本日は、当ウェブサイト初の試みとして、読者から頂いた投稿を、そのまま掲載させていただきたいと思います。非常に平易な文章と豊富なデータ、さまざまな情報源を示したうえで、国債発行と医療、社会保障などに関して論じた文章ですが、私などは是非「続きを読んでみたい」と思ってしまいます。なにより驚くのは、このように高度な文章を執筆する方が当ウェブサイトをご愛読いただいている、という事実です。
目次
読者投稿御礼
私が最近、非常に参考にしているウェブサイトがあります。
それは、当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』です(笑)
…というのは冗談で、本当に参考にしているのは、当ウェブサイトの記事ではなく「コメント欄」の方です。優れたコメントにはいつも勉強させていただくばかりですし、当ウェブサイトの記事の内容に反映させていただくこともあります。
こうしたなか、いつも当ウェブサイトに優れたコメントを寄せてくださる「りょうちん」様から先日、『大学で何を学ぶか、どこで何を学ぶか 結局は自分次第』に対し、こんなコメントを頂きました。
「主治医(某大学の教授)とよく話すのですが、日本の医療制度も完全に壊れてますね。/まあT大教授のいいそうな日本の医療崩壊論の内容は容易に想像が付きますw (ある人の思想を読んでなぜこの人はこういう考え方を持つ様になったのかとか邪推するのは大好き)/医療論は、その気になれば延々と開陳できるのですが、さすがに大学の話のエントリでこれ以上続けるのは余りにも空気が読めていないので自粛いたします。/新宿会計士さんがもし経済に絡めて医療論についてエントリを書いてくれたら、貯め込んだ資料が火を噴きますよw」
これに対し、私が「いっそのこと、寄稿なさいませんか?」と申し上げたところ、さっそくに、論考をお送りくださいました。そこで、頂いた論考について、私の責任で小見出しを付したうえで、漢字仮名遣いや半角・全角などの体裁の修正を加えつつも、基本的にはそのままで転載させていただきたいと思います。
りょうちん様からの投稿
(※これ以降が読者様からの投稿です。)
なぜ国債が必要になったのか
このブログの大きなテーマに国債の問題があります。
新宿会計士さんはその職業柄、国債のテクニカルな側面から定量的に論じていらっしゃる事が多いと感じています。
しかし、そもそもなぜ国債が必要になったのかという観点はあまり触れられていません。
まず前提として、国債の原初の性格は、国家が何らかの事業―大規模建設事業や戦争の戦費―などを国家という永続性を持った事業主体の強みを生かし長期間の償還期間を設定して資金調達するというものです。
それに対して、最近の国債の問題とは、いわゆる「赤字国債」―正確には特例国債―です。
1965年の予算編成で、東京オリンピック直後の反動の「証券不況」に対する補正予算による財政出動のために単年度の立法で初めて発行され、この時点では「特例」国債の名には嘘はありませんでした。今度の東京オリンピックの後に大不況が来ないといいですね。
しかし、1975年から税収不足から再度、発行され、平成のごく一時期に赤字国債発行がゼロになった時期を除き、日本の国家財政の赤字国債依存体質は悪化し続けています。
その辺りの経緯はこちらの論文に詳しいです。
『なぜ赤字国債の無制限発行が可能になったか』
(※ちなみに私はお金に対してまったくの素人です。こういう知識はほとんどググって信用がおけそうな無料で公開された論文を読んで勉強します。たまにあちこちで挙がっている名著などは買って読むこともあります。間違いがありましたらコメントの方で指摘してください。)
軍事費の増大は国債増発の主因ではない
さて、なぜ「疲労がポンッと飛ぶお薬」の様に最初はちょっとだけ・・・のはずが、「シャブ・・シャブをくれっ!!」としゃぶ葉中毒者にまで堕ちてしまったのか。
パヨクの人が言う様に日本は軍事大国への道をひた進み、戦前の様に国民に内緒で宇宙戦艦大和のような超弩級戦艦でも秘密に建造しているのでしょうか。第二の新幹線のリニアモーターカー路線の敷設や第三東京市のような地下都市建設に巨額の国費を費やしているのでしょうか。
まず軍事費、あ怒られるわ、もとい防衛予算ですが、こちらのHPがよいグラフを作成されています。
