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前澤氏の「提訴発言」に対しMeta側が声明文を公表

ZOZOの創業者としても知られる前澤友作氏がFacebookやInstagramを運営するMeta社を提訴する意向を示したからでしょうか、Meta社側は16日、自社の広告審査体制に関する声明を出しました。ただ、この声明文を読んでも、FacebookやInstagramで詐欺アカウントが横行していることに関する釈明になっていません。

「成り上りカネ配り女社長」はどうなった?

先月の『旧ツイッターで猛威振るう「成りあがり金配り女社長」』では、X(旧ツイッター)で当時はびこっていた「貧乏から成り上り、いまでは会社を数社経営して気前よくカネを配る女社長」に関する話題を取り上げました。

知らぬうちに金融犯罪の片棒を担過がされることも!数年前に猛威を振るったのが、『リサニート城を買う』というスパム・ユーザーの存在です。これは大手ブログサービスに生息していて、次々と名前を変え、ほかのブログ・ユーザーにコメントを残していくという手法で、自身の詐欺的リンクにユーザーを誘導する、という手口で知られていた者です。その後、時代は変わり、X(旧ツイッター)では最近、「鬱で負債まみれだったけれども成り上り、資産が数十億円になった女社長」が大量に出現するようになりました。ただ、やっていることは...
旧ツイッターで猛威振るう「成りあがり金配り女社長」 - 新宿会計士の政治経済評論

くどいようですが、念のため警告しておきますと、この手の「おカネを配ります」系のアカウントから実際におカネが振り込まれてくる可能性は極めて低いです。稀におカネが振り込まれてくることもないわけではないのですが、それは多くの場合、金融詐欺に巻き込まれているときです。

まず、「このアカウントをフォローし、このツイートに『いいね』したうえでリツイートしてくれれば、もれなくX万円を差し上げます」、といったケースは、圧倒的多数が単なるフォロワー獲得狙いのアカウントです。実際にそのアカウントをフォローなどしたところで、あなたの口座におカネが入ってくる可能性はほとんどありません。

なぜ、彼らはこんなことをするのか――。

その理由は簡単で、フォロワーがたくさんついたアカウントは事実上、どうやら売買が可能だからです。

「ツイッター」(または「X」)「アカウント売買」などで検索すると、いくつかの仲介サイトっぽいものが見つかりますが、ケースによってはフォロワーが2000人程度のアカウントが10万円以上の価格で取引されていたりもするようです。

本当にそんな値段で売れるのだとしたら、「私をフォローしてくれたらおカネを配るよ」などとする虚偽の宣伝をすることでフォロワーを増やし、それを転売するなどすれば、そこそこ儲かるはずです(それがうまく行けば、ですが…)。

あなたは「振り込め詐欺」の共犯者に!

ただ、上記の「フォロワー獲得狙い」はまだかわいいもので、シャレになっていないのは、金融犯罪の片棒を担がされる可能性があることです。

なかにはごく稀に、「あなたにおカネを振り込むから口座を教えろ」というダイレクト・メッセージ(DM)が届くことがあり、このときにあなたが自身の口座を相手に教えたところ、いきなり100万円が振り込まれてくるのです。

その後、相手からあなたに対し、「10万円のつもりが100万円を振り込んでしまった」、「申し訳ないが90万円を現金で返してほしい」といわれ、90万円をATMで引き出したうえで、相手に指定された鉄道駅などに行き、そこで90万円の現金を相手に手渡すのです。

じつは、あなたに100万円を振り込んだのはその相手ではなく、「振り込め詐欺グループ」に騙された高齢者などの被害者で、あなたの銀行口座は詐欺に利用されたに過ぎません。

しかも、あなたは100万円のうちの90万円を引き出していますので、警察から見れば、「あなたが主犯で、振り込まれた100万円のうちの90万円をさっそく使い込んだ」ようなものです。

あなたは「この90万円は鉄道駅で振り込んだ本人に手渡した」と主張するかもしれませんが、相手の顔写真などが残っているわけでもないでしょうし、現金で手渡した以上、証拠はいっさい残っていません。あなたは詐欺容疑で起訴されて刑罰を受けるだけでなく、100万円を相手に弁償する羽目になるでしょう。

それでもよければ、是非ともこの手の「おカネ配り」系のアカウントをフォローしてみてください。

前澤友作氏がMeta社を提訴へ?

