自称元徴用工問題を巡り、韓国が一線を越えました。本来なら日本政府は今すぐ韓国に対抗措置を講じるべきです。ただ、本稿で改めて事実関係を整理しておくと、現状、日本が韓国に経済制裁を発動すること自体は困難です。しかし、それと同時に韓国は日本にとって、思ったほどは「重要な国」ではないこともまた事実です。日本の産業は韓国にほとんど依存していませんし、日本の金融機関の対韓与信額は対外与信全体の1%未満だからです。
目次
自称元徴用工問題を振り返る
自称元徴用工問題でフェーズが変わった
『自称元徴用工が供託金引出し…日本政府の対韓制裁は?』でも取り上げましたが、いわゆる自称元徴用工問題に関連して韓国で20日、日立造船の供託金が没収され、自称元徴用工側に支払われたようだ、とする趣旨の報道がありました。
繰り返しですが、あくまでも「この報道が事実なら」、また、「韓国政府がこの問題を放置するなら」、という前提条件がつきますが、韓国が一線を越えたことで、自称元徴用工問題はフェーズが明らかに変化してしまったことになります。日本企業から直接、自称元徴用工側に金銭の給付がなされてしまったからです。
まずは事実関係を振り返っておきましょう。
自称元徴用工判決はこれまでのところ、韓国の最高裁に相当する「大法院」で2018年10月30日の新日鐵住金(現在の日本製鉄)に対するモノを皮切りに、現時点までに合計12件下されている(図表1)ほか、地裁・高裁レベルでも多数の訴訟が係属している、などと報じられています。
図表1 自称元徴用工訴訟の被害企業一覧
時点 | 被害企業 | 訴訟件数 |
2018年10月30日 | 日本製鉄 | 1件 |
2018年11月29日 | 三菱重工業 | 2件 |
2023年12月21日 | 日本製鉄 | 1件 |
2023年12月21日 | 三菱重工業 | 1件 |
2023年12月28日 | 三菱重工業 | 2件 |
2023年12月28日 | 日立造船 | 1件 |
2024年1月11日 | 日本製鉄 | 1件 |
2024年1月25日 | 不二越 | 3件 |
(【出所】報道等。なお、2018年10月30日の被害企業については、当時の社名は「新日鐵住金」)
自称元徴用工問題を巡る、昨年3月のいわゆる「岸田ディール」を巡って、破綻しそうな動きが最近になっていくつも出て来ています。それが財源の枯渇問題や差し押さえられた供託金の没収問題でしょう。岸田首相によるディールも、見方を変えるならば、(意図しているかどうかは別として、)じつは却って韓国を窮地に追いやったものだったという見方もできるのです。自称元徴用工問題の現状自称元徴用工問題の呼称の由来「戦時中、日帝により強制徴用され、日本企業などで強制的に労働させられた被害者たちが最近、韓国内で起こした日本... 財団第三者弁済で韓国政府が窮地に?=自称徴用工問題 - 新宿会計士の政治経済評論 |
自称元徴用工問題は典型的な「二重の不法行為」問題
改めて指摘しますが、これらの自称元徴用工判決は、国際法に違反するうえに、「ありもしない罪状」をでっち上げて日本企業と日本国民を貶める、韓国による国家を挙げた捏造犯罪そのものです。これを、当ウェブサイトでは「二重の不法行為」と呼んでいます。
日韓諸懸案巡る韓国の「二重の不法行為」
- 韓国側が主張する「被害」の多くは、(おそらくは)韓国側によるウソ、捏造のたぐいのものであり、最終的には「ウソの罪をでっち上げて日本を貶めている」のと同じである
- 韓国側が日本に対して要求している「謝罪」「賠償」などには、多くの場合、法的根拠がなく、何らかの国際法違反・条約違反・約束違反を伴っている
(【出所】当ウェブサイト作成。詳細は『【総論】韓国の日本に対する「二重の不法行為」と責任』等参照)
実際のところ、この自称元徴用工問題に関する韓国の裁判は、めちゃくちゃです。まずもって、自称元徴用工側が本当に「被害者」だったのかという事実認定自体、物証なしになされているからです(『確たる証拠もなしに日本企業に敗訴判決を下す韓国司法』等参照)。
