欧州の第三国を含めた多くの国のメディアが、安倍総理の訪米を一斉に取り上げました。安倍晋三総理大臣が2月10日からの日程で訪米していますが、これに関する成果もさることながら、日米関係が「特別な二国間関係」に向かうという、新たな時代の幕開けを予感させるものです。本日は、主に外国メディアの報道ぶりを紹介するとともに、日米新時代について考えてみたいと思います。
2017/02/12 07:17 追記
当初この記事は本日付で公表する予定でしたが、設定を誤り、昨日夕方に公表されてしまっていました。
そこで、元記事を削除し、改めて全く同一内容の記事をこちらに掲載します。また、誤植等についても修正しております。
目次
欧米メディアが一斉に取り上げた!
米国を訪問中の安倍晋三総理大臣は現地時間金曜日にドナルド・トランプ大統領と首脳会談を行い、共同記者会見を行いました。
今回の安倍総理の訪米は、安倍政権以前の日本の首相の訪米とは全く異なる点が一つあります。それは、
「欧米メディアが一斉に(しかも大々的に)安倍総理の訪米を取り上げた」
ことです。考えてみれば、これは凄いことです。
私の記憶だと、竹下登首相が訪米した時には、米国の主要メディアですら、「日本の首相の訪米」を取り上げませんでした。また、69日で退陣した宇野宗佑政権(1989年6月3日~8月10日)、64日で退陣した羽田孜政権(1994年4月28日~6月30日)のように、特に平成の首相は「短命政権」が続いて来ました。
日本の首相の中には、「米国債を売りたいと思ったことがある」と発言して米国からバッシングを受けた橋本龍太郎首相や「冷めたピザ」と揶揄された小渕恵三首相のように、あまり嬉しくない注目を浴びた人も多かったのですが、安倍晋三総理大臣の場合は、そうではありません。
何といっても安倍政権は、在任日数が本日まで1876日(※2007年9月26日に総辞職した「第一次安倍政権」の在任期間を含む)に達しており、小泉純一郎政権(1980日)に次いで史上6番目の「長寿政権」となっています。
政権の安定ぶりは安倍氏を「世界的プレイヤー」に押し上げているのかもしれません。
日米首脳の共同記者会見
ところで、本日は「日米首脳会談を世界のメディアがどう報じたか」について取り上げたいのですが、その前に、日米共同記者会見について取り上げておきましょう。
日米共同記者会見レビュー
日米共同記者会見の模様は、首相官邸ウェブサイトの「政府インターネットテレビ」で確認することができます。また、安倍総理の発言については動画欄の下にテキストで起こされていますが、一方でトランプ大統領の発言については文字起こしされていません。
私の文責で、トランプ氏の発言の要点を邦訳しておくと、だいたい次のような内容でした。
- アメリカ合衆国の人民を代表して安倍総理の今回の訪米を歓迎する
- 貴方は政権が発足して以来、初めてお会いする外国首脳の一人だ
- 両国の結びつきと友好は非常に深いが、我々はそれをさらに深化させることで合意した
- 安全保障面における日米協力は、いわば太平洋地域における「礎石」(cornerstone)だ
- 相互の協力関係は、より強固でかつ一貫的なものとなっていくであろう
- 我々は航行の自由の確保の重要性で一致した
- 米国は北朝鮮のミサイルや脅威に対抗することを、非常に高い優先度により確約する
- 経済面では自由・公正・互恵的な関係を模索していく
- 米国人は日本の豊かな歴史や文化を深く尊敬している
- 日本と日本国民に対して我々の軍隊をホストしてくれることを感謝したい
- これからフロリダで非常に生産的な週末を過ごしたい
いわば、米国としては
- 日米安保条約を堅持し、さらに強固なものにしていくこと
- 日米通商関係をさらに深化させること
を約束した格好です。しかも、従来の日米関係と大きく違う点は、たとえば「アジア太平洋地域におけるリーダーシップ」です。これは、日米両国関係に留まらず、アジア・太平洋地域全体に対して、日米が「リーダーシップ」を発揮するとの宣言であり、言い換えれば、「米国と並ぶ世界大国(G2)」を目指すと宣言していた中国に対する強烈なカウンター・パンチでもあります。
