先週末の「GSOMIA騒動」が落ち着くにつれて、今後はいったいどうなるのか。韓国には「水に落ちた犬を叩け」ということわざがあると聞きます。「GSOMIAを巡る失態」が、任期半ばを過ぎた文在寅政権に対するバッシングに転化するのかどうか、あるいは「ろうそくデモ」で引きずりおろされた朴槿恵政権の轍を踏むのかについては、今週以降の動きによって見極める必要があります。個人的には、まずは菅義偉内閣官房長官が、韓国政府の先週末の発表に対してどのような反応を見せるかに注目したいと思います。
GSOMIA後の議論が始まる
韓国側が秘密軍事情報保護に関する日韓協定(いわゆる日韓GSOMIA)の終了通告を土壇場で撤回した件については、当ウェブサイトでは『韓国の「GSOMIA瀬戸際外交」は日本の勝利だが…』、『土曜日の鈴置論考とGSOMIA騒動の「本当の教訓」』などで議論したとおり、端的には
「日本の外交的勝利」
です。
なぜなら、韓国政府側は「韓日GSOMIAの破棄を撤回するためには日本が輸出規制(※輸出管理適正化措置のこと)を撤回しなければならない」と述べていたにも関わらず、日本は輸出管理適正化措置を一切撤回することなく、韓国側が日韓GSOMIA破棄を一方的に撤回したからです。
また、日本政府は今回の輸出管理適正化措置に関連し、「韓国の」輸出管理体制に関して韓国との(※「協議」ではなく)「対話」に応じると発表しましたが、これは日本側が輸出管理適正化措置を発動する以前から、ずっと韓国側に呼びかけ続けたものであり、日本の譲歩ではありません。
これに加えて日韓GSOMIAはいちおう延長されたものの、今回の件で韓国は同盟国である米国からの信頼を失ったと見られるほか、日韓GSOMIAを破棄しなかったことで中国や北朝鮮をも失望させるという意味で、周辺国との関係をあらかた損ねる格好となってしまいました。
さらにいえば、今回の文在寅氏の行動は、韓国国内的にも、これまでの「岩盤の支持層」だったはずの左派・親北派を失望させる結果になったようですし、もともと文在寅氏に敵対する保守派は、これによって政治的な立場を強めたのではないでしょうか。
こうしたなか、本日以降は菅義偉内閣官房長官が定例の記者会見で今回の日韓GSOMIA破棄撤回についてどう説明するかが見物ですし、韓国側からは内閣改造などの動きも出てくるでしょう。
文在寅政権がぐらつき始めるか?
こうしたなか、さっそく「GSOMIA後」の動きが出始めています。『韓国政府、「安倍は良心の呵責はないのか!」と逆ギレ』で「速報」したとおり、韓国政府は昨日、日本が「勝利宣言」を行っていることについて、「良心の呵責はないのか~!」と「逆ギレ」(?)してきました。
その具体的な情報源については昨日示したため、本稿では繰り返しません。
ただ、裏を返して言えば、韓国政府からそのような発言が出て来ること自体、文在寅氏がかなりの窮地に追い込まれている証拠ではないでしょうか。
冷静に考えてみれば、米国は韓国に対し、「仮に韓国が日韓GSOMIAを破棄すれば、米国は韓国が中朝の側に立ったものと判断する」といった趣旨のことを警告し続けていました。ということは、韓国が日韓GSOMIAを破棄して喜ぶのは、中国と北朝鮮だ、ということです。
おそらく、中国や北朝鮮は、韓国が日韓GSOMIAを本当に破棄することを期待していたのではないでしょうか。もしそうだとすれば、韓国がこれを土壇場で撤回したことで、中国や北朝鮮は深く落胆したに違いありません。
そして、得てして落胆は「怒り」に変わりやすいものです。
とくに早期の制裁緩和を期待している北朝鮮にとっては、金剛山(こんごうさん)観光事業や開城(かいじょう)工業団地事業の再開、南北鉄道連結などの諸プロジェクトが昨年から「たなざらし」状態のまま動いていないことに対し、相当の怒りを感じているのではないでしょうか。
ちなみに『なぜ韓国はロシアに火器管制レーダーを照射しないのか』でも報告したとおり、北朝鮮は現在、金剛山に韓国が作った施設を撤去するなどと発表していますが、これなども北朝鮮が「得意」とする瀬戸際外交の一種と見るべきでしょう。
日本政府の態度は驚くほど冷淡