韓国では「戦時中、日本の官憲により強制動員させられ、日本企業で働かされた」とする自称元徴用工のウソを、裁判官自身も含めた国家単位で是認している格好であり、その時点ですでに韓国は法治国家とは呼べません。
また、百歩、いや、一億歩くらい譲って、「事実上の強制労働がなされた」とする主張が事実だったとしても、それを事実だと認定して日本企業に損害賠償を命じる判決自体が、そもそも違法です。終戦以前の日韓の請求権問題は、1965年の日韓請求権協定に基づき「完全かつ最終的に」解決しているからです。
つまり、先ほど掲げた12件の大法院判決を含め、韓国で日本企業に損害賠償を命じたすべての判決を取り消すなり、無効化するなりの措置を講じなければ、自称元徴用工問題は「解決した」とはいえないのです。
ここが、議論の出発点です。
いかなる方法で無効化するかは韓国の自由ですが(国会で自称元徴用工判決を無効化する立法措置を講じるなり、憲法を停止して判決に関わった裁判官をすべて逮捕・拘束するなり、それは韓国の好きなやり方を取れば良いと思います)、いずれにせよ、この違法判決問題を放置していて日韓正常化はありません。
そして、『岸田ディールで垣間見える「キシダの実務能力」の低さ』などでも指摘した、「韓国政府・尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権が昨年3月に打ち出してきた自称元徴用工問題の『解決策』は、大法院の違法な判決を無効化していないなどの点において、そもそもの解決になっていないものである」という点については、何度でも強調しておきたいと思います。
対韓経済制裁を考える
経済制裁には大きく7つの類型があり得る
さて、違法判決に基づく給付が実現してしまった以上、日本政府としては、韓国に対する何らかの対抗措置を講じる必要があります。
ここで「対抗措置」として、真っ先に思いつくのは、経済制裁措置でしょう。日本は平和憲法の枠組みがあるため、現時点において、韓国や北朝鮮、中国、ロシアなどの無法国家に対し、軍事力で制裁を加えるということは難しいからです(※余談ですが、その意味でも憲法改正は必要です)。
この経済制裁措置とは、「経済的手段を使って相手国に打撃を与えること」と定義することができますが、その態様により、基本的には「日本から相手国への」、「相手国から日本への」、「ヒト・モノ・カネ」の流れの制限、情報の流れの制限、と言った類型で、合計7つのパターンが考えられます。
経済制裁の7つのパターン
- ①わが国から相手国に対するヒトの流れの制限
- ②わが国から相手国に対するモノの流れの制限
- ③わが国から相手国に対するカネの流れの制限
- ④相手国からわが国に対するヒトの流れの制限
- ⑤相手国からわが国に対するモノの流れの制限
- ⑥相手国からわが国に対するカネの流れの制限
- ⑦情報の流れの制限
(【出所】拙著『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』等)
これらのうち、実際に適用しても制裁としてあまり意味がないもの(たとえば⑥)、現実にわが国の法制上、適用することが非常に難しいもの(たとえば①など)を除き、上記②~⑤や⑦の制裁が発動されるかどうかについて、まずは考慮する必要があります。
麻生総理も言及した韓国への対抗措置
この点、じつは以前の『麻生総理が「対韓金融制裁」に言及したことの意味』などでも取り上げたとおり、麻生太郎総理大臣(現・自民党副総裁)は故・安倍晋三総理大臣のもとで副総理兼財相を務めていたころから、しばしば韓国に対する制裁に言及しています。
これらの制裁としては、おもに入管法に基づく韓国人に対するビザ発給制限(上記④)のほか、外為法に基づく韓国に対する貿易・金融制裁、具体的には支払いの停止や資産凍結措置(上記③)、貿易制限措置(上記②)、さらには技術の移転制限(⑦)――、などが考えられます。
ただ、それと同時に『人権法制定より外為法10条1項改正を優先すべき理由』などでも繰り返し説明してきたとおり、現在の日本政府にとって、「相手国が日本に対して違法なことをしている」という理由で経済制裁を発動することは困難です。外為法などを読んでも、そのような規定が存在しないからです。