古今東西、国の目的は2つ
ところで、今回の安倍総理の訪米を眺めていて、改めて痛感したことがあります。
それは、「古今東西変わらない、外交の目的」です。外交の目的とは、つまるところ、2つしかありません。
1つは「軍事的安全の確保」、もう1つは「経済的利益の最大化」です。どちらも当たり前の話です。
日本に当てはめるならば、現在の日本の課題は、軍事的には「中国と北朝鮮」、経済的には「デフレ脱却と経済成長」にあります。
中国・北朝鮮に対する牽制は合格
中国が海洋進出という野望を隠さなくなっている中で、日本近海で「武力衝突」が生じる可能性があるとしたら、それは間違いなく中国の軍事的暴発によるものでしょう。
トランプ氏は「中国」を名指ししたわけではありませんが、「日米安全保障条約が揺るぎないこと」を明言したうえで、「航行の自由」の確保が大事だと述べました。これだけで、日本にとっては「大成功」でしょう。先日のマティス国防相の訪日時にも、米国側は「尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用範囲にある」と明言しており、あわせて考えるなら、現時点で中国が尖閣諸島を強引に奪いに来るという形での「日中開戦」の可能性は激減した格好です。
その意味で、「対中牽制」としては、十分すぎる成果を上げたと見て間違いありません。
また、トランプ氏は大統領就任前の昨年12月2日、台湾の蔡英文(さい・えいぶん)総統と電話会談をしたうえで、「『一つの中国』原則にはこだわらない」などと発言し、中国当局が仰天したことがありました。そのトランプ氏は、安倍総理と首脳会談を行う直前に、中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席と電話で会談しています。
U.S., China Coordinated Policy Reversal(米国時間2017/02/10(金) 19:12付=日本時間2017/02/11(土) 08:12付 WSJオンラインより)
WSJによると、習主席は電話でトランプ氏に対し「『一つの中国』原則を維持してほしい」と要請したところ、トランプ氏は「そのようにする」と答えたそうです。
ただ、この一連のやりとりも、中国が米国にとって気に入らないことをやった場合には、米国としてはいつでも「一つの中国」原則を撤回する準備がある、という意味だと捉えるべきでしょう。
さらに、トランプ氏は共同記者会見の中で、日本にとっての中国と並ぶ軍事的脅威である北朝鮮については、「名指し」したうえで、ミサイル開発と北朝鮮という国そのものの脅威に言及しました。
その意味で、日米共同記者会見を見る限り、安全保障面からはほぼパーフェクトな成果があったと考えて良さそうです。
経済面では今後の協議に注目
一方、経済面では、両首脳からは「自由で公正・双方向の」通商体制構築が重要だとの言及があったものの、その具体的な方策についての言及はありませんでした。ただ、安倍総理の方から、
麻生太郎副総理とマイケル・ペンス副大統領との間で、「分野横断的な対話」を行うことで合意した
との説明がありました。
私の見立てでは、トランプ氏自身、どうも経済学をきちんと理解している様子はありません。ですが、トランプ氏が疎い経済・財政学の分野に関する合意形成を実務家レベルに委ねることにより、たとえば日本の方からは、外為特会や、場合によっては日本銀行が米国債を買い増すことで、金融面から米国を支えることで、「トランプノミクスを成功に導く」という合意が成立する可能性は十分にありそうです。
この点、日本銀行は既に巨額の日本国債を買い上げており、これ以上量的緩和を続けたくても、日本国内の債券市場で流通する国債の残高が極めて乏しくなっています。日本銀行がこれ以上「量的緩和」を続けるならば、たとえば日本銀行が「円を刷って米国債を買う」という、いわゆる「外債オペレーション」を行うことも検討の余地があるのです。
