インターネット上で、こんな書き込みを見つけました。「給料を倍にしてもその人は倍働いてくれるわけではないが、給料を半額にすると7割くらいの力で働いてくれる。だから人件費を半額にする方が儲かる」。これが本当に某著名企業の経営者の発言なのかはわかりませんが、今までの日本のデフレ環境では、こうしたデフレ経営が許されてきたことは間違いないでしょう。では、その犯人とはだれか。やはり、増税原理主義で不要不急の増税を強行し続けることで日本経済を破壊して来た財務官僚らこそが、諸悪の根源です。
ネットの格言:デフレ経営者の戯言?
最近、ウェブ上でこんな「格言」が流通しているようです。
XXX氏『給料10万円の人を倍の給料20万円にするとその人はやる気をだしてくれるでしょう。しかし、今までの労働に比べて2倍も働いてくれません。では、半額の給料5万円にするとどうでしょうか?今までの7割くらいの力でどうにか働いてくれます。つまり数学的に考えて給料を半分にする方が儲かる。』
この発言、調べてみると2013年4月ごろにあるツイッター・ユーザーが発信したものだそうですが、「XXX」で伏せた部分には某有名企業経営者の名前が入ります(ただし、この発言が本当にその人物が発したものであるかどうかがわからないため、当ウェブサイトでは伏字にしておきます)。
もし本当にこんな発言をしたのだとすれば、とんでもない話ですね。
そもそも企業経営者にとって、「働いてもらう」というのはどういうことなのか。
あくまでも個人的な見解ですが、従業員を雇い入れるのと、銀行などからおカネを借りるのは、本質的には同じです。というのも、従業員を1人雇えば人件費(や社会保険料の会社負担分など)を、おカネを借りれば利息を、それぞれ払う必要が出て来るからです。
「個人経営で終わる世界」だと、経営者はおカネを借りずに自己資金だけでビジネスを行い、しかも自分自身で働いて稼げばよいという話であり、わざわざ金融機関からおカネを借りたり、従業員を雇い入れたりするのはリスクもありますし、無駄な話でもあります。
しかし、ビジネスを大きくしていきたいと思うならば、金融機関などからおカネを借り入れたり、従業員を雇い入れたり(あるいは株式を上場して新株発行などで資金調達したり)することは避けられません。
そして、従業員にも「いま戦力として働いてもらう」だけでなく、「将来的な幹部として育ってもらう」という意味からすれば、やはり、責任あるやりがいのある仕事を任せつつ、会社が儲かればどんどんと従業員に対して成果を配分していく姿勢が必要ではないでしょうか。
人手不足倒産という珍説
さて、こうした「人件費をケチる」という発想を目にすると、やはり、「従業員の給料」は、ひとつの興味深い話題であるように思えてなりません。
おりしも先日の『未来なき新聞と経営者が語る「ウェブ広告の威力」』では、旧知の友人で現在は某企業を経営する友人と語ったという話題を紹介しました。
この経営者のポリシーは、単純明快です。それは、
- 従業員に良い仕事をしてもらうため、報酬・給料は惜しまないこと
- 仕事を楽しむこと
- ひとつひとつの仕事をしっかり仕上げて顧客の信頼を獲得し、リピーターになってもらうこと
であり、この経営者からすれば、冒頭に紹介したような「半分の給料で7割のパフォーマンス」という考え方はあり得ないでしょう。
ただ、今までの日本で「半分の給料しか出さない」という安易な考え方のデフレ経営者が蔓延していた理由は、非常に簡単で、それは日本が「デフレ状態」にあったからです。
経済学の世界では、統計上、インフレ率と失業率が逆相関することが知られており(これを一般に「フィリップス曲線」と呼びます)、デフレが続けば失業率が高まる(または従業員1人あたりの賃金水準が下がる)ことは当然の話です。
その意味で、日本で人件費を抑えた「コストカット的経営」が蔓延した理由は、ひとえに1989年に導入された3%の消費税と、それを1997年に4%(+地方消費税1%)に引き上げた歴代大蔵省・財務省の罪であり、また、日本がデフレに陥る中で金融緩和に踏み切らなかった日本銀行の罪です。
