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数字で見た原発の必要性…「えげつない」のは再エネ制

「えげつない」のは電力会社の出力制御ではなく、エネルギーの安定供給にまったく寄与しない再生エネルギー賦課金制度そのものではないでしょうか。先日も当ウェブサイトで取り上げたとおり、電力の安定供給には太陽光パネルよりも原発再稼働が遥かに効率的です。本稿ではこれについて「数値的な裏付け」を示すとともに、最近の太陽光発電に関する「とある話題」を取り上げておきたいと思います。

運転可能な炉が33基ある日本

先日の『東電柏崎刈羽原発の運転禁止解除か:待望される再稼働』では、新潟県にある東京電力・柏崎刈羽原発の運転禁止措置が、早ければ27日(つまり明日)にも解除される見通しだとする報道を取り上げました。

東京電力管轄内でも原発稼働が再開されれば、高騰する電気料金などの引き下げにも期待がかかりますが、それと同時に仮に運転禁止措置が解除されたとしても、ただちに運転が再開されるわけではない点に注意が必要です。原発が立地する地元の同意が必要だからです。

ただ、経済的な側面から見れば、いかにももったいない話です。

原子力規制委員会ウェブサイトの『原子力発電所の現在の運転状況』のページによれば、現在の日本には合計60基の原子炉があり、現在運転中のものが9基、「停止中(定期検査中)」が24基あります。つまり、潜在的には33基、運転可能な炉が存在する格好です。

そして、電力各社のウェブサイトをもとに、それぞれの出力(※認可出力)を合計すると、再稼働可能な原子炉の合計出力は3324万kWで、このうち運転中のものは873万kWに過ぎず、残り2450万kW分については稼働していません(図表1)。

図表1 日本の原子炉の状況
区分 炉数 認可出力
停止中(定期検査中) 24 2450万kW
運転中 9 873万kW
小計 33 3324万kW
廃止 6 470万kW
廃止措置中 20 1317万kW
建設中 1 137万kW
小計 27 1924万kW
合計 60 5248万kW

(【出所】原子力規制委員会『原子力発電所の現在の運転状況』および電力各社ウェブサイト公開データをもとに作成)

潜在的な発電量は年間2911億kWhに!

この「認可出力」は、必ずしも現実の発電量と一致するわけではありませんが、便宜上、運転可能な原子炉が1年間(つまり24時間×365日=8760時間)、休みなくフル稼働したと仮定すれば、年間発電量はこの認可出力に8760時間を乗じたものとなります。

この方式で、現時点で運転中の原発の年間発電量を試算すると765億kWh(図表2)、休止中の原発の年間発電量を試算すると2146億kWh(図表3)で、合計すれば2911億kWhの発電能力があるという計算です。

図表2 運転中の原発設備の年間発電量(認可出力ベース、フル稼働の場合)
会社 発電所 年間発電量
関電 大飯発電所 207億kWh
関電 高浜発電所 221億kWh
四国 伊方発電所 78億kWh
九電 玄海原子力発電所 103億kWh
九電 川内原子力発電所 156億kWh
合計 765億kWh

(【出所】原子力規制委員会『原子力発電所の現在の運転状況』および電力各社ウェブサイト公開データをもとに作成)

図表3 停止中の原発設備の年間発電量(認可出力ベース、フル稼働の場合)
会社 発電所 年間発電量
北海道 泊発電所 181億kWh
東北 東通原子力発電所 96億kWh
東北 女川原子力発電所 145億kWh
東電 柏崎刈羽原子力発電所 719億kWh
日本原燃 東海第二発電所 96億kWh
中電 浜岡原子力発電所 317億kWh
北陸 志賀原子力発電所 166億kWh
日本原燃 敦賀発電所 102億kWh
関電 美浜発電所 72億kWh
関電 高浜発電所 76億kWh
中国 島根原子力発電所 72億kWh
九電 玄海原子力発電所 103億kWh
合計 2146億kWh

(【出所】原子力規制委員会『原子力発電所の現在の運転状況』および電力各社ウェブサイト公開データをもとに作成)

現実の数値と試算はだいたい整合している

この点、一部報道では、東日本大震災前の稼働率はだいたい60~70%程度だったとの情報もありますので、仮に「フル稼働」ではなく稼働率70%で計算すれば、年間発電量は2038億kWhに減る計算ですが、それでもかなりの量です。

