韓国に対して経済制裁を適用すれば、日本にも莫大な被害が生じる――。この認識は、決して間違っていません。日韓関係は、日本から韓国への一方的な貸出超過状態であり、また、一方的な投資超過状態にあり、かつ、日韓貿易は日本の莫大な黒字で、日韓観光収支も日本側にとって黒字です。つまり、経済的に見れば韓国は日本の「良いお客さん」なわけですが、当然、そんな「良いお客さん」に経済制裁を適用すれば、日本にもブーメランのごとく、経済的損失が発生してしまいます。ただ、それと同時に「国益」は「企業益」よりも絶対的に優先します。たとえ日本企業に損害が生じるとしても、日本政府には必要な経済制裁をためらわないでほしいと思います。
元韓国富士ゼロックス会長の発言
当ウェブサイトで取り上げたい話題は非常にたくさんあり、正直、追いかけるので精一杯、という状況になってきました。こうしたなか、本日出てきた話題だけでも取り上げ切れないものがいくつかあるのですが、いくつかの話題は明日以降に回すこととして、本日はもう1つ、この話題を取り上げたいと思います。
「韓国を制裁すれば日本にも莫大な被害」…日本でも経済報復無用論(2019年03月14日14時14分付 中央日報日本語版より)
韓国メディア『中央日報』(日本語版)によると、高杉暢也・元韓国富士ゼロックス会長が月刊誌『文芸春秋』4月号の対談記事で、韓国に制裁を加えた場合には、日本にも莫大な被害が生じると述べたのだとか。
中央日報からの「孫引き」ですが、文芸春秋の対談記事によれば、司会者が「日本国内の強硬派の間では『日本に少し損害が生じても韓国に制裁を加えるべき』という主張がある」と話を振ったところ、高杉氏は
「そうではない。日本にも大きな影響が生じる/両国の経済は複雑に絡んでいるため、そのシステム自体を破壊すれば被害額は莫大になる」
などと述べたのだそうです。
「韓国に何らかの経済制裁を加えた場合、日本経済にも少なくない損害が生じる」という点については、紛れもない事実です。なぜなら、日本は韓国に対する貿易黒字国であるとともに、日本企業は韓国に対して莫大な額の投資を行っていて、また、日本の金融機関は韓国に多額のカネを貸しているからです。
また、韓国の産業は日本のサプライチェーンにも深く組み込まれています。
中央日報によると高杉氏は
「例えば日本の精密部品会社にとってサムスンとLGは重要な納品先」「(スポーツ用品)デサントの最も大きな市場も韓国」「両国の経済は切り離せない関係」
としつつ、「両国経済が共同運命体であることを強調」したそうです(もっとも、私自身、「切っても切り離せない関係」だとは思いませんが、この点については後述します)。
日韓間の結びつきは確かに密接だ
では、具体的に日韓間はどのように結びついているのでしょうか?
まずは客観的事実として、日韓両国の往来の人数と金額について確認してみましょう(図表)。
図表 日韓の人的・金融的・交易的つながり
区分 | 数値 | 情報源 |
---|---|---|
①日本に入国した韓国人(2018年) | 7,538,986人 | 日本政府観光局(JNTO) |
②韓国に入国した日本人(2018年) | 2,948,527人 | 韓国観光公社 |
③日韓の往来の合計(2018年) | 10,487,513人 | ①+② |
④日本から韓国への与信(2018年9月) | 58,606百万ドル | BIS最終リスクベース統計 |
⑤日本から韓国への直接投資(2017年12月) | 36,883百万ドル | JETRO『直接投資統計』 |
⑥韓国から日本への直接投資(2017年12月) | 4,067百万ドル | JETRO『直接投資統計』 |
⑦日本から韓国への輸出(2018年) | 54,605百万ドル | JETRO基礎データ |
⑧韓国から日本への輸出(2018年) | 30,529百万ドル | JETRO基礎データ |
⑨日韓貿易総額 | 85,134百万ドル | ⑦+⑧ |
⑩日本の対韓貿易黒字額 | 24,076百万ドル | ⑦-⑧ |
(【出所】図表中「情報源」欄参照)
まず、「ヒト」に関していえば、日韓間の往来は年間1000万人を超える時代となりました(上記③)。
といっても、おもに韓国側から日本にやってくる人が激増し、いまや700万人を超えている、ということですが(上記①)、それにしてもすごい人数です。韓国国民に対する日本に入国するための観光・短期商用ビザ取得制度を復活させた場合、この人数が激減することが考えられます。
次に、「モノ」に関していえば、日韓間の貿易額は総額で851億ドル(上記⑨)、日本の対韓貿易黒字は241億ドル(上記⑩)にも達しています。当然、日韓貿易が滞れば、日本企業にも莫大な損失が生じる可能性があります(この点が、上記中央日報記事でも指摘されています)。
さらに、きわめて重要な議論が「カネ」です。
