国民民主が年収の壁引き上げを改めて経済政策に反映へ

国民民主党が26日、両院議員総会で所得税の「年収の壁」を103万円から178万円に引き上げるなどを盛り込んだ新たな経済対策を決定したそうです。個人的に同党が昨年秋に掲げた経済政策のすべてを支持する気にはなれませんが、少なくとも「年収の壁178万円」は非常に良い政策であると考えている次第です。ただ、同党に対する中間評価は、まずは28日にも公表されるとみられる経済対策を見てから判断すべきかもしれません。

最近の当ウェブサイトは「減税専門サイト」なのか?

当ウェブサイトは開設してから今年7月で丸9年を迎えます。

ただ、「政治経済評論」などと標榜していながら、著者自身の関心などに応じ、時期によって話題が大きく偏ることが大きな欠点といえるかもしれません。

先日の『国民がネット使い深い議論を醸成する時代がやって来た』でも取り上げたとおり、時期によっては「韓国専門サイト」のようになったり、「コロナ専門サイト」のようになったり、あるいは「マスコミ専門サイト」のようになったりするからです。

最近だと、さしずめ「減税専門サイト」、「社保軽減専門サイト」の様相を呈しています。

ただ、それでも当ウェブサイトで一貫して取り上げ続けている話題のひとつが「金融、通貨から見た日本経済」という切り口による議論であり、これについてはわりとブレていないという自信はあるつもりです。

当ウェブサイトの議論で著者自身が注意しているのは、可能な限り、「客観的事実」、「統計的事実」、「法律的事実」などに基づいて、正しいプロセスで推論をすることであり、金融・経済はこうしたアプローチが非常になじむ分野でもあるのです。

国の借金論と減税反対派のデタラメな言い分

その典型例が、「国の借金論」を中心とする、おもに財務省が広めているものと思われる悪質な虚偽情報です。

客観的事実に基づけば、日本国民は税金や社会保険料を取られ過ぎていますが、著者の考えに基づけば、これはおもに「このままだと日本は財政破綻する」、といった不正確な見通しを財務省関係者やその協力者が広めてきたことで達成されてきたものです。

この点、当ウェブサイトなどで、あるいは著者自身がXなどで、「日本の勤労者は税や社保を取られ過ぎている」、「国債を大胆に発行し、それらの負担を軽減すべきだ」などと表明すると、たいていの場合、「減税反対派」らが妙な反論をしてくるのです。

たとえば、こんな具合です。

減税反対派などの言い分の例
  • その①「国の借金はGDPの2倍で財政再建が必要」
  • その②「日本は毎年度財政赤字で減税の余裕はない」
  • その③「基礎控除引上げには複雑な制度変更が必要」
  • その④「国の借金はいつか全額税金での返済が必要」
  • その⑤「国の借金を国民1人に換算すると一千万円」
  • その⑥「多くの著名財政学者が減税に反対している」

©新宿会計士の政治経済評論

そういえば、先日、当ウェブサイトには「減税より補助金の方が優れている」という趣旨の支離滅裂なコメントがわきましたが、これも「減税反対派」の言い分のひとつということなのかもしれません。

すでに反論し尽くされている

それはともかく、⑥に示した「偉い学者さんが減税に反対してるの!」といった言い分は、ちょっとレベルが低すぎて反論する気にすらなれませんが、それ以外の①~⑤に関しては、いずれも当ウェブサイトにて過去に何度となく議論してきている通り、理論的にはほぼ説明がついているのではないかと思う次第です。

その①「国の借金はGDPの2倍で財政再建が必要」

→『【総論】「国の借金」説は、どこがどう誤っているのか』等参照

3番目の外貨準備組入れ通貨…これのいったいどこが「信頼を失っている通貨」なのでしょうか?巷間で最近よく見かける「国の借金」プロパガンダは、たいていの場合、その冒頭から間違っています。というのも、そもそも「国の借金」などという概念は、存在しないからです。本稿では大事な「総論」として、この「国の借金」論のどこがどう不適切なのか、改めて詳細に論じてみたいと思います。そのうえで、私たち国民が有権者として懸命に振る舞うことが必要だ、という点についても、あわせて指摘しておきたいと思う次第です。プロローグ:...
【総論】「国の借金」説は、どこがどう誤っているのか - 新宿会計士の政治経済評論
その②「日本は毎年度財政赤字で減税の余裕はない」

