上がる(=物価が下がる、すなわちデフレ)
- おカネの供給量が需要に比べて多すぎればおカネの値段が下がる(=物価が上がる、すなわちインフレ)
という関係にあります。インフレ、デフレの議論と「なぜ2%のインフレが望ましいか」という点については、『国債を圧縮する王道とは、インフレと経済成長の達成だ』で議論したのですが、これについて簡単に振り返っておきましょう。
ここで出てくる疑問とは、
- ①インフレとデフレ、経済成長にとってはどちらが望ましいのか。
- ②インフレならばどのくらいの水準が適切なのか。
という点ですが、このうち①については経済成長との関係で議論されることが多いです。
たとえば、GDPが年間3%ほど伸びたとすれば、経済がそれだけ大きくなったという意味ですが、人々の給料(可処分所得)が少しずつ増えていくためには、モノやサービスの値段も少しずつ増えなければいけません。
ちなみに「経済成長したからインフレになっている」のか、「インフレになったから経済成長している」のかをめぐっては、経済学者の間でも諸説ありますが、個人的にいちばん自然な説明は、「モノの値段が上がるから、今のうちにモノを買っておこう」という心理でしょう。
たとえば、今年ならば10万円で買える冷蔵庫があったとします。
そして、これが来年になると確実に10.2万円に値上がりするとわかっていれば、冷蔵庫の調子が悪いと感じている人は、こうした値上がりが背中を押す格好となり、「思い切ってもう今年、冷蔵庫を買っちゃおうか」と決断しやすくなります。
しかし、ゼロ%インフレやデフレという状況にあったとすれば、話は変わって来ます。現在10万円の冷蔵庫が1年後に9.8万円に「値下がり」するとわかっていれば、多少、冷蔵庫の調子が悪くても、「もう少し辛抱するか」と考える人が増えます。
このため、一般に経済にとってはデフレは好ましくなく、適度なインフレ状態となることが望ましいとされています。
最適なインフレ水準は2%前後
インフレ率がプラスであることが望ましいとされる理由は、それだけではありません。インフレ率が失業率と密接な関係を持っていることが知られているからです。
これは、経済学者のフィリップス(1914-1975年)が発見した関係で、「失業率が高い年は賃金が横ばいまたは下落していること」、「失業率が低い年に賃金が急上昇していること」という事実をグラフ化して説明したものです。
フィリップスが発見したこの関係は、のちに「フィリップス曲線」と呼ばれるようになり(図表1)、現在では失業率とインフレ率にも密接な関係があるということが示されています。
図表1 フィリップス曲線(イメージ)
(【出所】著者作成)
この関係は、国によっても微妙に違いますが、事実として「失業率とインフレ率には負の相関関係がある」という点については繰り返し示されており、中央銀行が金融政策を採用する際に、望ましいインフレ率水準を意識するのも、こうした観測事象があるのです。
そして、以上を踏まえたうえでの「最適なインフレ水準」については、多くの経済学者・中央銀行関係者の見解は一致していて、答えは「だいたい年間2%ていどのインフレが望ましい」とされています。
実際、主要国の中央銀行もだいたい「2%のインフレ目標」を政策目標に掲げていて(たとえば米FRBや欧州中央銀行など)、政策金利などの手段を使ってインフレ率を2%に誘導しようと苦心しています。
なお、米国のFRBの場合は、政策目標に「2%インフレ率の達成」と「雇用の最大化」が入っていますが、これもフィリップス曲線を念頭に置いているとされています。
(※なお、インフレ率を無限に高めるなどして、失業率を無理やりゼロ%に持っていく、ということはできません。これが「自然失業率」の概念ですが、詳しくは『国債を圧縮する王道とは、インフレと経済成長の達成だ』あたりをご参照ください。)
隣国がデフレとは!
