違法テント撤去、経産省の労をねぎらいたい

今週日曜日に経済産業省の敷地内にある公共用地を占拠していた「脱原発テント」が撤去されました。「脱原発」も政治的な主張の一つであることは間違いありませんが、「政治活動の自由」があるからといって、「国民の財産である公共用地を違法に占拠」することが許されるはずなどありません。不法行為を働く市民団体を相手に、辛抱強く「訴訟」という手段を用いて適法に排除した経済産業省と担当官の労をねぎらうとともに、改めて「政治的主張の自由」の意味を考えてみたいと思います。

経産省前「脱原発テント」の撤去

2011年3月、東日本大震災の影響で福島第一原発事故が発生しました。「安全」だったはずの日本の原発で事故が発生したことで、国民の間では、原発に対する強い不安が存在していることは間違いありません。

こうした中、経済産業省の敷地内で「市民グループ」が運営していた「原発反対テント」が強制撤去されました。

「脱原発テント」を強制撤去=未明に着手、経産省敷地内-東京地裁(2016年08月21日 10時20分付 日刊アメーバニュースより=時事通信配信)

これについて論評する前に、まず、事実関係をまとめておきましょう。

図表 「脱原発テント」を巡る時系列
時点出来事
2011年9月11日経済産業省敷地内の公共用地に「脱原発テント」が設置される
2011年12月30日「脱原発テント」に持ち込まれた発電機が火元とみられる火災が発生
2013年3月29日経済産業省が「脱原発テント」の撤去と公共用地の明け渡しに加え、「土地使用料相当損害金」として1,100万円あまりの納付を求める訴訟を東京地裁に提訴
2015年2月26日東京地裁が「脱原発テント」について、「表現の自由という側面はある」としつつも、経済産業省側の訴えを認め、テント代表者ら2人にテントの撤去や使用料の納付を命じた。なお、金額は約1,140万円に加え、占有禁止仮処分(2013年3月)以降、1日当たり約2.2万円
2015年10月26日東京高裁、テントの撤去や土地の使用料の使用料の支払いを命じた一審判決を支持し、テント代表者らの控訴を棄却
2016年7月28日最高裁第一小法廷、テント代表者らの上告棄却、判決が確定
2016年8月21日東京地裁の執行官がテントや看板などの一式を撤去

2011年3月に東日本大震災が発生してから約5年半、テントが設置されてから撤去されるまでの期間は約5年です。テントを設置していた団体が運営していると思われるウェブサイトによれば、

「テントは形をかえて存続する、それは脱原発―再稼働反対の意志だから。」

とされており、まだまだ「脱原発」の闘争は続く、ということだそうです。

「脱原発」は主張としては結構だが…

私自身、原発は資源のない日本が効率良く電力を得る手段として有効だと考えていますが、それと同時に、原発を稼働すればするほど「核のゴミ」が出現することを忘れてはなりません。つまり、これは現代社会の「負の側面」の一つです。そして、人類は必ずしも原子力とうまく共存していけるのか、私自身にも確証が持てないのも事実です。したがって、「脱原子力社会」を唱えること自体については、一つの政治的主張として、「表現の自由」の範囲内にあるものだと思います。

しかし、「『脱原発』を唱えることが政治的主張の自由として認められる」からといって、他人の土地を不法占拠することが許されるはずなどありません。さらに、経産省側の弁論を読むと、経産省側はあくまでも「土地を不法占拠していること」を問題視しており、「政治的パフォーマンス」としてのデモ活動・示威行為を一切認めない、などと言っているわけではありません。もちろん、経産省も「日本政府」という「政治権力」の一端を担う組織の一つであり、行政を通じてその権限を適正に行使することが求められていることは間違いありませんが、私自身が読む限りにおいて、経産省側が「表現の自由」を「不当に」制限しているとは認められません。

いずれにせよ、私は、この厄介な市民団体を相手に、辛抱強く「訴訟」という手段を用いて適法に排除した経済産業省と担当官の労をねぎらいたいと思います。

「市民団体」の自己矛盾

今回のテント撤去に際し、市民団体側は、テント設置からちょうど5周年にあたる9月11日に、「経産省を包囲するヒューマンチェーン」を開催するそうです。

脱原発9.11怒りのフェスティバル~設立5周年~

2016年9月11日(日)
主催:経産省前テントひろば
会場:経済産業省周囲一帯
経産省本館正門前周辺
経産省別館資源エネルギー庁前周辺
15:00 歌・音楽演奏
17:00 かんしょ踊り
17:30 スピーチ(各界より)
経産省周囲一帯
18:45 経産省包囲ヒューマンェーン・1回目
18:55 経産省包囲ヒューマンェーン・2回目
19:00 主催者あいさつ(経産省前テントひろば)

(出所)「テント日誌8月21日(日)」

いわば、「歌あり踊りあり」の「楽しいお祭り」(※主催者側の主張)だそうですが、果たしてこのような主張は正しいのでしょうか?

まず、真っ先に考えなければならないことがあります。それは、経済産業省の敷地は「国有地」、つまり「国民の財産」である、という点です。「国民の財産」である「国有地」を、特定の政治的主張を持つ団体が不法に占有し、一方的に自分たちの主張を唱えることが、「公共の福祉」に合致するとでも言いたいのでしょうか?私はそうは考えません。原発に反対の立場の人もいれば、賛成の立場の人もいます。様々な意見がある中で、特定の意見を持っている集団が、許可を得ていないのに国有地を占拠することが、「公共の福祉」に合致するはずなどありません。もちろん、政治的主張も、日本国憲法にいう「表現の自由」により守られるべき行為ですが、法で守られるならば、主張する側も次のような法律や条例を、きちんと守るべきでしょう。

  • 民法(物権法)
  • 道路交通法
  • 東京都迷惑防止条例

つまり、私がこの手の「市民団体」の活動を見ていて、一番強く感じるのは、自分たちは「憲法第9条を守れ!」などと主張しておきながら、その自分たちが「日本国憲法」の体系の下にある様々な法律を破っている、という点です。政治的自由を主張するのは結構ですが、まずは自分たちがルールを破っている現状を改めるべきでしょう。

政治的主張はどうすれば良いのか?

もちろん、自分たちの主張を多くの人々に伝えるためには、街頭での演説・デモ活動が効率的な場合もあるでしょう。しかし、合法的にこれらの活動を行うためには、警察・治安当局にデモの許可を申請するなどしなければなりませんし、自分たちの主張に合致する人々が集まる保障などありません。こうした中、現代社会ではもっと効率的な手段があります。それがインターネットです。

反原発、憲法第9条擁護、反米軍基地といった主張をするのであれば、インターネットを通じて行うと良いのではないかと思います。経費はPC代と通信費、レンタルサーバ代などですが、有料のサーバを借りてもせいぜい年間数千円ですし、最近だと無料で借りられるサーバもあります。さらにアメブロやTwitterなどの無料ウェブサービスを活用すれば、サーバ代自体を抑えることができます。

そして、主張内容に多くの共感が寄せられれば読者も増えるでしょうし、そこから社会運動に発展するかもしれません。

私が見たところ、市民団体らは、こうした合法的な手続を一切すっ飛ばして、「自分たちは原発の被害者だから、権力者である国が相手であれば、何をしても許される」といった具合に、不当・不法な方法で権利を主張しているように思えます。せっかく政治的な主張を持っていたとしても、「歌と踊り」で大騒ぎするような集団が、国民から信頼されるはずなどありません。

民主主義は正当な方法で主張するのでなければ、理解も共感も得られない、という点を、くれぐれも忘れてはならないでしょう。

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