「徴用工判決を巡って、河野外相が突然、態度を軟化した」――。韓国メディア『中央日報』(日本語版)が、今朝、そう報じました。中央日報によると、河野外相は「(徴用工判決を巡る)韓国政府の立場を理解する」としたうえで、韓国に対して「対応を急かすつもりはない」と述べたとも伝えられています。ただ、この発言は正しいのでしょうか?結論的に言えば、現時点で判断する限りは、韓国メディア得意の曲解のたぐいではないかと思います。
中央日報「河野氏態度変化」
今朝の韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、こんな記事が掲載されていました。
「韓国の対応難しいことは理解」 突然軟化した河野外相…なぜ?( 2018年12月17日06時59分付 中央日報日本語版より)
中央日報の記事を箇条書きにして列挙すると、だいたい次のような内容です(ただし日本語表現については整えているほか、一部、文意を損ねない範囲で語順を入れ替えている箇所もあります)。
- 日本のNHKは16日、河野太郎外相が「徴用工判決」を巡って、「韓国側の対応が難しいことは理解しており、せかすつもりはない」と述べたと報じた
- この河野外相の発言は、内容面では今までの日本政府主張をそのまま維持したものだが、「韓国政府の立場を理解する」という趣旨の発言は彼が今年10月末の大法院の判決後に繰り返してきた強力な発言と比較すると異例だ
- 河野氏はこれまで、「今回の判決は暴挙であり国際秩序に対する挑戦」「韓国政府が適切な措置を直ちに講じなければならない」発言など、安倍晋三首相や菅義偉官房長官の代わりに前面に出て韓国に対する「悪役」を演じてきたにもかかわらず、今回、「せかすつもりはない」と話した点は注目に値する
- 河野外相の態度変化に対して東京の外交消息筋は「日韓議員連盟(韓日議員連盟に該当する日本側組織)代表団と会談した14日、文在寅大統領の発言が影響を及ぼしたのだろう」と述べた
- いくらせかしたところで韓国政府の立場発表がないことには、日本政府としては対応措置を出しにくい。また、強硬発言を繰り返せば繰り返すほど韓国内世論の反感だけをまねくことになるという点から河野外相が戦略を変えた可能性が提起されている
河野外相が「悪役を演じた」だの、「韓国世論の反発を招く」だの、相変わらず傲慢で無神経な表現が踊っています。
いずれにせよ、この記事を読むと、あたかも河野外相が態度をガラッと変えて、韓国政府の姿勢に理解を示したかに読めてしまいます。果たして、本当にそうなのでしょうか?
河野外相はどう発言したのか?
河野外相の発言はわずか一行
ここで、外務省のホームページに掲載されている「河野外務大臣臨時会見記録」から、河野外相と記者の正確なやりとりを確認してみましょう。
河野外務大臣臨時会見記録(平成30年12月15日(土曜日)18時00分 於:ドーハ)(2018/12/15付 外務省HPより)
【記者】話題変わるんですけれど、韓国ですけれども、先日日韓議連の代表団が文在寅大統領と会談されました。この中で文在寅大統領が、十分な時間をかけて解決策を模索する計画だと、徴用工を巡る問題です、に関して述べてまして、対応策のとりまとめが長期化する可能性があるのかなと思うんですが、いかがお考えでしょうか。
【河野外務大臣】日本としては、日本の企業に対してですね、不当な不利益が生じないという対応を韓国には求めておりますので、そうしたことが万が一にも起こらないように韓国側に対応していただきたいと思っております。対応が難しいというのは私も理解をしておりますので、急かすつもりはありませんが、他方、日本企業に対する不利益が生じないように、そこは韓国側にきちんと対応していただく必要はあろうかと思います。(※下線部は引用者による加工)
中央日報が大々的に報じたのは、この「対応が難しいというのは私も理解をしておりますので、急かすつもりはありませんが」、の部分でしょう。
どうしてこの発言が、「河野外相が態度を変えた」ことになるのでしょうか?
