安倍外交の「脱皮」に期待する―ユネスコ分担金留保など―

安倍政権になり、日本の外交が少しずつ「脱皮」を遂げようとしています。もちろん、安倍外交も「順風満帆」とは言えず、特に昨年の「慰安婦合意」で安倍政権に「失望した」と公言する国民も多いのが実情ではないかと思います。ただ、安倍政権も少しずつ、従来の「外交になっていない外交」からの脱皮を図ろうと、色々と努力しているようです。本日は、「ユネスコ分担金事件」、「慰安婦合意蒸し返し事件」の二つを例にとり、安倍外交がどのように「脱皮」を図ろうとしているのかについて、一介のビジネスマンの目線から考察してみたいと思います。

久々に気持ちの良いニュース

従来の日本では考えられない、久々に胸がすっとするニュースがあります。日本が国際組織「ユネスコ」への今年の分担金支払いを留保している、というのです。報道等によれば今回の日本政府の措置は、昨年の中国による「南京大虐殺関連資料」の「世界記憶遺産登録」が通ってしまったことについて、日本政府として大きく問題視していることを示す狙いがあるとか。どんな組織であっても、「お金」がなければ運営が行き詰まってしまいますから、これは一種の「兵糧攻め」のようなものでしょう。「久々に」、と申し上げたのには理由があります。それは、昨年冬に安倍政権が韓国と合意した「従軍慰安婦問題」に関し、相当に悔しい思いをしたからです。本日は、この二つのニュース(ユネスコ分担金事件、慰安婦合意の続報)をベースに、安倍外交が「従来の日本外交からの脱皮」を図っているという仮説を提示します。

ユネスコ分担金事件

本日はまず、「ユネスコ分担金事件」について取り上げておきたいと思います。

ユネスコ分担金の支払い保留

先週、久しぶりに「すっきりするニュース」を目にしました。これは、「日本政府にしては珍しく、ユネスコに対する分担金の支払いを留保している」、とする記事です。既に多くの日本語メディアが報じている通り、日本政府はユネスコに対する今年の分担金の支払いを保留していることを明らかにしました。

政府、ユネスコ分担金を保留…記憶遺産で反発か(2016年10月14日 20時50分付 読売新聞より)ほか、報道多数

「ユネスコ」とは、正式名称は「国連・教育科学文化機関」、英文ではUnited Nations Educational, Scientific and Cultral Organization(UNESCO)です。いくつかの報道を取りまとめると、概要は次の通りです。

  • 岸田文雄外務大臣は10月14日後の閣議後の記者会見で、ユネスコに対する今年の日本の分担金や任意拠出金額などあわせて44億円の支払いを留保していることを明らかにした
  • 金額の内訳は、「◆ユネスコの分担金38.5億円、◆アンコールワットの修復費など5.5億円」である
  • 日本のユネスコ分担金額は米国に次いで世界で2番目に多いが、現在、米国はユネスコへの支払を留保しているため、事実上、日本が世界最大の負担国となっている
  • なお、分担金の未納状態が2年間続いた場合、ユネスコ総会での投票権を失うため、日本がいつまでも分担金の支払いを留保するわけにはいかない

といったものです。分担金の支払は加盟国の義務であり、一種の国際的な約束でもありますから、本来であれば速やかに支払っていなければなりません。しかし、日本政府は、例年であれば4月から5月には分担金の支払いを行っているにも関わらず、今年に関しては現時点で支払いを行っていないというのです。

節度を欠く朝日新聞の社説

この問題については、「従軍慰安婦問題を捏造した新聞」として有名な朝日新聞が「節度を欠く」として、日本政府を批判しています。

(社説)日本とユネスコ 節度欠く分担金の留保(2016年10月17日 05時00分付 朝日新聞デジタルより)

通常のビジネスマンの感覚からすれば、節度を欠いているのはこの朝日新聞社説の方だろう、と思うのですが、言い換えれば「慰安婦捏造新聞」がこのように主張していること自体、今回の日本政府の措置が正しい効果を上げていることを、間接的に証明しているともいえます。

ユネスコの問題点?

