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    Categories: 政治

2017年の日韓観光統計を読む(前編)

当ウェブサイトの「人気コンテンツ」といえば、やはり、観光統計の分析です。日韓そろって観光に関する統計が更新されたというタイミングもあり、本日は「基礎編」として、日韓観光統計に関する基礎資料を報告したいと思います。

入国統計のアップデート

基礎データに基づく議論は重要

当ウェブサイトは「独立系ビジネス評論サイト」を名乗っていますが、基礎データに基づいた議論は、当ウェブサイトの「売り」の1つです。

私はジャーナリストではありませんが、ビジネスマンの1人です。政治家や官僚などにインタビューをして情報を取りに行くことはできませんが、たとえば官庁などが公表したデータを読み込み、その傾向を分析することは、得意分野でもあります。

こうした中、当ウェブサイトの人気コンテンツの1つが、「日中韓の相互往来」です。そして、利用する基礎データを公表している主体は、日本側は日本政府観光局(JNTO)、韓国側は韓国政府観光局(※韓国語ウェブサイト)です。

もともと私は、東アジア経済の交流の指標として、次の6つに注目してきました。

  • ①日本を訪問する中国人の人数
  • ②日本を訪問する韓国人の人数
  • ③韓国を訪問する日本人の人数
  • ④韓国を訪問する中国人の人数
  • ⑤中国を訪問する日本人の人数
  • ⑥中国を訪問する韓国人の人数

本来であれば、日韓だけでなく、中国などのデータも欲しいところですが、中国当局は2016年時点でデータの公表をやめてしまったらしく、現在、私が入手可能なデータは上記の①~④に限られています。

ただ、いちおう日韓両国のデータを入手することは可能であり、データの信頼性を問わなければ、ある程度は日中韓の相互往来について、分析することができます。

なぜ相手国のデータが必要なのか?

ところで、日中韓の相互往来を把握するのに、相手国のデータが必要なのでしょうか?

日本の場合、「どこの国から外国人が来たか?」というデータはありますが、「日本人がどこの国に出掛けたか?」というデータが存在しないからです。

海外旅行に行かれた方ならご存知だと思いますが、海外に出国する際、別に「自分はこれからどこの国に出掛ける」と申告する場面はありません。

もちろん、入出国の審査場では、係官が航空券をチェックしているようですが、とくに成田空港の場合、別にその航空券の「行先」を統計処理している形跡はありません。

したがって、日本政府観光局から得られるデータは上記の①②だけであり、③④については韓国の、⑤⑥については中国のウェブサイトを、それぞれ調べる必要があります。

先ほど申し上げたとおり、中国当局は「入国統計」のデータを公表していないらしく、現在のデータは①~④しか存在しません。

また、韓国の入国データには、「トランジット旅客」(つまり仁川国際空港などで乗り継ぐ旅客)が含まれている可能性があるなど、データとしての客観的信頼性にはいろいろと疑義が存在することも事実です(これについては『韓国:トランジットのからくりと習近平の影』などもご参照ください)。

しかし、本日の記事は、韓国観光公社が発表する内容が正しいという前提を置いて執筆していますので、その点はお含み置きください。

日本入国者数は3000万人に王手

急増する日本入国者数

日本政府観光局は今月16日に、「訪日外客数2017年12月推計値」(※PDFファイル)を発表しました。

これによると、2017年の1年間を通じた日本入国者数は、過去最高となる2869万人で、前年比約20%増でした。日本政府は現在、東京五輪が予定されている2020年までに年間訪日観光客数を4000万人にするという野心的な目標を掲げていますが、現時点で入国者数は3000万人に王手がかかった格好です。

ただし、JNTOが発表した数値のうち、11月と12月の数値は速報値であり、欧州や米国の数値が空欄になっているため、正確な国籍別内訳についてはわかりません。

そこで、2017年1月から10月の10ヵ月間のデータで、訪日外客数とその出身国別の構成比を眺めてみると、図表1のとおり、実態としてはアジア出身者が全体の9割弱を占めています。

図表1 昨年の訪日外客数(10ヵ月データ)と構成比
地域 訪日旅客数 構成比
総数 23,791,732 100.00%
アジア計 20,461,085 86.00%
中国 6,224,405 26.16%
韓国 5,838,656 24.54%
台湾 3,881,359 16.31%
香港 1,851,399 7.78%
アジアその他 2,665,266 11.20%
ヨーロッパ計 1,305,952 5.49%
北アメリカ計 1,461,240 6.14%
オセアニア計 455,354 1.91%
その他 108,101 0.45%