ただ、この「外債オペレーション」を実行すれば、米国の金利を引き下げる効果がある一方で、「円安・ドル高」が加速するという副作用が生じます。この場合、「日本が為替安誘導を行っている」と批判してきたトランプ氏としては円安という「副作用」を容認できるのかが問題となりそうです。
いずれにせよ、経済・通商面では、現時点で日米協議が「成功している」のかどうかを判断することは尚早です。ただ、「麻生副総理とペンス副大統領が主導する」という形にしたのは大成功でしょう。というのも、トランプ氏はあくまでも「経営者」であって、政治家ではないため、マクロ経済学・財政学に極端に疎いからです。自分に疎い分野を、「実務家」であるペンス氏に経済政策を「投げた」形となったのは、大きな成果の一つともいえるでしょう。
ピント外れの米国記者の質問
ところが、せっかくの有意義な記者会見であったにもかかわらず、米国人記者の質問は、ずいぶんとピント外れでした。ただ、日米2人ずつ、計4人の記者の中で、最初の
「入国規制を違憲とする判決について、大統領はどう考え、どう対処するか、また、総理はどう考えるか」
という質問については、安倍総理は
「入国禁止規制については内政問題なのでコメントを差し控えたいと思う」
と回答するなど、ピント外れも良いところでした(当たり前すぎますね!)。また、これに続くFOXやNHKの記者の質問は紹介する価値すらないので割愛します。ただ、産経新聞のタキタさんという女性記者が
中国の東シナ海・南シナ海問題、北朝鮮問題を巡り、前任オバマ政権時代では米国のアジアにおけるコミットメントについて疑念が高まっている点をどう思うか、また通貨の切り下げについてはどう思うか
など、非常にシャープな切り口での質問を行いました。これに対しトランプ氏は
中国の大統領(※国家主席のこと)と昨晩、非常に和気あいあいとした雰囲気で長時間の電話会談を行い、意見交換を行い、地域の安全保障のためには日米中など地域間での緊密な意見交換が必要だ
などとはぐらかし、今一つ明確な回答は得られませんでした。ただ、トランプ氏は、現段階では「中国を軍事的に牽制する」とは明言しなかったわけですが、それと同時に「航行の自由が大切だ」と発言するなど、原理原則を決して踏み外さない姿勢を明らかにしています。もしかして、中国から見ると「何をしでかすかわからない」という恐怖感を植え付けるのにも役立ったかもしれません。
トランプ氏には政治家としての経験がなく、特に経済面では支離滅裂な発言が目立ちますが、それと同時に「本能的な政治感覚」は非常にシャープなのではないかとも思えます。
外国メディアはどう報じたか?
以上を踏まえて、各メディアの報道を列挙しておきましょう。
FTは「トランプ大統領に」批判的
まず、英フィナンシャル・タイムズ(FT)は、今回の安倍総理の訪米を大々的に取り上げています。
Trump embraces Abe after move to heal Beijing rift(英国時間2017/02/10(金) 22:40付=日本時間2017/02/11(土) 07:40=付 FTオンラインより)
1000単語という、英文にしては比較的長い記事で、日本の総理大臣が米国を報じたことの詳細を報じています。
リンク先の記事の要点を抜き出すと、だいたい次のようなものです。
- ドナルド・トランプ(米大統領)は習近平(しゅう・きんぺい、中国国家主席)に対し『一つの中国』原則を尊重すると伝えた数時間後に安倍(日本首相)をホワイトハウスで出迎えた
- 安倍はトランプをゴルフによって抱きかかえる公算だ
- 東京(=日本政府)としては、中国による南シナ海や東シナ海を巡る軍事的緊張が高まる中、米国との関係を再構築する考えだ
そのうえで、FTはトランプ大統領が安倍総理との間で「4回も食事を共にする(※原文ママ。ただしくは5回だと思います)」ほどの異例の厚遇ぶりだとしつつも、
While Mr Abe received a very warm welcome and a much more impressive visit than other foreign leaders, it was unclear what Mr Trump had gained in return.
