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米朝首脳会談めぐる北朝鮮のホンネを探る

昨日、『【夕刊】WSJ「米、対北制裁延期」報道と北朝鮮の狙い』を執筆しながらふと思ったのですが、北朝鮮はシンガポールでの米朝首脳会談を、やりたいのでしょうか、それともやりたくないのでしょうか?この論点についても議論しておく価値がありそうです。

北朝鮮の時間稼ぎ

まるでローラーコースター

今月に入り、史上初の米朝首脳会談が開催されることが決定されました。

しかし、先週木曜日になって、米国が首脳会談の中止を通告。週末に急遽、北朝鮮の独裁者・金正恩(きん・しょうおん)と文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領が2回目の首脳会談を実施するなど、事態はローラーコースターのように揺れ動いています。

さらに、昨日は「速報」として、金正恩が側近を米国に派遣した、とする情報があります。といっても、これはどこかのメディアが報じたのではありません。いつものトランプ氏のツイートです。

We have put a great team together for our talks with North Korea. Meetings are currently taking place concerning Summit, and more. Kim Young Chol, the Vice Chairman of North Korea, heading now to New York. Solid response to my letter, thank you!付 ツイッターより

このツイートによれば、金正恩は側近の金英哲(きん・えいてつ、Gen. Kim Yong Chol)を米国に派遣することとしており、まずは北京経由でニューヨークに向かっているそうです。金英哲といえば、数十名の犠牲を出した韓国艦「天安」の撃沈事件や、同じく複数の死傷者を出した延坪島の砲撃事件の立案者であるとも伝えられています。

トランプ氏は金英哲が米国領土に入った瞬間、身柄を拘束し、国際刑事裁判所(ICC)などに送致すべきだと思うのですが、果たしてトランプ氏は金英哲の米国への入国と北朝鮮への帰国を認めるのでしょうか?この点についても注目したいところです。

いずれにせよ、今のところ、米朝首脳会談は実現するかもしれませんし、実現しないかもしれません。

肝心のドナルド・トランプ米大統領自身も「中止する」と言ってみたり(『米朝首脳会談中止の敗者と勝者』参照)、「再実施に向けて北朝鮮と建設的な議論をしている」と言ってみたり(『見えてきた「チーム日米」対「チーム朝鮮」』参照)、と、言動が一致しません。

良い意味でも悪い意味でも、トランプ氏の外交が、従来の米国外交とは一線を画するものであることは間違いありません。ただ、そもそも韓国の口車に乗って南北首脳会談に応じると表明したことを含め、トランプ氏の外交姿勢を見ていると、日本国民の1人としては正直不安になります。

北朝鮮の本音は「時間稼ぎ」

ところで、金正恩は実際のところ、米朝首脳会談をやりたいのでしょうか、やりたくないのでしょうか?

おそらく、「やらないで済むならやりたくない」、といったところが、金正恩のホンネだと思います。なぜなら、米朝首脳会談をやれば、核・大量破壊兵器のCVID  ((CVIDとは、「完全な、検証可能な、かつ不可逆な方法での廃棄」(“Complete, Verifiable and Irreversible Dismantlement”)のこと。))  を約束させられるか、それとも交渉が決裂するか、そのどちらかの可能性が高いからです。

金正恩としては、「首脳会談をやるか、やらないか」で時間を稼ぎ、その間に何らかの形で事態の打開を図る、というのが本当の狙いなのだと思います。その意味で、金正恩は、次のトランプ氏のツイートに希望を見出した可能性もあるでしょう。

We are having very productive talks with North Korea about reinstating the Summit which, if it does happen, will likely remain in Singapore on the same date, June 12th., and, if necessary, will be extended beyond that date.(2018年5月26日 9:37付 ツイッターより)

意訳すると、内容は次のとおりです。

我々は北朝鮮との間で、サミットの再開に向けて非常に生産的な会話を行っている。もしそれが行われるならば、場所はやはりシンガポールであり、日付は同じ6月12日か、もしくはそれ以降となるだろう。

要するに、米朝首脳会談が実施されることになったとしても、その実施日が6月12日以降になる可能性があるということを、トランプ氏自身が明らかにしているわけです。私が金正恩の立場だったら、あれやこれやと注文を付け、実施日を6月12日よりも遅らせ、時間を稼ぐことを狙うに違いありません。

もっとも、昨日も『進むも地獄、戻るも地獄。期待するのは「会談延期」』で指摘したとおり、会談が実施されても実施されなくても、金正恩に待っているのは地獄である、という点では同じかもしれませんが…。

米国は「時間稼ぎ」を許すな!

