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「円安倒産」や「人手不足倒産」は適切な用語なのか?

人手不足倒産だ、円安倒産だといった具合に、最近、不思議な単表現を見かけることが増えてきたように思えます。もちろん、経済学の世界にそんな言葉はありません。しかし、「賃上げやインフレ、円安で日本経済が傾いている」といった印象を作りたいためでしょうか、オールドメディアには日々、こうした日本経済悲観論のようなものが蔓延しているのです。ただし、ごく稀にこうした「日本経済悲観論」に反する記事が出てくると、オールドメディアに浸っている人々は困惑するのではないでしょうか。

人手不足・円安…定義がよくわからない「倒産」

「人手不足倒産」、「円安倒産」…。

なんだか最近、こんな不思議で奇妙な表現を見かけることが増えてきました。

これらの「なんとか倒産」を集計し、公表しているのは、おもに帝国データバンク(TDB)や東京商工リサーチ(TSR)などの信用情報調査会社です。パッと調べただけでも、「人手不足倒産」ないし「人手不足関連倒産」、「円安倒産」ないし「円安関連倒産」、といったレポートが見つかります。

人手不足倒産の動向調査(2023年)

―――2024/01/12付 帝国データバンクHPより

2023年「人手不足」関連倒産の状況

―――2024/01/15付 東京商工リサーチHPより

「円安倒産」動向調査(2022年10月)

―――2022/11/09付 帝国データバンクHPより

~ 【12月速報】 「円安」関連倒産(12月29日現在) ~

―――2024/01/09付 東京商工リサーチHPより

この「人手不足倒産」や「円安倒産」、なんだか意味がよくわかりません。

実際、2023年を通じた人手不足倒産は、TDB調査だと260件、TSR調査だと158件で、調査結果はお互いに整合していません

いちおう関連するレポートを読むと、それぞれ「人手不足による倒産」、「円安による倒産」を意味しているのだそうですが、いったい両社はどうやってそれを判別・集計しているというのでしょうか?

倒産伝える官報に「人手不足」「円安」などと記載されるわけではない

さて、一般に「倒産」とは事業活動を続けることができなくなる状態を意味しますので、一口に「倒産」と言っても、法的な倒産(会社更生法、民事再生法の適用申請など)だけでなく、いわゆる私的整理なども広く含まれることになります。

また、裁判所に会社更生法や民事再生法などの適用を申請する場合は一定の場合に官報に掲載されるのですが、その際、「この会社の倒産原因は人手不足だ」、「この会社の倒産原因は円安だ」、などといちいち書かれるわけではありません。

(想像するに)あくまでも信用調査会社が「この会社の倒産の要因は人手不足だ」、「この会社の倒産の要因は円安だ」、などと、後付けで理屈を展開しているだけではないでしょうか。

いずれにせよ、定義がてんでバラバラである以上は、TDBとTSRの両社の発表内容に非常に大きな不整合があっても仕方がない話ですし、この手の資料を読む際には「そういうものだ」という前提を置くしかないのでしょう。

円安が日本経済に恩恵を与えているのは学問的には明らか

この点、いわゆる「人手不足倒産」や「円安倒産」が本当に発生している可能性がある、という点については、当ウェブサイトとしても否定することはしません。

とりわけ長引くデフレ環境下で「安く調達できる労働力をこき使ってやる」とばかりに労働集約的な経営が流行していたフシがありますが(※具体的な業界や社名などについては、敢えて名指ししません)、こうした企業にとっては、昨今のようなインフレ社会は望ましくないのかもしれません。

また、最近だと1ドル=150円を超えるような円安が常態化するようにもなりましたが、少なくとも1ドル=100円割れしていたような時代と比べれば、日本円の輸入購買力が低下していることは間違いなく、輸入産業を中心にコスト上昇圧力が生じているであろうことは、想像に難くないところです。

ただ、「人手不足(労働力不足)」は、裏を返していえば、「同じ労働の対価が上昇している」ことを意味します。このため、現役世代からすれば、同じ労働で得られる賃金水準が上昇することになります。

実際のところ、最近だと大企業だけでなく、中小企業やパートタイム労働者にも賃上げの波が及んでいますが(『速攻否定される「悪い賃上げ」論:パート等賃金も上昇』等参照)、労働市場にも市場メカニズムが働く以上、これは当然の話でもあります。

