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自称元徴用工問題で青山氏らのグループが政府に要望書

産経の報道によると、青山繁晴氏を中心とする「日本の尊厳と国益を護る会」は27日、林芳正官房長官に対し、自称元徴用工問題を巡り、「韓国政府に対し、日立造船への補償をするよう日本政府が要求すべきだと訴えた」、などとする「要望書」を提出したそうです。対応としては少々生ぬるい気がします。むしろもう少し踏み込んで、「この手の違法判決が出てこないよう、韓国に立法措置などを要求する」くらいのことをやらなければなりません。

自称元徴用工問題という「韓国による国際法違反」

主力メディアがあまり積極的に報じていない、しかし外交上は極めて重要な話題のひとつが、韓国による国際法違反です。

そのひとつが、自称元徴用工問題です。

これは「戦時中、日帝によって強制徴用された」などと自称する者(いわゆる自称元徴用工)らが日本企業を相手に謝罪や損害賠償などを求め、韓国の裁判所に訴えるなどしている問題のことで、今年1月時点までで合計4社、延べ12件の韓国大法院(※最高裁に相当)での敗訴が確定しています(図表)。

図表 自称元徴用工訴訟の被害企業一覧
時点 被害企業 訴訟件数
2018年10月30日 日本製鉄 1件
2018年11月29日 三菱重工業 2件
2023年12月21日 日本製鉄 1件
2023年12月21日 三菱重工業 1件
2023年12月28日 三菱重工業 2件
2023年12月28日 日立造船 1件
2024年1月11日 日本製鉄 1件
2024年1月25日 不二越 3件
合計 12件

(【出所】報道等。なお、2018年10月30日の被害企業については、当時の社名は「新日鐵住金」)

自称元徴用工問題を巡る、昨年3月のいわゆる「岸田ディール」を巡って、破綻しそうな動きが最近になっていくつも出て来ています。それが財源の枯渇問題や差し押さえられた供託金の没収問題でしょう。岸田首相によるディールも、見方を変えるならば、(意図しているかどうかは別として、)じつは却って韓国を窮地に追いやったものだったという見方もできるのです。自称元徴用工問題の現状自称元徴用工問題の呼称の由来「戦時中、日帝により強制徴用され、日本企業などで強制的に労働させられた被害者たちが最近、韓国内で起こした日本...
財団第三者弁済で韓国政府が窮地に?=自称徴用工問題 - 新宿会計士の政治経済評論

国際法違反状態を解消しなければ意味がない

これらの訴訟、そもそも「日帝による強制徴用の被害に遭った」などとする自称元徴用工側の証言も怪しいところですが、それだけではありません。

1965年に成立した日韓基本条約・日韓請求権協定のなかで、1945年8月15日までの請求権のいっさいが放棄されているにもかかわらず、韓国大法院判決はこうした条約に反する状況を作り出しているわけですから、韓国の「国家権力」(司法府)による国際法違反状態が作られてしまっているのです。

この点、韓国政府が昨年3月に打ち出した「解決策」では、韓国政府傘下の財団が日本政府の代わりに自称元徴用工らに賠償(第三者弁済)することが盛り込まれていますが、この「解決策」だと「国際法違反状態」の解決にはなっていません。

一連の判決自体が違法なものであるにも関わらず、この「解決策」では、判決のこうした違法状態を解決していません。

だいいち、「日本企業に代わって判決を履行する」と言っている時点で、本来ならば違法であるべきこの判決が、韓国国内では「合法」なものとして取り扱われてしまっているわけであり、そんなことは「まともな法治国家では」、許されるべき話ではありません。

それなのに『岸田ディールで垣間見える「キシダの実務能力」の低さ』などでも取り上げたとおり、岸田文雄首相はこの韓国政府の「解決策」を「日韓関係を正常な関係に戻すもの」として「評価する」、などと述べてしまったわけです。