さて、中朝両国の不興を買ってまで日韓GSOMIAを維持した文在寅政権は、これによって日米両国からの信頼を回復したのかどうか、という点が気になります。
結論からいえば、「NO」でしょう。
そもそも日本は韓国に対し、昨年の「自称元徴用工判決」に代表される不法行為の数々に辟易しており、日韓GSOMIA破棄を巡っても、日本政府の態度は驚くほど冷淡でしたし、先週金曜日に韓国がこれを撤回した際も、官邸、防衛省、外務省などはほとんど反応していません。
それどころか、土曜日にはこんな会談もありました。
日韓外相会談(令和元年11月23日)(※抜粋)
茂木大臣から、日韓間の最大の課題である旧朝鮮半島出身労働者問題について、現金化が行われれば、日韓関係がさらに深刻になる旨述べ、韓国側の責任で、国際法違反の状態を早急に是正するよう強く求めました。さらに、両国関係が厳しくとも、経済関係や民間交流に影響を及ぼしてはならないとのメッセージを共に発信していくことが重要である旨述べました。
茂木敏充外相は土曜日、日本を訪れた康京和(こう・きょうわ)外交部長官(※外相に相当)に対し、日韓GSOMIA破棄の撤回についてはほとんど触れず、自称元徴用工問題で現金化が行われれば、日韓関係は「さらに深刻になる」と通告。
そのうえで、「韓国側の責任で」、国際法違反の状態を是正せよと述べたそうですが、これらの下りは明らかに、これまでの日本政府の発言とまったく同じものです。
あれ?日本国内にも当初、
「韓国側が日韓GSOMIA破棄を撤回したからには、日本政府も何か譲歩をしたはずだ」
と述べている人たちがいたような気がしますが、気のせいでしょうか?(笑)少なくとも茂木外相の発言からは、日本政府の対応が何か変わったという証拠はいっさい見られません。不思議ですね~。
ちなみに日本国内でも「文喜相(ぶん・きそう)国会議長が提案した基金案に乗っかるのが良い」などと主張している政治家が約1名いるようですが、この人物には、「寝言は寝てから言うべきものです」とだけ申し上げておきたいと思います。
安倍首相と会談した河村氏「徴用解決策は『文喜相氏の案』しかない」(2019.11.22 10:32付 中央日報日本語版より)
反日が反米に、親文在寅が反文在寅に転化する!
さて、韓国は米国との関係で、さらに困ったことになりそうです。
まず、短期的には在韓米軍駐留経費負担の問題です。
在韓米軍駐留費協議が物別れ トランプ氏の大幅増額で対立(2019.11.19 17:53付 産経ニュースより)
先週、すでに報じられているとおり、年内に終了する在韓米軍の駐留経費負担に関する米韓の協定を巡っては、いったん米国側が席を蹴る形で交渉が事実上の物別れに終わっています。
おそらく韓国が急転直下、日韓GSOMIAの延長を決めた理由は、米国からかなり厳しい脅し(経済制裁?)をチラつかされたからではないでしょうか。このように考えると、米国は同じ手法で強引に駐留経費の大幅な増加を韓国に呑ませる可能性があります(さすがに5倍増はないと思いますが…)。
そして、仮に文在寅政権が駐留負担の大幅増を呑めば、そのことが文在寅政権の支持層にさらなる落胆を生じさせ、韓国国内では「反日」が「反米」に転化し、文在寅支持層が「反文在寅」に化けるという展開も予測しなければなりません。
次に、駐留経費負担を何とか乗り切ったとしても、次に控えているのは米国の「自由で開かれたインド太平洋構想」への参加という「踏み絵」です。そのヒントになるのが、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に昨日掲載された、次の記事でしょう。
康京和長官、米サリバン副長官と会談…「米国の建設的役割要請」(2019.11.24 10:55付 中央日報日本語版より)
これによると、名古屋でサリバン副長官と会談した康京和氏は、「韓国の新南方政策と米国のインド太平洋戦略間の調和の取れた協力を持続・発展させていく」ことで合意したそうですが、そんな迂闊な合意をしてしまって、果たして中国を怒らせたりしないのでしょうか。
他人事ながら心配になりますね。といってもしょせんは他人事ですが。
デッドロック状態