私自身、河野外相の内心を知り得る立場にはありませんが、私の責任で河野氏の心中を忖度して申し上げるならば、
- いわゆる「徴用工判決」により、韓国で国際法違反の状態が生じてしまった
- といっても、現在のところ韓国は強制執行に踏み切っておらず、日韓関係はギリギリのところで踏みとどまっている
- 現在の状況から悪化しないという前提で、韓国がこの状態を解消するのならば、時間がかかっても良い
- ただし、もし韓国が強制執行に踏み切った場合には、日本としても相応の措置を考える
ということではないかと思うのです。
実際、同じ質疑における次のやり取りを見ると、河野外相の見解は従来とまったく変わっていないことがよくわかります。
【記者】同じ会談の中で、文在寅大統領がですね、先の最高裁判決について、三権分立であって政府は介入できない、その判決を尊重しなければいけないという発言をされているのですが、こうした発言についてどのようにお考えでしょうか。
【河野外務大臣】国外の司法が国際法を乗り越えていいということはありません。日韓両国はこの請求権の問題は請求権協定で完全かつ最終的に解決済みということで、国交回復以来やってまいりましたから、そうした国際的な合意事項、取り決めを国内の司法がひっくり返せるということになったら、これはもう国際法の基本が崩れますし、日韓両国の法的基盤が崩れていくことになりますので、韓国側には気をつけて対応していただきたいと思います。(※下線部は引用者による加工)
ここでも、河野外相は、「韓国に気を付けていただきたい」と述べています。
要するに、今回の事態を打開する義務があるのは韓国側であるという、「根幹」の部分は何ひとつとして代わっていないのです。よって、中央日報の報道は完全な見当違いだと断言して良いと思います。
慰安婦財団についての発言の真意
一方、先ほどの『中央日報』の記事には触れられていませんが、河野外相の記者会見のなかでは、慰安婦財団の解散についても言及があります。それが、次の下りです。
【記者】同じ会談の中で、慰安婦財団についてなんですけれども、解散の理由について運営費ですとか維持費だけが支出されているので解散したというふうに文在寅大統領が説明されています。また10億円、日本政府が拠出した10億円の残りについても、使い道を本来の趣旨に沿うように協議したいという方針を示していますが、こうした意向に関してどのように理解されていますか。
【河野外務大臣】我々としては、しっかりと協議に応じるつもりはあります。文在寅大統領はこの日韓合意を維持するということをはっきりおっしゃっていますので、韓国側にですね、しっかりと履行すべきものは履行していただきたいと思っておりますし、日本側としては残った資金について協議に応ずるということは前々から申し上げておりますので、そうしたことがあればそこはしっかり話し合いをしていきたいと思います。(※下線部は引用者による加工)
先ほどの中央日報の記事では、河野外相のちょっとした発言の「揚げ足」を取るかのように、「河野氏が態度を軟化」と報じていましたが、中央日報にいわせれば、こちらの発言こそ「河野外相が慰安婦財団の解散を巡る交渉に応じた」と飛びつきたいものではないかと思います。
しかし、これについてもそのように考えるのは妥当ではありません。
ここで、「残った資金」とは、「慰安婦財団の事業目的を達成し終えて余った資金」という意味だと考えるべきであり、慰安婦財団が「和解・癒やし事業を終了した場合」の話でしょう。当然、これは「慰安婦合意の破棄・見直し」を意味するものではありません。
つまり、河野外相のこの発言は、「慰安婦合意をしっかりと履行した結果、残った資金の取扱いについては協議に応じますよ」という意味であり、現在のように「韓国が中途半端な履行状況で慰安婦財団を解散するといっても、そうした協議には応じない」という意味と受け取るべきではないかと思うのです。
一次ソースの重要性
いずれにせよ、私は韓国メディアの報道を眺めていると、虚報、曲解、偏向のたぐいが多すぎるので、呆れることが多々あります(※といっても、マスコミ報道に限定して言えば、日本の状況も五十歩百歩といえるかもしれませんが…)。
そして、重要な情報は直接、官庁のホームページなどに公表されるようになったのが、インターネット時代の最大の特徴といえるかもしれません。やはり、現代に生きる私たちは、「この記事は変だな」と思ったら、一次ソースに当たる癖を付けた方がよさそうです。
補足:青山参議院議員の訪米
さて、以上の議論とはあまり関係ありませんが、1点、補足しておきたいと思います。
私は土曜日に『能天気過ぎる日韓議連の共同宣言と自民党内の韓国への怒り』のなかで、先週金曜日に行われた、韓国に対する非難を決議した自民党の外交部会で、「おそらく青山繁晴参議院議員も出席していたのではないか」と申し上げたのですが、実際には出席されていなかったそうです。
というのも、今朝のインターネット番組『真相深入り!虎ノ門ニュース』によると、青山氏は先週を通じて米国を訪問していたからだそうです。「虎ノ門ニュース」で青山氏の見解が聞けるのではないかと期待していたのですが、これについては残念ながら無理でした。
ただ、青山氏の訪米は国益の最大化の一環であり、国益のために尽力する青山氏には、日本国民の1人として感謝申し上げたいと考えているのです。
View Comments (10)
ちょっと韓国相手にはイキっていたのが、ロシア方面の会見でヘタを打って反省中だったので少し気弱に成った可能性もなきにしもあらずw
人間だもの。byみつお
< 更新ありがとうございます。
< 朝鮮日報にも掲載されてましたね。この手のハナシ、韓国人は大好き(笑)。『あの、憎っくき河野が折れたッ。父親に諌められたのか?』なんて妄想が始まってるんじゃないですか。
< 河野外務大臣は、カタールへ出張中。その中で記者団との一問一答でしたが、その直前の質問は、違うネタ。そこをムリクリ韓国の質問を某記者がした(この人、タメ口風で気に入らないんですが)。
< なにも韓国紙がセンセーショナルに『河野大臣が弱腰になった』とか言うほどの事でもありません。『韓国が難しいのは理解出来るし、急かす問題ではない』と言っただけ。後に言わなかった言葉は、『韓国政府は誠心誠意尽くせ』『出ないと制裁だ』(笑)。
< 韓国得意の【そうなって欲しい】【そうなるだろう】、、という妄想と現実のギャップに気づかないノータリン編集族です。読者も同じ(笑)。
< ↑この上の 『Pingback』って方は何者?