日本の銀行は韓国に対して「最終リスクベース」で586億ドルという莫大なカネを貸していますが(上記④、その多くは貸付債権や円建て債券などの形態をとっています)、韓国向けのこれらの与信が焦げ付くことになれば、日本の多くの銀行に損害が生じるおそれがあります。
また、日本の民間企業は韓国に対して「対外直接投資」の形で369億ドルを投資していますが(上記⑤)、韓国国内で資産差押えを喰らった場合、これらの資産の回収ができなくなります(ちなみに上記⑥にあるとおり、韓国から日本への直接投資は41億ドルに過ぎません)
日本企業の投資リスク最大化こそ韓国の一貫した戦略
実は、この「日本企業にとって自国への投資リスクを最大化させる」というのは、韓国(や中国)の一貫した戦略です(ちなみに1990年代後半から2000年代にかけて、日本企業に対して全力で中国投資を煽った罪深いメディアが日本経済新聞です)。
つまり、経済を人質に取ることで、政治的に日本が韓国や中国と敵対し辛い状況に持っていくということが、中国や韓国にとっての国益にかなっているのです(その意味で、経団連が中国や韓国にやたらと甘いのも、当然といえるでしょう)。
インターネット上では「日韓断交!」などと威勢の良い発言をする人が多いことは事実ですが、実際には「日韓断交!」は口で言うほどたやすいことではありません。
だからこそ、当ウェブサイトでもこれまで、「韓国に対して制裁を加えるつもりなら、日本に対してもそれなりの経済的な打撃が生じることを覚悟しなければならない」と、何度も何度も申し上げ続けているのです。
- 「韓国ザマ見ろ」ではない、日本への打撃も覚悟の日韓断交論(2018/11/19 08:00付 当ウェブサイトより)
- 対韓経済制裁が難しい理由と、日本に求められている「覚悟」(2019/01/27 05:00付 当ウェブサイトより)
韓国比率は少ない!日本への打撃はマネージ可能
ただ、それと同時に、「日韓断交」のような状態になったとしても、それで崩壊するほど日本経済は脆弱ではありません。
たとえば、対韓貿易黒字の額は240億ドルですが(図表の⑩欄)、冷静に考えてみると、日本のGDPはドル建てで5兆ドル前後であり、韓国に対する貿易黒字の額はその0.5%である、という言い方もできます。ということは、数字のうえでは、日韓断交はGDPを0.5%押し下げる、というだけのことです。
また、日本の対韓輸出品は、韓国産業にとっての基幹製品ばかりですが、逆に、日本企業にとって韓国だけが唯一の売り先ではありません。つまり、韓国という販路を失っても、台湾やASEAN諸国(あるいは日本国内)に販路を求めれば済む話です。
さらに、日本の対外直接投資(FDI)残高は2017年末時点で1.55兆ドルであり(JETROデータ)、韓国に対するFDI残高はこの約2.5%に過ぎませんし、日本の対外与信(最終リスクベース、2018年9月末時点)は4兆ドルであり(日銀データ)、韓国に対する与信はこの1.5%弱です。
このように考えていくと、絶対値で見ると確かに巨額ですが、比率で見ると、「極めて重要だ」とまでは言えません。
だからこそ、高杉氏の「日韓両国の経済は切り離せない関係」という表現に、強い違和感を抱くのです。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
もちろん、企業社会から見れば、日韓貿易、日韓投資は非常に重要ですし、また、観光産業から見れば、韓国人観光客は貴重な存在であることは間違いないでしょう。そして、経済(カネ儲け)は、国にとってきわめて大事な柱でもあります。
ただ、それと同時に絶対に忘れてはならない話が、もう1つあります。
それは、どんなときにも常に「国益」が「企業益」よりも優先される、ということです。
もし個別企業が「わが社の利益が大事だから、何があっても日韓関係を守らねばならない」と考えていて、それがわが国の国益に反する考え方なのであれば、私はその企業を倒産させてでも国益の方を守らねばならないと考えます。
その意味で、先ほどの中央日報の記事に紹介された高杉氏の発言からは、ご自身が企業人である以前に日本人であるという事実を忘れている、きわめて傲慢かつ偏狭な思想が見て取れるのです。
いずれにせよ、韓国に対する経済制裁を実施すれば、日本にも少なからぬ影響が生じることは間違いありませんが、だからといって、必要な制裁措置を取らないということがあってはなりません。
日本政府の英断を求めたいと思います。
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韓国の工場を撤退して、韓国の労働者を全員首にするといっている
ゼロックスの社長が、日本に対しても損害がでるというと説得力ありますね。
https://japanese.joins.com/article/172/247172.html
損害が出ても、関係を断ち切ろうということを、態度で現してくれていますね。
R様
ありがとうございます。記事の読み方が変わりました。
>「両国経済が共同運命体であることを強調」→ 時期に離婚する運命という意味での発言ですね。
