日本政府観光局(JNTO)が毎月発表している『月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人)』によると、2019年9月の訪日外国人数が「9月としての過去最大値」を更新する一方、1年間の移動平均値で見ても3200万人を超えるなど、外国人入国者数は堅調に推移しています。相変わらず中国人入国者数が堅調に推移する一方、とくにラグビーW杯で英国などからの訪日客が増えているなどの要因が寄与した格好です。
訪日外国人、過去最大に!
非常に重要な速報です。
日本政府観光局(JNTO)が発表する『月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人)』によると、2019年9月の訪日外国人数が、「9月としての過去最大値」を更新しました。
同データは2003年までさかのぼることができますが、ここでは便宜上、2013年以降に限定して、その状況を確認しておきましょう。
まず、単月の数値については、図表1のとおり、日本に入国した外国人は227.3万人と、「9月としては過去最大」です。
図表1 毎年9月の訪日外国人
時点 | 人数 | 前年同月比 |
---|---|---|
2019年9月 | 2,272,900 | 5.25% |
2018年9月 | 2,159,595 | -5.30% |
2017年9月 | 2,280,406 | 18.88% |
2016年9月 | 1,918,246 | 18.98% |
2015年9月 | 1,612,208 | 46.68% |
2014年9月 | 1,099,102 | 26.78% |
2013年9月 | 866,966 | 31.71% |
(【出所】JNTO『月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人)』より著者作成。ただし、2019年9月のデータは速報値)
次に、傾向を見るために、「毎年9月までの1年間」(つまり前年10月から当年9月までの12ヵ月間)を累計したデータを作成してみても、やはり入国者数は過去最大です(図表2)。
図表2 毎年9月までの1年間における訪日外国人
期間 | 人数 | 前年同期比 |
---|---|---|
2018年10月~2019年9月 | 32,140,940 | 3.80% |
2017年10月~2018年9月 | 30,963,208 | 13.59% |
2016年10月~2017年9月 | 27,258,540 | 17.35% |
2015年10月~2016年9月 | 23,227,689 | 27.88% |
2014年10月~2015年9月 | 18,163,669 | 46.83% |
2013年10月~2014年9月 | 12,370,204 | 26.55% |
2012年10月~2013年9月 | 9,775,037 | 21.38% |
(【出所】JNTO『月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人)』より著者作成。ただし、2019年9月のデータは速報値)
つまり、今年9月までの1年間で、すでに訪日外国人は3200万人を超え、過去最高を更新した、ということです。
入国者の国籍に大きな偏り
もっとも、「過去最大」だからといって、喜んではいられません。
図表2の「伸び率」をみていただくとわかりますが、年々「二桁増」を記録し続けた外国人入国者数の伸び率が、今年に入り、急に鈍化しています。
また、入国者が特定国に偏っているのも懸念材料です。実際、全体の3分の1以上にあたる36%が中国人です。なお、前年同月と比較すると、ずっと2位だった韓国人の入国者の割合は9%に低下して3位に下落し、代わって台湾が16%で全体の2位に浮上しています(図表3、図表4)。
図表3 2019年9月における入国者の構成比
(【出所】JNTO『月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人)』より著者作成。ただし、2019年9月のデータは速報値)
図表4 2018年9月における入国者の構成比
(【出所】JNTO『月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人)』より著者作成)
また、国別の入国者数について、前年同月比を取っておくと、次のとおりです(図表5)。
図表5 国別の入国者数(2019年9月と前年同月比)
国 | 2019年9月 | 前年同月比 |
---|---|---|
中国 | 819,100 | 25.49% |
韓国 | 201,200 | -58.06% |
台湾 | 376,200 | 14.30% |
香港 | 155,900 | 23.56% |
米国 | 127,200 | 21.56% |
タイ | 62,100 | 14.11% |
英国 | 49,600 | 84.36% |
フランス | 26,500 | 31.56% |
ドイツ | 22,800 | 13.97% |
豪州 | 60,500 | 24.44% |
その他 | 371,800 | -3.64% |
総数 | 2,272,900 | 5.25% |
(【出所】JNTO『月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人)』より著者作成。ただし、2019年9月のデータは速報値)
ラグビーW杯の影響?