(【出所】JNTOより著者作成)

また、速報値では中国、韓国、台湾、香港などの統計については12月までのものが明らかになっていますが、この数値を見ても、わが国への入国者がこれらの国に偏っていることは一目瞭然です(図表2)。

図表2 昨年の訪日外客数(12ヵ月データ)と構成比
地域 訪日旅客数 構成比
総数 28,690,932 100.00%
中国 7,355,805 25.64%
韓国 7,140,156 24.89%
台湾 4,564,059 15.91%
香港 2,231,499 7.78%
上記4ヵ国以外の国・地域 7,399,413 25.79%

(【出所】JNTOより著者作成)

図表1、図表2ともに、外客数の出身国の中で最も多いのは中国であり(10ヵ月間データで622万人、年間データで736万人)、次に多いのは韓国です(10ヵ月間データで584万人、年間データで714万人)。これに台湾(10ヵ月データで388万人、年間データで456万人)、香港(10ヵ月データで185万人、年間データで223万人)が続きます。

人口5000万人少々の韓国は、国民の8人に1人が昨年、日本に旅行した計算ですし、台湾は4人に1人が、香港に至っては3人に1人が、それぞれ日本を訪れたことになります。

ただ、多くの方々が観光客として日本に来てくれることは素直に歓迎したいと思う人も多いでしょうが、その一方で、こうした現象を手放しで喜んで良いものか、判断に迷うという方もいらっしゃるかもしれません。

(これについては近日中に執筆する予定の「後編」で私自身の見解を述べたいと思います。)

伸び率は鈍化傾向に

このように、日本を訪れる外国人は、出身者が一部の国に偏っているという特徴があるものの、年々、大きく伸びていることは間違いありません。

ただし、JNTOが公表する過去のデータから判断すると、日本を訪れる旅客数の増加率は鈍化していることがわかります(図表3図表4)。

図表3 過去15年間の訪日外客数の推移と伸び率
年度 訪日旅客数 前年比伸び率
2017年 28,690,932 19.35%
2016年 24,039,700 21.80%
2015年 19,737,409 47.15%
2014年 13,413,467 29.42%
2013年 10,363,904 24.00%
2012年 8,358,105 34.40%
2011年 6,218,752 ▲27.78%
2010年 8,611,175 26.83%
2009年 6,789,658 ▲18.69%
2008年 8,350,835 0.05%
2007年 8,346,969 13.81%
2006年 7,334,077 9.01%
2005年 6,727,926 9.61%
2004年 6,137,905 17.77%
2003年 5,211,725

(【出所】JNTOより著者作成)

図表4 過去15年間の訪日外客数と主な内訳

(【出所】JNTOより著者作成)

2017年における訪日外客数の前年比伸び率は+19.35%で、これは伸び率としてみれば確かに大きいものの、2012年以降の6年間で最も低い数値です。とくに、「爆買い」という単語が流行した2015年の前年比+47.15%と比べると、その落ち込みがわかります。

仮に、2018年以降の3年間、訪日外客数の伸び率が10%にとどまった場合、2020年の訪日旅客数は約3819万人と、4000万人には微妙に足りない計算です。

そうなってくると、日本の役所の「悪いところ」が頭をもたげてくる可能性があります。

つまり、「何が何でも訪日外客数を4000万人にする」という目標を達成するために、入国ビザの緩和をしまくったり、強引な訪日キャンペーンを打ったりすることには警戒が必要です。

数値を目標とする愚を警戒する

私自身は、以前は単純に

観光目的で日本を訪問してくれるならば、それは良いことだ

と考えていました。しかし、私はその後、考え方を改めました。

というのも、『日本政府は「訪日客4000万人目標」を撤回せよ!』で申し上げたとおり、実際の日本への入国者数の比率を見るならば、手放しで喜ぶことはできないと考えたからです。