「ユネスコ世界文化遺産」といえば、昨年も日本が明治期の産業革命関連施設の世界遺産登録を目指していた時に、韓国が全力を挙げて妨害してきた事件を思い出します。ただし、各種報道によれば、日本がユネスコ分担金の支払いを留保している理由は、中国が登録申請した「南京大虐殺関連資料」が昨年10月に「世界記憶文化遺産」として認められたことに対する、日本政府なりの「問題意識」の顕れである、という側面がありそうです。今年1月、産経ニュースに次の記事が掲載されています。

中国、ずさん目録で申請 「南京大虐殺文書」 ユネスコ審査も1委員だけ…(2016.1.10 05:00付 産経ニュースより)

これによると、世界記憶遺産登録の際に中国がユネスコに提出したのは、「資料の一覧と、資料を保管する7カ所の公文書館名を記しただけの目録」であり、これに加えて中国側が「南京大虐殺の証拠」としてユネスコに提出している資料の多くは「日本人学者らの調査によって否定されている」代物なのだそうです。この報道が事実なら、このようなものが「世界遺産登録の証拠」として通用してしまう点に、確かにユネスコのガバナンスの大きな問題点に違いありません。

支払い留保は妥当か?

最近、日本政府の外務省の外交ぶりには何かと情けない思いをし、また、腹が立つことも多かったため、ユネスコの分担金支払いを留保しているというニュースに接し、私自身も日本国民の一人の感情としては、非常にすっきりしているのも事実です。ただし、分担金の支払いの留保が長期化すれば、財源不足額を、何らかの形で中国などが負担すると表明するなどして、結果的に「裏目に出る」というリスクもあります。さらに、分担金の未納状態が2年間続けば、ユネスコに対する総会議決権を失う可能性もあります。

それでは、今回の日本政府の支払い留保措置は妥当なのでしょうか?

結論的に言えば、「勝算がある」のならば、国際組織への分担金支払いを中断するというのも一つの選択肢として有効です。ただし、それは「日本政府にそれなりの勝算があるならば」、という条件が付きます。また、支払ってしまった方が後々好都合になる、という事例もあります。日本政府は昨年冬の「慰安婦合意」に従い、今年8月に、韓国が設立した「慰安婦財団」にさっさと10億円を払い込んでしまいましたが、これによって日本側の義務は完全に履行が終了し、慰安婦問題は完全に韓国の「国内問題」となりました。つまり、支払いを留保するのが良いか、さっさと支払うのが良いのかについては、「外交目的が明確」になっていて、「どのような方法でそれを達成することができるか」について、「明確な勝算」があるかどうかにより判断が変わってくるはずです。

本当の意味は「日本外交の脱皮」

しかし、本当に重要なことは、日本政府が「状況に応じて支払いを留保する」という、当たり前すぎる「外交テクニック」を、今更になって実行した、という点にあります。今回の支払い留保措置が本当に妥当なのかどうかについては、今後のユネスコや日本政府の行動を見てみないことには判断できませんが、「気に入らないことがあったら日本も分担金の支払いを停止することがあり得る」、ということを、国際社会に見せつけたことは素直に評価して良いでしょう。

このことは、国連だって例外ではありませんし、日本からODAや円借款の供与を受ける発展途上国だって例外ではありません。調べてみると、中国が申請した世界記憶遺産の登録は、あまりにも理不尽であり、第三国からみても日本に理があることは明らかです。

もちろん、国際合意に従って、払うべきものをきちんと払うという姿勢はとても重要です。ただし、日本政府の外交については、これまで随分と日本の国益を損ねて来たことも事実です。その意味で今回の措置は、「日本としてどうしても納得ができないことがあれば、日本は支払いを留保することがあり得る」ということを世界に示したという意味では、これは「日本外交の脱皮」であり、私としては素直に歓迎したいと思います。

そして、安倍外交の「脱皮」を示す象徴的な事件は、もう一つあります。

慰安婦問題はどうなった?