→『財源論者に不都合な事実…来年度税収見通しは過去最高』等参照

最近、減税反対派は「減税派は財源を示していない」、とする主張に終始しているようです。減税に反対する理由がひとつひとつ論破されたためでしょうか。ただ、この「財源論者」にとって、またしても不都合な事実が出てきました。一般会計では毎年のように巨額の剰余金が計上されています(しかも毎年のように、公債の発行が中断されていながら、です)が、それだけではありません。先日の補正予算で2024年の税収見通しが上方修正されたばかりですが、報道等によると、27日にも閣議決定される来年の税収見積もりが70兆円台後半と過去最...
財源論者に不都合な事実…来年度税収見通しは過去最高 - 新宿会計士の政治経済評論
その③「基礎控除引上げには複雑な制度変更が必要」

→『否が応でもSNSと付き合わなければならない時代到来』等参照

兵庫県知事選はデマの勝利だったのか?「SNS上では事実に反するデマや誹謗中傷が拡散し、脅迫まがいの行為を撮影した映像が流れるなど、『無法地帯』と言って良い状況が続いた」。こんな主張が出てきました。兵庫県知事選で再選した斎藤元彦氏に投票した人が、まるでこれらの「デマや誹謗中傷、脅迫まがいの行為」を参考にしたかの言いぶりに見えてしまいますが、斎藤氏の陣営がデマや誹謗中傷、脅迫まがいの行為を行ったという事実は、ちょっと記憶にありません。Xアカウントのフォロワーが1.6万人間近ちょっとした報告があります...
否が応でもSNSと付き合わなければならない時代到来 - 新宿会計士の政治経済評論
その④「国の借金はいつか全額税金での返済が必要」

→『減税巡るショボすぎる自公案…国民に喧嘩売った財務省』等参照

例の「年収の壁」を巡って、自公側は現行の103万円を123万円に引き上げる、とする方針を固めた―――。こんな報道が相次いでいます。たとえば年収750万円のそうだと、国民民主党が主張する178万円と比べて、年間で下手をすると減税額が16万円以上減ってしまう計算です。これ、財務省(≒自民党税調)が国民に対して喧嘩を売ってしまったようなものではないでしょうか?自公が減税額を押し切る?自公は123万円で押し切りか:玉木氏は強い不満表明当ウェブサイトでも連日のように取り上げて来た「年収103万円の壁」を巡っては、国民民主党が1...
減税巡るショボすぎる自公案…国民に喧嘩売った財務省 - 新宿会計士の政治経済評論
その⑤「国の借金を国民1人に換算すると一千万円」

→『「SNSで財務省に誹謗中傷」自体が悪質なデマでは?』等参照

最近、「SNSで財務省に対する誹謗中傷が相次いでいる」、などとする主張が増えてきたように見受けられます。しかし、現実には、SNSなどネットで流れる批判にはきちんとした根拠が付されているものも多く、これらを「誹謗中傷」と決めつけるのは、さすがに乱暴ですし、それ自体が悪質なデマかもしれません。そして、財務省自身が長年、「財政破綻論」という虚偽の主張を繰り返し、新聞、テレビなどのオールドメディアがその主張に加担して来たわけですから、デマという意味ではSNSよりも官僚やオールドメディアの方でしょう。...
「SNSで財務省に誹謗中傷」自体が悪質なデマでは? - 新宿会計士の政治経済評論
わが国が減税を必要とする理由

【総論】我々は給料からどれだけ「引かれている」のか

年収の壁巡って自公が国民民主案に少しだけ歩み寄りか

いずれにせよ日本は現在、減税を必要としていますし、また、減税は可能です。

このことは、何度でも指摘していくつもりですし、可能ならば最新のデータを紹介がてら、その理論を展開していきたいと思う次第です(※もっとも、著者自身に業務上、当ウェブサイトを更新する時間的余裕があれば、の話ですが…)。

国民民主による減税効果

さて、こうしたなかで振り返っておきたいのが、国民民主党が掲げた「手取りを増やす」という、昨年秋の衆院選での公約です。

これは、現在は55万円の給与所得控除(最低保障額)と48万円の基礎控除(※地方税は43万円)の合計103万円の壁を、基礎控除を75万円引き上げることにより、一気に178万円に引き上げる、という構想で、これにより多くの人は手取りが10~20万円増えるとされています(図表1)。