『日本の防衛費推移をグラフ化してみる(最新)』
じつのところ日本の軍事費は金額ベースでこそ世界の上位ですが、そもそも経済規模を表すGDPが実質世界2位なので、兵士の給与や調達品のなどかかる費用も多いため、相対的には少ない国です。
(※私は実際のところ中国の経済規模は世界3位だと認識しています。それでも中国のGDPは巨額ではありますが…。)
GDPとその国の物価・購買力はだいたいリニアな関係になります(この辺は突っ込まれそうな予感)。
しかも冷戦終結後、中国の軍事的脅威が相当鈍いバカにでもわかるようになって来てからは増額傾向になっていますが、未だに謎のGDP1%枠を堅守しています。
実のところ一瞬だけ越えたときにGDP1%は撤廃されているのですが、未だにGDP1%を下回っているのが常態です。
おなじくGDP1%程度のドイツは、そもそものGDP額が日本より少ないので、ろくに戦争もないのに栄光のドイツ軍が壊滅状態です。
そのていたらくにトランプはブチ切れで、「NATO加盟国ならGDP2%くらいは出せよ!!」と怒りのツイートをぶちかましていますが、メルケルからブロックされているのか財政均衡をしないと死ぬ病は治りません。
こうやって話が逸れていくのが私の悪い癖なので次に行きます。
要は軍事費の増大が要因にはなり得ても主因ではないよと言う話。
建設事業も国債増発の主因ではない
建設事業に関しては、ここがいいでしょう。
『平成31年度国土交通省・公共事業関係予算のポイント』
12ページの添付資料に国土交通省・公共事業費の推移が載っています。
思えば、「コンクリートから人へ」というお題目を掲げて政権を担った悪党いや元夜盗いや野党が政権を担って「コンクリートから人が!」の結果を経て回復基調ではありますが、往時にはとても及んでいません。
そしてこれもGDP比という概念を導入するとそこにはもっと驚くべき結果が!(ここで民放の番組ならCM挿入)
『国土交通省資料』
いいですか1996年の時点の半分以下ですよ。民業だったら、市場規模が半分になったら業態の変更を真剣に考慮しますよ。たぶん。
しかも現状、イタリアの3分の1って・・・。しかも母数のGDPの数字にも注目してつかあさい。
他の国は順当にGDPを増やしたうえでの比率の上昇なのです。しかるに日本は・・・。
ここで、公共事業悪玉論の愚かさをぶつのは他の方のネタの剽窃でしかないので、これくらいにして二時間ドラマの崖の上にそろそろ向かいましょう。
(ちなみにさっき「公共事業悪玉論」とい単語をググったら、なんとここが検索数トップでしたよw。すごいですね。)
『地方で「公共事業悪玉論」の間違いを実感する』
国債増発の犯人は、貴方です!
さて日本を赤字国債という麻薬中毒に陥いらせた犯人は誰でしょうか・・・。
マスコミではタブーの軍産複合体でしょうか、ザイバツの専横でしょうか、いいえ犯人は貴方です!!ビシッ!
え・・・俺?(あるいはアタシ?)
日本国民全員です。正確には責任比率で言えば、早死にする様な人は罪が軽いです。
まあこんなことは、新聞の様なゴミにもせめて年に一回くらいは載る一般会計予算の内訳をチラリとでも見てれば猫でもわかる話なんですがね。
『【図解・行政】2018年度予算案・2018年度予算案の構成(2017年12月)』
その他が7分に、社会保障費が3分!その他が7分に、社会保障費が3分だ!わかったか!!
新聞の様なうろんなものは論説の根拠としては一般的に認められないので、こちらも紹介しておきます。
『予算』
いろんな解説するところがありますが、ここが一次資料です。
この資料を基に頭の良い人がグラフにしたりします。
『社会保障給付費の推移等』
ここでもGDP比という概念を導入していますが、軍事費や公共事業費といったお金の消費(一部は投資的)は、世界の水準に置いていかれているのに、医療・社会福祉費はまるで先進国並みです。
GDPはさっぱり伸びていないのに、これじゃあ借金生活になるのも無理はないですね。
じゃ犯人がスッキリわかったところで、犯人には崖に飛び込むか隠し持っていた毒を飲んで貰うか、大人しく逮捕されるかして終わりにしましょう・・・。
で済むのはドラマの中の話だけです。人生はGoing onです。人間ですらその後があるのですから国家には更に後があります。
社会保障と医療における「不文律のタブー」とは?