なお、あくまでも私見ですが、Xのアカウント売買はXの規約違反という可能性が濃厚ではないか、という気もしますが、このあたりはXとしても摘発に力を入れているらしく、現時点で確認すると、先日例を挙げた6つのアカウントのうち、5つはすでにアカウント自体が凍結されていました。

ただ、最近になってこの露骨な「成り上り女社長」は姿を消しつつあるようですが、SNSを通じた金融犯罪は、あとを絶ちません。

こうしたなかで、最近、個人的に気になっている話題があるとしたら、これかもしれません。

前沢友作氏が米Metaを提訴へ Facebookでなりすまし投資の詐欺広告放置 自民に規制強化要請

―――2024年04月11日 11時22分付 ITmedia NEWSより

ITメディアなどの報道によると、衣料品通販大手ZOZO創業者としても知られる前澤友作氏が10日、FacebookやInstagramを運営する米Meta社を訴える意向を明らかにしたとしています。

なぜこんな話になっているのかといえば、FacebookやInstagram上で最近、前澤氏などの著名人に成りすまし、投資などを呼び掛ける偽アカウントが数多く出現しているからなのだとか。

記事によれば前澤氏は同日、自民党デジタル社会推進本部などの合同勉強会に出席し、被害の実態を説明したうえで投資詐欺広告への規制強化を要求。会合後に記者団に対し、「プラットフォームへの規制は政府にしかできない」、「迅速にお願いしたい」とも述べたそうです。

ちなみに調べてみると、たしかにFacebookやInstagramなどでは、著名人に成りすましたアカウントが大量に涌いているようであり、たとえば『2ちゃんねる』創設者として知られる西村博之氏や『ザイム真理教』などの著者としても知られる森永卓郎氏、実業家の堀江貴文氏らの顔写真を使ったアカウントがいくらでも見つかります。

こうした偽アカウント、最近ではXでもチラホラ見かけるようですが(現実に複数名の著名人が「これは偽アカウントです」とする声明をX上でも出しています)、著者自身が見たところ、偽アカウントはFacebookやInstagramに非常に大量に出現しているようにも見受けられるのです。

Meta社側は声明を公表したが…

前澤氏がプラットフォーム運営者であるメタ社を提訴するというのも、ある意味では当然のことかもしれません。

こうした詐欺アカウントが放置されるだけで、彼ら著名人の名誉が毀損され続けますし、現実に前澤氏ら著名人は詐欺アカウントの被害者であるにも関わらず、詐欺被害に遭った者からすれば、前澤氏らを「逆恨み」するかもしれません。

ただ、この前澤氏の声明に対し、メタ社側は16日、こんな声明を出しました。

著名人になりすました詐欺広告に対する取り組みについて

―――2024年04月16日付 Metaウェブサイトより

全部で1200文字少々の、なにやらよくわからない文章ですが、敢えて要約すると、こんな具合です。

  • オンライン詐欺は社会全体の脅威である
  • Metaはプラットフォームの安全を守るため、2016年以降200億ドル以上を投資して来た
  • Metaのポリシーでは著名人の画像を利用するなどの詐欺的・欺瞞的な広告を禁じている
  • ただ、世界中の膨大な数の広告を審査することには課題も伴う
  • 詐欺手法は常に変化するため、Metaでは人力による審査と自動審査を組み合わせている
  • 審査チームには日本語や日本の文化的背景、ニュアンスを理解する人員を備えている

そのうえで、Meta社はこう述べます。

Metaは弊社のプラットフォーム上において詐欺を根絶するためのアクションをとり、また警察当局等とも連携しています。オンライン上の詐欺が今後も存在し続けるなかで、詐欺対策の進展には、産業界そして専門家や関連機関との連携による、社会全体でのアプローチが重要だと考えます。Metaとして、その中で役割を果たすべく注力する所存です。アプローチを進化させ、施行状況を改善し、専門家との対話を通じて弊社の手法がベストプラクティスを反映しているかを見直し、最新の傾向を把握することで新たな脅威に備えることができるよう、今後も取り組みを続けてまいります」。

…。

いったい何が言いたいのでしょうか、この声明文は。

敢えて乱暴に要約すれば、「いちおうポリシーは整備しているけど個々の広告がそれに合致しているかは審査し切れないから勘弁して」、と言っているようにしか見えません。

それに、「審査チームには日本語や日本の文化的背景、ニュアンスを理解する人員を備えている」とおっしゃいますが、現実問題として、FacebookやInstagramに大量の偽広告が発生しているわけですから、言い換えれば「審査チームは仕事をしてません」と宣言しているようなものではないでしょうか。

「金融庁、仕事しろ!」…そして、大切なことは?

