『対韓対抗措置を経産省が正式発表、そして韓国の反応』などで報告したとおり、経産省が1日に打ち出してきた「韓国に対する外為法に基づく輸出管理の運用を厳格化する」とする措置については、当ウェブサイトとしては、「経済制裁と呼ぶには力不足だが、その気になればいつでも韓国を脅すことができる手段を整備したという意味では歓迎すべき」だと考えています。ただ、同日の西村康稔官房副長官の記者会見によれば、これはあくまでも「対抗措置ではない」のだそうです。
日本政府「対抗措置ではない」
経済産業省が1日、「韓国に対する外為法に基づく輸出管理の運用を厳格化する」と発表した件と、それに対する韓国メディアのいくつかの反応については、当ウェブサイトでも『対韓対抗措置を経産省が正式発表、そして韓国の反応』で報告したとおりです。
これについて先ほど当ウェブサイトでは「経済制裁と呼ぶには力不足だが、その気になれば韓国を脅す手段を整備したという意味では歓迎したい」と申し上げたのですが、その後、日本政府の見解を調べていくと、意外なことが明らかになりました。
今回の経産省の措置について、日本政府は「(自称元徴用工問題に関する)韓国に対する対抗措置ではない」との見解を明らかにしたのです。これについて参考になるのが、7月1日午前の「内閣官房長官記者会見」です。
といっても、今回の会見場に現れたのは菅義偉(すが・よしひで)氏ではなく、西村康稔(にしむら・やすとし)内閣副官房長官でしたが、このやりとりで「産経新聞のサワダ」と名乗る記者(沢田大典氏でしょうか?)からの質問に答える一幕がありました(09:36~)。
西村副長官の発言は、次のとおりです。
経済産業省がすでに発表したとおりでありますけれども、今回の見直しは適切な輸出管理制度の運用を目的としたものであり、(韓国に対する)対抗措置ではありません。韓国との信頼関係の下で輸出管理に取り組むことが困難になっていることに加えて、韓国に関連する輸出管理を巡り、不適切な事案が発生したこともあり、より厳格な制度の運用を行うこととしたものである、というふうに承知を致しております。具体的な詳細は経産省にお聞きいただきたいと思います。(※下線部は引用者による加工)
この発言、非常に重要です。
なぜなら、あくまでも「外為法に基づく輸出管理に不適切な事案があったから、韓国に対する輸出管理を厳格化する」と述べているのであり、そこに「自称元徴用工」の「自」の字もないからですし、そもそも「対抗措置でもない」と述べているからです。
そして、西村副長官は朝日新聞の記者(名前聞き取れず)の質問に対して、次のようにも答えています(12:28~)。
今回の措置は安全保障を目的とした輸出管理制度の適切な運営に必要な見直しであります。WTOルールに則り、国際輸出管理体制の仕組みに従って実施するものでありますので、対抗措置ではありませんし、自由貿易に逆行するものでもないというふうに理解しております。この点については随時いろんなかたちでしっかりと説明していきたいと思います。
経産省原文には「自称元徴用工」は出てこない
この西村氏の発言を受けて、改めて経産省の報道発表の原文を確認してみましょう。
大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて(2019/07/01付 経済産業省HPより)
経済産業省は、外国為替及び外国貿易法(以下、「外為法」)に基づく輸出管理を適切に実施する観点から、大韓民国向けの輸出について厳格な制度の運用を行います。
輸出管理制度は、国際的な信頼関係を土台として構築されていますが、関係省庁で検討を行った結果、日韓間の信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況です。こうした中で、大韓民国との信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっていることに加え、大韓民国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生したこともあり、輸出管理を適切に実施する観点から、下記のとおり、厳格な制度の運用を行うこととします。
1.大韓民国に関する輸出管理上のカテゴリーの見直し
本日(7月1日)より、大韓民国に関する輸出管理上のカテゴリーを見直すため、外為法輸出貿易管理令別表第3の国(いわゆる「ホワイト国」)から大韓民国を削除するための政令改正について意見募集手続きを開始します。
2.特定品目の包括輸出許可から個別輸出許可への切り替え
7月4日より、フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の大韓民国向け輸出及びこれらに関連する製造技術の移転(製造設備の輸出に伴うものも含む)について、包括輸出許可制度の対象から外し、個別に輸出許可申請を求め、輸出審査を行うこととします。
つまり、
- ①日韓間の信頼関係が著しく損なわれた状態になった
- ②韓国への輸出管理を巡り不適切な事案が発生した
- ③よって、今後は韓国向けの輸出については厳格な管理をする
という3段論法です。
ただ、よく読むと、「①信頼関係が著しく損なわれる状態」に至った原因については何も触れられていませんし、また、「②不適切な事案が発生した」という点についても、具体的なことは何も書かれていません。