社会保障費・医療費を論ずる人たちには不文律のタブーがあります。それは、
「団塊と団塊ジュニアさえ死んじゃえば将来の社会保障費・医療費増大なんて心配する必要ないんじゃね」
という、簡単な冷たい方程式を出すことです。
社会保障費・医療費を減らしたい動機を持つ人たちの手口には一定の傾向があります。
それは社会保障費・医療費のグラフの未来予測を団塊世代の平均余命のピークの年で打ち切るインチキをするのです。
人口ピラミッドの図を引用します。
『人口ピラミッド』
のほぼ現在と言っていい
http://www.ipss.go.jp/site-ad/TopPageData/2020.png
をみていただくとわかりますが、団塊の世代があと10年で、ほぼ死滅します。
先に挙げた『社会保障給付費の推移等』のグラフの未来予測が2025年で終わっているのは意図的だと感じませんか?
あと10年を凌ぐと、そのあと団塊ジュニアの山が来るまで15年は息がつけると思われます。
そんな不都合な真実をばらしてしまうと、社会保障費・医療費の増大は問題だけどあと10年くらいのことだからみんなで支えて頑張ろう!!なんてコンセンサスができてしまいかねません。
ただし人口ピラミッドの移動に伴った生産人口の減少という問題は、賦課方式の収入の減少というパラメータもあるのでそうそう単純な話でもありません。
年金問題に関しては、おそらくもっと良い人材がここにはいらっしゃると思うので、掘り込みません。
少しだけ詳しい医療の話題に絞っていきます。
日本の医療費の国際比較
まず日本の医療費は、高いのか、安いのか。
これは、どの観点から高い・安いと判定するかで異なってきます。
日本の医療制度は国民皆保険制度といって、こまけぇ話は良いんだよの精神でぶっちゃけると公定価格が決められており、その単価は絶対的に安いのです。
しかし、国民皆保険には上級国民も下級国民もすべて同じ医療を受けられる様にするという性格のため、医療サービスの量が膨大になっています。
少し古いデータですが
『日本の医療の現状と国際比較』
国民一人の受診回数は日本が21回に対して、論外の米国は抜かして、英国やフランスでは5回前後。高福祉のはずのスウェーデンで2.7回です。
一方受診1回当たりの費用は7千円で英国・フランスはともかくスウェーデンが米国をぶっちぎって8.9万円は草。
ちなみにこれはあくまで20年前のデータで、同じ基準のデータは見つけられなかったのですが、医療関係のデータの国際比較はもう
『日医総研ワーキングペーパー 医療関連データの国際比較』
この文献ひとつだけでいいんじゃ無いのかな・・・と思うくらい充実しています。
(図表もたくさんあるので、こんなふざけたコラムを読むより建設的ですよ。)
この中にも書かれていますが、単価が安くても医療機関受診回数が多いので医療費が増大する傾向はあります。
一方で興味深いのは、高齢化率と医療費の相関をプロットしたP12の「図 3.2.3 65 歳以上人口比率と 1 人当たり保健医療支出」 です。
統計学的にoutlier(実験データを処理している時にこいつさえなければ相関係数が上がるのに・・・消すか・・・と悪魔がささやくもの)な国があります。
ええ日本です。
この図の位置は、「日本は高齢化社会になっているけれど、その割には医療費を費やしていない」という高齢化率と医療費の額は相関するという一般的な法則に反していることを意味します。
それを可能にしたのが、国民皆保険制度による公定価格での価格統制と、後期高齢者医療制度と言う名の給付制限です。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
次回がありましたら、医療費はなぜ増えるのか、その増加に対して、大蔵省‐財務省、厚生省‐厚労省はどう対処してきたのか。
などの2本でお送りする予定です。(了)
論考について
りょうちんさまからの投稿は以上ですが、いかがでしたでしょうか。
普段の当ウェブサイトで執筆している私の文章と比べれば、文体はかなり異なりますし、タイトル自体「国債発行残高はまったく増えていない」とする当ウェブサイトの普段の主張とは異なっていますが、それでもデータも豊富で、すっきりと読みやすくて優れた文章だと思います。