また、経済制裁のうち、②~⑤の各項目については、外為法や出入国管理法などに基づいて制裁を発動することもできるのですが、入管法の管轄である「④相手国民の日本への入国禁止措置」を除けば、それ以外の各項目は、だいたい外為法の管轄です。
もう少し詳しく述べると、外為法に基づく経済制裁(とくに上記②、③、⑤、⑥、⑦)を発動するためには、大きく(1)国連安保理制裁決議を履行する、(2)有志国の協調制裁に参加する、(3)外為法第10条第1項に基づく閣議決定をする、という3つのパターンが考えられます。
ただし、(1)や(2)を発動するためには、その相手国が国際社会から制裁を受けていることが必要であり、現在だと北朝鮮やイランなどがその典型例ですが、その反面、現在の韓国はこの要件を満たしません。
外為法第10条第1項の措置の内容とその限界
したがって、日本がもし、上記②、③、⑤、⑥、⑦のような経済制裁を発動するためには、「外為法第10条第1項に定める閣議決定」を行うことが、最も現実的です。
外為法第10条第1項
我が国の平和及び安全の維持のため特に必要があるときは、閣議において、対応措置(この項の規定による閣議決定に基づき主務大臣により行われる第16条第1項、第21条第1項、第23条第4項、第24条第1項、第25条第6項、第48条第3項及び第52条の規定による措置をいう。)を講ずべきことを決定することができる。
実際、この閣議決定で発動可能な制裁措置としては、図表2のとおり、日韓間のモノやカネ、あるいは(不完全ながら)情報の流れを止めてしまう、という、非常にパワフルなものが含まれています。
図表2 外為法第10条第1項の閣議決定で発動可能な7種類の経済制裁
外為法上の措置 | 概要 | 制限内容 |
第16条第1項措置 | 日本から外国への支払の制限 | ③日本から相手へのカネの流れ |
第21条第1項措置 | 日本と外国との資本取引の制限 | ③日本から相手へのカネの流れ |
第23条第4項措置 | 日本から外国への対外直接投資の制限 | ⑥相手から日本へのカネの流れ |
第24条第1項措置 | 特定資本取引の制限 | ②日本から相手へのモノの流れ |
第25条第6項措置 | 技術移転等の制限 | ⑦情報の流れ |
第48条第3項措置 | 輸出規制 | ②日本から相手へのモノの流れ |
第52条措置 | 輸入規制 | ⑤相手から日本へのモノの流れ |
(【出所】当ウェブサイト作成)
だからこそ、当ウェブサイトや拙著などを通じ、繰り返し、「今すぐ外為法第10条第1項を改正し、相手国が国際法違反行為を行った場合にも経済制裁を発動できるようにすべきだ」、と述べて来たのです。たとえば次の下線部のような具合に、です。
外為法第10条第1項改正私案(※下線部を付け加える)
我が国の平和及び安全の維持のため、国際法秩序の維持のため、我が国の利益を保護するため、その他これらに類するものとして政令で定める目的を達成するために特に必要があるときは、閣議において、対応措置(この項の規定による閣議決定に基づき主務大臣により行われる第16条第1項、第21条第1項、第23条第4項、第24条第1項、第25条第6項、第48条第3項及び第52条の規定による措置をいう。)を講ずべきことを決定することができる。
当ウェブサイトではこれを何年も言い続けて来たつもりですが、やはり当ウェブサイトのような弱小サイトだと、発言力が極めて弱く、多くの自民党国会議員の皆さまの目には留まらなかったようです(ごく一部の議員の方には届いたようでしたが…)。
ちなみに安倍総理や菅義偉総理大臣らが主導したとみられる韓国に対する輸出管理適正化措置(2019年7月1日発表)も、じつはこの第10条第1項の閣議決定に基づく経済制裁措置ではありません。
この措置は外為法第48条「第1項」に基づく輸出管理の運用体制の変更であり、偶然、韓国における輸出管理で不適切な事案が発見されたことから、2019年7月に発表されただけのことであり、自称元徴用工問題への対抗措置ではありません。
モノはやり様:スワップ中断などで対抗しては?