つまり、人件費を不当に抑圧するという経営が許されたのはデフレ下という特殊な環境にあったからであり、2012年に第二次安倍政権が発足して以来、中途半端ながらも日本銀行の大胆な金融緩和のおかげで、雇用自体は大きく改善しました。
そうなると困ったことになるのが、これまで「デフレ脳」で従業員に対する賃金を単なる「コスト」としてしか見ていなかった経営者らです。
少し前の記事ですが、共同通信に、こんな話題が掲載されていました。
企業の6割、正社員が不足/経営や職場環境に影響(2019/10/31 17:16付 共同通信より)
これは、厚生労働省の要請を受け、労働政策研究・研修機構が3月に実施した調査の結果、企業の64.6%で「正社員」が不足していることが10月31日にわかった、などとする記事です。
これについて「独立行政法人 労働政策研究・研修機構」のウェブサイトを覗いてみたのですが、共同通信が報じた記事に相当する10月31日付のレポートは掲載されていませんでしたので、あくまでも共同通信に掲載された記事をベースに議論しましょう。
「正社員」とは、おそらく「正規雇用の(パートタイムではない)常勤の従業員」のことだと思います(※ちなみに本来、会社法の世界で「社員」という用語は「株主」ないし「出資者」を意味します。「社員」を「従業員・職員」という意味で使うのは誤用なので、ご注意ください)。
企業の6割で正規雇用職員が不足しているということは、それだけ企業経営者がコストのかかる正規雇用職員の採用に消極的であり、かつ、人材育成を怠ってきたという証拠にほかなりません。
共同通信によれば、同機構の担当者は
「景気回復に伴い、定型的な仕事ではなく、自分で判断して現場対応できる人材が足りなくなってきた」
と述べたのだそうですが、「自分で判断して現場対応できる人材」が半額の給料で働くはずなどないことくらい、誰にもわかることです。
人手不足倒産、大歓迎!
こうしたなか、最近ときどき耳にするのが、「人手不足倒産」です。
「人手不足倒産」とは聞こえはよいのですが、要するに人件費をケチっている会社には優秀な人材が来なくなり、仕事が回らなくなっているだけのことでしょう(『「人手不足倒産」のナンセンス:給料を上げれば済む話です』参照)。
これを極左メディアなどの「反アベ陣営」が、「アベノミクスと日本銀行の緩和政策のせいで企業が人を採用する環境が悪化した」、「だからこそ廃業が相次いでいる」などと喧伝しているのを目にすると、本当に呆れて物も言えません。
金融緩和すればデフレ状態がストップし、雇用状況が改善するという意味では、まさにフィリップス曲線の理論の正しさを体現しているとしか言いようがないと思います。
もちろん、雇用が回復し始めている時期だと、社会全体で見れば平均賃金は下がりますし、こうした状況を捉えて「アベノミクスが失敗している証拠だ」などと短絡的に決めつける人もいるのですが、雇用情勢の好転が続けば、賃金水準は自然に上がり始めるでしょう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ただし、非常に残念なことに、安倍政権は今年10月、消費税の税率を7.8%に、地方消費税の税率を2.2%に、それぞれ引き上げてしまいました。
金融緩和とは景気のアクセルを踏んでいるようなものですが、財務省がやっている緊縮財政とは、景気のブレーキを踏んでいるような状態です。安倍政権発足以来の7年間、金融緩和一本足打法でやって来ましたが、そろそろ限界が来ていることもまた事実でしょう。
だいいち、財務官僚は私たち国民が直接選挙で選んだわけでもないくせに、国のカネの入口(国税庁)と出口(主計局)をガッチリ握っていて、国税捜査権という事実上の警察権力とともに、マスコミはおろか、政治家にすら睨みを利かせている存在でもあります。
当ウェブサイトでいう「国民の敵」とは、