これに加えて先日の『「日銀は円安止めるために金融緩和やめよ」論の間違い』などでも指摘したとおり、円安は(あくまでも結果論ですが)総合的に見て、日本経済に間違いなく良い影響を与えます。

このあたり、一部の方は当ウェブサイトが「円安教」という宗教の総本山で、「円安を礼賛している」、などと主張しているようですが、残念ながら当ウェブサイトは「円安教」を信奉しているわけでも、円安を「礼賛」しているわけでもありません。

余談ですが、「資産超過・川上産業の競争力優位」という現在の日本の産業・経済構造に照らして、「円安は日本経済に良い影響も悪い影響も与えているが、総合的・中長期的に見れば良い影響の方が大きい」というのは、学問的知見から導かれる当然の結論でもあります。

逆に、「円安が日本経済に好ましくない」と主張されるならば、そのように主張するだけの論拠を呈示する義務があると思うのですが、いかがでしょうか。

(※なお、「円安歓迎論」も、①円安が長期化するかどうか、②人手不足が解消するかどうか、③電力不足がどうなるか、という少なくとも3点を十分に説明するものではありませんので、円安の効能を否定するのであれば、そういった視点から議論なされば良いのではないでしょうか?)

なぜそういう印象操作をするのか

さて、ここから先は著者自身の私見ですが、日本の新聞、テレビはやたらと「日本悲観論」が大好きで、口を開けばすぐに「悪い円安が~」、「悪い賃上げが~」、などと叫んでいる気がします。

また出た「悪い円安論」…どうしてTVは悲観的なのか』などでも紹介したとおり、たとえば「アメリカ産の牛肉を使っているステーキ店で、12年前と比べ、仕入値が3倍になった」だの、「ゴールデンウィークにハワイ旅行を計画している人が想定外の円安に悲鳴を上げている」だのといった主張など、その典型例でしょう。

くどいようですが、円安やインフレにも、良い面と悪い面があります。

日本のマスメディアが「人手不足倒産」だ、「円安倒産」だといった、経済事象の悪い側面にことさらに焦点を当てて、現在の日本経済が悪い方向に向かっているという印象を作り出そうとしているフシがある、という点は、感心しません。

「日本人がハワイに行くと物価高で悲鳴を上げそうになる」と報じるなら、多角的に、「円安で訪日外国人が増えてインバウンド産業が潤っているよ」、とする話題も取り上げるべきではないでしょうか。

(もっとも、『訪日外国人が史上初の三百万人台も…素直に喜べるのか』でも指摘したとおり、当ウェブサイトとしては現在の日本がインバウンド観光産業を半導体産業や金融業などに優先してまで振興すべきとは考えていないのですが、この点については本稿では割愛します。)

こうした印象操作に人々が慣れていくと、「円安や人手不足で倒産が相次いでいる」という印象操作から「日銀は円安を食い止めるために金利を上げろ」とするトンデモ論を支持する人も出てきますので、困ったものです。

「福井県の倒産件数が過去20年で最小」

もっとも、新聞、テレビが偏った視点で報じ続けているためでしょうか、ときどき、それに反する情報が出てくると、反応に困ることもあります。

企業倒産が過去20年間で最少 2023年度県内で31件 負債額は38億5100万円

―――2024/04/19 12:11付 Yahoo!ニュースより【福井テレビ配信】

福井テレビの記事によると、TSR福井市店が発表した2023年度の福井県内の倒産件数は前年比6件減って31件であり、2021年度と並び、過去20年で最低を記録したそうです。負債総額も2016年に次いで過去20年で2番目の低さだったのだとか。

このあたり、地域によっては倒産件数が増えているケースもあるため、日本全体で倒産件数が一律に減っているとは言い難いこともたしかです(とくにいわゆる「ゼロゼロ融資」関連の倒産が今後増えてくる可能性には注意が必要です)。

しかし、「円安倒産」だ、「人手不足倒産」だといった用語を作り出してまで、現在の日本経済が危機的状況にあるかのような印象操作を続けているメディアにとっては、ときどき出て来る「良い話題」は、できるだけ小さく取り上げる(か無視する)のが一種のセオリーのようになっているのかもしれません。

いずれにせよ、著者自身の見立てによれば、現代のような「オールドメディアとニューメディアの影響力が混ざり合った時代」はもうしばらく続きますし、オールドメディアのなかには露骨な経営難に陥る社も出て来るはずです。