ただし、これも当ウェブサイトでは過去から何度となく指摘してきたとおり、「何らかの不法行為への対抗措置として、相手国に経済的な打撃を与える」というやり方は、何も「外為法による経済制裁」だけに限られるものではありません。
当ウェブサイトでは経済制裁について、「狭い意味での制裁」と、「広い意味での制裁」があると考えています(図表3)。
図表3 経済制裁の態様
区分 | 当ウェブサイトの用語 | 意味合いと具体例 |
狭い意味での経済制裁 | 積極的制裁 | 「経済制裁」と宣言して相手国に制裁を発動するもの。例:北朝鮮向け制裁 |
広い意味での経済制裁 | 消極的制裁 | 相手が困っているときにわざと助けないこと。例:相手国が通貨スワップを求めているのにわざと結ばない |
サイレント制裁 | 「経済制裁」と宣言せずに、実質的に経済制裁と同じ効果を与えるもの。例:2019年の対韓輸出管理適正化措置 | |
セルフ制裁 | 相手国が発動する制裁が相手国経済に打撃を与えるもの。例:コロナ禍で日本の入国禁止措置に対する韓国の対抗措置 | |
その他 | 法的に実施可能な措置。例:入国ビザ復活、経済協定破棄 |
(【出所】当ウェブサイト作成)
これらのうち、とりわけ現在の日本には、偶然でしょうか、サイレント制裁や消極的制裁、あるいはその他の措置を講じることが可能です。
じつは、岸田文雄内閣は昨年3月以来、韓国に対し、①輸出管理適正化措置を撤回して韓国を輸出管理上の「(旧)ホワイト国」に戻す措置、②2018年12月に発生した火器管制(FC)レーダー照射事件を不問に付す、③日韓通貨スワップの再締結、といった、韓国に対するさまざまな譲歩を行いました。
逆にいえば、これらの措置を撤回することを通じ、韓国に対して何らかの制裁を加えることは可能です。
たとえば韓国の輸出管理については、「韓国が日本の信頼を損ねるような状況が再び生じた」などと述べて、現在の輸出管理上の「グループA」から「グループB」「グループC」に区分変更する、といった措置は考えられるかもしれません(※ただし、その発動名目は「対抗措置」ではありませんが…)。
また、韓国が大好きな「蒸し返し」を、FCレーダー照射事件について適用し、日本の側から韓国に対し、「あの事件はどうなった?」と蒸し返したうえで、日韓ハイレベル防衛交流を再び中止してしまう、ということも可能でしょう。
さらには、今回の自称元徴用工判決に関わる供託金没収事案は、韓国がそもそも国際法を守らない無法国家であるという証拠ですので、日韓通貨スワップの前提である「国家間の信頼関係」が損なわれたという事案に相当します。
したがって、日韓通貨スワップについては破棄するか、あるいは岸田首相、麻生総理あたりが直接、「この問題が解決されるまでは、韓国が通貨スワップに基づきドル資金引出しを要請しても、日本政府としてはこれに応じない」などと宣言すれば良いのではないでしょうか。
そもそも韓国は重要な国なのか?
「韓国は重要な国!制裁などとんでもない!!」という誤解
ただ、こんなことを申し上げると、決まってこういう「お叱り」が来ます。
- 「安全保障環境が厳しい日本にとって、韓国との関係はとても重要だ」。
- 「韓国は日本にとって貿易黒字国であり、また、韓国は日本の産業・金融界にとっても重要だ」。
これらの主張は、言外に、「だから日本は韓国に譲歩しなければならない」、というニュアンスをほのめかしているわけですが、これはとんでもない勘違いです。
そもそも論として、韓国が日本の安全保障に重要だとする主張は、地政学を読み誤っています。
韓国はたしかに地理的に見て、日本に非常に近く、日本領である対馬からだと最短で50㎞ほどしか離れていませんので、この地域が名実ともに日本の敵対国となれば、たしかに日本の安全保障には脅威です。だからこそ、「この地域を日本の敵対国にしないよう、日本が譲歩しなければならない」、とする主張が出てくるのでしょう。
もっとも、だからといって、「日韓諸懸案で日本が韓国に譲歩することで、韓国が日本の友好国となってくれる」、とする結論は、論理的に導けません。
