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「2島決着案」が事実ならとんでもない話だ 本質は改憲議論へ

緊急で触れておきたい論点があります。共同通信は今朝、安倍総理が22日の日露首脳会談に向けて、北方領土問題を巡り「色丹、歯舞群島の2島返還が確約できれば、日露平和条約を検討する方向で検討に入った」と報じました。この「平和条約と2島返還」は、もともとは鳩山一郎首相がソ連との間で合意した「日ソ共同宣言」に盛り込まれていた考え方であり、それが今日に至るまで日本外交に禍根を残している格好ですが、それと同時に、この報道が仮に事実だとすれば、安倍総理が「日露国交正常化」という功を焦っているようにも見えるのです。

安倍総理、功を焦るな!

本日、共同通信に気になる記事が出ていました。

安倍政権、2島決着案を検討/北方4島返還「非現実的」(2019/1/21 05:27付 共同通信より)

すでに目にしたという方も多いと思いますが、22日に予定されているロシアのプーチン大統領との首脳会談に先立ち、「複数の政府筋」が20日、「北方領土問題を巡っては2島引き渡しで事実上の決着と位置付ける」と明らかにしたのだそうです。

報じたのが共同通信であるという点は少し引っかかりますが、それでも仮にこの報道が事実なのだとしたら、とんでもない話です。

そもそも論として、ロシアが「南クリル」と呼ぶ北方4島は、歴史上紛れもなく日本の固有の領土ですし、本来ならば千島列島全域、さらには南樺太に至るまでが日本の領土です。旧ソ連が第二次世界大戦末期のドサクサで火事場泥棒的に奪って行ったに過ぎず、ロシアに領有の正当性はありません。

それなのに、色丹島と、それよりもさらに小さい歯舞群島のみの返還で「決着」というのは、安倍総理としても少し功を焦り過ぎではないでしょうか?

もっとも、この「平和条約の引き換えに2島返還」という考え方は、鳩山一郎元首相が1956年の日ソ共同宣言のなかでソ連と合意したものであり、安倍総理が持ち出して来たものではありません。この点については公正さのために言及しておく必要はあるでしょう。

北方領土返還「非現実的」とは?

もちろん、現在のわが国が「交渉によって」領土を返還してもらおうと本気で考えているのなら、それはそれで非現実的であることは間違いありません。

ロシアはクリミア半島の強引な併合でも知られるとおり、領土に関しては非常に強欲な国です。自力で開発もできないくせに、千島、樺太に居座っている理由は、まさに領土欲のあらわれそのものでしょう。

そして、ロシアが常々主張するのは、「千島、樺太は第二次世界大戦の結果として、ロシア領になった」という理屈であり、ロシア政府高官の発言も、「我々が血を流して勝ち取った領土を交渉で返還するいわれはない」という考え方で一貫しています。

ということは、このロシアの理屈が成り立つのならば、ロシアから領土を取り返すためには、「戦争の結果として再び日本領とする」しかあり得ません。しかしながら、日本国憲法第9条の文言上は、戦争を禁止されているため、日本が今すぐロシアに戦争を仕掛けて領土を取り戻す、といったことは非現実的なのです。

これを踏まえたうえで、私は安倍総理が在任中に北方領土問題を解決しようと急いでいるように見えることについてを、深く危惧しているのです。

ロシアとの平和友好条約が成立するならば、それはそれで良い話ではありますが、「あらゆる犠牲を払ってまでそれをする」という価値はありません。どんな国との関係を議論する時も、必ず「国益」が先に来るからです。

将来世代に先送りできないのか?