意外なようですが、私は中国人入国者については、全面的なビザ免除プログラムの対象外であるという事情を踏まえ、その多くは「善良なる観光客」だと考えています。

しかし、韓国人入国者などについては、ビザ免除プログラムが存在するために、純粋な観光目的の入国者だけでなく、それ以外の何らかの目的(とくに日本に定着することを目的とした入国者、日本で何らかの犯罪を働くための入国者)を排除する仕組みが存在していないことを、私は非常に大きな問題だと考えています。

もちろん、多くの韓国人入国者は善良な観光客であり、これらの入国者が日本の実情に触れ、親日家になって帰っていくことは、わが国の国益にも役立ちます。一般論として、訪日観光客数が増えること自体は歓迎すべきだという点については間違いありません。

しかし、それと同時に、「とにかく訪日観光客を4000万人にする」という数値目標が1人歩きすることを強く警戒しているのです。

私は、一部の国の出身者に対し、1回の入国で滞在可能な日数については、現行の90日ではなく、15日程度に短縮しても問題ないと考えていますが、これについては近日中に議論したいと思います。

中国に偏った韓国入国者

韓国入国者数は減少

さて、韓国観光公社は一昨日、韓国観光統計(※韓国語)を公表していますので、これについても読み解いてみましょう。

日本と違って韓国の場合、入国者には大きな偏りがあります。それは、とくに中国に著しく偏っている、という点です(図表5)。

図表5 訪韓外客数と構成比(2017年)
地域 訪韓旅客数 構成比
総数 13,066,904 100.00%
アジア計 10,774,143 82.45%
中国 4,169,353 31.91%
日本 2,311,447 17.69%
台湾 925,616 7.08%
香港 658,031 5.04%
アジアその他 2,709,696 20.74%
ヨーロッパ計 936,057 7.16%
北アメリカ計 868,881 6.65%
オセアニア計 189,557 1.45%
その他 298,266 2.28%

(【出所】韓国政府観光局より著者作成)

ただし、韓国への入国者は、前年比3割も減少しており(図表6)、とりわけ中国からの入国者数が激減しました(図表7)。

図表6 過去10年の訪韓外客数推移
年度 訪韓旅客数 前年比伸び率
2017年 13,066,904 ▲29.83%
2016年 16,965,285 23.60%
2015年 12,961,458 ▲7.31%
2014年 13,908,927 14.69%
2013年 11,866,055 8.90%
2012年 10,810,470 12.42%
2011年 9,467,536 10.45%
2010年 8,478,164 10.56%
2009年 7,583,113 13.18%
2008年 6,583,290 6.52%

(【出所】韓国政府観光局より著者作成)

図表7 過去の入国者数の推移と主な内訳

(【出所】韓国政府観光局より著者作成)

中国に偏った観光政策が行き詰るのも当然

訪韓外客数が激減した理由は、中国人訪韓外客数の急減です。とくに、2017年を通じた中国からの入国者数は、前年比で半減という状況です(図表8)。

図表8 過去10年の中国人の韓国入国者数推移
年度 訪韓中国人数 前年比伸び率
2017年 4,169,353 ▲93.50%
2016年 8,067,722 25.83%
2015年 5,984,170 ▲2.38%
2014年 6,126,865 29.38%
2013年 4,326,869 34.44%
2012年 2,836,892 21.74%
2011年 2,220,196 15.54%
2010年 1,875,157 28.42%
2009年 1,342,317 12.99%
2008年 1,167,891 8.47%

(【出所】韓国政府観光局より著者作成)

考えてみれば、これも当然のことです。2016年における訪韓旅客数は約1700万人でしたが、その半数近く(807万人)が中国人でした。

そして、中国政府が2017年4月以降、韓国旅行の販売を規制した影響が大きく出て、結果的に1年間を通じた訪韓旅客者数が半減したことで、結果的に訪韓旅客数全体を大きく押し下げたのです。

これは、わが国にとっても他人事ではありません。

わが国の場合、訪日外客数に占める中国人の比率は25%程度であり、韓国よりもずっと低いのですが、それでも日本が中国人観光客に依存し過ぎた場合、中国が「観光旅行禁止」を日本に対する外交カードとして悪用する可能性があるのです。

その意味でも、特定国に外国人観光客を依存することの怖さを、わが国全体としてもしっかりと認識する必要があるでしょう。

日韓往来1000万人時代も間近!