図表1 国民民主党案による減税額
年収 手取りの変化 増加額・率
250万円 1,980,433円→2,093,721円 113,288円(5.72%)
500万円 3,847,111円→3,978,419円 131,308円(3.41%)
750万円 5,542,809円→5,766,313円 223,504円(4.03%)
1000万円 7,182,475円→7,410,625円 228,150円(3.18%)
1250万円 8,761,582円→9,012,704円 251,123円(2.87%)
1500万円 10,124,480円→10,452,178円 327,698円(3.24%)
1750万円 11,468,938円→11,796,636円 327,698円(2.86%)
2000万円 12,868,167円→13,195,865円 327,698円(2.55%)
2250万円 14,249,134円→14,595,094円 345,960円(2.43%)
2500万円 15,470,760円→15,852,060円 381,300円(2.46%)

(【注記】基礎控除を所得税、地方税ともに75万円ずつ引き上げた場合として試算。ただし、細かい試算の前提は本稿末尾参照)

自公による減税効果

これに対し、国民民主党との協議の中で自公両党が出してきたのは、給与所得控除の最低保障額を65万円に引き上げ、年収などに応じて基礎控除の額を細かく変動させるという、きわめて複雑に入り組んだものです(いわゆる「新たな4枚の壁」案、図表2)。

図表2 自公案による減税額
階層 基礎控除引上げ額 減税額
~年収200万円 95万円(+47万円) 23,994円
~年収475万円 88万円(+40万円) 20,420円
~年収665万円 68万円(+20万円) 20,420円
~年収850万円 63万円(+15万円) 30,630円
~所得695万円 58万円(+10万円) 23,483円
~所得900万円 58万円(+10万円) 33,693円
~所得2400万円 58万円(+10万円) 40,840円
~所得2450万円 42万円(+10万円) 40,840円
~所得2500万円 26万円(+10万円) 40,840円

(【出所】各種報道をもとに作成)

国民民主案だと年収500万円以下でも減税額が10万円を超えるケースもあり、また、高年収層は30万円から40万円近い減税となるケースもあるなど、減税効果は強力ですが、自公案だと減税効果はどの所得階層でも年数万円レベルであり、しかも年収により、減税額が増えたり減ったりします。

これを考えた人たち、素直に頭が悪いとしか言いようがありません(財務官僚、あるいは宮沢洋一・自民党税調会長あたりがその筆頭でしょうか)。税は「公平・中立・簡素」を旨とすべしとされていますが、その原則を破りまくっているからです。

国民民主は新たな経済政策提案か

この流れで、少し気になる話題を取り上げておきます。

国民、参院選にらみ経済政策 手取り増へ「壁」178万円に

―――2025/03/26 18:05付 Yahoo!ニュースより【時事通信配信】

時事通信によると、国民民主党は26日、両院議員総会を開き、今夏の参院選に向けた新しい経済政策をまとめたそうです。

これによると「年収103万円の壁」について「所得税の課税最低ラインを178万円まで引き上げる」と明記したほか、「ガソリン税暫定税率を6月までに廃止する」なども盛り込まれているのだとか。

(※どうでもよいですが、「今夏の参院選対策」と言いながら、ガソリン暫定税率を6月末までに廃止すると述べている時点で、これを単純な選挙対策と見るべきなのかは微妙だとは思いますが。)

この点、あくまでも個人的な感想ですが、国民民主党の「手取りを増やす」は非常に良い政策だと思う反面、同党は、たとえば金融課税の強化などを含めた資産家層に対する増税を盛り込んだ公約も掲げているなど、そのすべてが国民から支持され得るものではないとも考えられます。

また、同党は消費税の時限的な税率引き下げも提唱していたはずですが、最近は「手取りを増やす」と「ガソリン減税」ばかりであり、消費減税について忘れられていないか、といった点に不安や不満を持つ人もいることは間違いないでしょう。

ただ、おかしな政策についてはSNSなどで批判が集まった際、玉木雄一郎代表(※当時は役職停止中)がこれを改めようとする姿勢を見せたこともありますし、その意味では、私たち国民はSNSなどを通じ、同党に積極的に声を届けていく価値はあるかもしれません。

(※もっとも、同党は現時点において衆院側では28議席しか持たず、第4勢力に留まっているため、同党の政策実現力は未知数ですが…。)

いずれにせよ、同党からの公式の発表は28日にもなされるはずですので、その内容(たとえば、再エネ賦課金の徴収停止など)次第で、同党に対する中間評価ができるかもしれませんので、続報を待ちたいと思う次第です。