また、「次回がありましたら」とありますが、私は是非、「次回」を拝読したい気持ちでいっぱいです(※といっても、すでに「次回」の原稿を頂いています。あらかじめ予告しておきますが、こちらも非常に有益な文章です)。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ところで、以前、『埼玉県民様から:「日本の広告費2017」を読む』や『埼玉県民様から:ことしも「日本の広告費2018」を読む』で、読者から頂いたデータや文章をもとにした記事を掲載したことはあるのですが、まるごと読者の方から文章を書いていただくのは初めてのことです。
こうした初の試みであることも含め、是非、読者コメント欄にご感想をお寄せください(なお、読者の方からコメントを投稿していただく場合のルールについては、現在、取りまとめている最中ですので、近日中に公表できると思います)。
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りょうちんさん、分かりやすい御説明の投稿、ありがとうございます。
消費増税についても、どう考えても景気低迷するだろうに、
なぜ安倍政権が引っ込めないかというと、
若者「消費増税なんかされたら就職困るだろ!絶対増税反対!」
壮年「消費増税なんかされたら生活成り立たんだろ!絶対増税反対!」
老年「いや、消費増税しないと俺らの老後が不安だし。
増税されてもそんなに俺らは困らないし」
と、老年層にZのプロパガンダが最も効いていて、しかも老年層が最も選挙に行く、
という事が、安倍政権が頭にあるので、増税ゴリ押しの一因になっているのでしょう
株価や地価が下がったら、一番カネを持ってる老年の運用収入もだいぶ減ると思うのですがね
もしかしたら安倍政権は老年層の後押しで、そんなに負けないのかも知れません
しかし消費増税すれば、安倍政権の勝敗がどうとかより、それ自体が日本にとって
ダメージがデカいでしょう。WSJが言う様に日本経済の自傷行為です
それで議席数や支持率が下がらずに、改憲に向かえばまだマシですが、
増税→景気低迷→支持率低下→レームダック化→改憲など発議も不可能
まずこうなると思います。安倍首相は今までのアベノミクスの貯金を、
自らダメにして元の木阿弥となるでしょう。暗澹たる思いです
面白いですねえ。自分も続き希望したいです。
>「国民一人の受診回数は日本が21回に対して、論外の米国は抜かして、英国やフランスでは5回前後。高福祉のはずのスウェーデンで2.7回です。」
もし次回があれば、触れられるのかも知れないですが、何故こういう事が発生するのかというのも気になります。
既に入稿した第二回目にはありませんが、第三回で触れる様にします。
是非よろしくお願い申し上げます。
医療制度批判の話かと思いきや、国債の話から始まって、目眩く旅をして、やっぱり医療の話でした。面白く、かつ、ためになりました。
団塊の世代が死滅すればという表現は、ご不快な方もいらっしゃるでしょうが、私は団塊が大嫌いですので、心地よく読ませていただきました。ご不快の念を抱かれた方にはお詫び申し上げます。
阿野煮鱒 様
私がジジイだから弁護するわけではないのですが、医療費の問題は団塊の世代の問題ではないと思います。問題は医療関係者が金儲けをするのに熱心であり、国全体を巻き込んでいることだと考えています。
医者、看護関係者、製薬メーカー、薬局、医療機器メーカーなどなど、病人が増えれば増えるほど儲かります。そのため何かと理屈をつけては病気を増やし、病人を増やし、診察を行い、薬を出して儲けようとしているのが現在の医療ではないでしょうか。
官僚や政治家がそれをコントロールすべきですが、今や医療はすっかり巨大産業化しており、圧力団体の発言力は相当に強いものがあって、そう簡単に抵抗することはできないというのが現状だと思っています。
一つだけコメント
団塊の世代の定義が重要。ひとくくりに団塊世代と非難されてはたまったものではない。段階世代とは、65歳以上くらいの、満額退職金と満額年金をもらえた世代である。
また、2人以上の子供を育てたお年寄りが、青二才に文句をいわれるすじあいはない。
おや?