その意味で、米国は「米朝首脳会談を何が何でも実施する」ということだけを目的にすべきではありません。なぜなら、「首脳会談をやりたければ、6月ではなく7月なら応じる」「8月なら応じる」という具合に、徐々に後に伸ばしていく戦術を北朝鮮が取るかもしれないからです。

もし米国が合理的な判断を下すならば、首脳会談の延長に応じるとしても、それは1回限りであり、それも1~2週間程度の延長に留めるべきです。もし米国が北朝鮮の口先に乗せられ、何度も何度もズルズルと延長に応じていけば、結局のところ、今年1月以降の愚を繰り返すことになるからです。

この「今年1月以降の愚」と表現した部分は、北朝鮮が「手下」である韓国を利用し、平昌(へいしょう)冬季五輪の開催を言い訳に、米韓合同軍事演習を延期させた事件のことです。

それだけではありません。平昌五輪の期間に突入して以降、米国としては北朝鮮に対する軍事作戦の実行に失敗。結局、軍事行動に最も適した厳寒の季節を逃してしまったのです。このあいだに北朝鮮は、核、ミサイルなどの製造能力を、ますます高めたことは間違いありません。

このように考えていくならば、トランプ氏が本当に「外交上手」だとは私には思えませんし、むしろ数多くの失敗をしでかしているというのが実情でしょう。

日本が「調停役」として相応しい理由

慰安婦合意とその顛末

ところで、北朝鮮の核問題をめぐっては、日本の存在感が非常に大きいといえます。米メディアの報道を眺めていても、北朝鮮の核問題に対し、強硬にCVIDを主張しているのが安倍総理であり、トランプ政権がCVIDを主張しているのも、安倍総理の影響である、ということが伺われます。

では、なぜ安倍総理はここまで大きな存在感を示しているのでしょうか?

おそらく、その最大の理由は、安倍総理自身も、極めて大きな失敗をしたからです。それも、そう昔のことではありません。具体的には、「2015年12月の日韓慰安婦合意」です。

2015年12月28日、日本の安倍晋三政権と韓国の朴槿恵政権は、いわゆる従軍慰安婦問題を巡り、歴史的な合意をした。

ここで、「日韓慰安婦合意」とは、岸田文雄外相と尹炳世(いん・へいせい)韓国外交部長官(※肩書はいずれも当時)が口頭で取り交わしたもので、その要点は次の4つです。

  • ①慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感し、安倍晋三総理大臣は日本国を代表して心からおわびと反省の気持ちを表明する。
  • ②韓国政府は元慰安婦の支援を目的とした財団を設立し、日本政府はその財団に対し、政府予算から10億円を一括で拠出する。
  • ③韓国政府は在韓国日本大使館前に慰安婦像が設置されている問題を巡って、適切に解決されるように努力する。
  • ④上記②の措置が実施されるとの前提で、日韓両国政府は、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されたことを確認し、あわせて本問題について、国連等国際社会において互いに非難・批判することを控える。

いかがでしょうか?