こうしたなか、なかなか興味深い現象を発見しました。
韓国の物価指数が、前年同月比でマイナスに突入することが増えて来たのです。
ためしに、韓国銀行のデータダウンロードサイトから「全品目消費者物価指数(CPI)」と「GDPデフレーター」の2つの指標をダウンロードし、それぞれ前年同期比を取ったグラフを眺めてみましょう。
(図表2~図表5)。
図表2 CPI(1994年11月以降、月次データ)
図表3 CPI(2014年11月以降、月次データ)
図表4 GDPデフレーター(2001年9月以降、四半期データ)
図表5 GDPデフレーター(2014年9月以降、四半期データ)
(【出所】韓国銀行データ。図表2と図表3は “7.4.2 Consumer Price Indexes (2015=100) (All Cities, Special Groups)” 、図表4と図表5は “10.2.3.1. GDP Deflator by Economic Activities (not seasonally adjusted, quarterly & annual)” よりそれぞれ著者作成)
図表2と図表3がCPI、図表4と図表5がGDPデフレーターであり、また、図表2と図表4が長期データ、図表3と図表5が直近5年間のデータです。
CPIは8月と9月にマイナス、デフレーターはマイナス
これをみていただければ一目瞭然ですが、CPI、GDPデフレーターともに、最近、前年同期比が非常に低い値(あるいはマイナス)になっています。
より細かい実数でいえば、CPIについては2019年8月にマイナス0.04%、9月にマイナス0.43%を記録しており、また、GDPデフレーターについては2018年第4四半期以降、マイナス基調が続いています。
CPI(前年同月比)
- 2019年11月…+0.15%
- 2019年10月…±0.00%
- 2019年09月…▲0.43%
- 2019年08月…▲0.04%
- 2019年07月…+0.61%
GDPデフレーター(前年同期比)
- 2019年09月…▲1.63%
- 2019年06月…▲0.68%
- 2019年03月…▲0.50%
- 2018年12月…▲0.10%
- 2018年09月…+0.18%
GDPデフレーターがマイナスとなるのがいつまで続くのかはわかりませんが、とりあえず2019年10月以降のCPIはゼロまたはプラス基調に戻っているため、GDPデフレーターのマイナス化は一時的なものだ、という見方もできるのかもしれません。
1998年のアジア通貨危機当時のCPI
ここで、図表3をもう一度眺めてみると、韓国のCPIがマイナス近くに落ちた時期が過去にあったことがわかります。それが、プラス0.17%にまで落ち込んだ1999年2月のことです。この前後のデータを抜き出すと、次のとおりです。
CPI(前年同月比)
- 1999年05月…+0.76%
- 1999年04月…+0.42%
- 1999年03月…+0.51%
- 1999年02月…+0.17%
- 1999年01月…+1.46%
ちょうどアジア通貨危機直後の「IMFショック」の時期ですが、現在の韓国の物価水準は、このIMFショック時点よりもさらに悪い、ということでもあります。
フィリップス曲線と物価
折しも昨日の『中国向け輸出低迷 韓国の輸出が12ヵ月連続で不振に』で、中国に対する輸出高に急ブレーキがかかっていることを主因として、韓国の輸出高が12ヵ月連続で前年同月比割れを起こしている、という話題を紹介したばかりです。
経済における輸出依存度が高いにも関わらず、中国向け輸出が低迷していること、国内的には文在寅(ぶん・ざいいん)政権による最低賃金水準の強引な引き上げによって雇用が失われていることなどが、これから韓国経済にどのような影響を与えるのでしょうか。
先ほど、「フィリップス曲線」という議論を紹介しましたが、一般にデフレ状態では高失業状態が実現しています。
『失業率が低いはずの韓国で「若者の4分の1がニート」』でも報告したとおり、どうも韓国の失業率統計は信頼できないのですが、CPIやGDPデフレーターが低迷しているという統計データを合わせて考えるならば、やはり韓国経済はあきらかに「デフレ+高失業」の罠に陥りつつあるように思えてならないのです。
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更新お疲れ様です。
ここは一発、戦争を始めて失業者に兵士としての職を割り振るしかないかもですねw
米韓同盟があろうと北や中国には戦争を仕掛けられない韓国ですが、米韓同盟が無くなれば日本相手に宣戦布告しかねないマジキチメンヘラリスカブスじゃないかと期た…じゃなくて懸念して。