私の書いた文章に「団塊の世代」様を批判した部分があったでしょうか?
ただ単に、「人口ピラミッドの特異点である」という特に悪意も善意もない事実しか述べていないのですが・・・。
よく見たら、その辺の理屈は次の原稿でよく述べられていました。
まあお怒りを収めて次を御笑覧ください。
りょうちんさん
誤解を与えてすみません。匿名の英語を漢字書きした人宛てでした。
りょうちんさん、分かりやすい御説明の投稿、ありがとうございます。
消費増税についても、どう考えても景気低迷するだろうに、
なぜ安倍政権が引っ込めないかというと、
若者「消費増税なんかされたら就職困るだろ!絶対増税反対!」
壮年「消費増税なんかされたら生活成り立たんだろ!絶対増税反対!」
老年「いや、消費増税しないと俺らの老後が不安だし。
増税されてもそんなに俺らは困らないし」
と、老年層にZのプロパガンダが最も効いていて、しかも老年層が最も選挙に行く、
という事が、安倍政権が頭にあるので、増税ゴリ押しの一因になっているのでしょう
株価や地価が下がったら、一番カネを持ってる老年の運用収入もだいぶ減ると思うのですがね
もしかしたら安倍政権は老年層の後押しで、そんなに負けないのかも知れません
しかし消費増税すれば、安倍政権の勝敗がどうとかより、それ自体が日本にとって
ダメージがデカいでしょう。WSJが言う様に日本経済の自傷行為です
それで議席数や支持率が下がらずに、改憲に向かえばまだマシですが、
増税→景気低迷→支持率低下→レームダック化→改憲など発議も不可能
まずこうなると思います。安倍首相は今までのアベノミクスの貯金を、
自らダメにして元の木阿弥となるでしょう。暗澹たる思いです
紹介されている資料も分析も、さすが、りょうちんさん。素晴らしいですね。
次回を楽しみにしてます。
本論とはズレるんですが、米国の医療費の突出具合がなんか、気になりました。
「日医総研ワーキングペーパー」を見てて。
ズブの素人のヘボ分析なんですが、考えた過程が楽しめたんで、以下、足跡的に。
図 2.2.6 対 GDP 保健医療支出の推移
図 3.2.2 1 人当たり保健医療支出の推移
図表で見ると米国の医療費の高さ超目立つんです。
1人当たり保険医療支出は、G7国では2位以下にダブルスコアのダントツです。
りょうちんさんが「図 3.2.3 65 歳以上人口比率と 1 人当たり保健医療支出」で日本をoutlinerとしていましたが、それを補って余りある存在のようでした。多分真ん中上の突出したプロットが米国ですよね。
一方で米国の医師数が特段多いわけでもない。平均値に近い感じです。
図 4.1.2 人口 1,000 人当たり医師数の推移
で、保険医療支出の公的・民間の比率を見ると、他の先進国がだいたい、公:民=8:2で似たり寄ったりなのに対して、米国は公:民=5:5くらい。
図 3.3.1 財源別対 GDP 保健医療支出
ただ、比率はこうなんですが、前述のとおり米国の保険医療費支出の母数は突出して大きいので、公的医療支出の額が突出して少ないわけじゃなさそうです。
これらから、米国は他の先進国より民間保険が発達してて、それに伴う大きな医療ビジネス市場が出来上がってるんだろうか、と類推。
民間保険市場の消費者は、多分、わりと裕福な層で、彼らが恩恵をうけている(不安を煽って金をむしられている?)のでしょうか。貧乏人には受けられない医療サービスってのが多くありそうに思いました。
米国の所得区分別の、民間保険市場の依存度を示すようなデータがあるとこのへんがわかるのかな。
割愛した部分も多分にありますが、いろいろ想像を膨らませてくれる楽しい資料でした。
ありがとうございます。
概ねそうですが、アメリカ在住の方のコメントを待った方がいい様ですね。
もし成書でよければ、
ちょっと古くて最近の話題には追従できていませんが名著
「アメリカ医療の光と影―医療過誤防止からマネジドケアまで」
最近の本では
「沈みゆく大国 アメリカ 〈逃げ切れ! 日本の医療〉」
この本の内容はだいたい私の論旨に沿っています。
「医療再生 日本とアメリカの現場から」