日本政府が「律儀に国際合意を守る国」である証拠はいくつかありますが、その最たるものが、昨年の「慰安婦問題を巡る日韓合意」です。

慰安婦問題のその後

従軍慰安婦問題とは、「日本軍が戦時中、朝鮮半島で少女20万人を強制連行し、戦場で性的奴隷にした」とされる問題であり、事実であれば人道の罪に反する許されない問題です。しかし、不思議なことに「強制連行された」という第一次的な証拠が、自称「元慰安婦」らによる証言以外に存在せず、むしろ「強制連行の事実はなかった」ことを裏付ける証拠の方がたくさん存在します。たとえば日本政府は「軍や官憲によるいわゆる『強制連行』の事実は確認できなかった」としていますし、米国政府も3000万ドルの費用と7年もの歳月をかけて作成したいわゆる「IWG報告」の中で、日本軍が「少女20万人を朝鮮半島から強制連行した証拠」は1件も見つかりませんでした。

大騒ぎされている割に、きちんとした証拠が一件も見つからない理由は、要するに、慰安婦問題自体がでっち上げの代物だからです。従軍慰安婦問題とは、自称「文筆家」の吉田清治(故人)がでっち上げた証言に基づき、朝日新聞社と同社元記者である植村隆が問題を捏造し、さらに韓国国民と韓国政府がこれに乗っかる形で世界中に拡散させたものであって、「性奴隷犯罪」といういわれもなき不名誉を日本人がなすりつけられたのです。そして、朝日新聞は2014年8月に、この問題が「誤報である」とする記事を掲載したものの、残念ながら朝日新聞社は「慰安婦問題は朝日新聞と植村隆が捏造した虚偽である」という事実を公式に認めてもいませんし、また、英語版などでは訂正記事を全く配信していません。このため、「従軍慰安婦問題は事実だ」とする捏造の方が、世界中で拡散され続けているのです。

ところで、日韓両国政府は昨年12月に、唐突な「慰安婦合意」を行いました。おそらく、背景には米国からの強い圧力があったものと見られますが、これは韓国が設立する財団に対し、日本政府が10億円の資金を拠出することなどをもって、慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決する」と日韓両国政府が宣言したものです。

もちろん、韓国では日本大使館前の公道上に設置された慰安婦像などの撤去も行われておらず、かつ、「日本軍による慰安婦の強制連行」という「大嘘」が、主に韓国人の手によって現在進行形で世界中にばら撒かれています。冒頭のユネスコ記憶遺産登録の件も、これと同じ文脈で把握すべきでしょう。

やっぱり来た、合意違反

しかし、韓国政府「慰安婦基金」の設立を終えると、日本政府は韓国が大使館前の慰安婦像の撤去すら行ってもいないにも関わらず、速やかに10億円の拠出を終えてしまいました。世の中のウェブサイトを眺めていると、論調が過激な一部の保守的ウェブサイトを含め、この慰安婦基金10億円の拠出についても留保すべきだとの意見が大半を占めていたように記憶しています。ただ、「払うべきものはさっさと払ってしまう」という日本政府の措置は、今回についてはうまく行きました。というのも、(私自身も予想していた通りですが、)韓国側から合意を蒸し返して来たからです。これについて、時系列で事実関係を確認しておきましょう(図表)。

図表 韓国側による合意違反
日付出来事
9月29日韓国側韓国外交部の報道官が定例ブリーフィングで日本に対し、安倍晋三総理大臣の「謝罪の手紙」などを含めた「追加的かつ感性的な措置」を取るよう求める
10月3日日本側安倍晋三総理大臣が衆議院予算委員会の答弁で、「手紙を出すことは毛頭考えていない」と否定
10月13日韓国側韓国の尹炳世(いん・へいせい)外交部長官は韓国国会で、安倍総理の「毛頭考えていない」発言により韓国国民は「深く傷ついた」と発言した

(なお、出所については、たとえば次のような記事を参考にしています。)

これについては日本側のメディアでも、「親韓派」を中心に、「安倍(総理大臣)は傷ついた元慰安婦の皆様に、手紙ひとつ添えることもできないのか!」といった批判が発生しているようですが、重要なことは、それを行うことの「政治的意味」です。

韓国では外国に対し、「ほんの少しオマケをしてもらう」という行為が常套手段化していますが、それを日本に対して求めてきているだけの話です。しかし、「ほんの少しのオマケ」が、ダムの一穴のごとく、やがては日本の国益を大きく損なうことになりかねません。だいいち、慰安婦問題自体が、歴代日本政府・外務省の無為無策により、あたかも事実であるかのように世界から認識されているということについて、日本政府は反省しなければなりません。