少なくとも日韓関係に関していえば、菅義偉総理大臣、あるいは亡くなった安倍晋三総理大臣らの功績を、岸田首相は台無しにしてしまった格好です。

日立造船の資産没収で「フェーズが変わった日韓関係」

そして、この自称元徴用工問題を巡っては、2月20日をもってフェーズが大きく変わりました。

自称元徴用工が供託金引出し…日本政府の対韓制裁は?』でも速報的に取り上げたとおり、被害企業である日立造船が韓国の裁判所に供託していた資金が引き出され、自称元徴用工らの手に渡ってしまったからです。

日本政府はかなり以前から(遅くとも最初の自称元徴用工判決が出た直後の2018年10月頃から)「日本企業に不当な損害が発生したら」、何らかの対抗措置を講じると警告してきたはずです。

しかも、『数字で見ると日本が韓国への制裁をためらう理由はない』などでも指摘してきたとおり、少なくとも現在の日韓の経済関係に照らすならば、日本が韓国に対し、制裁をためらう理由などないはずです。

さしあたっては韓国に対する入国ビザ免除の取扱いの停止などの措置を講じることが必須であるとともに、韓国の国際法違反を理由とした経済制裁が発動できるよう、外為法第10条第1項の改正作業などを急ぐべきである、とするのは、当ウェブサイトを通じてこの数年間、主張してきたとおりです。

どうして日本政府は韓国に対し、何らかの対抗措置を講じようとしないのか――。

これについては、「ウクライナ戦争を含め、世界情勢が混迷を極めるなか、日本としても韓国との協力が必要だ」、などと寝言を述べる人もいますが、これは大きな誤りです。

当ウェブサイトでは何度か述べてきたとおり、あるいは拙著『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』でも指摘したとおり、そもそも「韓国に対して譲歩すれば問題が解決する」というほどに、外交は単純なものではないからです。

もちろん、ウクライナ情勢に加え、近時は台湾海峡での緊張関係も懸念材料ではありますが、だからといって、日本が韓国に「譲歩」したところで、こうした状況が好転するというものでは決してありません。

むしろ、日本が韓国に「譲歩」しようがしまいが、日韓関係が「悪化(?)」するときは悪化するのであり、「ウクライナ情勢」「台湾情勢」云々は、今回の日本政府による韓国への譲歩を正当化する理由にはいっさいならないのです。

青山繁晴氏らグループが政府に要望書

こうしたなかで、先日の『韓国への対抗措置は「議論」でなく「実行」に移す局面』では、対韓制裁論を巡る自民党内の「中途半端な議論」を取り上げたのですが、これに「続報」があったようです。

「日本政府は韓国に対抗意思を」 元徴用工訴訟で自民・青山繁晴氏らが林芳正官房長官に要請書

―――2024/3/27 13:01付 産経ニュースより

産経が報じた短い記事によれば、自民党内の「日本の尊厳と国益を守る会」の青山繁晴代表が27日、林芳正官房長官と国会内で面会し、日立造船の供託金が没収された件を巡り「日本政府に対抗意思を示すよう求める要請書」を手渡したのだそうです。

これは興味深いところではあります。

その「要望書」の内容について、青山繁晴氏のブログで確認しようとしたのですが、残念ながら、ここ数日のブログ記事にはその「要望書」に関する記載が見当たりませんが、産経によると次のような内容が記載されている模様です。

日本企業が受けた実害に対抗策を取らないことは、国際法違反の韓国最高裁判決を暗に認めることにつながる」。

つまり、対抗措置を講じないこと自体が(本来ならば国際法違反の)韓国の判決を認めることにつながる、という指摘であり、韓国に対して国際法違反状態を是正させるための措置が必要だ、ということでしょう。この点については表現は生ぬるいにせよ、当ウェブサイトでも指摘してきた内容とも整合しています。

そもそも無法国家と関係を深めるべきなのか

ただ、産経の記事によると、同要望書では「韓国政府に対し、日立造船への補償をするよう日本政府が要求すべきだと訴えた」、とありますが、これについては、対応としては少々、生ぬるい気がします。