あたりをオススメします。
書籍ご紹介、ありがとうございます。
いい機会ですので、当たってみたいと思います。
投稿主様から呼ばれた気がしますのでw、コメントさせていただきます。
まず、最初にお断りしておきますが、私は医療関係者ではありません。あくまで一患者としての知識しかありませんが、その範囲で答えさせていただきます。
# 医療従事者の給与
誰も触れてない気がしますが重要なので書いておきます。
私が知る限り、アメリカの医師も看護師の給料も日本よりは高いです。(医者は勤務医限定)
といっても、金融やIT産業に比べればそれほどでもないため、医師が他の業界に転職するということは多くなってきてるようです。
また、すべての問題を現場にシワ寄せする日本と違って、アメリカの病院ではすべてがシステマチックにできていますので医師や医療従事者が人間らしい生活を営む程度の勤務時間しか求められません。
日本の勤務医はブラック企業も真っ青なブラックぶりで、女医に至っては出産など望むべくもないという状態だと聞きますが、アメリカの女医はガンガン産休をとって、ガンガン産んで、子供のイベントのたびにガンガン有給をとってます。私のプライマリードクターは女性ですが、子供三人産んで休みまくってるので、病院にいっても会える確率が50%くらいです。
# 医師の数
医師の数の過不足は私にはわかりませんが、看護師の数は不足していて海外の医者がアメリカに来て看護師として働くと言うケースもよくあったようです。最近では看護師不足も多少緩和したのか、海外からの看護師は少なくなったようですが。
一方、上に書いたように優秀な人間が医学部以外に進むケースが増えてきていますので、長期的には良質な医師が不足してくるのではないかという懸念は医療従事者の知人からも聞きます。
# 健康保険
> 他の先進国がだいたい、公:民=8:2で似たり寄ったりなのに対して、米国は公:民=5:5くらい。
そもそもアメリカは国民皆保険ではありませんから。保険は皆が自己責任で入るものです。
保険に入らない人は、治療を受けられずに死んでも仕方ないと言う考えです。
病人が出て救急車がくると救急隊員は息も絶え絶えな病人に、まず最初に保険に入っているかどうかを確認するのだそうです。すでに意識がなかったり、保険に入ってなかった場合はどうなるのかは正確には知らないのですが、運が良ければ治療が受けられるし(そして貧乏人はそれを踏み倒す)、運が悪ければそのまま死ぬだけだと理解しています。
なお、アメリカには未払いの医療費を徹底してトラックして徴収する会社があります。日本とは比べ物にならないくらいプライバシー情報が企業にダダ漏れな国ですから、この集金会社から逃れることは容易ではありません。病院は患者が治療費を踏み倒すと、こういう会社に債権を売るようです。なお、集金会社はえげつない遅延金を上乗せしてきます。ほとんど合法的なヤクザにも思えます。
# 保険会社
> 米国は他の先進国より民間保険が発達してて、それに伴う大きな医療ビジネス市場が出来上がってるんだろう
正しいです。アメリカでは医者は大して給料がよくありません。(日本の勤務医よりマシですが)。でも医療費はバカ高い。いったいどこがお金を儲けているのかと言うと、保険会社です。
そして、その保険会社の足をひっぱっているのが、治療費を踏み倒す貧乏人ということです。
そして、その分医療費が高くなるので、貧乏人はさらに医療費を踏み倒すようになる悪循環になっています。
損をするのは真面目に健康保険料を払うのにバカ高い医療費も負担させられる中間層で、この国の中間層が疲弊している一例としてとりあげられます。
この悪循環を断ち切るためにオバマケアが生まれましたが、私の場合はオバマケアのおかげで co-pay (治療を受ける時に自分が負担する最低額)が一気に3.5倍に跳ね上がったので、オバマケアはいい迷惑です。(低所得者層を優遇したため、中間層の負担がさらに増えたということです)
# 健康保険の適用と負担
> 民間保険市場の消費者は、多分、わりと裕福な層で、彼らが恩恵をうけている(不安を煽って金をむしられている?)のでしょうか。