ところで、現在の日露関係については、

  • ①ロシアの言い分を認めて北方領土は諦め、日本はロシアと平和条約を締結する
  • ②ロシアの言い分を認めず、北方領土を諦めず、日本はロシアと平和条約を締結しない

という、2つの選択肢しか検討されていません。

ただ、それと同時によく認識しておかなければならないことは、ロシアという国自体が人口減に悩むと同時に、主要国からの経済制裁を喰らっている、という事実です。また、ロシアが将来的に極東地域を維持し切れなくなれば、この地に中国の勢いが浸透することも懸念されます。

ということは、ロシアは西側諸国の経済制裁からの突破口を必要としているだけでなく、潜在的な仮想敵国である中国からの人口圧への対抗策も必要としており、両方の意味で協力できる強力なパートナーこそ、日本なのです。

また、択捉島の面積は東京都よりも広く、国後島は沖縄本島よりも大きな島です。これらの島がいきなり日本の領土として戻ってきたとして、そこに住むための生活インフラ(港湾、道路、上下水道、送電網、金融ネットワーク等)はどうするのか、という問題があります。

このように考えていくならば、ロシアとの関係においては、領土問題と平和条約問題を一気に解決するのではなく、事実上の棚上げとして将来世代に委ねつつ、協力できるところから先に協力する、というアプローチの方が適切ではないでしょうか。

そのうえで、将来的にはロシアが北方領土、千島、樺太、沿岸州などの領有権を放棄せざるを得ない状況を実現させるのです。

日本もその程度の狡猾さを身に着けるべきでしょう。

改憲議論につなげよ!

むしろ、私が不思議でならないのは、「安倍(総理)は島をロシアに売り渡すな!」と叫んでいる連中が、不思議なことに、改憲についてまったく言及していないことです。

戦後70年あまり、日本国民こそ、日本を「戦争できる国」に変えるという努力を怠ってきたわけです。まずは日本国憲法の非戦条項を撤廃し、少なくとも「自衛のための戦争をできる体制」を整えるところから始めるべきであって、この条項を放置したまま北方領土問題の妥結を図るべきではありません。

もちろん、安倍総理に申し上げたいのは、何でもかんでも、ご自身の総理在任中に実現しようとするのはやめていただきたい、という点です。ただ、それと同時に、「安倍批判」するばかりで、領土が日本に戻ってこない本質的な理由から目をそらすのもやめるべきでしょう。

昔から「国家百年の計」と言いますが、国の方向性は、それこそ百年、いや、千年単位で後世に影響を及ぼします。

安倍総理が2012年12月に再登板して以来、日本の外交的な立場は間違いなく改善していますが、ここで功を焦るあまり、変な妥結をしないでいただきたいと思いますし、私たち日本国民にも冷静な議論が必要であることは指摘するまでもないでしょう。

新宿会計士:

View Comments (31)

  • 2島で決着ではなく2島先行返還と国後択捉は99年期限の租借というぐらいで決着できないかなあ。

  • 二島返還での妥結もアリだと思います。
    残りの島が返ってこないという理不尽は残りますが、
    安倍総理が妥結を目指しているという事は、そこに何か大きな国益があるはず。

  • つくづく私はここの管理人さんと意見が会わないんだなぁ(笑)と思ってしまいました。

    実は私、さっき他のところで『2島返還ができれば自分的には万々歳だけど、米国は日露平和条約締結を許してくれるんかなぁ』と書いたばかりでして(笑)
    さすが、意見の違う人は世の中に一杯いるんだなぁ、と感じてしまった次第です。

    私としての理由は、まあ小学校の時から北方領土4島返還の主張をを聞き飽きたってのもあるんですが、正直、私の寿命が尽きる前に、北方2島でいいから返してもらって旅行にいって、カニでも食べたいなぁ、ってのが理由なんですよね。

    まあ、反対されるどころか、私を罵倒する人も一杯いますでしょうが、本音で語りましょう。

    自分が死んだ後、いくら北方4島が返ってきても、1銭の得にもならんって皆さんも思いませんか?