そうなってきたら、以前の『【インチキ論説】日本の文化を守るため新聞に補助金を』などでも述べた、いわゆる「新聞補助金制度」などを言い出す社が出現するのかもしれない、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (21)

  • 日本の円高基調が一人の職業人の大半の期間を占める程の長期に亘って続いていたため、日本企業のビジネスモデルはその環境に適合しきってしまいました。
    このビジネスモデルが地方経済や地域社会など含む周辺ステークホルダーとのWin-Winもあればまだ良かったのですが、円高下で生き延びるのに必死な企業にはそんなこと考える余裕はありませんでした。
    そのような状況が一世代以上も続き、国内の産業サプライチェーンが空洞化して雇用を失い、多くの地域社会の経済活力が低下したと思っています。
    地方で生まれその地で働きたい人だけでも十分な働き口があるという社会に戻ってほしいものです。

  • >実際、2023年を通じた人手不足倒産は、TDB調査だと260件、TSR調査だと158件で

    わざわざ、標語を付けなくても、普通にこれくらいは倒産するでしょう。現実は常に変動しているのだから。むしろ、少ないな、という印象です。

    それよりも、人手不足は、経営側の固定観念の方が問題です。高齢者を一律に年齢制限を設けて雇わないのだから、それは、日本の年齢構成からすれば、人手不足になりますよね。
    70過ぎてもピンピン元気な人でも、年齢で切っちゃうんだから、愚かな事です。
    円安倒産と言うけれど、これだけの原材料費光熱費の上昇があって、この倒産数字ですから、中小企業は強いな、という印象の方が強いですね。

  •  「円高倒産」は実際にあったのに、当時のマスゴミは全くこう言う表現は使いませんでしたね。
     何故でしょうか(棒)。

    • ご指摘のとおりと感じます。

      当時の日本が悲鳴を上げた
      円高倒産、円高大量失業は
      まさに悪夢の民主党政権が
      半島とウッシッシをしたものなのに
      それを隠し立てするマスゴミ報道で溢れてました。

      見栄を張って通貨とスタボロ経済崩壊危機の
      韓国が奇跡の回復をしたのはあたりまえに
      彼らの力のわけがあるわけなく(笑)
      日本の韓流政党民主党と半島とのコラボで
      日本に不当に彼らの経済の暗部を支払わせたものだった
      と今では見透かされています。

      そして今またやはり
      見栄を張ってまたの崩壊が囁かれる韓流方面は、
      弱小派閥で総理の座にしがみつきたい
      岸田を引き込んで、
      柳の下の二匹目のドジョウを目指して、
      まさに悪夢の民主党政権再来を
      画策している・・・
      と推測される見立てがやはり本当なんだ
      との兆候をここかしこに見い出せる
      と感じています。

    • 人で余り倒産。っいうか、倒産したから人手が余ったのか。

      結局失業率や総給与が上がってるならどうでもいい話ですけど。

  • マスメディアによる"レッテル貼り倒産"が『報道』として認められるのであれば、
    オオヨソ『企業倒産』とは突き詰めれば『経営者がボンクラ無能馬鹿野郎だから』起きると云って差し支え無いので、『ボンクラ無能馬鹿野郎倒産』と報じるのが最も汎用性の高い"銘入り倒産"と云えるンちゃうけ? マスゴミはん??

  • 「倒産」というのは支払うべきものが支払えないこと。例えば手形が落とせない、借入金が返せないということ。
    赤字=倒産ではないし、人手不足、円安によるコスト増=倒産ということにはならない。

    • 倒産とは、直接的には、資金繰りが出来なくなって、手形が落とせなくなり、銀行取引きが出来ない、口座の金が使えなくなるときに、強制的に倒産と見做されます。
      困るのは、手形を出さないで、現金取引きで何時迄も支払わないのに、倒産しないこと。その場合、売った側は販売代金を回収出来ない、つまり、現金が入って来ないのに、売掛は収入となり、その利益分の税金を支払わねばならず、踏んだり蹴ったりになります。その時は、破産申立をしてでも倒産して貰わなければ困ります。