概ね正しいです。良い保険の加入者は中間層以上の人たちですね。裕福な層が恩恵を受けているとは言えませんが、彼らは所得が物凄く高いので、保険料の支払いくらいはほとんど負担になりません。
> 貧乏人には受けられない医療サービスってのが多くありそうに思いました。
正しいです。安い保険だと、ほとんどの病院やクリニックでは利用できません。利用できるクリニックに行くと異様に混んでいて、順番がまわってくる前に病気になってしまいそうです。
# 治療の方針
なお、私の保険は保険会社が運営する病院での治療が受けられるものなのですが、診察に行っても薬はあまり処方されません。またよほど深刻な病気でないと診察は積極的に行ってくれませんし、手術も相当に悪くなるまでやってくれません。
(日本に帰国した時に病院に行くと、山程薬をくれますし、説教的にバンバン治療をしてくれるので驚きます。その理由については、りょうちんさんに解説してもらった方がよいですね。)
薬をなるべく出さない、あまり治療をしないのは他の病院でも同じようですが、保険会社が運営する病院だと保険を使うたびに会社の負担になるため、なるべく薬を出さない、なるべく治療をしないようです。
もちろん、抗生物質の乱用を禁止して耐性菌を抑えるだとか、下手に手術して失敗すると裁判で訴えられかねないので、これ以上悪くなりようがないと言う状態(手術のリスクがゼロに近い)まで手術しないというのもあるようです。
以上、一患者が見た雑感ですが、御参考になれば幸いです。
チキンサラダさん
私のぱっと見程度の解釈に対して、すべての記載に漏れなく、大変丁寧にコメントをいただき、恐縮です。ありがとうございます。
米国在住のご経験からの、大変貴重なお話を聞くことができ、望外に早く多くの答え合わせができてしまったようです。
米国の医療制度は日本とはかなり違っているようですが、日本とはまた違った問題を抱えているということのようですね。
>アメリカでは医者は大して給料がよくありません。(日本の勤務医よりマシですが)。でも医療費はバカ高い。いったいどこがお金を儲けているのかと言うと、保険会社です。
一人当たり医療費の高さから、医者が相当儲かってるのかと思ったんですが、それほどでもないのですね。それでも、日本の医者の時間単価は安いでしょうから、日本と比べればその分は医療費が上がる要素にはなってるんでしょうが。
保険会社は大儲けしているとのことで、アメリカならさもありなん、と思いました。(笑)
ただ、一人当たり保険医療支出が日本の2倍に上る理由は他にもありそうに思います。
いい機会ですので、ちょっといろいろ調べてみたいと思います。
いいお話をありがとうございました。
なんちゃん様
医者の知人曰く、「医者は頭が良いのが揃ってるが、本来の仕事である医療をやっていると、お金儲けを考える暇がない。保険会社の人間は医者ほど頭が良くはないが、年がら年中、金儲けのことを考えていられる。だから、医者がかなうわけがない。医者は保険会社に食い物にされ放題だ。」なのだそうです。
医療費が高い理由は他にも
• そもそも物価が高い
• 低所得者層が治療費を払わないしわ寄せ
と言う要因が思い当たりますが、私もきちんと調べたことがありません。調査結果、楽しみにしております。
なんちゃん様
アメリカの医療費がなぜ高いか、軽く調べてみました。後で私の実感を加えて解説したいと思います。
チキンサラダさん
ご解説楽しみにしています。
私も軽く、2,3レポートにあたってみました。
が、コトは単純じゃねーなー、という感じで、ちょっとこちらでご披露するにはもう少し調べないと、ってところです。
ただ、米国でも医療費の高騰は問題になっていて、どうも根っこは、医療の高度化と高齢化に尽きるような感じも受けてます。日本と同根というか。
なんちゃん様、
こちらに投稿いたしました。
https://shinjukuacc.com/20190623-01/comment-page-1/#comment-38174
ご笑覧いただければ幸いです。
結局、「国債は借金だから増えちゃだめ」って「安易な前提」の元でのお話?