いわば、「読者の想像にお任せします」ということであり、読む人によっては「自称元徴用工問題」のことだと思うのかもしれませんし、はたまた「(昨年12月20日の)レーダー照射事件」のことだと思うのかもしれません。
ほかの分野にも応用可能
そう考えていくと、今回の経済産業省の措置は、なかなか狡猾です(※誉め言葉です)。
なぜなら、「具体的な理由」をいっさい明らかにせず、表向きは「あくまでも輸出管理の一環」を標榜しつつ、韓国産業の喉元に匕首(あいくち)を突きつけるような措置だ、という言い方もできるからです。そして、この「日韓の信頼関係が損なわれたので…」という下りは、何にでも応用可能です。
とくに、先ほどの3段論法だと、
- ①日韓間の信頼関係が著しく損なわれた状態になった
- ②韓国国民の日本への入国に際して、不適切な事案が発生した
- ③よって、今後は韓国国民向けのビザ発給は厳格化する
という具合に、「ヒトの流れの制限」にも応用が可能ですし、日本政府が国内法や国際法に従っている限り、韓国政府側としては何も文句が言えなくなるからです。
もちろん、先ほどの外為法第48条第1項の輸出管理厳格化については、「本当にそれをやる」かどうかは現場の裁量次第ということでもあるのですが、重要なのは、「日本政府がその気になったら、いつでも実行に移せる状態」にしておくことでしょう。
説明責任の転換
また、「狡猾」という意味では、「説明責任の転換」という観点からも言えるように思えてなりません。
ここで、説明責任とは、政府などが何か新しい政策を導入するなどの際、「なぜその政策を導入するのか」について、相手にとって納得がいくよう、事細かに説明することが望ましい、とする考え方のことです。
今回の経産省の措置についても同様で、本来ならば経産省が韓国側に対し、「なぜ輸出管理を厳格化するのか」を事細かに説明することが望ましい、というのがこの「説明責任」の考え方です。
ところが、今回の経産省の措置は、そのようなアプローチを取らず、ただたんに
「日韓間の信頼関係が著しく損なわれたから」
とだけ、抽象的に言い放ったのです。
ポイントとしては、日本政府側は抽象的に「日韓間の信頼関係が著しく損なわれた」と指摘するのみで、何も具体的なことを述べていない、という点です。これは、要するに、「日韓関係で何が悪かったかは自分で考えろ」、と、相手に説明を求める姿勢だと言い換えてもよいでしょう。
なかなか賢いですね。
もし韓国政府側が日本政府側に今回の措置を解除してもらおうと思えば、韓国政府側が「日本からの信頼を取り戻すためにはどうすれば良いか」を自分で考え、自分で実行しなければならない、ということでもあります。
日本政府がここまで意地悪(※誉め言葉です!)になるとは、時代も変わったものです。やはり、世耕弘成経産大臣の指導力なのでしょうか?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
通常の人間関係でさえ、信頼関係など1日やそこらで出来上がるものではなく、築き上げるためには莫大な年月が必要ですが、それが国同士の信頼関係となれば、なおさら大変です。
ましてや、昔のヒット曲ではありませんが、信頼関係など壊してしまうのは一瞬でできますし、いったん壊れてしまった信頼関係を元通りにするためには、さらに長い年月が必要です。
日本政府内における韓国に対する信頼関係が「元どおり」になるかどうかは知りませんが、1つだけ確かなことがあるとすれば、すくなくとも現時点では、日本政府において「日韓の信頼関係を元に戻す努力」が行われる見込みはない、ということではないかと思うのです。
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余談ですが読売新聞にしっかりと「許可制にしたが韓国に許可を出す事はしない方針だ」とも書かれてました。
実際にはどうなるかは解りませんが韓国側の企業が備蓄している制裁品目は1ヶ月分だと韓国メディアが報道しているので事実上の最期の猶予期間は一ヶ月も無いかと思われます。
申請に不備があるので審査に時間がかかってる、と言って遅らせることだってできますね。そうやって例えば、決算期またぎでもしてやれば、それだけでも致命的となるのが、企業活動というもの。
きちんと調べてない(すみません、今後調べる)けど、フッ化水素などは日本のシェアは圧倒的に高いですが
中国の日系企業の工場での生産が割と多いようです。中国経由の迂回輸入が可能性としてあります。
2の矢、3んの矢を放たなくては。日本政府の戦略と覚悟に注目です。
ただ、こうしたことが直接経済に大きな効果がなくとも、精神が脆弱な朝鮮人が火病をおこして事態を悪化させてくれることは間違いないでしょう。これだけでも大きい。
>ポイントとしては、日本政府側は抽象的に「日韓間の信頼関係が著しく損なわれた」と指摘するのみで、何も具体的なことを述べていない、という点です。
素晴らしい。
国と国のやり取りであれば、これぐらい強気なやり方が必要です。
誰も裁くことができない国対国のやり取りでは、形式よりも信頼が命です。
そもそも説明したところで何の意味もありません。
米国→ファーウェイ制裁一部緩和
日本→サムスン等半導体製造関連物資の輸出厳格化
これは関連あるのでは?