韓国は序列としては日本を下に見てますが、日本の実力は怖がってると思うので、口では攻撃でも戦争は仕掛けて来ないとは思われます。
余計なちゃちゃ入れてごめんなさいね^^;
価値観が違いすぎる さま
横から失礼します。
論理的でない決断こそ、半島の面目躍如ではないでしょうか。(大日本帝国軍も、論理的に考えれば勝てない戦争を始めちゃいましたし)
日本に大災害が起きたときに、「今だ!」と侵攻してくる可能性は排除できないと思います。半島が統一されて、民族の核でも手に入っていれば、猶更でしょう。
クロワッサン様
うみ〜 逝かばぁ〜 水浸くぅ〜 朝鮮人〜♪🐧
やま〜 逝かばぁ〜 草むすぅ〜 朝鮮人〜♪🐧
捏造〜のぉ〜 辺にこそ〜 死ぃなぁべぇ〜♪🐧
のどには 死なじいぃ〜♫🐧
新宿会計士様、いつも興味深い情報をありがとうございます。
韓国がデフレ経済突入ということは、取るべきマクロ経済政策としては金融緩和、特にGDPデフレーターや消費者物価上昇率がマイナスとなれば、ゼロ金利、それでもだめなら実質金利をマイナスにするために量的金融緩和やマイナス金利という、今、日銀が行っている金融政策をそのまま実施するほかない、ということになります。
しかし、日銀と同様の金融緩和をやれば金利がゼロ又はマイナスになりますので、資本流出が加速して通貨危機を引き起こしてしまいます。といって、このままずるずるとデフレ不況に陥るのを見るだけというのも、耐えがたいかと思われます。
日本のような成熟した債権国となった後にバブル崩壊と長期のデフレ不況を経験し、不良債権処理という大変な痛みを伴う構造改善を終えた後に、2013年からの日銀の量的金融緩和を迎えたのとは条件が全く異なります。
特に、韓国の場合、ソウル首都圏での不動産バブルがいまだに解消されず、不動産は値下がりしないという土地神話がしぶとく残っている状態ですから、今回のデフレ不況の影響は、97年の通貨危機時とは比較にならないほどのインパクトがあり、短期に表面化するなら大クラッシュ、長期にじわじわと来るならば、失われた〇十年という、どちらにしても大変な経済状況に陥いる、というところではないでしょうか。
とある中年おじさんさま
おっしゃる通りです。
これに、家計債務問題もありますので、大クラッシュを期待してやみませえん。
私は経済に詳しくないのでよくわからないのですが、他のサイトを見ると韓国での体感的な物価は上がっているみたいですね。(当然人びとの生活は苦しくなります)
直接のニュースソースは見られなかったので「わらかん」様のサイトを貼らせていただきます。
http://www.wara2ch.com/archives/9423245.html
しきしまさま
このニュース読みました。
最低賃金上がって、外食費が上がっていならば、解るんですけどね。
食料品と衣料品が高いためであると分析されちゃうと、解らないですね。
しきしま 様
小生の感覚では、インフレ感の方が強いです。
まず、交通費の値上げ(タクシーやバス等)があり、外食費も高くなっています。いつも朝食にしているサンドイッチも10%程度値上がりしています。
小売価格も卵が僅かに値上がりし、海産物や肉類(特に豚肉)は値上がりしています。農産物に関してはあまり変化がないように見えます。
マクロ的にはデフレでも体感的にはインフレという感じですね。
駄文にて失礼します。
又、韓国レポート、お願いします。
韓国在住日本人 様
ありがとうございます。
現地に住んでおられる方のお話は大変参考になります。
日本のデフレでの実感ですが本当に欠かせないものは安くならないんですね。
で、我慢出来る待てるものは安くなる。でも買わない。買えない。
さあお待ちかねの「日本型不況」がやってまいりました。
じきによくなるって待ってても日本の経験のとおり20年は少なくとも失われます。
日本には「アベノミクス」という処方箋ありますけど参考にします?
まあ、量的緩和とかマイナス金利とかは国際通貨じゃないウォンには無理ですけどね。一気に通貨危機、ハイパーインフレがやって参ります。
最終的にスタグフレーションになってニッチもサッチもになるんだろう。
勝手に赤化するのは良いけど今の発展を自分達のみでなし得たって思い込んでる時点で愚か過ぎる。
一生懸命日本隠しをして、国民には反日教育しても国としての中身も歴史も技術、研究もできない。張り子の虎なんですよ。
更新ありがとうございます。
韓国がデフレ!そらそうでしょう。あれだけ若い子がニートなんだから。25%でしたっけ。コンビニの店員も最低時給以下が江南区以外は多いとか。
また、韓国の失業率統計は信用出来ません。というか、あらゆる数字、都合の悪い事は改竄してます。だから最終合わない(笑)。文の無茶苦茶な政策が大当たりですね!