なんだ、期待はずれ
ふふ、ハズレです。
りょうちんさん、寄稿ありがとうこざいます
会計士さんの記事もおもしろいのですが、文体の違う他の人の記事も楽しいのです♪
りょうちんさま、
早速掲載されたようで何よりです。
しかし、いいところで終わってしまって、蛇の生殺し状態ですw
早く次回が読みたいです。
りょうちんさん 面白く勉強になります。次回が楽しみです。
さてアメリカの医療保険について、私が愛読しているハワイ在住の方のブログから
先日の新聞によると、8年後の個人の1年間の医療保険料は1万4千ドル(約155万円)、子供2人の4人家族が4万2500ドル(約470万円)になると試算しています。毎年6%~8%も上昇する医療費が保険料を押し上げています。
とてもじゃないが、普通の家庭では無理ですʅ(◞‿◟)ʃ
ちなみに救急車の一回の基本料金1200ドルだと。
海外に行くときは、必ず旅行保険に入りましょう。笑
アメリカに住んでると、逆に日本の救急車が無料なのが不思議に思えてきます。日本に住んでいた時、私の嫁はタクシー代わりに救急車を使っていましたが、アメリカでそれをやられたら悲惨です。
なお、私の場合、三人家族で健康保険の支払いは vision と dental をあわせて昨年度約三千六百ドルです。保険は会社ごとにプランがあるのですが、私の場合は保険内容は決して悪くないですが会社がかなり負担してくれてるのだと思いますが、そのハワイの方と桁が違うのは不思議ですね。自営業の方だとしても、そこまで差が出るものなのか。私が何かを見落としてるのかもしれませんが。
なお、健康保険は tax deduction の対象ですし、アメリカには flexible spending account という制度もあるので、実質的な負担はもう少し軽いです。
チキンサラダさん
会社員ではないようです
この保険料は、8年後の予測で現在は半額くらいなようですね。
参考までに
http://blog.livedoor.jp/bobytigger/archives/8899528.html
http://blog.livedoor.jp/bobytigger/archives/7574181.html
つくし様、
有難うございます。
会社負担は平均で八割のようですね。
https://www.peoplekeep.com/blog/what-percent-of-health-insurance-is-paid-by-employers
それなら、計算があう、とまではいかないですが、少しは近い数字になりますね。
なお、私の会社はカバー率はかなり良い方だと思われますので、9割かもっとあるかもしれません。
逆に会社負担が平均の八割とすると、八年後に四人家族の健康保険の支払いは年間八千五百ドルになるということですね。
所得の高い人たちなら問題ない額ですが、年収100Kを下回るような人たちだと厳しい額ですね。
本当にオバマケアは最低です。
りょうちんさまの投稿記事、要点を押さえつつ読みやすく面白い!
コメント欄の皆様のお話も興味深く、参考になります。
日本で医療費が他国に比べ相対的に抑えられているのは、厚労省が薬価を監視しているおかげもあるでしょうか。
厳しすぎて新薬開発するメリットがない、とか色々言われているようで、功罪あるとは思いますが。
欧州の事情は知りませんが、アメリカの薬価については時折ニュースで目にします。庶民には厳しそうですね。
3年近く前の記事ですが↓
一気に55倍も……値上げ相次ぐアメリカの薬価 問われるのは企業倫理だけか
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160903-00000002-wordleaf-n_ame&p=2
>2009年10月に定価124ドルであったエピペンは数度の値上げを経て、2014年11月には400ドルを突破。
>今年(2016年)5月に発表された新価格は609ドルに達していた。
エピペンはアナフィラキシーショックに陥った際ほぼ唯一の救命手段のようですが、この価格は悲惨です。
>国民の約8割は何らかの形で民間の保険や政府の保険プログラムに加入しているが、
>エピペンを含む数多くの医薬品の価格の大半は保険会社や政府系保険プログラムが負担している。
と記事の続きにあるのですが、逆に言うと残り2割は…。
本題からそれたコメントになってしまいましたが、りょうちん様の続き、楽しみにお待ちしてます。
私が、医療問題で、わりとUSAの話をぶっ飛ばすのは、イかれ過ぎてて、あんまり参考にならないからです。
日本の治安の話をするのに、メキシコとかソマリアを引き合いに出す様なものでw