2015年12月の時点で、私は1人のブロガーとして、心の底から悔しがりながら、大手ブログでこの合意に関する記事を執筆した覚えがあります。この合意は、あたかも私たち日本人の先祖が「慰安婦の強制連行」という犯罪をやったかのような誤った事実認識に立脚してなされたものです。

そして、この合意自体、すでに韓国政府は全力で反故にしようとして来ています。文在寅政権は、この合意を「破棄はしないが守らない」(『慰安婦合意という「地雷」を踏んだ韓国大統領』参照)という姿勢で取り扱っており、もはや破棄されたのと同じことになっているからです。

慰安婦合意の教訓

すなわち、慰安婦合意の教訓とは、

  • 韓国は、絶対に約束を守らない
  • 韓国は、ゴールポストを動かす
  • 韓国と合意をしても無駄に終わる

というものです。

考えてみれば、安倍総理自身、この日韓慰安婦合意の直後には、私自身も含めた保守系のブロガーや論客から強い批判が寄せられましたし(※)、ご自身の政治生命を賭けて、朴槿恵(ぼく・きんけい)政権と約束を交わし、その結果、慰安婦合意が反故にされようとしているのです。

(※もっとも、私自身は現在でも本件については安倍総理や岸田元外相のことを批判しています。)

ただ、安倍総理ご自身が、ここまでこっ酷く韓国の裏切りに遭った以上、身をもって朝鮮民族の特質を理解したはずです。要するに、韓国に折れて、韓国のために何かしてあげたとしても、韓国がそれに応えてくれることは絶対にない、ということです。

私が日本国民の1人として、安倍総理に要求したことはただ1つ――韓国のウソに、これ以上騙されず、日本の国益を最大化する仕事に集中して欲しい、という点です。

そして、こうした「教訓」が通用する相手は、北朝鮮であっても同じです。

北朝鮮は1990年代に一度、国際社会との間で核開発に合意しています(いわゆる6ヵ国協議)。結局、北朝鮮は国際社会の援助という「美味しいところ」だけをせしめ、核放棄には一切応じませんでした。

この6ヵ国協議当時、米国の政権を担っていたのは、ウィリアム・J・クリントン大統領でした。そして、そのビル・クリントン氏の妻であるヒラリー・クリントン候補が、2016年の米大統領選で勝利しなかったことについては、天に対し、私は心から感謝したいと思います(※)。

(※もっとも、私自身はキリスト教徒でもイスラム教徒でもありませんが…。)

米国に緊密なアドバイスを与える「プレーヤー」

ところで、昨日も『【夕刊】WSJ「米、対北制裁延期」報道と北朝鮮の狙い』で紹介したとおり、日本や韓国のマス・メディアは、朝鮮半島核開発問題を巡って、「日本は蚊帳の外に置かれている」、とする珍説が大好きです。

しかし、現実には、安倍総理はトランプ大統領と何度も何度も首脳会談を行っています。安倍総理自身が訪米し、トランプ氏のフロリダの別荘でゴルフをやりながら濃密な時間を過ごしていますし、トランプ氏が訪日した際にも、例の「ゴルフ外交」に精を出しています。

日本のマス・メディアや野党あたりのなかには、安倍総理が「ゴルフをやるなどとは、けしからん!」などと噛み付いた人もいたようですが、こうした意見は、決定的に政治を理解していない、ナンセンスなものです。ゴルフで濃密な時間を過ごしている間に、いくらでも首脳同士で直接の意見交換ができるからです。

報道によれば、安倍総理は来月、カナダで開かれるG7首脳会合の前後でトランプ氏と首脳会談を行う予定だそうですが、外交で軸足がぶれるトランプ氏を、安倍総理がしっかりと支えている、という構図は、客観的な報道からも明らかでしょう。

とくに、トランプ氏は、北朝鮮による日本人拉致問題の完全解決を約束しています。こうした発言も、日米首脳の緊密な連携がなければ、あり得ないものです。

韓国は勝手に踊る

ところで、当ウェブサイトで引用することが少ない、韓国メディア『朝鮮日報』日本語版に、興味深い記事が掲載されています。

米国が韓国に要請「非核化問題に深入りするな」(2018/05/29 10:08付 朝鮮日報日本語版より)

朝鮮日報は数日経過すると記事が読めなくなってしまうため、議論のオープン性を重視する当ウェブサイトとしては、あまり引用したくないウェブサイトの1つです(日本のメディアであるNHKの報道を引用することが滅多にないのも、同じ理由によるものです)。