むしろもう少し踏み込んで、「この手の違法判決が出てこないよう、韓国に立法措置などを要求する」くらいのことをやらなければなりません。

といっても、どうせ韓国では政権が変われば前政権時代の国際約束もすっかり反故にされますので、日本としては韓国に毅然と国際法の順守を求めるとともに、「韓国がなくても大丈夫な日本経済」の構築に努めていかねばなりません。

いずれにせよ、韓国では来月、国会議員総選挙が予定されています。

その結果次第では、もしかしたら日韓関係にも何らかの波乱が生じるかもしれません。

そして、政権次第で関係がガタガタするような、あるいは裁判所が公然と国際法違反判決を出すような無法国家とビジネス上の関係を深めていくということ自体、どうも危機意識が低い行動としか考えられません。

余談ですが、本邦金融機関にとって韓国はすでに対外与信全体の1%を割り込んでいます(『邦銀国際与信が再び5兆ドル突破』等参照)。

ノーテンキな日本政府と違って、少なくとも日本の金融機関のリスク感覚はシビアだと思うのですが、いかがでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (14)

  • 青山繁晴の【ぼくらの国会 第691回】で内容は言ってたと思います。

    • たしか、日立造船への賠償を要求した上で、韓国側が何もしないならホワイト国からの除外などの措置をとるという内容だったと思います。
      守る会としての総意として要望を出すというところにこぎつけたのですから、ヒゲよりははるかに仕事してますね。

  • >対抗措置を講じないこと自体が(本来ならば国際法違反の)韓国の判決を認めることにつながる
    と言うことは日韓で新たな合意が形成されたので、条約が改正されたことになる。
    と言うことになりますね。

  • 今の自民党総裁では韓国に対して意見を出すのがやっとと言うことなのでしょう。やれ公認停止やら引退勧告やらされかねないと

  • >といっても、どうせ韓国では政権が変われば前政権時代の国際約束もすっかり反故にされますので、日本としては韓国に毅然と国際法の順守を求めるとともに、「韓国がなくても大丈夫な日本経済」の構築に努めていかねばなりません。

    韓国に毅然と国際法の順守を求めるって言っても、実際のところ、散々痛めつけて「これ以上痛い目に遭いたくなかったら黙って従え」ってやるのが一番効果的なんですけどね。

    まともな人間ならそんな事やられなくても約束を守るもんなんですけどねぇ。。。

    • 嘆かわしい事に、「信用できない」「約束を簡単に破る」のは韓国だけじゃ
      ありませんからね。インドネシアは例の高速鉄道の件がありますし、
      中国だってロシアだって韓国より信用できる国か?と言うと……

      ただ、国際社会はある程度騙し騙されが基本なのかも知れません。
      中国は「アフリカに貸した金が全然返ってこない!?担保を取り上げる程度じゃ
      全然足りない!」と悲鳴を上げていると言う噂が……(真偽は分かりません)

      日本ももうちょっとずる賢くなればなあ……

  • 騙され上手な危地田氏の登場と因果関係は不明ですが
    今日の日本にも詐欺犯罪が増えているような気がします
    国際社会に中でルールを重んじる信頼される国家のために
    日本は誠実さを尊重すべきでしょう
    交渉相手に対しても約束や契約について
    厳格に対処していってほしいものでごんす

  • そもそも,尹政権は韓国では日本に阿っていると批判されている訳ですが,日立造船の供託金の差し押さえを認めた国際法違反の判決に対し何の対処もしようとしないのですから,日本としては例えば「日韓請求権協定に反する差し押さえがなされたので我が国は先日結んだ日韓スワップ協定を破棄する」と尹政権に引導を渡せば良いのです.

