先週の日銀の政策決定会合でゼロ金利政策が解除されるなどしたことを受け、予想通り、やっぱり出てきたのが、「利上げで国債費が膨張する」などとする主張です。共同通信は「(国債費が)これ以上増加すれば政策向けの経費を圧迫する」などとしつつ、「歳出構造の改革が急務だ」などと主張しています。従来、メディアが「財政再建が必要だ」などと主張していたのと比べると、ずいぶんと主張は後退しているようです。
目次
やっぱり出て来た!「利上げで国債費膨張」懸念
日本銀行が今月の政策決定会合でいわゆるマイナス金利政策とイールドカーブ・コントロール政策を解除したことを受けて、これから日本にも、本格的に金利上昇時代がやってくるのではないか、などと指摘され始めています。
こうしたなかで、やっぱり出てきたのが、こんな記事です。
日銀利上げで国債費膨張も 財政転換点、政策支障恐れ
―――2024/03/23 15:35付 Yahoo!ニュースより【共同通信配信】
共同通信は、「日銀が今後利上げを続ければ、国の借金に当たる国債の利払い費が膨らむ可能性がある」と指摘。
「借金の返済や利払いに充てる国債費は現状でも過去最大で、これ以上増加すれば、政策向けの経費を圧迫し、企業成長や国民生活を支援するための政府の取り組みに支障が出る恐れもある」としたうえで、「歳出構造の改革が急務だ」と述べています。
結論的にいえば、この記事、「だれか」が書かせたものなのでしょう。
というのも、この短い記事の中に、読者をミスリードする記述が山ほど含まれているからです。
その最たるものは、「国債は国の借金ではない」という事実です。
いつもの「前提条件」
議論の前提として、「いつもの図表」を取り上げておきましょう(図表1)。
図表1 日本の資金循環構造(2023年12月末時点)
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成。以下同じ)
そもそも論ですが、国債(国債、財投債、国庫短期証券)は中央政府や「財政融資資金」が発行している債券であり、これを返済する義務を負っているのはあくまでも中央政府や「財政融資資金」です。「国民」ではありません。
次に、わが国における国債の発行状況です。
『最新版:巨額の家計・年金資産と対外純資産抱える日本』でも触れたとおり、2023年12月末時点における国債の発行残高は時価ベースでざっと1240兆円といったところであり、これは日本の名目GDPと比べ、だいたい2倍あまりに相当します。
(※なお、図表1の説明だと、「中央政府」の国債発行残高は、国債988兆円、国庫短期証券141兆円をあわせても1129兆円となり、1240兆円に足りませんが、その理由は、93兆円分の財投債の発行主体は中央政府ではなく、「財政融資資金」だからです。)
日本国政府は豊富な資産を保有している
それはともかく、この『1240兆円』という数値だけを見ると、たしかに「国の借金はGDPの2倍以上」、などとする主張には、思わず騙されそうになります。
しかし、この広義の国債1240兆円については、「誰が何を裏付けに発行しているのか」、「発行した国債を誰が購入しているのか」という2点を無視し、金額だけで議論しても、あまり意味はありません。
まず、中央政府や財政融資資金が保有している巨額の金融資産を無視してはならないでしょう。たとえば財務省183兆円という巨額の外貨準備を管理していますし、財政融資資金も国債などでおカネを「借りる」一方、貸出金などの形でおカネを「貸す」側でもあるからです。
ちなみに中央政府が負っている金融負債は1239兆円であるのに対し、中央政府にはトータルして352兆円の金融資産がありますので、純債務は887兆円にまで圧縮されます。
また、現状、この1240兆円という金額が「危機的な状況」なのかといえば、それもまったく違います。
そもそも論ですが、日本国債はその8割超が国内の投資主体によって保有されてしまっているからです。
2023年12月末時点において、1240兆円の国債のうち47%に相当する584兆円は日銀が保有しているのですが、日銀はその国債購入資金を、金融機関などを相手にした日銀預け金などで賄っています。いわば、日銀は自身が発行した通貨を裏付けに国債を保有している、ということです。そして、日銀預け金の金額は2023年12月末時点で544兆円ですが、このうち505兆円が金融機関からの預け金です。