日本が韓国に譲歩すれば、その分、韓国が付け上がって、日本に対しさらなる譲歩を求めてくるのは歴史が証明している事実ですし、日本が韓国に対し譲歩しようがしまいが、韓国で反日・反米的な政権が発足すれば、どのみち韓国は日本に敵対的な姿勢を取ります。
文在寅(ぶん・ざいいん)政権がその典型例でしょう。
いや、「反日的な政権」が発足しようがしまいが、極端な話、「保守政治家」が大統領になったときですら、韓国が反日に傾いたことがあるという事実を忘れてはなりません。李明博(り・めいはく)、朴槿恵(ぼく・きんけい)両政権などは、その典型例でしょう。
これらの政権も、発足する直前は、(李明博氏、あるいは朴槿恵氏は)「保守的な政治家だから日本に宥和的な姿勢を取る」だの、「次期政権下で日韓関係はよくなる」だのといった主張を見かけましたが、現実の両政権時代を通じた日韓関係が到底良好とは言い難かった事実を忘れてはなりません。
とりわけ李明博政権時代には、総額700億ドルの「野田佳彦スワップ」を「食い逃げ」し、自称元慰安婦問題を蒸し返したり、李明博大統領(当時)自身が竹島に不法上陸したり、天皇陛下(現在の上皇陛下)を侮辱したりしたのです。
また、朴槿恵政権は発足当初から日本に敵対的な姿勢を取り続け、朴槿恵大統領(当時)が安倍総理との首脳会談を拒絶したり、韓国検察が産経新聞の加藤達也・ソウル支局長(当時)を「大統領に対する名誉棄損」疑惑で出国禁止措置を課したりしたことも、印象的です。
ちなみに自称元徴用工問題の源流ともいえる、日本の外務省の「軍艦島での強制労働を認める発言」も、朴槿恵政権時代に発生していた(『世界遺産登録失敗を「韓国を論破する好機」に転化せよ』等参照)こともまた、重要な事実です。
産業面で見て日本にとって韓国は重要な国なのか?
こうしたなかで、「韓国の産業が日本にとっても重要」という言い分も、いろいろと誤りが混じっています。
たとえば2023年を通じた日韓貿易で見ると、日本の韓国に対する輸出額は6兆5850億円でしたが、その内訳は半導体等電子部品や半導体等製造装置、化学製品、原料別製品、科学光学機器、石油製品など、「モノを作るためのモノ」が中心です(図表4)。
図表4 日本の対韓輸出高とおもな輸出品目(2023年)
品目 | 金額 | 構成割合 |
合計 | 6兆5850億円 | 100.00% |
1位:機械類及び輸送用機器 | 2兆4869億円 | 37.77% |
うち半導体等電子部品 | 5356億円 | 8.13% |
うち半導体等製造装置 | 5255億円 | 7.98% |
2位:化学製品 | 1兆2853億円 | 19.52% |
うち有機化合物 | 3154億円 | 4.79% |
3位:原料別製品 | 1兆0677億円 | 16.21% |
うち鉄鋼のフラットロール製品 | 3574億円 | 5.43% |
4位:特殊取扱品 | 6188億円 | 9.40% |
5位:雑製品 | 4771億円 | 7.25% |
6位:鉱物性燃料 | 3396億円 | 5.16% |
うち石油製品 | 3320億円 | 5.04% |
(【出所】財務省貿易統計データをもとに作成)
これに対し、日本の韓国からの輸入品目も、やはり製造装置や半製品のたぐいが多いのですが、輸入額自体は4兆3597億円で、日韓貿易では日本が韓国に対して2兆円を超える貿易黒字を計上していることがわかります(図表5)。
図表5 日本の体感輸入高とおもな輸入品目(2023年)
品目 | 金額 | 構成割合 |
合計 | 4兆3597億円 | 100.00% |
1位:機械類及び輸送用機器 | 1兆1574億円 | 26.55% |
2位:原料別製品 | 8793億円 | 20.17% |
うち鉄鋼のフラットロール製品 | 3546億円 | 8.13% |
3位:鉱物性燃料 | 7802億円 | 17.89% |
うち石油製品 | 7738億円 | 17.75% |