< ご自分のサイトでやられては?迷惑だな〜。
個人的にレス付けるなとのことですが、あまりにもな内容なので解説します。
レスポンスは不要ですが、理解する努力はした方がいいですよ。恥ずかしいので。
ブログというのはコンテンツマネジメントシステムの一つなんですが、例えばWordpress同士で引用した場合、自動的にリンクしたことを知らせる機能があります。それがピンバックというシステムです。
ちなみに気づいておられないようですが、新宿会計士さんは自身の投稿に対してのピンバックを多用しています。
またリンク先を拝見しましたが、引用のガイドラインを逸脱することのない何の問題も無いサイトであったと思います。(独自意見が少ないのはいただけないかなとは感じましたが問題視するほどでもない)
< ふーん。ピンバックねぇ。
< 恥ずかしいとは思わないですが、全然知りませんでした。ありがとうございます。
めがねのおやじ 様
りょうちん 様
いつもコメントありがとうございます。
このピンバックという仕組み、私自身もときどき利用しているのですが、どうも思ったようにできないこともあり、いまだに試行錯誤中です。
ただ、他サイトからのピンバックについては、是々非々で判断しており、エロサイトなどからのピンバックについては事後的にすべて削除していますが、今回のように当ウェブサイトの趣旨に沿っている(と私が判断した)サイトからのピンバックについては、基本的には削除しないことにしています。
本件に限らず、なにかお気付きの点などがございましたら、いつでもご指摘下さると助かります。
引き続きご愛読ならびにお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
本件とは関係のない話になりますが、
過去の記事のコメント欄で「りょうちん」様が触れていた「サムライ債」について、
お時間のあるときに解説していただけると助かります
自分なりに調べてみても、いまいち理解が及ばず・・・
為替スワップの代用になるようなもので、韓国が発行していると聞き、
また日本が救済する形になりそうだと不安です
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
(日本のマスコミも含めての話ですが)マスコミ報道の信頼性が低下
しています。この韓国の報道でも、中央日報は「都合の悪い発言なので、
日本の外務省はホームページから、この発言を削除した」と言い張るこ
とが予想されます。そうすれば、少なくても韓国国内の中央日報の愛読
者は(感情的に)満足するからです。
そうなれば、日本にいる我々とすれば、どちらを信じるかしか、なく
なります。(このような現象は、アメリカで、親トランプのメディアと
反トランプのメディアで、すでに起きています)
マスコミが読者の気持ちを忖度して、記事を書くようなら(大袈裟に
言えば)民主主義の終わりを意味するのではないでしょうか。(古代
アテネの民主主義が崩壊したように、現代の民主主義も、崩壊する危険
性をはらんでいます)
妄想にて失礼しました。
相変わらず自分に都合の良いように解釈して、それを観測気球につけて上げ反応を探る・・・変わりませんね。
毎度丁寧な更新ありがとうございます。中央日報の記事を読んで、どうせ事実歪曲だと思っていましたが、やはりそうだったようで。河野大臣が軟化する理由は全くありませんので。しかしまあ、これだけ都合の良いことばかり報道されると、愚民化著しい韓国国民の相当数は鵜呑みにするのでしょうか。愚民化した国民、事実歪曲するメディア、そのメディアは最近こそ経済危機だとか騒いでますが、政府にフルパワーで忖度しまくってましたし。更にその政府も無能ですから、最早救いようが無いのでは無いかと思う次第です。こちらが相手にしなくても勝手に火の粉を振りかけようとしますから、ここは分からせる意味でも、目に見える形の行動は必要だと改めて思いました。