    早く経済特区でも作って地元経済が潤った方がいいでしょ。

    最も、それも自分が生きてるうちにやってくれないと、なんの意味もないんですけどね(笑)

    こんな意見は自分勝手なんでしょうかねぇ。

    • 私の曾祖母は正にその北方領土に戦時中まで在住してましたがソ連軍が侵攻してきた為、北海道に着の身着のまま非難して帰る事も財産を取り返す事も出来ませんでした。
      その後の生活は苦難を極め大変苦労したそうです。

      私はその体験談を聞いている、身内が被害者なため全島返還が譲れませんが被害を受けたことのない他人ではその認識なのだなと思いました。
      無論2島返還でも良いと言う意見にも納得できる部分は有るのですが感情がそれを許せないのです。
      多分失礼しました。

    • カニ太郎様

      >2島返還ができれば自分的には万々歳だけど、米国は日露平和条約締結を許してくれるんかなぁ

      実際に2島返還はアメリカの圧力で潰れた実績が有りますからその意見には同意です。

      当方としては歴史上領土の増減が無い国など何処にも無いのだから、直ぐには出来ない返還要求やめてさっきと手打ちをしてロシアに恩を売って半島民を引き取ってもらい、スターリンの様に半島民を中央アジアの人間とスワップしてもらう方が国益になると思いますがね。

      余裕ができた分で次の機会を窺えば良いのです。

      Kの法則が発動すれば、ロシアがポシャって千島列島全体と樺太が日本の領土に出来ますよ。

      戦争で失う物は戦争で取り返す。

      当たり前の事ですが、これを日本人にわかってもらうのは難しいのです。

      以上です。駄文失礼しました。

  • 2島返還か、あくまで4島か・・・
    国土問題だからこそ心情的には重大なことだとは思います。

    しかし現在、世界の安全保障環境を鑑みると、日露平和条約を締結することは上記よりずっと大事ではないでしょうか。

    日米豪印の環太平洋同盟、更に英・加・ニュージーランドの英語圏で中国包囲網を作って追い詰めようというときに、
    混乱期には必ず動く火事場泥棒の露とは、同盟とまでも行かなくても少なくとも敵対しないようにしておく。

    あとは欧州大陸(独・仏あたり)がどう出るかですが、露とEUが環太平洋同盟と敵対しなければ中華はほぼ完全に包囲され、恐らく分裂するんじゃないでしょうか。

    これが今の日本にとっても最も大きな国益であり、実際の戦争をせずに中華を滅ぼせる最良の戦略かと思います。

  • 名無しの権兵衛さんに禿しく、いや激しく同意です。
    米中の10年戦争が始まった今、日本はロシアを敵陣営におくだけでもまずい。
    管理人さんのいう先送り方式では数十年あるいは数百年待つことになりますが、そんなには待てないのです。
    それに四島となるとインフラどころか人すらも不足して、返還が実現したとしても持て余すだけと思いますけどねー(北海道のさらに北の極寒の島に住みたい人はそういない)。
    アベ-プチのコンビが現役の内に解決を図るのは至極妥当たとおもいますよ。

  • 不当であってもなんであっても、
    「日ソ共同宣言のなかでソ連と合意したもの」であれば、
    まずはその履行を目指すのが当然のように思います。
     
    韓国に対しては
    「国と国の約束なのだから、時代や政権が変わったからと言って蒸し返すべきでは無い」といいつつ、
    ロシアに対しては「当時は状況が違った。当時の政権の勝手な約束。だから見直しするべき」というのは、
    筋が通らないと思います。
    (国益考えた時、腹の立つ話ではありますが)
     
    きちんと筋を通してやるのであれば
    「日ソ共同宣言の破棄」をした上で国際司法裁判所へ提訴するか、
    あるいは「日ソ共同宣言に従うか」という事ではないかと思いますが、どうなのでしょうか。

  • ロシア人のことだから平和条約を結ぼうと向こうの都合で勝手に破棄するでしょう。今度は北海道ですかね。
    一度破った相手、それも平和ボケした腑抜け相手に破らない道理がどこにあります?