「有権者から選挙で選ばれたわけでもなく、自由経済競争を通じて消費者から信任を得たわけでもないくせに、不当に大きな社会的権力や影響力を握り、国益を破壊している勢力」
のことを指しますが、その意味では、財務省こそが紛れもない「国民の敵の本丸」であることは間違いありません。
日本が再びデフレの底に叩きつけられるのを避けるためには、どこの馬の骨とも知れない財務官僚どもに財布のひもを握らせておくという状況をいつまでも続けるわけにはいきません。やはり、「財務省をぶっ壊す」ことが、日本にとって絶対に必要なことではないでしょうか。
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記事を更新頂き、誠にありがとうございます。
本記事の意見に全面的に同意です。
ただ、どのような手法で「財務省をぶっ壊す」のか、ロードマップを描くのは非常に難しいと考えております。そもそも世論の大多数が財務省の緊縮洗脳にがっちり汚染されております。団塊の世代がお亡くなりになって世代交代が起きれば少しはマシになるのかな、と思っていましたが、当方と同世代の30代の会社の同僚で消費税増税に反対していた方が1名しかおらず、暗澹たる気持ちでおります。
そうですね。
うちの周りでも対韓国の話では意見の一致をみる人たちでも、「消費税増税に反対する野党は財源のこと考えてないだろ」とか言ってます。
まぁ、私も野党が財源のことを考えているとは思えませんが、税率だけで考えるナンセンスに気が付かない人は実に多いです。
企業の継続性というのを考えたとき、半額の給料と7割の仕事でいいのかっていう。
半額の給料と七割の仕事の社員に何割の責任感があるんでしょうね。
というか、従業員と企業の訴訟で出てくる「アルバイトと社員、同じ仕事をしているのに給料が違うのはおかしい」っていう話を知らないのかっていうレベル。
アルバイトだけで回る企業ならいいのかも。
いつも貴重な発信に感謝です。
しかし今回は「この言葉、本気ですか」って呆れました。資本論に出てくる資本家じゃあるまいし、今どきこんなことを言う経営者もいるんですねぇ。
本当にこんな事をしたら、間違いなく優秀な社員から辞めて行きます。
私も経営経験が有りますが、従業員が会社のファンになってもらえる様に腐心しました。
従業員の家族を食わせ、家族にも将来の夢を持ってもらわなければ、会社に将来は有りません。
自分さえ儲かれば良いと思って経営すると、必ず会社は破綻します。大企業から個人商店まで、三方良しで経営して頂きたいものです。
これからもご発信を楽しみにしております。
いつもありがとうございます。
会計士さんの仰る通りと思います。失われた10年が20年になり、30年になる。その大きな原因の一つが、非正規労働者の増でしょう。コンビニや外食産業等であればアルバイトで回っても、まともな会社が回るわけもありません。グローバル化などという言葉に踊らされて、大きく道を誤ったものと考えています。小泉、竹中の大失策いや大成功かな。消費の減少、そして訳のわからない増税と来ればお先真っ暗ではないでしょうか。
ところで一つ突拍子もない提案があります。それは高級官僚の給料が安すぎるのではないか。と言うことです。同じ大学を出て、むしろ成績は良かったのに民間企業に行った方が給料が高い。どこかで取り返したいとなるのは人情でしょう。2倍3倍いや10倍でもかまわないような気がします。高額の収入、それに見合った仕事と監視体制、人件費の増よりも無駄な支出が大きく減少するでしょう。まして一営利企業のためではなく、彼らは国、国民のために仕事をするわけですから、考える余地がありそうではありませんか。まあ条件整理が大変そうではありますが。
私はこの考え方に賛成です。
国民の下僕の公務員を叩くのは簡単ですが、国民が思っている以上に彼らは働いており、しかも同期の民間企業就職者より安給料です。
私は30前半でアホらしいので民間に再就職しました。
自己レスです。
アホらしくなったのは、給与ではなく、公務員に対しての国民の理解に対してです。