ところで、図表5を眺めてみて、とくに目につくのが、英国からの入国者の急増でしょう。
念のため直近3年間についての月次推移を取ってみると、図表6のとおり、明らかに2019年9月の英国人入国者数が急増していることがわかります。
図表6 英国人入国者数
(【出所】JNTO『月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人)』より著者作成。ただし、2019年9月のデータは速報値)
やはり、ラグビーW杯の影響でしょうか。
豪州からの入国者数についても、英国ほどではありませんが、顕著に伸びていることが確認できます(図表7)。
図表7 豪州人入国者数
(【出所】JNTO『月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人)』より著者作成。ただし、2019年9月のデータは速報値)
このため、W杯が終了すれば、これらの国からの訪日客はまた元どおりに減るのかもしれませんし、あるいは「日本の魅力」を強く意識してもらった結果、訪日客が以前よりも増えるのかもしれません。
中韓依存の状況
さて、訪日客数全体を引っ張っているのは、相変わらず中国であり、このことは直近3年間の月次推移からも明らかです(図表8)が、逆にいえば、中国人入国者数が減少に転じた場合、訪日外国人数全体も減少に転じる可能性は非常に高いといえるでしょう。
図表8 中国人入国者数
(【出所】JNTO『月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人)』より著者作成。ただし、2019年9月のデータは速報値)
その一方で、韓国人入国者数はグラフで見ても大きく落ち込んでいます(図表9)が、この傾向が「反日」による一時的なものなのか、それとも今後も続くのかどうかについては、現時点では見極めが困難です。
図表9 韓国人入国者数
(【出所】JNTO『月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人)』より著者作成。ただし、2019年9月のデータは速報値)
しかし、韓国人入国者数が急減しているにもかかわらず、訪日外国人数全体が伸びているという事実については、指摘しておく必要はあるでしょう。
観光立国について思うこと
観光立国、という考え方があります。
個人的な感想を述べるならば、どんな産業も振興するに越したことはありませんし、また、私自身も若いころは随分と海外旅行に出かけたクチですが、外国の「観光名所」と称する場所に出掛けた経験に照らしても、日本にはまだまだ良い観光名所がたくさん埋もれているように思えます。
ただ、それと同時に、観光産業の振興は結構ですが、「入国者数」自体を目的にしてしまうことには反対です。なぜなら、それが「政策目標」のようになってしまい、「観光客数が減ると困るから(国益に反してでも)特定国におもねる」、となってしまえば、それこそ本末転倒だからです。
入国者数には、ほかにも問題があります。
それは「人数」でカウントするため、入国した外国人が日本でいくらおカネを使ってくれたか、という視点が欠落してしまう、という点です(詳しくは『韓国人観光客が減って旅行収支が過去最大』などもご参照ください)。
もちろん、入国者数はひとつの「めやす」としてはわかりやすい指標ですが、むしろそれが目標として「独り歩き」することはいかがなものかと思います。
いずれにせよ、先月からのラグビーW杯に加え、今月は天皇陛下の御即位とパレードという慶事もあり、日本全体が明るい雰囲気に包まれているかにも見えますが、消費税の増税の影響がボディブローのように日本経済に打撃を与えることは間違いありません。
こうしたなか、観光産業に過度な期待を置くことは、むしろ危険ですらあります。
その意味で、当ウェブサイトとしても、外国人入国者数のデータを取り上げる際は、「過去最大だった、嬉しいな」、ではなく、日本経済全体に観光業をどう位置付けていくべきか、といった視点から検討することに努めていきたいと考えています。
View Comments (16)
英国の84%は顕著ですね。
愛国はその他に含まれてるんでしょうが、増加率はすごそうですね。
記事更新ありがとうございます。速報までにですが残念ながら即位に関わるパレードは台風被害を鑑みて中止の方向で検討進んでいるようです。
妥当ですね。
台風被害が大きすぎる。
自然災害や外国の脅威が増えてる中で、令和だからと浮かれず、さらに気を引き締めて対応していかないと。
更新ありがとうございます。
3,200万人ぐらいが今の日本の力量ではないですか。凄い人数だと思いますけど、それでも「目標に届いてない」という方は、あと800万人がディスカウントツアーや悪事を考える某国とか某国の客ばかりなら、どうするんでしょう(笑)。
一人当たり6万9千円のみ消費とか(笑)。その点英国、豪州は分かりやすいですね。『まさか予選で敗退はないだろう。でも楽勝の試合も観とくか。日本?スポンサーが多いから開催権は仕方ないな』てな思いかな(笑)。