正直、現時点での状況を見る限り、Meta社の広告審査体制には重篤な欠陥があると判断せざるを得ず、被害を受けた著名人から続々と提訴されるべきでしょうし、とくに金融犯罪に関しては、立法・政府レベルで今すぐ規制しなければなりません。

余談ですが、金融規制を管轄するバーゼル銀行監督委員会も、日本の金融庁も、環境だ、SDGsだといったトンチンカンなことをやっていないで、目の前の「SNSにおける金融犯罪の撲滅」という観点から、本来であれば直ちに動くべき事案です。

今回の事例も、金融庁を筆頭とする金融規制当局者らが、いかに仕事をしていない人たちであるか、という証拠なのかもしれません。

もっとも、金融犯罪の撲滅は金融庁や警察庁などの重要な役割でもありますが、私たち日本国民の側としても、認識の強化が必要です。正直、金融犯罪や詐欺は、昔からありましたし、騙される人もいました。この世に「楽をしてカネを儲けたい」と思う人がいる限り、金融犯罪がなくなることはないからです。

結局のところ、「アカウントをフォローするだけでおカネがもらえる」、「メルマガを購読するだけでおカネがもらえる」という「ウマい話」はあり得ない、という、ごく当たり前の事実をしっかりと認識していることが必要だ、という話ではないでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (4)

  • いまさらですが、とても勉強になりました。

    振り込め詐欺について関心無いし、自分が引っ掛かるとも思いませんが、他人に危険さを説明するには手口を解ってないと。

    しかしながら、なんでこうも
    「おいしい話」
    に引っ掛かる人が居てるのでしょうかね。

    釣り針には美味しそうなエビが付いてる、というだけの状況なのに。

    こういうのには市場原理は機能しにくいので、総務省に働きかけるのは正しいですね。
    それこそ、マイナンバーと紐付けするなりして、
    ・裏付けありのアカウント
    ・裏付け無しのアカウント
    が表示されるような仕組みを義務付けするとか。

    匿名での書き込みは有益なので、全面禁止する必要はないですけどね。

    • >>しかしながら、なんでこうも「おいしい話」に引っ掛かる人が居てるのでしょうかね。
      >>釣り針には美味しそうなエビが付いてる、というだけの状況なのに。

      事前に知識があるとないとでは「罠だと見破る」難易度が大違いなのでしょう。
      今でこそ私も「そんな甘い話はない」「お得な情報は自分で独占するに決まってる」
      「無から有は生まれないのだから、皆簡単に儲かるんだったらハイパーインフレ待ったなし」
      と考えるまでもなく分かりますが、子供の頃はさすがに分かりませんでした。

      「いい歳した大人なのにこんなのに引っ掛かるのか?」と言いたくなるのは自然ですが、
      「いい歳した大人なのにブラインドタッチもできないのか?」と同義かと。
      事前に学習していなければ、よほど頭が良くない限りは「分からない」。
      だからこの世からこの手の詐欺はなくならないのだと思います。

  • 資本主義社会の経済活動は、広告によって促進されますから、リアル、サイバー、とも広告は必要ですし、プラットフォームは広告がビジネスモデルの基本です。
    よって、その基盤を安全なものに保つことは、自らのビジネスの基盤を守ることでもあるんですが、それが分かっているのかいないのか?
    AIなんかは、こういうサイバー空間を安全に保つことに役立てるには、最適な技術だと思うのですが、その方向への研究に消極的なのは何故でしょう?

  • 大手の業者でも管理状態はこんなものです。ネットは有象無象の巣窟で信用おけないですね。と言ったところでマスコミが信用できるわけではないですが。どちらも金とか権力もかもつと多くが腐ってきますね。まあ、プラットホームの問題ではなく、中の人の問題何でしょうが。