試算の前提

最後に、本稿に示した実質負担率などの試算の前提を掲載しておきます。

【※試算の前提】
  • ①被用者は40歳以上で東京都内に居住し、東京都内の企業に勤務
  • ②給与所得以外に課税される所得はなく、月給は年収を単純に12で割った額でボーナスはないものとする
  • ③配偶者控除、扶養控除、ふるさと納税、生命保険料控除、配当控除、住宅ローン控除などは一切勘案しない
  • ④年収が約106万円以上である場合、厚年、健保、介護保険に加入するものとし、その場合は東京都内の政管健保の令和6年3月分以降の料率を使用するものとする(※ただし計算の都合上、「標準報酬」を使用していないため、端数処理などで現実の数値と合致しない可能性がある)
  • ⑤雇用保険の料率は1000分の6とし、便宜上、少しでも収入が発生したら自動的に雇用保険料が発生するものとする
  • ⑥「社保本人負担分」とは厚年、健保、介護保険、雇用保険の従業員負担分合計、「諸税」とは所得税、復興税、住民税の合計とし、住民税の均等割は5,000円(森林税含む)、住民税の所得割は10%とする
  • ⑦「社保雇用主負担分」とは厚年、健保、介護保険、雇用保険の雇用主負担分と「子ども・子育て拠出金」の合計とする
  • ⑧本来、住民税の所得割は前年の確定所得に基づき翌年6月以降に課税されるが、本稿では当年の所得に完全に連動するものとし、かつ、年初から課税されているものと仮定
新宿会計士:

View Comments (9)

  • 国民は参院選で泉房穂を立憲と共同で擁立とか諸手を挙げて応援できないとこあるからな〜。

  • >たとえば、再エネ賦課金の徴収停止など

    ぜひともお願いしたいですね。
    ・・・・・

    (以下、余談です)

    再エネ賦課金の疑問

    太陽光の新規稼働案件については、【一般小売単価>買取単価】であり、かつての逆ザヤは解消されたにもかかわらずの賦課単価増。(燃料費の関係?)

    *国の政策として普及推進されたのだから、国庫(税)で負担するのが筋。
    ・・・・・
    ついでに出力抑制の件

    代理抑制の計算過程で、
    オンライン設備の「実抑制時間」に対して、オフライン設備が「ほぼ終日抑制」として扱われる件。(電力会社の留保金が大きくなるのでは?)

    あとから出来た「きまり」で先行(オフライン設備設置)事業者に、出力抑制を強いる愚。(新制度への移行申請時に、「有無を言わさぬふうの同意?*」の経緯あり)

    ↑ニュアンスとしては、「制度の運用上、何らかの問題が生じたときに、ご協力いただけますか?」→【同意】ボタン・・的な感じですね。

    場当たり的な制度運営が、う~ん💩。

    • 再エネ賦課金は徴収停止どころか引き上げで検討に入ったみたいですよ。しかも太朗ちゃんは迷惑メール対策にメール税を徴収する案を出してますし。自民の頭の中は減税なんてどこふく風ではないでしょうか

  • バブル全盛の頃は財政黒字でした。
    理由は企業が、ガンガン借金して設備投資してたからです。
    何故借金すると黒字になるのか?
    それは、借金してお金を使うと世の中に出回るお金の総量が増えてお金の回転速度が速くなると収入が増えるからです。
    基本として、借金すればお金は増えて借金返すとお金は減ります。

    で、消費税10%だと 1000万円借りて投資をしても実質900万円の投資しかできません。
    そして回収に10年かけたなら、年利1%余分にかかります。
    そして、デフレ時に1%余分に金利を払うとすれば、損をする確率が高くなるので、おいそれと借金出来ないので 皆借金をせずに手元資金で投資します。

    そら、成長出来ませんわ。

  • 国民民主党が自民党政治あるいは戦後政治に終止符を打てるかどうかは、党内の旧民主党系左巻き議員からの圧力をどれだけ凌げるかにかかっていると思います。
    併せて、自民党の保守勢力の取り込みにも力を入れて頂きたいと思います。
    多分自民党は第2党まで落ちぶれないと変われないと思いますので。

    • 自民党は落ちぶれないと変われないは、その通りだと思います。
      ただ、その時の第一党がどこかによって日本の命運が決まるのが悲しいです。
      前回の総裁選が変われるチャンスやったのに。

  • まずは参議院の議席数を20以上にするのが目標のようです。20議席あれば予算を伴う議員立法が独自に出せるようになります。
    >国民民主党の政策実現力

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