韓国ゼロックス元会長人が悪い。
ゼロックスは、これから、韓国から全面撤退しようと思っていても、
それをいうと、労働紛争が起きたり、訴訟起こされたり、面倒だから、
韓国にフレンドリーなことをいっているのではないかと思うのです。
本田だって、英国での生産終了にあたって、「Brexitは関係ない」という訳です。
誰が考えたって、影響しているに決まっているのに、社会儀礼として、本当のことは
言わないのです。
「その人のアクション」を見ると、その人の心の奥底もみえてくる気が私はします。
これからも生じ続けるであろう損失(金銭面だけに限られない様ですが)と、現時点で対応する事により被る損失との比較ですよね。本当はもう少しゆっくり時間をかけて韓国から引いて、損失を抑えたかった所でしょうが、事態の展開が急すぎたという所なのでしょう。
拙速とか感情に任せてというのは問題が有ると思いますが、損得を検討するのに必要な情報が集中する政府が判断し、確実に進め、周知徹底することで損害を抑えるよう実施して欲しい所です。立法措置も必要になりそうですし、別に韓国や北朝鮮に限らず、一般的な国益を守る手段として必要な措置を取って欲しいです。
残念ながら私の知識では希望する方向を記述することしか出来ず、どの様な事を視野に入れなければならないかも把握できていませんが、筆者さんの記事は大変勉強になります。ありがとうございます。
>くろさま
日本の金融機関は、相当額の投融資を韓国に対してしています。
「いつのタイミングで、韓国制裁を発動しても支持率が下がらないか」、
そのタイミングを安倍政権は見極めていると思います。
最後に逃げそびれた金融機関は、大損害を被るでしょうから、
そういう金融機関等に対する警告の意味も込めて、
「制裁をするぞ」と、政府は、大々的に宣言をしていると思います。
一方、米国勢(ヘッジファンド等)は、韓国からいつでも逃げられますから、
韓国経済破綻に向けての引き金をひくのに躊躇はないと思います。
トランプさんにとって、従北のムンジェイン政権にお灸をすえる必要がありますから、
日本が引き金を引く前に、米国勢が韓国経済破綻に向けての引き金を引くのではないか
と思います。
前回の韓国危機の時と同じですね。
Mフィナンシャルグループがあわててシステムの減損の今期計上を発表したのも、在韓債権の回収可能性を意識して問題勃発前に身ぎれいにしたかったのかもしれませんね。
そこまで優秀な銀行なら、その前に、韓国に入れ込まなかったと思いますが。
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
これからの日本企業に必要不可欠なものは、「損切り」のタイミングを
計る冷静さと、それをためらわない覚悟だと、思います。(勿論、そのタ
イミングが来るのは、10年、あるいは100年後だということは、あり
得ます)
駄文にて失礼しました。
日本政府からのこれだけ明瞭なアナウンスと準備時間があった上で、
尚も韓国とのカントリーリスクをヘッジ出来ていない怠慢な日本企業を救う義務も価値も無いでしょう
もはや中国より凄まじいPM2.5だけ見てもよく撤退しないもんだな、と思います。
家族そろってソウルに住んでいる日本人社員とか気の毒です。
一人の社会の歯車としてはあの国に出張するかもしれない可能性なんて御免ですので各社は粛々と撤退してほしいものです。というか、あれらの国に進出するにあたって経営陣はあれらの国の治安ってどの程度理解してるんだろうなと毎回思います。
最後に、数々の問題が起こる前に事務所とか作った企業はかわいそす。
>>ええ、もちろん覚悟の上です
いえいえ、覚悟なんかする必要はありません(笑)
軽く乗り越えられます
一部の信念のある日本企業を除いて、ここ半年ほど、政府の暗黙の指導で韓国を国際分業から外すアクションは取られてきてますからね
直近の統計でも、日韓の貿易は、作為的行動を無視すると、説明できないほど減ってますよね
今は、某中国企業に対する制裁を準備している時で、もう文章は業界を回ってますよ
制裁がビジネスチャンスになる企業が、売り込み真っ最中です(笑)
経済制裁に対する報道が、最近変わってきましたね。
風が変わったというのか。
少し前までは、世論は経済制裁に前向きでも、テレビマスコミは、政治と民間は別だ、という主張が多かったはずだ。
それが、麻生さんの発言あたりから、マスコミも経済制裁を煽り始めた気がする。
これは出来すぎだ。
よくよく考えなければならない。
まずは政治日程だ。
安倍さんのもっとも気になっているのは参院選選挙のはず。
7/21参議院選挙投票日である。
さらに消費増税は10/1でほぼ決まりであるが、選挙で大負けしたら、どうであろう。
もしかしたら消費増税が出来なくなるのではないだろうか。
安倍さんとしては、夏の参議院選挙では、なにがなんでも過半数は取らなければ、ならないわけだ。
そこで考えてみたい。
はたして、ここで韓国と揉めることは、選挙にとって、プラスかマイナスか?