ただ、この報道については、朝鮮日報以外に触れているメディアが見当たりません(私の探し方に問題があるだけかもしれませんが…)。

朝鮮日報によると、欧州を歴訪している韓国の李洛淵(り・らくえん)首相は現地時間27日、ロンドンで特派員および記者団と昼食会を開き、

米国が、非核化問題に関して韓国はあまり深く入り込まないでほしいという要請を行った

と述べたのだそうです。

これは極めて重要な報道です。早い話が、北朝鮮の非核化問題を巡って「ハンドルを握っている」という韓国国内の認識が「間違っている」という証明になるからです。そのうえで、李首相は次のような発言も行ったそうです。

板門店宣言の『完全な非核化と核なき韓半島(朝鮮半島)を目標にする』という表現も、米国と協議した内容」/「韓国が乗り出すことで事態がこじれかねないという問題もあるが、米国にハンドルを渡すのがいいという判断から、韓国政府は発言を控えている

しかし、こうした発言と裏腹に、韓国は要所要所で米国と北朝鮮との交渉に出現し、事態を引っ掻き回していますし、いまだに「韓国こそがこの問題のハンドルを握っている」という不思議な理論が韓国国内で信じられている節があります。どうも李首相の発言には説得力がありません。

いずれにせよ、現在の東アジア情勢とは、時間稼ぎをしつつ、虎視眈々と米国を騙そうとする北朝鮮、軸足がぶれる米国をしっかり支える日本、それをわき目に勝手に踊る韓国、そして蚊帳の外に置かれた中国・ロシア、という構図が見えて来るのです。

この問題からは、まだまだ目が離せない展開が続きそうです。

新宿会計士:

View Comments (3)

  • いつも楽しみに拝読しております。直近のNewsweek日本語版にアメリカ蚊帳の外論が掲載されていました。北朝鮮は中露韓とプランBなるものを確立しているため、米朝会談の必要性がないとの珍説です。信憑性を疑います。https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/05/post-10267_1.php

  • < 昼刊の更新ありがとうございます。
    < 韓国の事なので、我々日本人が関知しないことですが、文大統領はじめ李洛淵首相や韓国の大臣ら高官は、京城でも特に海外出張ではメディアとの会食、パーティなどをよく饗しますね。そんな事は二の次だろうに、李首相はロンドンでもやっている。英国の要人と接触するのが最優先ではないのか?(相手にされるか微妙だが)。企業代表者とか最高実務担当者を連れてきたのか?
    < それよりも、むしろ後で「李首相は昼食会もなかった」「文大統領は夕食会をしてくれなかった」「康長官はティータイムもなかった」と後ろ指刺されるのが困るんでは?日本の大臣クラスがどういう対応をしているのか知らないが、そんなには聞いたことがない。むしろ海外出張時は多忙で、立ち話の記者会見がフツ―のスタイルだ。朝鮮民族は【政府高官や要人からは、メディア人は何か饗応を受けて当然だ。それでこそ本音が聞ける】とでも思っているアホメディアと、高官らの阿る思いが変な方向でマッチしているのではないか。実にくだらん(全くの私見ですが当たっている部分もあると思います。記者など相手してても国益の1銭にもならん)。
    < 何度も言いますが、北朝鮮はCVIDは、絶対に呑みません。だから米朝のシンガポール会談は、6月12日、あるいはその2週後の26日にやろうとしても、日米に対する色よい返事はありません。でも、ここにきて米国側が『韓国人は立ち入るべからず』と何やら関東の某狂心的プロサッカーチームサポみたいな事を厳命したことは、良かったです(笑)。正直韓国は邪魔だ。中国が入るなら日米対中朝の構図。安倍首相のカナダG7サミット前の訪米、トランプ大統領との会談で綿密な打ち合わせを、特に何度も裏切られ煮え湯を飲まされた安倍首相は、朝鮮人の行動パターンを熟知していると存じます。トランプ大統領、側近にお伝えください。また拉致被害者全員解放全容解明の件もお願いします。
    < ちょっと米国の発言が緩くなると、北はすぐに居丈高になり先日も『韓国沖、南シナ海での米国演習をやめよ』なんて言い出す。まっったく信用なりません。いっその事、シンガポールで拘束してはどうか、とさえ思います。
    < 失礼します。

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