西村さんは自身が経産省出身で、かつ安倍さんの最側近の1人です。
会見に菅さんではなく西村さんが出てきたのも西村さんと経産省がこの件で密接に連携してきたことが理由かもしれません。
今回の措置は経産省主導ではなく官邸主導でしょう。官邸から各省庁に韓国にとりうる措置が何かを打診し、官邸と最も距離が近くかつ使い勝手の良い経産省案を最初に実行したというところではないでしょうか。
理論武装は西村さんと経産省の間でかなり詰めてるように思います。ブログ主様の看破されたとおり、このロジックは他の省庁があげてきた案にも流用できます。
なお、世耕さんは今回蚊帳の外かもしれません。
「日韓間の信頼関係が著しく損なわれたから」
抽象的な理由しか述べない=ゴールポストは設定しない
日本はゴールポストを動かしたりしません。あなたと違うんです@福田康夫
制裁なんてしていません。だから制裁解除もありません。
別に謝罪も賠償も求めていません。何か心当たりでもあるのですか?
ああ、これは「ぐぬぬぬ」案件だわw
輸出規制を行うと、これらを生産する国内企業が業績不振になりませんか?
サムスン等が輸出規制のあった素材品の内製化を進める過程で、業績不振となる国内企業の人材をヘッドハンティングする可能性はあるのでしょうか?ソニー等の二の舞になるのではないかと少し心配です。
日本は輸出規制により不利益を受ける国内企業のケアを行い、人材流出することがないよう注意してもらいたいです。また、過去にヘッドハンティングされた人材が使い捨てされた等の情報があれば拡散することも一手段のような気がします。
メーカーの内情に詳しくないので、考えすぎであればよいのですが、心配しすぎでしょうか?
> 国内企業の人材をヘッドハンティングする可能性はあるのでしょうか?
私もこれが心配です。
中期的にはこれが最も手っ取り早く、かつ効果的ですから。
特許技術なので人の流出でどうにかなるもんなのかね?