    そうすれば韓国の次の議会選挙では従北政党の共に民主党が圧勝し,尹政権はレームダックになり,次の大統領は共に民主党党首の李在明になり,次のアメリカ大統領が誰であろうと,韓国の大統領が極左で先日も台湾問題について従中意識丸出しの主張をした李在明ならば,アメリカも今度こそ韓国を切り捨て,西太平洋防衛に関しては現在の半島南部という大陸への橋頭保を前提としないかつてのアチソンラインに基づいた戦略に切り替え,今までのように韓国を米側に繋ぎ留めるために日本に対韓譲歩をさせ韓国の面倒を見ろと要求して来ることもなくなるでしょう.(その代わり,日本は質量共に現状よりもずっと高いレベルの軍備を求められるのは確実ですが.)

    韓国は中華思想や朱子学に基づく序列意識が極めて強く本質的に日米らのような西側とは思想的に馴染まない一方で李氏朝鮮時代に歴代の中華王朝にそうであったように現在でも中共には平気で阿っているのですから,韓国は西側にいるよりも中共の子分に戻るほうが韓国民の民族性からは自然で,本当の意味で彼らにとってそのほうが幸せになるでしょう.

    ですから韓国民が自らの選択(選挙での投票行動)として従北従中政党に議会の圧倒的多数を占めさせ極左大統領を選ばせることによって,韓国が西側から離脱して中共の傘下に戻らせてあげるための一押しを日本がかつての宗主国の最後の一仕事として果たしてあげれば良いのです.

    韓国は自らの意志に基づいて現代の中華王朝である中華共産党の属国に戻る,その決断のための一押しを日本がしてあげる,これで日韓共にハッピーになれます.

    • 失礼,21世紀のアチソンラインでは,台湾は西側による防衛範囲に含まれます.

      (元のアチソンラインのように台湾を捨てると,現在の人民解放軍海軍の戦力を考慮すれば,米軍が日本を西側に留めるために防衛することは恐らく不可能になるので,旧アチソンラインに従って台湾を放棄・失陥することは即ち日本・フィリピン・グアムを失うことになり,ハワイあるいは最悪の場合はサンフランシスコ沖まで米軍は撤退を迫られるからです)

  • 自分はまず、極東情勢というものにおいて、今回の(というか、これまでの)韓国の動きはマイナスしか無く、好転はあり得ないとみています。
    つまり、韓国に強硬な制裁を行うかどうかの結果予想は、ブログ主に対して以下のように違うと考えています。

    ・制裁を強硬な態度で行わない場合の予想結果
    日韓関係「悪化(小)」 極東情勢「悪化(小)」

    ・制裁を強硬な態度で行う場合の予想結果
    日韓関係「悪化(大)」 極東情勢「悪化(大)」

    正直、日韓関係だけで見れば、悪化の幅が小さかろうが大きかろうが割とどうでもいいです。
    この場合の悪化が、日韓関係が疎遠になるというもので、それを好転要素だと解釈する人もいるかも知れません。その解釈をおかしいとも思いません。
    ただし、それは「問題の解決」という意味での好転ではありません。疎遠になる事は問題の解決から遠のく事になり、解決には全く繋がりません。
    日本は、断固として「問題の解決を」して、受けた損害というマイナスを0に戻す必要があるのです。
    韓国なんて強く出れば、キャインキャイン鳴いて頭を下げてくると高をくくっている人もいるかも知れませんが、GSOMIA破棄騒動のように、嫌々頭を下げるギリギリ前まで駄々を捏ねます。そこを共産圏国家は煽る隙として見逃さないでしょう。
    そして、極東情勢の悪化を大きくしかねないというのは、見過ごせません。

    日韓の外交というのは、如何にして韓国から生じる問題をマイナスから0に近づけていくのかというものです。
    極東情勢の悪化影響を最小限に食い止めつつ、韓国から受けた損害をきっちりと0に戻すためにも、根気のいる長い外交が必要かと思われます。
    勘違いする人もいるかも知れないので言っておきますが、制裁をするなと言っているのではなく、成果のある制裁や外交的立ち回りをしろというのが、自分の主張です。
    更に言えば、強硬には見えない静かな制裁は、もう既に少しずつ動いていると見ています。

  • 青山某は何か実効性のあることを1つでもやった実績があるんですか?

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