つまり、日銀は金融機関から505兆円を借りている、ということであり、逆に言えば金融機関が日銀に505兆円を貸している、ということです。このような状況は経済的に見て、財政ファイナンスとはいえません。日銀がちゃんとした資金的裏付けを伴って国債を保有しているからです。
資金的な裏付けが取れている
そして、国債の保有主体の側も、やはりチェックしておく必要があります。
その金融機関は家計や企業などから巨額の預金を受け入れていて、とくに家計部門は金融資産をトータルで2141兆円も保有しており(うち現金預金は1127兆円)、いわば、国全体として見た日本国債の発行残高は財政危機をもたらす状況ではない、と結論付けられます。
というよりも、日本全体では資金が余っているという状況が続いていることにも注意が必要であり、とくに2023年12月末時点において、日本の企業、政府などが海外に保有している対外資産(1499兆円)が海外部門が日本国内に保有している金融資産の金額(1016兆円)を484兆円上回っています。
ちなみにこの484兆円という金額、対外純資産の額としては過去最大です。
外国に対して保有している純資産額が過去最大であり、国も巨額の純資産を保有していることなどを踏まえると、どうして「国の借金」を絶対額でことさらに問題視するのか、意味がよくわかりません。
このあたり、たしかに一般人に向けては、「国の借金がGDPの2倍」というメッセージは大変わかりやすいものですし、インターネットがなかった時代だと、「だからこそ増税が必要だ」、という考え方に対し「そりゃそうだ」と勘違いする人も多かったのでしょう。
国債費という概念のインチキ
ただ、共同通信の記事には、ほかにもミスリーディングな記述が含まれています。
先ほどの非常に短い文章のなかに、こんなフレーズがあります。
「借金の返済や利払いに充てる国債費は現状でも過去最大」
これは、いったい何を意味しているのでしょうか。
じつは、予算にいう「国債費」の範囲がミソです。端的にいえば、ここにある種の「インチキ」が含まれているからです。というのも、国債費には国債の利払いに含め、元本の弁済も含まれてしまっているのです。
企業会計に詳しい方ならご存じだと思いますが、そもそも借金の返済は「費用」ではありません(ついでにいえば、新たにおカネを借りた収入も「収益」ではありません)。国の財政をわかりにくくしているのは、こうした通常だと費用にならない項目を「費用」だと言い張っていることにある点でしょう。
この点、国債費に「国債元本償還」を含めた場合は、たしかに「国債費」は過去最大かもしれませんが、長引く日本銀行の低金利政策の恩恵を受けるかたちで、「利払い費」自体は低位安定していることがわかります(図表2)。
図表2 利払費と金利の推移
(【出所】財務省)
そして、共同通信の記事において看過できないのが、名目と実質の違いを無視している点でしょう。
この点、たしかに利上げがなされれば、国債の金利負担は今後、増大していく可能性はあります。
しかし、経済社会全体で経済成長やインフレが進み、税収が過去最大を記録するなかで、日本経済全体が負担する国債元利金償還・利払については、決して大きな負担になるものとは限りません。
そもそも論ですが、日本のGDPが300兆円だったとしたら、公的債務残高が1200兆円ならば、公的債務残高はGDPの4倍という計算ですが、日本のGDPが600兆円に成長していれば、公的債務残高はGDPの2倍に過ぎなくなります。
さらにいえば、もしもGDPが1200兆円に成長すれば、公的債務残高GDP比率は1倍にまで低下することになります。
ここで年間の経済成長率が1%ならば、GDPが2倍になるまでに必要な期間は約70年ですが、成長率が2%ならばその期間は約半分の35年に、3%ならば23.4年に、4%なら17.7年に、そして5%ならば14年あまりに短縮されます。
それに、日本は人口が減少している社会ではありますが、人口減少でも経済成長を続けている国はいくらでもあります。経済成長率は人口成長率だけでなく、資本成長率や技術成長率にも依存するからです。
「歳出構造の改革が急務だ」、とは?