4位:化学製品 | 6815億円 | 15.63% |
(【出所】財務省貿易統計データをもとに作成)
また、輸出額と輸入額を合計した貿易額は10兆9447億円ですが、貿易相手国としての韓国は、2023年実績では中国(42兆1801億円)、米国(31兆7979億円)、豪州(11兆4864億円)、台湾(11兆0044億円)に続く5番目の国です。
隣国同士として見てみるならば、意外なほどに少ない、という言い方もできますし、また、日本の韓国に対する一方的な輸出超過になっているという事実は、韓国の産業が日本産の高度な素材・部品・装備を必要としているという証拠でもあります。
これに対し、日本の産業は韓国からある程度は部材などを購入しているものの、その輸入額は輸出額を大きく下回っており、このことから産業的には韓国は日本に依存しているとはいえ、日本が韓国に依存しているとはちょっといいがたい、という暫定的結論が出て来るでしょう。
隣国同士とは思えないほど希薄な金融関係
さらにいえば、金融では、日韓関係は隣国同士とは思えないほどに希薄です。
『邦銀世界一は8年連続も…非常に少ない近隣国向け与信』などでも取り上げたとおり、国際決済銀行(BIS)が公表している『国際与信統計(CBS)』では、日本は「最終リスクベース」で、国際与信の世界では8年連続して「世界最大の資金の出し手」であり続けています。
しかし、日本の金融機関の韓国に対する与信は、2023年9月末時点で449億ドルであり、これは日本の対外与信合計(4兆6346億ドル)に対し、わずか0.97%を占めるに過ぎず、与信相手国としても香港に続く15位です(図表6)。
図表6 日本の金融機関の対外与信(2023年9月末時点、最終リスクベース)
ランク(債務国側) | 金額 | 構成割合 |
合計 | 4兆6346億ドル | 100.00% |
1位:米国 | 2兆0887億ドル | 45.07% |
2位:ケイマン諸島 | 6104億ドル | 13.17% |
3位:英国 | 2119億ドル | 4.57% |
4位:フランス | 1890億ドル | 4.08% |
5位:豪州 | 1361億ドル | 2.94% |
8位:タイ | 969億ドル | 2.09% |
10位:中国 | 775億ドル | 1.67% |
14位:香港 | 499億ドル | 1.08% |
15位:韓国 | 449億ドル | 0.97% |
(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated banking statistics データをもとに作成)
これに対し、債務国である韓国からしても、日本の金融機関からの借入は、対外債務全体の12%に過ぎません(図表7。ただし、日本は韓国にとって、上から3番目の債権国ではありますが…)。
図表7 韓国の外国金融機関からの借入額(2023年9月末時点、最終リスクベース)
ランク(債権国側) | 金額 | 構成割合 |
1位:米国 | 1020億ドル | 27.93% |
2位:英国 | 869億ドル | 23.80% |
3位:日本 | 449億ドル | 12.31% |
4位:フランス | 375億ドル | 10.26% |
5位:台湾 | 182億ドル | 4.97% |
その他 | 757億ドル | 20.74% |
報告国合計 | 3652億ドル | 100.00% |
(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated banking statistics データをもとに作成)
こうした状況を踏まえると、日本にとって、そもそも韓国との通貨スワップが必要なのかは疑わしいところです。
449億ドルという金額は、日本の金融機関から見た対外与信総額のわずか1%未満であり、そんな韓国「だけ」を特別扱いするかのような日韓通貨スワップを締結することの費用対効果は、厳しく追及されるべき論点のひとつでしょう。
「韓国人観光客が激減」?何が問題なのですか?