      >人手不足、円安によるコスト増=倒産

      人手不足は、人手がない為に売上が上げられないことで、円安は、仕入や経費のコスト増で、入りと出で、影響する所が異なります。
      一緒くたに見ていると、対応対策が適正に立てられなくなります。
      自分が変わるつもりがなくて、人手不足が悪い、円安が悪い、なんて言っていると、対応対策しようという気持ちは湧いて来ません。
      人手が足りなければ、余っている人手を使った商売に変えるとか、例えば、高齢者を雇う、その際に、高齢者の強みを活かすような形態を考えるとか。モスバーガーは、確か、高齢者雇用をしていて、それが、モスバーガーの高価格政策にマッチしているとかと聞いたことがあります。
      高価格=落ち着き・風格・品位、というイメージがあり、高齢者はこんな印象を受ける人が多い、というか、そういう人を雇えばいい訳で。
      長くなるのでここ迄としますが、ビジネスの世界では、チャンスはピンチの顔をして訪れる、とは、かなりの真実だと思います。

  • >以前の『【インチキ論説】日本の文化を守るため新聞に補助金を』などでも述べた

    誰かが新聞補助金を主張していたと記憶していてどうしても思い出せなかったんですが・・・こちらでしたか。ググっても出てこないはずです。失礼いたしました。
    記憶力が心配な今日この頃です・・・

  • >しかし、「円安倒産」だ、「人手不足倒産」だといった用語を作り出してまで、現在の日本経済が危機的状況にあるかのような印象操作を続けているメディアにとっては、ときどき出て来る「良い話題」は、できるだけ小さく取り上げる(か無視する)のが一種のセオリーのようになっているのかもしれません。

    「もうかりまっか」に「ぼちぼちでんな」と返す精神ですかね。

    • 人手不足倒産の動向調査(2023年度)
      2024/4/5
      https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p240403.html

      >人手不足倒産は「倍増」、過去最多の313件
      >~「2024年問題」に直面する建設/物流業が全体の4割超 ~

      の後に

      >従業員の退職や採用難、人件費高騰などに起因する「人手不足倒産」は、

      とあり、これがTDBの定義の様ですね。

      • ただ、従業員の退職や採用難は人手不足倒産と呼称する理由として納得出来ますが、人件費高騰が人手不足倒産と呼称する理由となるのが不思議です。

        • 身の丈に合わない、こなしきれない注文を受注して、

          人手不足で納期に間に合わず、

          多額の違約金を支払った結果として倒産しても、

          人手不足倒産と定義出来そうですね。

          • そう言えば、公職選挙法で「国政政党」と認められるには、国会議員が5人以上いるか、直近の衆議院選挙か参議院選挙で2%以上の票を獲得していることが要件となっていますが、社民党がどちらも満たせなくなって国政政党と認められなくなった場合は「何不足解党」と呼称される事になるのでしょうね。

      • 最低賃金しか払えず、「こんな安っすい給料でこんな大変な仕事やってられるかよ」と従業員にやめられ、求職者からも相手にされず、採用難→人手不足倒産という定義もあるんでしょう。

        • はい。

          でも、其の場合ってこなせる仕事量の中で仕事をし、売上から利益を確保する、って事で解決すれば良い訳で、それをしないのは成長し続ける事を自己目的化したからかな?と。

  • エルピーダなどの「円高倒産」は財務省や隣国の利益にそぐわないのでなかった事にされているのですよね。

    • 財務省は史上最高の税収にホクホクしているはずですが。してないのか?

  • >人手不足倒産だ、円安倒産だといった具合に、最近、不思議な単表現を見かけることが増えてきたように思えます。

    これらの倒産は、「買い手市場の退潮に則したリスクヘッジ」に至らなかった故のものですね。
    「デフレ依存(価格競争の他に訴求ポイントのない)の業態」が淘汰されただけのように思えます。

  • 円安倒産と言うのはおかしな表現だとは思います。円安倒産があるなら円高倒産もあるよねって話になりますが、こんな話をしたところでアホらしいって事になります。

    もちろん為替の影響で倒産って話はあるでしょう。しかし、それは為替変動に耐えられないほど企業の体力が落ちていたと言うだけです。問題は為替ではなく企業体力が落ちている事です。

    製造業、例えば日本の自動車産業は米国の規制に苦められてきました。例えば米国の排ガス規制とかその一つですが、向かい風に負ける事なく頑張って力をつけてきました。

    しかし、最近の製造業は円安に低金利と甘やかされたために、かえって競争力を落としているのではないでしょうか?

    円安は製造業のためになるのではなく、単に製造業の経営者を甘やかしているに過ぎません。人為的な低金利と金融緩和はそろそろ終わりにした方が良いかと思います。

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