ちなみに、共同通信が記事で最も主張したいのは、こんな趣旨の記述でしょう。
「(国債費が)これ以上増加すれば、政策向けの経費を圧迫し、企業成長や国民生活を支援するための政府の取り組みに支障が出る恐れもある。歳出構造の改革が急務だ」(下線は当ウェブサイト側の加工)。
さすがにこのインターネット時代、「財政再建」「増税」だと秒でバレるため、メディアもこうやって「歳出構造の改革が急務だ」と主張するようになったようですね(笑)。
なにより株価も時価総額も名目GDPも対外純資産も過去最大となり、失業率も過去最低水準となったわけですから、11年余りのアベノミクス自体は(途中2度の消費増税を挟み、中途半端なものとなったとはいえ)総じて成功だったと評価して良いでしょう。
いずれにせよ、この手の「財政再建」系のプロパガンダが増えてくることは、個人的にはまったく想定の範囲内なわけですが、それ以上に財務省系のプロパガンダがなんとも中途半端なものとなっていることは、印象的だと思う次第です。
View Comments (8)
>歳出構造の改革が急務だ
先ずは複式簿記の導入からですね。
単式簿記を言い換えれば「おこづかい帳」のようなものなのかと・・。
資本取引と損益取引の区別なく出入りだけに着目してるんですものね。
*元本の借り換えは費用に非ずですね。
・・・・・
子(政府):おこづかい(税)を上げて下さい。
親(国民):なんのために?
子(政府):あなたに返済するために・・。
親(国民):・・。(お手伝いが先でしょ!!)
「だれか」のシナリオの通りですね。
この財政健全化原理主義のために、マスコミを使った黒田叩きから初めて、ようやく金利のある世界を達成して、歳出構造健全化に説得力を持たせたつもりなのでしょうね。
今回のマイナス金利解除について三橋貴明氏が以下の考察を発表してます。
“今年の6月に新たな骨太の方針が作られます。その時、金利がーと言いたいが為の解除”だと。
さもありなん。
おそらく、日銀としては解除のタイミングは早いと考えてたが、財務省から解除をせっつかれ “解除はするが金利は上げない”折衷案をとったのかも。
この新聞も財務省指示ののプロパガンダでしょう。
日本の民主主義が不完全なんで、財務省が跋扈できるのかも。
欲の皮をつっぱらせた新聞産業界が8%を飲ませたせいです
記事と関連して。
またサンモニ関口宏がおバカなことを言っている。
Yahooポータル、デイリースポーツより
>【サンモニ】関口宏「いっときアベノミクスと騒いでましたが机上の空論だった」安倍政権を厳しく総括「長期政権安定化が狙い」
中央政府の資産側にある「対外証券投資」145兆円。
これ外貨準備じゃない?
>「(国債費が)これ以上増加すれば、政策向けの経費を圧迫し、企業成長や国民生活を支援するための政府の取り組みに支障が出る恐れもある。歳出構造の改革が急務だ」(下線は当ウェブサイト側の加工)。
それができないから苦労してるんじゃないの?
自民党に提言です。
昨今巷を賑わせている数々の問題に逆転ホームランの施策を進言します。プロ中のプロの方々がよく言われていることですが、財務省解体、内閣府に歳入庁を新設、税と社会保険料を一体で所管、合わせて国税庁も内閣府に移管、これやったら支持率爆上がり、当代の首相は明治の元老のごとく末代まで語り継がれますよ。多分。
とりあえずガンバレ岸田‼️
期待は全然してへんけど。