このまま沈めッ。日本はボートも救命ブイも出さんから。自力でガンバ!(笑)。
>めがねのおやじ様
>ボートも救命ブイも出さんから
流れ着いたり、脚に絡み縋って来ますよ。
自分達がして来た事は、さて置いて…
1/4がニートなのは、就職先(財閥かそうでないか)による、所得格差や雇用状況(ブラックかどうか)が大きく、一概に景気のせいとみるか、国民性のせいとみるか、微妙と思ってます(子供が大企業に就職するのが、一番名誉だと思ってるようです)。
韓国が、デフレに突入しているのは、数字上明らかで、人口オーナスの観点から、もう高度経済成長することは、無いでしょう。
日本の場合は、デフレで通貨高と言った、普通のデフレでしたよね。
デフレでも→ウォン安による(ハイパー)インフレと思っているんですが、どうなるんですかね。
物価が下がったまま、通貨が安くなると、一時的に企業収益がものすごく悪くなるような気がするんですが。
その後に物価が急上昇して、スタグフレーションになる?
どなたか、専門家の方が見解をお示しいただけると幸いです。
教科書的な考えですが、スタグフレーションの発生原因のひとつはコストプッシュインフレ型です。縦軸に物価、横軸にGDPをとって、右下がりの需要曲線と右上がりの供給曲線を描くと両者の交点でGDPと物価が決まります。ここで、何らかの要因で、需要曲線は変わらないが、供給曲線だけが左にシフトすると、両者の交点は左上にシフトし、GDPが減少して物価は上がります。これが物価上昇と不況(GDPが減少)の併存というスタグフレーションです。
韓国に当てはめると、デフレ不況→金融緩和→金利低下→ウオン下落(暴落?)→輸入物価上昇(暴騰?)→企業のコスト上昇→企業の製品・サービスの値上げ→消費の減少→不況がさらに深刻化・・・以下繰り返し、というパターンかと思います。
日本の場合、日銀の異次元金融緩和で、デフレ不況→(異次元)金融緩和→金利低下(マイナス金利)→円安までは上手くいきましたが、輸入物価上昇以降のプロセスがまだ働いていないため、いまだに日銀のインフレ目標である2%にさえ到達していません。
韓国と日本の経済基盤の差といってしまえばそれまでですが、新宿会計士様のご指摘のとおり、貿易依存率の高い韓国において中国という主要輸出先が米中貿易戦争で頼りにならなくなりつつある中、ウオン暴落による通貨危機が迫っている韓国の現状を考えますと、ウオン安→韓国の輸出増加→景気回復というウオン安のプラス効果が顕在化するはるか前に、輸入物価上昇→消費不振→不況深刻化というマイナスプロセスと、ウオン安による外資大量に流出による通貨危機による第2の国家破産という可能性の方が高いのではないかと思います。
つい最近のニュースで、韓国ソウルの物価は東京より遥かに高いというのを見ました。
でもデフレなんですね…。
最低賃金上げれば物価も上昇していくのが普通だと思ってましたが、いろいろ複雑なのですね。
お題とはズレているのですが、中国の王毅外相が訪韓して、韓国に進退を問うそうです。
アノニマスポストさんからのご紹介記事です。
中国外相、あす「警告状」持参で来韓
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2019/12/03/2019120380054.html
中国もアメリカとの交渉とか、香港問題とか、韓国どころじゃないでしょうに。
あの国は、味方にしても、すぐに裏切りますよ。
「韓国経済が崩壊する!」は正直、食傷気味です。
それよりは、「なぜ韓国経済はなかなか破綻しないのか」の方が興味深いと思いますよ。
りようちんさま
その通りですね。
ここ数年で貯めた、半導体の貯金が効いているのだろうと思います。
ピンチの時に投資してくれる国が意外と多いとか?
何となくですが、韓国の経済が怪しくなっても、外資による資本支配に基づく利益搾取〔配当・部材調達の強要ほか〕の構図が神の見えざる手によって最適化されていたからではないのでしょうか?
きっと、どこの国にも「韓国の不法行為に甘んじてでも自らの利益搾取を優先する勢力」が存在するってことなのだと思います。
けれども、現況では搾取の供給源であった経済成長が滞りつつあるのですから、妙味の薄くなった投下資本は遅かれ早かれ回収対象とされてしまうのかもしれないんですけどね。
*韓国政府が発行する「外貨建ての外国為替平衡基金債券」や韓国銀行が発行する「通貨安定証券」への出資者ってどんな人たちなんでしょうね。一般公募なんでしょうか?