統一地方選挙というものが4/21投票である。
これは国政選挙ではないので、国の外交政策は争点にはならないはずだが、はたしてどうだろうか?
当然、自民党の敵は、共産党、立憲民主、どっちも韓国に甘い政党、ここで嫌韓ブームを巻き起こすと、はたして自民党には追い風か?
しかし、両刃の剣だ、もし、嫌韓ブームを興しといて、結局、経済制裁が出来なかったら、逆に『自民党は弱腰だ、失望した』と世論に言われかねない。
また本当に経済制裁をやって、韓国から邦人企業が撤退なんてできるのだろうか?
洒落で今までは『さっさと撤退しろ』と言ってきたが、実際リーマンショック以降、韓国は大きく外資受け入れに舵を切り、仁川経済自由地区などをはじめ、大きな経済特区を8つも作って、バンバン邦人企業を受け入れてきた。
決して成功したとは言えない経済特区で、中には閑古鳥も鳴いてるとこもあるらしいが、それでも三菱電機をはじめ何百という邦人企業が誘致されたはずだ。
私としては『ザマーミロ』といいたいとこだが、どうにも日韓関係が邦人企業の撤退にまでつながるだけのイメージが湧かない。
邦人企業の現地工場や現地研究所を畳むなんて、この程度の摩擦では無理だろう。
となると、やっぱり、選挙対策で、自民党は韓国に強く出ただけじゃないのだろうか。
米中のように報復関税をかけあっても、別に中国から米国企業が撤退したなんて話はまったく聞かない。
相変わらす、上海にはディズニーランドがあるんだろう。
ここは、自民党の選挙対策を考えにいれて推理せねばならない局面だと思います。
カニ太郎さんへ
嫌韓で票が取れるなら、
何の責任も無い野党こそ、
嫌韓をアピールする政策を打ち出して
議席を伸ばすべきでしょ?
何故、野党が嫌韓に走れないのか?
そっちの方が不思議なんだけどね
TVもそう
嫌韓番組をやれば視聴率を取れるのに
絶対にヤラない
視聴率絶対主義は、本当じゃないのかね?
確かにそうですね。
鞍馬天狗さんに一本とられました(笑)
仰るように、
韓国では、反日アピールは票になるが、
日本では、嫌韓アピールは票にならないです。
むしろ、日本では表を減らす気がする・・・
ちょっと、練り直してみます。
2018.9の時点で、韓国への信用与信と直接投資の合計額で約915億ドルの債権があるんですね。
その後の円建債発行や、売掛金残高も加味すると、韓国は1000億ドル超の対日債務国と言えるのではないのでしょうか?
もし遠くない未来に、韓国家の経済破綻の際には、是非とも国土の一部を物納していただけたらと思います。
そのことにより、初めてロシアとの領土交渉の場に「韓半島の一部と北方領土の交換」との提案ができるのですからね。(ん?ロシアに「韓半島の一部は要らない」って言われたら困りますね・・。日本も韓国民付きの領土は要らないんですよね)
そのためには、「日韓関係の破綻原因は韓国の不法行為」と国際社会に広く認識される必要があり、かつ、韓国の経済破綻の引き金となる「経済制裁や対抗措置」は、国際社会と呼吸を合わせて発動する必要があると思うんですよね。
日本政府には「国益の最大化」を旗印に、ブレない毅然とした対処を期待しています。
カズさんへ
露西亜が朝鮮半島を欲したコトは
歴史上無いんですよ
クリミア半島で統治の難しさを知ってますから
クリミアはイヴァン雷帝以来の悲願ですけど
露西亜が欲しいのは遼東半島の方
朝鮮半島は要らないけど、遼東半島に
漏れなく付いてくる御邪魔虫
更新ありがとうございます。
富士ゼロックスは、韓国から3月に撤退らしいですね。小さな事業所らしいが、やり方次第で揉めるよ。
韓国ゼロックスの元会長の其の場凌ぎの発言には呆れる。『日韓は運命共同体』など、いつの時代の認識か。『制裁を韓国に加えれば、日本にも莫大な損失がある』とも。分かっている。それだから、最大、国益を損なわない形を探っているんだ。どちらにせよ、未だに韓国に企業の軸足を置いているところは、危機感が薄い。