本日は昨年を通じた日韓の入国者統計について、基本的なデータを確認してみました。

先ほど申し上げたとおり、日本から韓国への入国者数は200万人を少し超えている程度で安定していますが、韓国から日本への入国者数は700万人を超えていて、さらに増加する勢いです。

このままで推移すれば、今年、両国の往来は1000万人の大台に乗るかもしれません。

本日はデータの紹介が少々重く、記事が長くなり過ぎましたので、いったん、ここで記事を終了したいと思います。しかし、日韓往来についてはいくつか議論しておきたい点があるので、近日中に「続編」を掲載する予定です。

引続き、当ウェブサイトをご愛読頂きますと幸いです。

新宿会計士:

View Comments (1)

  • < 毎日の更新ありがとうございます。
    < 中国から韓国への旅行客は昨年は半減ですか(笑)。それでも417万人、ということは2016年が800万人、凄い人数ですね。そりゃ中国人がいなくなると、韓国はツラい。一人当たりの消費額も大きいでしょうし、ぼったくりしても、型遅れの高額品でも買ってくれたんでしょう。「THAAD」危機がまた発生したら韓国旅行業界は枯れ死してしまいます。それもオモロイけど。実際今も「封鎖」状態なので、宗主国様のご機嫌取りに文大統領は忙しいことでしょう。
    < 「新宿会計士」様のサイトで、観光基礎データ分析は深堀りしてあって興味深いです。ずっと何度も眺めていても飽きません(ヘン?)。
    < ただ発表元が1ミリの・(てん)を100センチの黒い丸に勝手に置き換える韓国のデータが入るという点で惜しまれますが、元からあの国の数値など、誰も信用してないので大丈夫です。トランジット(大概ムリヤリ仁川に経由する大韓航空他)も入れてますし、乗務員もカウントされているとも聞きます。いいとこ実質7掛けかな。*日本人も安いからといって、韓国便を利用するなヨ!酷い目に遭いたいのか(笑)。
    < 観光立国に日本は何時なったか知りませんが、2020年に4,000万人目指すなんて、絶対目標にしてはいけない。700万人とか1,000万人とかでウロウロしてた日本が、いくら『日本ブーム、おもてなし』といっても、観光コンテンツを無理やり創生するのは、決して良いこととはいえない。「あるがまま」を見てもらうだけで良いです。ずっと前なら外国人の日本イメージは①フジヤマ②キョウト③スキヤキぐらいでした。私は『こんなもん外国人が見てホンマに面白いんかな』とずっと思ってました。今でも欧米人からしたら「極東の遠い国」であり、フツーの感覚ならイタリアやスイスやオーストリアに行くでしょう。わざわざ高いカネと時間使って旅行する人は多くない。昨年で比率約14%ですか。アジア人が86%を占め、2,046万人、この割合を大幅に覆すことはできないと思います。また要らぬビザ緩和や観光キャンペーンなど絶対ダメ。役所は数に拘るな、目標数値など一人歩きさせてはいけない。
    < 中国人の主に団体客は喧しいし行儀悪いですが、ビザ発行対象外なので短期滞在、まずは善良な人達が来日していると私もみます。カネはしこたま持っているし、ドンドン使ってください。*山や土地など不動産はヤメテネ。しかし、韓国人はビザ発行免除プログラムで観光以外の闇ビジネス、犯罪(予定)者、定住を考える者など、不逞なヤカラが散見します。これらを入国排除する為に、期限を90日ではなく7日程度に短縮すべき。会計士様の15日でも長いと思う(知識不足ですみませんが、15日以下にはできない?)。観光なら7日あれば十分でしょう。また来たければ申請すれば良い。584万人なんて多過ぎ、しかし今年は700万人予想ですか。逆に日本からの訪韓は230万人。これは熱心な韓風好きのオバサンと親戚縁者がいて行き来する在日の方などの固定客が相当数いる。新規の観光客がいるのか疑問ですね(いるでしょうが)。もう頼むし韓国人旅行者(および下心のある不逞人)は増えなくていい。。8人に1人多過ぎ、でも台湾の4人に1人、香港の3人に1人はOK。要は「反日国」「日本を侮辱する民族」は来てもらわなくて良い、排除。もとい、柵(ビザの有効期限7日)を設ける、更には近々ビザ対象外国にするのが、国内の治安にも有事にも寄与すると確信しています。
    < 失礼しました。