デフレの原因が小泉内閣でのデフレ政策と非正規雇用の増大というのは私も同感です。それだけが原因ではないと思いますが。
財務省の体制内改革が必要な訳ですね。
財務大臣は、大好きな麻生さんですが。
うっそだろ本当に経営者の発想かいな…と思ってキーワードで検索したら最近話題になった例の会長さんですか(笑)納得。
数人と人間同士の付き合いをする経営と、ビルのてっぺんから数字を俯瞰する経営とじゃ違うんですかね。例にあげる数字からして単純労働の話っぽいし。
まぁ情報源が不明確なので忘れましょう。
追記
何で炎上したんだっけな、と思いだしたら国の歳出と公務員を2年で半分にしよう、という暴論もこういう思考のためですか…
デフレ・緊縮の権化ですねこの方。
あさぼらけ さんに同意で、こういう冷徹なグローバルスタンダードに乗っかって自分のところだけを生き延びさせ他を焼き尽くしたデフレ経営論の限界を感じていますし、日本的な経営観が生き残ってくれるのを望みますわ。
同じ効率で仕事できるのなら、会社はパートで雇いたいし、従業員は社員登用されたいのは当然のことです。
ですから「雇用はコストだ」との考えから社員登用を抑制してしまうと、使えない人材しか残らず事業は立ち行かなくなってしまうんですよね。
正社員とパート社員の違いは責任と給与額です。
能力に応じた雇用であれば人は責任のある仕事をします。質の高い仕事は人材を育て、良い社風を作ります。
待遇の悪さは責任感の欠如を招き、怠惰な社風は生産性を低下させるばかりです。
やはり事業の発展には能力に応じた適正な雇用が大切なのだと思います。
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あゝ、お隣の国では社員待遇が良すぎて怠惰な社風になってるケースがありましたね。
働いても働かなくても待遇が変わらなければ、生産性が低下するのも事実です。
*ヒトは皆んな怠けたい生き物なのですから。〔私も・・。〕
毎日、好奇心を刺激していただき誠にありがとうございます。
この件は全く賛同するものですが、世界でも稀なデフレを経験した経営者にとって、簡単に解雇できない正規従業員を雇うということはリスクに感じているのでは無いでしょうか。
私は解雇自由化の国策が無ければ、特に従業員50名以上の企業は足踏みをしているんじゃないかと感じます。
最近特に外国人の労働者をよく見ます。
労組などの既得権益との激突になりますが、人材の流動化にも寄与すると思います。
シリコンバレーでは当たり前の風景ですけどね。笑
某太郎さんの嫌いな柳井正氏の言葉ですね。確かに柳井氏の考えを集約した言葉だと思います。
ユニクロがどんな企業であるのか、そこで柳井氏が何を考え、何を行っているのか、それらを知るのに『ユニクロ潜入一年』という力作がありますが。私はあえて『ユニクロ対ZARA』を推します。
その理由は、ユニクロへの憎悪が少なく客観的に(しかし厳しく)取材されていることと、ZARAという正解最大のSPAとの比較が大変参考になるからです。
『ユニクロ対ZARA』
https://www.amazon.co.jp/ユニクロ対ZARA-齊藤-孝浩/dp/4532319617
ZARA で活き活きと働く従業員の話と、サービス残業が常態化しているユニクロの搾取的経営の比較は柳井さんに目を通して頂きたい。従業員にタダ働きさせて儲けた利益で渋谷の豪邸に住まうことが「かっこいい」のか、考えて頂きたい。ZARAの従業員の方が、十分な給与とゆとりある労働時間で働きながら、ユニクロよりも多い利益を上げていることを直視して頂きたい。
それはそれとして、未だに私はZARAに払う金額よりもユニクロに払う金額の方が多いです。商品力の違いと言うより、サイズの設定やデザインの方向が、ZARAはまだ日本や他のアジア諸国のニーズに応え切れていないからだと私は思います。少なくとも私は、ZARAの服は買いたくとも大きすぎて着ることができないことが多々あります。