文在寅(ぶん・ざいいん)大統領らは米国、中国、北朝鮮などからの信頼を失ったと見られるほか、国内の支持基盤からも深い失望を受けたようであり、政治的な指導力は間違いなく弱まったと見てよいでしょう。
おそらく文在寅政権に対しても今後、
- 国際的には米中、米朝からの挟み撃ち
- 国内的には保守、左派からの挟み撃ち
という、非常に厳しい事態に直面していくでしょう。
こうしたなか、韓国のことわざに「水に落ちた犬は叩け」というものがあるそうです。
朴槿恵(ぼく・きんけい)前政権が慰安婦合意と引き換えに日韓GSOMIA締結と在韓米軍へのTHAAD配備を呑まされた直後、「ろうそくデモ」で引きずりおろされたという経緯に照らすならば、個人的には、「水に落ちた状態」の文在寅氏がどのように叩かれるのかにも興味があります。
もっとも、文在寅政権がぐらつき、周辺国を巻き込んで韓国の国論が大々的に分裂しはじめれば、そのときはこれに下手に関わると、日本にとっても無用の混乱に直面しかねません。
本件については、日本は火の粉が降りかからないように細心の注意を払いながらも、あくまでも「他人事」として観察するという態度が正解であると思えてならないのです。
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鉄塔篭城男が6時間前にタンマといって降りてきたという事実をそのままにさらしておく。火の手が上がるのなら、なお一層勝利の雄叫びや記念提灯行列のような浮かれた言動は慎むべきと存じます。WTO部分がどういった経緯なのか考察を巡らせないといけませんね。
韓国が8月に延長拒否している時点でGSOMIAは終了している。但し11月22日まで有効だった。11月22日はそうゆう日であって延長可否を決める期限ではない。・・と理解していましたが 違うのかしら?
百歩ゆずって今回「延長した」として・・
一旦延長したら1年間有効のはず。して‥次の期限はいつなの?8月 or 11
「いつでも破棄可能」とはこれ如何??どこに書いてあるのでしょう?
防衛大臣は説明しなきゃね。記者はどうして質問しないの?誰かしたんだろうか?
GSOMIA[事実上の延長」の真否という過去記事を読ませていただき 自己解決です。
一つ疑問なんだけど
あんなけ GSOMIAを辞めろと言っていた
北朝鮮が何故 まだ何も言わないんだろうね???
首相も含めた内閣改造だそうですね。
(日本の総理と違って韓国の首相は平閣僚なんだな)
また、子息の学歴疑惑、兵役忌避疑惑、なんとかファンド疑惑ですったもんだしそうですけどね。
更新お疲れ様です。
水に落ちた文在寅が韓国内をまとめるには、
1・金正恩との面会などの対北朝鮮友好
2・竹島上陸や対馬の領有権の主張などの対日挑発
ってところだと思われ、2は韓国の意思だけで出来るから、2の方がハードルが低いので、やるとしたら2をすると思うんですよね。
あとは、対馬などから朝鮮半島由来の文化物を盗んで来た犯罪者を「民族文化の守り手」と持ち上げて、服役中であれば恩赦を行なって解放するとか。
愛国無罪だと反米無罪にもなるから困るので、反日無罪で活発化していく気がします。
ヤフコメに工作員青ぽちが本格的に出てきてますね。
優良コメっぽいのが青ぽちでどんどん下に落とされていきます。
いよいよ何かが発動されたかなとの感触
更新ありがとうございます。
茂木敏充外相の、ムスッとした握手(笑)。韓国康外交部長官を睨む訳ではなく、まるで無視!って表情で好感持てます。前任のカス議員、民進党出身の大臣とは、偉い違い。
やっとここまで来ましたね。言わば鉄壁のディフェンス。出来れば主要閣僚は、このまま続けて欲しいです。
韓国のことわざに「水に落ちた犬は叩け」というものがあるそうですが、文大統領を叩くのですか。日本人なら犬が可哀想、助けてあげようとするでしょう。だいたい、犬は練習しなくても泳げます。犬かきは本能で出来るんです。
つまり、コレは例えがマッチしてないのかな、と思う。多足無脊柱の節足虫、ムカデとかヤスデがよく車のタイヤに轢かれて、ノシイカ状になってるのを見ますが、文大統領はその程度の生物ではないですか。
とても聡明とは思えず、無理な道路横断して轢かれたと(笑)。替わりの虫はナンボでも居るよ。さあ、日中北米露、5方面からの挟撃に耐えれるかな?無理?