韓国は昨年9月比 58 %減。ヤッター(笑)!反対に中国が 25.5 %増とは、いつまで続くか。人口が多いから当然だけど、いつ習近平氏が禁足令を出すか、怖いですね。来月も宜しくお願いします。
韓国人の訪日客は一年もすれば元に戻ると思います。
日本旅行をすると吊るし上げられるので現在は断念している状態だとお考え下さい。
ユニクロが流行りだしたことからも、日本産ビールが店頭から消えないないのも同じです。自由主義経済で不買運動をやる事がおかしいのです。
韓国や韓国人に嫌悪感を抱いている方々には申し訳ございませんが、韓国人の性格上、すぐに元に戻ります。
駄文にて失礼します。
そうですか、せっかく平穏になったと思ったのに、残念です。
当地ではゴルフで来る客が多いですが、飲食店等でのマナーの悪さが目について嫌でした。
下働きの人たちを見下すような感じも。
本年8月、来日韓国人が前年度より半数近く減少しました。ただし、来日外国人全体の国内消費額は国土交通省観光庁データを用いて計算すると、逆に180億円程度増加したことを前回(9月30日)述べました。政府観光局によると、9月の来日韓国人は前年48万人から本年20.1万人と、6割近く(28.1万人)減少しました。ただし、来日外国人全体では216万人から227.3万人と増加しています。すなわち、韓国人を除いた来日外国人は39.2万人の増加となっています。ここで前回と同様に、来日外国人の国内消費額を計算してみると昨年9月より450億円程度の増加となりました。これは、韓国人一人当たり消費額が各国平均の5割程度であり、特にラグビーW杯参加国の欧米や豪州の3割台であることに起因していると考えられます。なお、ラグビーW杯参加国の来日人数は前年9月より1.2倍以上(英国は1.8倍)増加しています。政府が提案する来日外国人数の増加政策については、日本国内消費が盛んな欧米等観光客の強力な誘致が望まれます。
いつも記事ありがとうございます。
この一ヶ月ほど、街なかで体のでかい外国人を見かける機会がすごく多いという印象だったのですが、この統計を見て納得しました。
テレビでは韓国客が減ったとやたら報道してますが、白人系の訪日客が増えたというのがむしろ特筆すべきですよね。スポーツの力ってすごい。10時間のフライトでもやってきちゃうんですね。
スポーツを軸に経済や観光を発展させるというのは、もしかするといい打ち手なのかも?
イギリスからの訪問増加は、ラグビーワールドカップの影響でしょう。
始まる前の予想で、経済効果が4300億円とありました。
うち直接効果が約2000億円です。
達成できるんですかね。
もともとは小泉内閣のビジットジャパンでその後、観光立国基本法が成立しました。
当時は海外旅行者1600万人に対して訪日客は500万人だったのです。
東京オリンピックやりたいけど人的にも観光インフラ整えなきゃっていうのもあります。
当時は東京にも超高級ホテルすらありませんでした。
4000万人来ちゃったらどうなるんだよ〜。が調子こいて人数が一人歩きしてしまったのかな。
まあ、その時から見てると上手くやってるんじゃないかなと思います。
私も海外旅行結構してますが客観的に見て日本て魅力ある国だと思います。
貧乏旅行でもリッチな旅行もできるしね。
この間行きつけの料理屋でフランス人の家族と話しました。
ワールドカップの為に4人で2週間。
試合の合間に観光のつもりが観光楽しくてしょうがないって。
もともとエリートのスポーツならではのファンなのだなと。
クールジャパンは迷走中。
あくまでも入国人数ですので滞在日数が一番少ない韓国人が減ってここより滞在日数の多い他国の人がそれをカバーしているのであれば、当然日本国内の外国人旅行客の数は増えてますね。
海外からの観光客に限らず日本国内の観光客でも遠い(時間がかかる)所から来る人々の方が消費金額が多い傾向があるそうです。
来日観光客目標4000万人はあくまでも来年オリンピックまででその後は新たな指針が出て来るような気がします。実際、苦情が出ている場所もありますよね。例えば京都・祇園、奈良・春日大社とか。
特に神社仏閣で騒ぐのは違和感があります。中学生の修学旅行も学校によっては大騒ぎしていますが、まあこれは未来の日本への投資という事でおお目に見ますが、やはり大人はね、、、。野球場で騒いでくれ。
いつも楽しみに拝見しています。
「訪日外国人数が9月としての過去最大値を記録」とありますが、
「図表1 毎年9月の訪日外国人」を見ると
2019年9月 2,272,900
2018年9月 2,159,595
2017年9月 2,280,406
となっており、今年は一昨年と余り差がなく若干少ないようです。
これから見るに今年は、昨年の落ち込み分を回復し2017年並に戻ったとの解釈が妥当かと思われます。
それにしても韓国からの激減数を補った最大の要因と思われるラグビーWCは恐るべしですね。