安倍氏は他の外国首脳と比べても異例の印象的な非常に温かい歓迎を受けているが、トランプ氏がそれに対する見返りを得ているかどうかは不透明だ
と、「トランプ政権に対して」実に批判的な報道ぶりです。
私たち日本人から見て、英国のメディアが外国である米国の首脳に対し、あたかも自国の大統領であるかのような批判的報道をする感覚は理解しがたいものがありますが、FTがこのような編集方針を取る理由は、英字メディアであるFTには米国にも多数の読者がいることを意識しているからなのかもしれません。
いずれにせよ、この記事は「あくまでも米国目線」であり、安倍総理に対して「異例の厚遇」を与えたことの見返りが日本から期待できるのかを懸念しているものであるという点が興味深いところです。
WSJは経済問題に焦点
次に、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道ぶりについても眺めてみましょう。
Japan’s Abe Says U.S., Japan Leaders Working On New Economic Dialogue(米国時間2017/02/10(金) 19:35付=日本時間2017/02/11(土) 07:35付 WSJオンラインより)
WSJは、完全に「経済問題」に特化した報道ぶりです。
単語数は360語と、FT記事と比べて極めて短く、しかも内容は、「TPP離脱」などの経済面に絞られています。
WSJは、「麻生太郎副総理とマイク・ペンス副大統領が日米経済関係における分野横断的な対話を行うことで合意」した点を強調。また、記者会見でもTPP離脱問題を巡り、安倍総理がトランプ大統領を「批判することを巧みに避けた」と述べています(※この点については私も首相官邸HPの動画から確認しています)。
そのうえでWSJは、
Mr. Abe said that even though the U.S. had withdrawn from TPP, Japan remained committed to the goal of a “free trade regime in the region.”
安倍氏は米国がTPPから離脱したとしても日本としては「地域の自由貿易の枠組み」というゴールに対してコミットし続けると述べた。
としたうえで、さらに、「政府高官」が「ペンス副大統領と麻生副総理が、①財政・金融政策における協調、②インフラ投資、エネルギー問題、サイバー・セキュリティー、③二国間貿易について協議する方針である」と明らかにしたと報じています(ただし「政府高官」が日米どちらの高官を指すかは不明)。
WP「米国が日本を安心させる」
一方、同じ米国メディアでも、米ワシントン・ポスト(WP)の報道は、またニュアンスが異なっています。
Trump reaffirms U.S.-Japan security alliance in bid to soothe fears in Tokyo(2017/02/10(金) 18:20付=日本時間2017/02/11(土) 06:20付 WPより)
WPは、今回の安倍総理の訪米について、トランプ氏が「北朝鮮問題や中国の南シナ海進出問題を最優先課題に挙げている」という点を指摘しています。該当する部分は、
Trump sought to present the two countries in close harmony over shared challenges on North Korea’s nuclear weapons programs and China’s aggression in the South China Sea — “both of which I consider a very, very high priority,” he said.
トランプは北朝鮮の核兵器開発や中国の南シナ海侵略を巡って、(日米)両国における緊密な協調の必要性を強調。「いずれの問題も私は非常に高い優先順位がある」と述べた。
としています。
ただ、このWPの記事は、両者の記者会見の内容から「踏み込み過ぎ」です。トランプ氏は「北朝鮮(North Korea)」の核開発やそのものの脅威について言及していますが、別に中国については「名指し」をしている訳ではないからです。
ただ、WPの記事からは、ワシントン周辺で、日本が中国の南シナ海への海洋進出を警戒していることが問題意識として共有されていることがよくわかります。その意味で、安倍政権による「米国を巻き込んだ安全保障活動」は、かなり功を奏しているといえるでしょう。
仏メディアでも報じられる
一方、欧州では、リベラル系メディアを中心にトランプ政権が掲げる「反移民政策」を批判的に報じることが多く、特に仏ルモンドは、安倍総理の訪米を次のように報じています。
La journée de Donald Trump : valse-hésitation sur l’immigration et golf avec Shinzo Abe (2017/02/11 01:04付 Le Monde.frより)
タイトルを日本語に直訳すれば、『ドナルド・トランプの旅:移民政策にスルー、そして安倍晋三とのゴルフ』というものであり、記事の冒頭では
Au lendemain du nouveau camouflet juridique qu’il s’est vu infliger, Donald Trump a affirmé vendredi 10 février qu’il envisageait plusieurs options, dont la présentation d’un « nouveau » texte, pour relancer son décret anti-immigration, dont une cour d’appel de San Francisco a maintenu la suspension.