いずれにせよ、「理屈で考えて」、日本が韓国に譲歩したとして、それが日韓関係の好転につながるという結論は論理的に導けないものですし、「数字で見て」、現状の韓国は日本にとって、「重要な国である」とは到底いえません。
敢えて役所の論理に忖度(そんたく)するならば、もしも日本が韓国に対抗措置を講じた場合、再び韓国で反日感情が高まり、「ノージャパン」運動でも巻き起こった場合に、韓国人訪日客が激減するということを、とりわけ日本政府観光局(JNTO)あたりが懸念しているであろうことは、想像に難くありません。
しかし、そもそも観光業は日本にとって、基幹産業に据えるようなものではありませんし、1人あたりの旅行消費額が少ない韓国人入国者が激減したとして、日本経済に大きな打撃がもたらされるというものでもありません。
むしろノージャパン運動が再び発生した方が、仏像窃盗事件のような日韓間のトラブルが減り、オーバーツーリズム・観光公害の低減につながるほか、相対的に旅行支出額が高い欧米豪などからの観光客が増えることで、日本経済にとってはトータルしてプラスになるかもしれません(※このあたりは憶測も入りますが…)。
このように考えていくと、「日韓関係は重要だ」とする主張は、韓国に対して厳格な制裁措置を講じないことの合理的な説明になりませんし、むしろ韓国のこの自称元徴用工問題への対処次第では、日本政府は一刻も早く、何らかの対抗措置を講じることが必要です。
とりわけ岸田文雄首相を巡っては、各種世論調査で支持率が低下しまくっているようですが、ここまで低下しているならばこれ以上下がる心配もないはずです。
野党・マスコミに忖度せずに憲法改正・NHKを、財務官僚に忖度せずに財務省改革・減税を、そして外務省に忖度せずに対韓制裁などを、粛々と進めて良いのではないでしょうか。
このことを、改めて指摘しておきたいと思う次第です。
View Comments (18)
政治屋のセンセエ方にしてみりゃ重要な国なんでしょう、バカバカしいったらありゃしない
>もっとも、だからといって、「日韓諸懸案で日本が韓国に譲歩することで、韓国が日本の友好国となってくれる」、とする結論は、論理的に導けません。
合理的論理的に考えれば、韓国との付き合いが深くて長い中国がしている、脅して従わせるやり方が適当ですしね。
それに、大きな利益を与えたところで、目先に小さな利がちらつくと喰いついちゃう連中でもあり。
岸田文雄はなんだかんだで日本企業に金銭被害は出ていないって言うんだろうな。
韓国とのスワップ、レーダー、半導体開発協力と一方的に韓国に譲歩。
自民党内は安倍元首相のやめておけの忠告を聞かずにやらかした裏金問題でガタガタ。
今の自民党と岸田文雄には何もできないよ、やられっぱなし。
情けないったらないな。
遠藤安による近隣窮乏化政策で、お隣の国に対して経済制裁になっているかもしれません。
すみません。遠藤安ではなく、円安です。自民党に円安政策を続けて欲しいです。
林官房長官のコメント聞く限り岸田はこの件についても不問に付すつもりでしょうね。
日立造船供託金の原告引き渡しにつき、韓国に制裁措置を採ることに、賛同致します。
何ができないではなく、出来ることは何でもやって欲しい。
併せて、岸田政権の即時退陣を求めたい。
私が、岸田不支持に転じた契機は、昨年6月の①レーダー照射事件の事実上の棚上げ②日韓為替スワップ協定の締結でしたが、その後も後任不在とかの理由で、岸田支持を続けた諸兄に猛省を促したい。(岸田以外なら、誰だってまし)(まだ岸田支持を引きずっている奴もいる)。
大手メディアは見出し工作を通じて韓国報道を一貫して捻じ曲げて来ました。
韓国報道ウォッチャーことシンシアリーさんの連続観察や鈴置高史氏の一行たりとも見逃してはいけない論説などを通じて日本人は整理された事実をようやく知ることになった。いまこそ注目を続けていかないといけないと痛感します。
岸田首相始め、日本政府関係者に「韓国に制裁を」という意思、姿勢が全く感じられない為、恐らく何もしないか、せいぜい「遺憾砲」で終わりでしょう。
政治家が裏金問題で納税しないのならば、国民も納税したくない、と言うような論調もあったけれども、納税は国民の義務だし、それとこれは別の話だと思う。
ところが、今回の件で、もしも国家が何もしなければ、国家は「国民の生命と財産を守る」と言う義務を果たさないことになる。そうれなれば、国民も納税の義務を果たしたくないと思ってもいいのではないか、と思った。
政府にはそのくらいの気概で対応してほしい。
>「国民の生命と財産を守る」
これは、国家の義務だと思うのですが、岸田氏はどう対応するのでしょうか。
何もしないのでしょうね、、、通常の国なら何らかの対抗措置をとるのでしょうが、この国ではそれができない。情けない限りです。国際社会はじっと見ています。
表に出さず、粛々と対韓制裁を進めているから静かなんだと信じたいのですが、遺憾砲で終りそうですね。