生産自体は今でもしてるみたいですよ。純度が及ばないだけで。つまり施設をゼロから作るわけではない。
特許は、それを律儀に守ってくれる国なら良いんですけどね。
韓国側からすると、これが報復でないのであれば、本当の報復はどれほどのものになるのか?と想像だけで恐怖に震えることになるのでしょうね。
カードは切ってもエース(奥の手)があると思わせて降りさせるようにハンドリングするのは巧妙だと思います。
ヘッドハンティング。いいんでないですか。
人の流れを規制する格好の理由になりますよ。ぜひやってもらいましょう。
ヘッドハンティングによる知財侵害をテコに、基幹部品や製造機械の輸出禁止まで行けるのでは。
人材移動の規制は時代の流れに反してる気もしますので、どちらかと言えば、企業が技術者を大事にするきっかけになって欲しいですね。
>企業が技術者を大事にするきっかけになって欲しいですね。
全く同感なのです♪
半導体を作る国は韓国だけではない。韓国の生産が減れば台湾や中国などの他の国が増産します。
北朝鮮のウラン濃縮に使われてる可能性が有ります。フッ化水素はおそらく韓国から北へ横流ししているんじゃないですか。下手すると日本が国連から制裁を食らいますよ。
徹底的に輸出規制はしないと、知らないうちに核開発の協力者になってしまいます。
日本政府はその証拠をもっているのかもしれません。後でWTO違反と言われたら、その証拠をだす。最初から手の内を見せるより後で切り札を切った方が効果的ですからね。
>日本政府はその証拠をもっているのかもしれません。
なるほど。それが「韓国への輸出管理を巡り不適切な事案が発生した」だと考えると、すっきり収まる気もしますね。
日本は過去にも韓国の瀬取りを報告してるわけだから、あながち間違いでもなさそうな案。
経済産業省のHPにある発表文PDFに記載されている理由はこうなってますね。
>国際的な平和及び安全の維持のため、大韓民国を仕向地とする貨物の輸出について仮に陸揚げした貨物に
係る輸出の許可の特例を廃止する等の必要があるからである
https://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000189426
しがない中年様
ご心配の件は、韓国半導体業界が歩留まり劇下げを覚悟のうえで中国製品を使用する場合に、考えなくてはならない事でしょうね。
実際には、韓国業界としてはホワイト国を経由しての日本からの迂回輸入を試みるのではないでしょうか。
それが書類上のものとなるのか、実際にホワイト国を経由しての実態貿易(豪経由が一番近い迂回路になります)にならざるを得ないのかは知識が足らずわかりませんが、どちらにせよ日本側にはコスト負担はなく、韓国側にとってコストアップ要因となることになります。
今回の日本政府の対応は、実弾で相手を打ち倒すものではなく、威嚇射撃的なものだととらえています。あるいは首にはまった隷属の首輪の存在を思い出させる措置、といってもいいかもしれません。
その日、韓国は思い出した。日本に支配されている恐怖を・・・鳥籠の中に囚われている屈辱を・・・
自転車の修理ばかりしている様
失礼します。
キャッチオール規制ではそういう迂回も違反になり、迂回した会社も制裁を科されます。それが出来たら何でも有りですから。
めたぼーん様
ご指摘ありがとうございます。
ただ、たとえ規制がかかろうとも、彼らはトライするでしょう。北鮮に対する経済制裁だって篭脱けしようとする連中ですよ?
制度があるからと安心するのは禁物です。日本企業側で出荷先をコントロールしきれるものでもないでしょう。常に監視員が製品とともに最終消費者まで付いて行くわけにもいきません。全ての規則には何らかの抜け穴があるものですし、彼らの悪知恵は我々の想像を斜め上に超えますから。ただ無能さも我々の予想外なのが、困ったところと言うか何と言うか。
瀬取りを試みた挙句に船上でフッ化水素が漏洩して大事故、とかいうことになりそうな気がしてなりません。
韓国財閥は、国内投資をゼロにしてまで海外投資を積極的に増やしている状況ですから、今回の日本の措置は、「背中を押してくれた」様なものでしょう。
迂回輸出なんて必要ない、財閥としては、韓国国内生産分を減らして、その分海外工場へ生産を割振るだけで解決する。元々、韓国内からせっせと生産設備を運び出している最中なのだから、「良い口実ができた」としか思わないだろう。
各財閥の長は文在寅の手前、「民生労組と縁切りできてハッピー」とは口が裂けても言えないので、困ったフリはするだろうけど、内心は狂喜乱舞。
韓国のGDPは、韓国資本の海外生産分も算入する計算方式なので、GDPも減らない。
結局、影響を受けるのは、文在寅や労働者等に留まる。
そのフッ化化合物は長時間の輸送に耐えるモノでしょうか?誰かご存知?
匿名様
基本的に大丈夫だと思います。最も懸念される点は密封容器からの溶出部の問題ですが、その点は各makerが確認済みでしょう。そうでないと、怖くて売れません。また化学的に同じような傾向になる塩酸と違って、フッ化水素酸は非常に危険な化合物です。従って、梱包の際にも絶対に漏出を避ける対策を立てているはずですし、クリーンルーム仕様ですから包装も厳重です。外部からのコンタミもシャットアウトしているはずです。
駄文にて失礼します
韓国が長嶺大使に抗議したそうで。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190701/k10011977571000.html
「輸出管理適正化」と書きゃいいところを、わざと「輸出規制強化」とミスリードする。まあ、いいけどさ、むしろそれでw