ドナルド・トランプは金曜日(2月10日)、サンフランシスコ地裁で適用停止判決が出されている入国禁止に関する大統領令を復活させるための「新たな」大統領令を考えている
とあり、いわばトランプ氏が「移民・難民政策についてスルーしておきながら日本の首相とのゴルフを楽しむ旅に出た」という報道ぶりとなっています。
いわば、「トランプ氏のお手並みを拝見」、といった雰囲気でしょう。しかし、中国の海洋進出やTPPなどの重要な政策課題が山積しているにもかかわらず、ルモンドの記事はトランプ氏の「難民問題を巡る批判的な姿勢」や「メディアに対する強硬姿勢」などに焦点を当てたものとなっており、どうもピントがぼやけている感は否めません。
環球時報は「貿易」に着目
いずれにせよ、欧米メディアは、いずれも発足直後のトランプ政権の動向に強い関心を持っていることが明らかです。日本の総理大臣が訪米したことをここまで大々的に報じられたことがいままであったのかと感心してしまいます。
こうした中、やはり気になるのは「中国の反応」です。なぜなら、トランプ大統領、安倍総理がいずれも「中国」を名指ししたわけではないにせよ、共同記者会見での焦点は中国の軍事的脅威に当てられていたからです。
これについて、現時点で確認できるのは、中国共産党系の「環球時報」の英語版(Global Times)に掲載された、次の記事です。
US President Trump seeks to promote “fair” trade with Japan(2017/2/11 7:30:52付 環球時報英語版より)
環球時報英語版は、今回の安倍総理の訪米のうち、軍事的な協力関係については無視し、経済面にのみ焦点を当てたうえで、論評抜きに事実関係のみ淡々と報じています。
やはり、直前のトランプ氏と習近平国家主席との電話会談で、トランプ氏が「一つの中国原則」を尊重すると言明したことで「安心感」が出てしまっているためでしょうか、普段の中国メディアにありがちな「日本を強く糾弾する」という姿勢は、少なくともリンク先の記事からは認められません。
中央日報は完全に「混乱」?
外国メディアの中で最後に紹介するのは、この記事です。
【社説】米国のアジア政策を示唆するトランプ-安倍会談(2017年02月11日11時34分付 中央日報日本語版より)
中央日報は
「両国はこの会談に向けて少なからず準備した。「朝貢外交」という言葉を生んだ安倍首相の大きな贈り物とトランプ大統領の武器である「取引の技術」が遺憾なく発揮される米国の「厚遇」がそれだ。」
と、記事の中でもさりげなく日本を侮辱することを忘れません。このあたり、韓国のメディアがいかに歪んでいるかという証拠のようにも思えるのは、私だけではないでしょう。そのうえで中央日報は、
「しかし世の中にただはない。安倍首相はトランプ大統領の歓心を買ってアベノミクスの基礎である「円安」に対する了解を求め、トランプ大統領が1兆ドルを投資するインフラ事業でも機会をつかむという計算だ。さらに中国との間で領有権紛争がある尖閣諸島(中国名・釣魚島)で米国の支持を確保するという思惑だ。一方、トランプ大統領は米国で雇用を創出する日本のより多くの投資、米国の貿易収支改善のための日本のより大きな譲歩を引き出す考えだ。」
と勝手に決めつけていますが、重要な点は、今回の安倍総理の訪米が「2泊3日で5回も食事を共にする」という濃密な首脳外交だ、という点です。そして、外交関係では「首脳同士が仲良くなること自体」が大きな成果なのです。
老婆心ながら、中央日報には朴槿恵(ぼく・きんけい)大統領が職務執行停止中である状況で、韓国外交が完全にストップしている自国の状況を心配した方が良いのではないかとご忠告申し上げたい気持ちでいっぱいです。