  • * 更新ありがとうございます。

    * 正直、この報道を聞いた時、『え?ホンマかいな!』と思いました。北方領土の内、2島が還って来る。ソ連(ロシア)が、あのド厚かましい狡猾な銀熊が、、。安倍首相大丈夫ですか、と。

    * ここの会計士さん、或いは縁者が暮らされていたコメント主さん、それ以外でも4島返還(できれば南樺太らも)以外、絶対許せんという方が多いのは存じてます。私も4島返還が第一でした。これから先は、罵声を浴びるのを覚悟して書きます。

    * 領土紛争は我が意だけでは進みません。日本が終戦直前〜武装解除後で、そのドサクサにパクッたソ連は、断じて許せないです。それも民間人も殺戮され、追い立てられて本土に帰るか抵抗した者はシベリア送り。

    * しかし、もし共同通信他各メディアの発表を信じるなら、私は2島返還は願ってもない戦後のおおごとになると思います。4島返還はどう考えてもロシアがテーブルに就くはずかない。安倍首相は相手が相手だけに、慎重に進めて欲しい。

    * 前は私も100年でも待とう!と言いましたが、そのあとよくよく考えますと、北方領土問題が、余り日本人の中で、重要な問題とは思われてないのではないか。以前ほど燃え上がる声が聞かれないような気がしました。

    * 若い層を中心に領土意識が薄弱になっているようにも思います。73年というアキラメもあるでしょう。住んでた方もほとんど亡くなられた。それと沖縄返還時と(或いは小笠原諸島返還時)決定的に違うのは、どちらにも日本人がずっと住み着いていた事です。

    * 米軍統治なので在留日本人に対しても、わけ無く殺したり殴ったり監獄行きは無かったのも理由ですが、北方領土には現地に日本人が根刮ぎ居なくなった。ごく僅か現地人と生活した人はいますが。そこがソ連のズルさですが、現に住んでないのは痛い所でした。

    * 今後、何百年かかるか分からない領土問題に、果たして莫大な時間と労力を費やして、やり遂げるべきか否か、心が揺れました。 安倍首相は『日ロ正常化で功を焦っている』訳ではないと思います。むしろ将来に先送りしても4島返還が達成出来るのかと言えば、極めて難事です。

    * そして、そこまで日本も待てないです。世界の覇権を獲ろうとしている中国。米中は既に貿易戦争を始めてますが、ホンの数十年前なら、一捻りされたはずの中華共産国も意外に抵抗してます。

    * 米国の力が落ち、中華が上がった。日米と豪NZ加台尼印英仏瑞西瑞典伯らで太平洋インド洋大西洋を抑えても、中華の北側のロシアに抜け穴を付けられたら、包囲網の網が綻びます。

    * ココは是非ともロシアとは険悪にならず、『国益重視』で行くべきです。勿論2島返還には何らかの『見返り』を求められるでしょうが、国土が還って来るなら、ヨシとしましょう。

    * また、2島返還で確定したら、尖閣諸島や竹島でアイツラがイチャモン付けて来るかもしれない。その時の理論武装とICJ提訴は即、動くべきと思います。なお、4島返還については、それこそロシアが崩壊する時しかないです。

    * 話が逸れますが、米国派ではない鳩山一郎首相がソ連のブルガーニン首相とで署名したのが『日ソ共同宣言』、1956年10月です。その前の吉田首相は米国一辺倒で、日本は2強のもう1国とも国交を結びたかった。

    * また日本を早く国際連合に参加させたかった河野一郎大臣は同じ年に国連参加を成し遂げています。鳩山、河野、吉田、、息子と孫はかなり差が出ましたな(大笑)。

    * 北方領土に戻ります。納沙布岬からわずか3.7kmの歯舞群島、そして色丹島は「北海道の一部」と共同宣言でも確認されてます。よく『択捉島、国後島の方が遥かに大きい。4島でないと意味がない』と言われる方が多いです。

    * でも、歯舞群島でも99.9㎢、色丹島は255㎢もあります。豊富な漁場、観光もアリか。歯舞は今、軍事基地しかない。色丹島は約3千人民間人が居る。この程度の住人移動なら、なんとかなるでしょう。またズル賢いロシアの事だから、米軍基地進駐は絶対認めない。ま、日本の民間港・空港として当初は作って、後に空自海自進出ですね。 以上、長文失礼しました。

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