本日2本目の配信は、英FT紙からの「時事ネタ」です。
英FT紙「28人しか受け入れないとは」
英国が誇る「クオリティ・ペーパー(?)」であるフィナンシャル・タイムス(FT)紙(電子版)は昨日、東京発のニュースとして、「日本が2016年を通じて受け入れた難民は28人に過ぎない」とする記事を配信しています。
Japan accepted 28 refugees in 2016(英国時間2017/02/13(月) 10:44付=日本時間2017/02/13(月) 19:44=付 FTオンラインより)
記事を派配信したのは、慰安婦問題をはじめ、日本に対して悪意に満ちた記事を配信していることでも知られる、東京在勤のRobin Harding記者です。
記事の要点を、日本語で簡単にまとめておきますと:
- 2016年に日本が受け入れた難民は28人で、2015年よりも1人だけ増えた
- 難民の申請件数自体は10,901件と前年比44%も増えたため、受理率は0.26%にまで減った
- 日本の厳格な難民政策は難民受け入れに疲れた他国にとっても「モデル」となっている
といったものです。そのうえで記事では、日本は他の主要国と比べても、受け入れた人数は「桁違いに少ない」状況だと指摘します(図表1)。
図表1 主要国難民受入数比較
国 | 人数 |
---|---|
日本 | 2016年で28人 |
英国 | 2015年で9,975人 |
米国 | 2016年で84,994人 |
ドイツ | 過去数年で数十万人 |
(【出所】FT)
ただ、ドイツについての正確な統計が出てこないあたり、Robin Harding記者の限界でしょうか?
同記者は、「日本への難民申請件数が少ない理由は、日本に渡航するためにパスポート、ビザ、航空券が必要であるためである」と述べていますが、この認識は明らかに間違っています。その証拠に、日本に難民申請を行った人の出身国別の内訳を見てみましょう(図表2)。
図表2 日本への難民申請の国別内訳
国 | 人数 |
---|---|
インドネシア | 1,829人 |
ネパール | 1,451人 |
フィリピン | 1,412人 |
トルコ | 1,143人 |
ベトナム | 1,072人 |
(【出所】FT)
インドネシア、ネパール、フィリピン、トルコ、ベトナム…。これらの国で「シリア内戦」に相当する戦争は行われていません。中には、「自国で少数民族だから迫害されている」、「政治的に対立していて、母国に帰ると身の危険を感じる」といった申請もあるそうですが、FTはこれらの背景に一切触れず、単に「日本の難民の受理件数が少ない」と述べるのみです。
また、FTは日本国内で難民の活動を支援している団体「難民支援協会」の代表にインタビューを行い、日本の難民認定が不当に厳しいとのコメントを取って来ていますが、この人物のコメントは、
“Even if a Syrian had joined an anti-Assad demonstration and feared to return home, for example, their claim would be rejected.”
「シリア人が反アサド政権デモに参加したことによって本国に帰国することに懸念を抱いたとしても、日本だとそのような人物の難民申請ですら拒絶される。」
といったものです。逆に米国などの外国では、そのような理由での難民申請が認められるとでもいうのでしょうか?非常に不思議です。
日本の難民政策
FT紙の記事を読んでいる限り、日本が難民受け入れに消極的なのではなく、「本来なら難民とみなされるような国の出身者が少ない」という方が、実情に近いのではないかと思います。
むしろ近年の日本は、たとえば韓国国民などに対する観光ビザの免除プログラムを実施するなど、以前と比べて諸外国からより簡単に入国できるようになりつつあります。インドネシア、ベトナム、フィリピン、ネパール、トルコは、いずれも「現在進行形で戦乱が発生している」という国ではありません。私は10,901人の難民申請者全ての事情を把握している訳ではありませんが、申請者の出身国を考慮すれば、かなりの数の申請が「経済的理由」によるものと推察され、日本政府がこれらの難民申請を却下している点に不自然さは一切ありません。
この点については、意外なことに、「あの毎日新聞」が、正確な事情を報じています。
法務省 難民認定、地方入管でも 申請急増で迅速化へ(2017年2月1日 12時15分付 毎日新聞より)
毎日新聞の記事には、こうあります。
「就労目的で難民認定を申請するケースが多く、認定作業が滞りがちになっているため、法務省は6月にも認定判断を地方の入国管理局でできるように省令を改正し、効率化を図る。」
「リベラル系」(?)の毎日新聞でさえ、「就労目的で難民申請をするケースが多い」と認めているのです。そして、2010年に1,202人だった難民申請件数が2016年には一気に10,901人に増えたということは、経済目的の申請が増えすぎたために「本当に難民として困っている人」の申請が滞っているということでしょう。記事には、
「難民認定には国による調査が必要で、少なくとも半年はかかる。認定されれば国内で就労できるが、原則として申請中は就労できず、申請者が困窮する恐れがあった。このため法務省は2010年、在留資格があり、申請から半年を過ぎれば一律に就労を認めるようにした。」
とありますが、2010年といえば民主党・菅直人政権の時代であり、こんなところにも民主党政権の「負の遺産」が残っている格好です。毎日新聞は
「法務省幹部は「日本で難民申請をすれば就労できるとの誤った情報がブローカーや申請者の間で広まっている。本当に救済が必要な難民の審査に支障が出ている」と話す」
としていますが、申請の却下を地方法務局に委任する省令改正については現在、パブリック・コメントに付されています。私は少なくとも、「難民申請中の就労を禁止すること」という措置については必要だと考えており、その旨、パブリック・コメントを送付したいと考えています。