日米新時代の到来を予感
異例ずくめの首脳会談
今回の首脳会談は、「日本と米国以外の世界中のメディアも大々的に取り上げた」という点で、従来の日米首脳会談とは全く違った異例の会談だったことは間違いありません。
やはり、「入国禁止令」などの「極端な(?)大統領令」で世界中の注目を集めているトランプ大統領に対し、世界中のメディアが高い関心を寄せていることは間違いないのですが、トランプ氏が就任以来2度目の外国首脳との会談相手に選んだのが日本であるということや、「首脳同士での2泊3日のゴルフツアー」も、今回の会談が注目された理由でしょう。
そして、安倍氏自身は既に、通算して5年以上、日本国総理を務めています(2007年に退陣した第一次安倍政権を含む)。G7諸国でも、安倍総理よりも長く在任している首脳は、ドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領くらいです。
また、トランプ大統領が「最初に」面会した外国首脳は英国のテリーザ・メイ首相でしたが、2番目の国が日本で、しかも「2泊3日、5回も一緒に食事をする」という異例の厚遇ぶりです。ちなみに隣国・カナダのトルドー首相とは、今月13日にホワイトハウスで会談するそうですが、トランプ氏はカナダよりも日本を優先したということであり、この点についても異例でしょう。
日米新時代
私が首相官邸HPの日米共同記者会見を一通り視聴して感じた点は、「日米新時代の到来」です。だいいち、日米首脳会談が、それこそ世界中のメディアで大々的に取り上げられる時代が来るとは、それだけでも隔世の感があります。
また、これまでの日本は、ともすれば「日米二カ国間での関係」という枠から出ていなかったかの感があったのですが、今回の訪米では、トランプ大統領からは「アジア太平洋地域全体の平和と安定、自由公正な取引」を構築することに対する、一種の「ラブ・コール」がなされました。これに対し安倍総理側からも、「力による現状の変更」(※中国による南シナ海への強引な海洋進出のことでしょう)を牽制する発言がなされるなど、日米同盟がより広範囲な局面にまで進化する可能性が強く示唆された結果となりました。
さらに、トランプ氏は先月、英国のメイ首相との首脳会談で、英国の欧州連合(EU)からの離脱(いわゆるBREXIT)を支持する姿勢を打ち出しました。これにドイツを中心とする欧州が強く反発していますが、もしかすると日本も「米国対EU」、「英国対EU」という対立を仲裁するなど、従来とは全く異なる外交的役割を果たさなければならなくなる可能性もあります。
日本も覚悟を決めよ
そうなれば、トランプ政権下で日本が国連の常任理事国入りすることも現実味を帯びてきます。ただ、日米両国が経済面に留まらず、軍事面でも協力関係を深めたいと思うならば、欠陥だらけの現在の日本の国内法について、整備が必要です。その中でも「憲法第9条第2項」の問題を放置することは許されなくなるでしょう。
これに加えて、私が以前から『崩壊する韓国社会と日本の対韓外交』などで申し上げている通り、韓国社会は自壊直前の状態にあります。中国と北朝鮮だけでも荷が重いのに、さらに韓国社会が崩壊すれば、日本にとっては安全保障上、かなり深刻な影響が生じます。このことからも、ますます「憲法第9条第2項」に基づく「専守防衛と一国平和主義」という寝ぼけた考え方を捨てなければならないことは明白でしょう。
いずれにせよ、今回の日米首脳会談の結果を「成功」と見るのは尚早ではあるものの、「手応え」は非常に良好であることは間違いありません。今後の日米関係の発展を楽しみに見守ることにしたいと思います。