清々しいまでに頓珍漢な社説

慰安婦問題を巡っては議論が尽きないところですが、これに関連し、久しぶりに、頓珍漢極まりない記事を発見しました。慰安婦問題を捏造した朝日新聞社を含め、ここまで論点がズレまくっている社説は、却って「清々しい」といえるかもしれません。

「最終的決着」へ課題多く 日韓政府の足並みそろわず(2016年10月15日00時00分付 西日本新聞より)

著作権の都合もあるので文章の引用ができませんが、私自身の文責で内容を箇条書きにして要約しておきますと、だいたい次のような主張内容です。

  • 韓国で元慰安婦らへの現金支給が始まるが、17人の元慰安婦には態度を硬化させている者もおり、両国政府の足並みはそろわず、「見切り発車」の印象もぬぐえない
  • 支援を受ける元慰安婦らの間でも「心に届くような安倍首相の言葉が聞きたい」との要望が相次いでいるという
  • 日本は日韓合意に基づき10億円を拠出した時点で責任を果たしたとの立場だが、韓国では「合意の負担は韓国の方が大きい」との評価が一般的だ
  • 今後も合意に徹底抗戦する元慰安婦らの説得や日本大使館前の慰安婦像撤去など、困難な課題が待ち受ける
  • 韓国の最大野党は慰安婦合意の無効を主張しており、韓国政府では「逆風」の中での最終決着に向けて、日本側の自主的な追加措置への期待が高まっている
  • 慰安婦問題に詳しい韓国の大学教授は「日本が誠実な態度を見せれば、韓国の世論も変わるはずだ」と指摘する

…。まるで韓国人が執筆したような社説ですね。呆れて物も言えないという気分になってしまいますが、ここでは大きく2点、この社説の問題点を指摘していきたいと思います。

まず、「両国政府の足並みがそろわず見切り発車」とのことですが、その「見切り発車」を決断したのは、韓国政府側の責任であり、日本政府側の責任ではありません。また、日韓合意に対し、一部の元慰安婦らは強硬に抵抗しているのだそうですが、彼らを説得する責任があるのも韓国政府であり、日本政府ではありません。さらに、日本大使館前の慰安婦像撤去は、全面的に韓国政府の責任であり、日本政府の責任ではありません。つまり、「慰安婦問題の韓国内での解決は困難」だという点は事実ですが、その責任は全面的に韓国側にあり、日本側には一切、責任がありません。そして、別に日韓両国政府がこの問題を巡って「足並みをそろえる」必要など、一切ありません。この点を、この西日本新聞は無視しています。

もう一つの誤りは、「日本が誠実な態度を見せれば」、韓国の世論も軟化する、といった主張です。実は、この「日本が誠実な態度を見せれば」、という主張も、韓国の「常套手段」であり、今まで日本が何回も何回も騙されてきたものです。私に言わせれば、昨年の慰安婦合意自体、日本が「最大限、韓国に対して誠意を示した」ものであり、これで韓国が「まだ足りない」、と言ってくること自体が既に信義則違反です。

私はこれまでも、韓国側から合意の蒸し返しが提起されるのも「時間の問題」だと思っていましたが、実際に自称「元慰安婦」らに現金を支給する時になって、韓国政府が「自国民を納得させることができない」として日本政府に泣きついてくるのも全く想定通りでした。そして、私が一番恐れていたのは、日本の外務省あたりから、「手紙くらいなら書いてあげても良いか」などと、勝手な「対韓配慮」をする意見が出ることでしたが、これについては安倍総理が直ちに「毛頭ない」と断言したことは、非常に適切でした。とりあえずは安心して良さそうです。ただし、「日本が誠意を見せれば韓国の世論も変わる」といった負の連鎖を断ち切ることができるかどうかは、今後の安倍政権の外交にかかっています。

昨年の「慰安婦合意」でいったん、国民は安倍政権に失望していますが、それでも「合意した内容はこれだけであり、これ以上の譲歩は絶対にしない」という姿勢を堅持したことについては、強く支持したいと思います。私は、安倍政権がこれまでの日本外交のような失態を繰り返さないことで、日本の外交が「日本の国益」という「当たり前のことを追求する外交」に脱皮することを、切に期待しているのです。

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