あれ。アカヒ新聞が作ったフェイク諺に「水に落ちた犬🐶には救命ブイを投げよ」ってありませんでしたっけ(笑)。
GSOMIA破棄を撤回すれば、こうなるのは分かっていた事だと思います。だから破棄したままにするという予想に、繋がった訳ですから。
これで文大統領は、保守派からは「無能な大統領」、進歩派からは「裏切った工作員」のレッテルを貼られる事になるでしょう。
韓国では、溺れた犬は棒で叩け(苦しんだ犬の方が、美味しくなるらしいです)というのも有りますが、謝ったら負けというのも有ります。GSOMIA破棄延長の件で、文大統領が国民向けに、謝罪する流れになれば、溺れた状態が確定すると思います。
昨日の、韓国政府の抗議については、外務省高官と経産省が否定していますので、菅官房長官が記者会見で否定して、おしまいでしょう。
途中で送信されたようです。下の投稿を見て下さい。
GSOMIA破棄を撤回すれば、こうなるのは分かっていた事だと思います。だから破棄したままにするという予想に、繋がった訳ですから。
これで文大統領は、保守派からは「無能な大統領」、進歩派からは「裏切った工作員」のレッテルを貼られる事になるでしょう。
韓国では、溺れた犬は棒で叩け(苦しんだ犬の方が、美味しくなるらしいです)というのも有りますが、謝ったら負けというのも有ります。GSOMIA破棄延長の件で、文大統領が国民向けに、謝罪する流れになれば、溺れた状態が確定すると思います。
何かしら支持率を回復しようとするでしょう。
一番嫌な想像は、日韓首脳会談が行われた直後に、徴用工判決の現金化をして来るのではと、思いつきました。
昨日の、韓国政府の抗議については、外務省高官と経産省が否定していますので、菅官房長官が記者会見で否定して、おしまいでしょう。
後、日本が輸出管理で変化がない場合、韓国政府が、日本が裏切ったとか、嘘をついた事にするのは間違い無いと思います。
GSOMIAは米韓問題だから取り敢えず終了を回避した米国の勝利かな。
よくわかんないけど「現時点でGSOMIAは生きてる」ってのは共通認識で、韓国は「協定の規定に関わらずいつでも終了可能」って認識で、日本は「協定の規定どおりに、毎年8月終わりまでに一方の通告がないかぎり11月の終わりに自動延長」って認識なのかな?
このあたりは玉虫色の解決で、実際に韓国がGSOMIA廃棄を言い出した時に考えればいいやってことのように思えますね
どっちにせよ、日本の輸出管理について、GSOMIAで揺さぶっても仕方ないことを学習できたんなら、文大統領はともかく韓国としては勝利でいいんじゃないでしょうか?
日本!?・・・・くだらないことに付き合わされた分、負けでいいんじゃないかな
輸出管理については、韓国が制度や運用を整えるのはまだまだ先だろうけど(実際にできるかは疑問だけど)、実務者間の定期会合は再開するみたいだし、日韓ともにwin-winじゃないでしょうか。
なんか、ず〜っと言い続けたことをようやく理解(?)してくれたって、日本にとっての勝利条件低すぎるとは思いますが・・・
自称元徴用工は、な〜んにも変わってないけど、まぁしょうがないですね。
まとめると、
米国は、要求が通って勝利?
韓国は、ひとつ賢くなって勝利
日本は、やらなくても良い先生役をやっただけのくたびれ儲け
100対0の交渉とは、よく言ったものだと思うのです
あと、発表するときは、勝ち負けよりも、懸案事項の道筋がどうなったのかを教えて欲しいと思うのです♪