これに加えて震災前の年間発電能力は4000億kWh前後だったと考えられます。というのも、東日本大震災後に廃止された東京電力福島第一原発6基(合計出力470万kW)、同第二原発4基(合計出力440万kW)だけで、(フル稼働前提なら)年間発電量換算で797億kWhに達するからです。

また、資源エネルギー庁の『総合エネルギー統計』に基づけば、2010年における日本全体の年間発電量は1兆1494億kWhでしたが、このうち原子力発電は2882億kWhを占めていました。すなわち、震災前の原子力発電所の設備稼働率はだいたい60~70%程度だった、とする説明と整合する数値です。

ところが、原子力発電の発電量は2014年にゼロとなり、その後も徐々に再稼働が進んでいるものの、資源エネルギー庁の統計に基づけば、現実の発電量は561億kWhに過ぎません(図表4)。

図表4 日本の電源別発電量(2010年vs2022年)
電源 2010年 2022年 増減
原子力 2882億kWh 561億kWh ▲2322億kWh(▲80.55%)
火力 7521億kWh 7333億kWh ▲188億kWh(▲2.49%)
水力 838億kWh 769億kWh ▲69億kWh(▲8.27%)
再エネ 253億kWh 1420億kWh +1166億kWh(+460.09%)
合計 1兆1494億kWh 1兆0082億kWh ▲1412億kWh(▲12.29%)

(【出所】資源エネルギー庁『総合エネルギー統計』データを基に作成。「火力」には石炭、天然ガス、石油等を、また「再エネ」には太陽光、風力、地熱、バイオマスを含む)

太陽光発電の効率の悪さ

いかがでしょうか。

再エネの発電量が13年間で6倍近くに増え、1166億kWhを稼ぎ出していますが、原発が稼働停止した事で減った2322億kWhという発電量を賄えておらず、結果的に日本全体の発電量は1412億kWh、すなわち12%も減っているのです。

再エネ自体は「再エネ賦課金」という名の事実上の税金により、各家庭・事業所から強制的に徴収されていますが、それだけのコストを投じ、貴重な山林を切り倒して太陽光パネルを敷き詰めても、それでもまだ原発の電力量を補うに至っていないのです。

その理由は単純で、たとえば太陽光発電の場合は、発電効率が極めて悪いからです。当たり前の話ですが、太陽光発電所は基本的に日照時間中にしか発電してくれませんし、曇ったりしたら発電量が落ちるという特徴があります。

また、一般に「メガソーラー」は1000kWの出力の太陽光発電設備を意味しますが、このメガソーラーの実力は、いかほどなのでしょうか。。

仮に太陽光発電の設備利用率を20%とすれば、メガソーラー1箇所の年間発電量は175.2万kWhで、東電柏崎刈羽原子力発電所6号機の1時間の発電量(認可出力ベースで135.6万kWh)を少しだけ上回る程度しか発電できません。

もし柏崎刈羽原子力発電所6号機(フル稼働前提で年間発電量は119億kWh)に代替する太陽光発電設備を作るなら、必要となるメガソーラーは6780箇所で、仮にメガソーラー1箇所につき2ヘクタールの面積が必要なのだとしたら、必要面積は13,560ヘクタール、つまり山手線の内側2個分です。

現実には、同原発には6号機だけでなく7号機もありますので、同原発が再稼働するだけで年間238億kWhだけ発電量が増えることになる(※フル稼働を前提)など、効果は絶大です。

「えげつない」のは九州電力ではない

こうしたなかで、ちょっと気になる記事を発見しました。

太陽光の売電収入、突然半減「えげつない」 九州の出力制御に悲鳴

―――2023年12月21日 13時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より

朝日新聞によると、太陽光でつくった電気の受け入れを大手電力が一時的に止める「出力制御」が今年は過去最大に膨らんでいて、九州では「月によっては収入が半減した人もいる」、などとする記事です。

たとえば、熊本市内で農業を営む72歳男性(※記事では実名)が7月下旬、九州電力から届いた明細書を見たところ、太陽光発電の電気の買取額自体は例年並みの86万5616円だったものの、半分以上の46万7280円が「出力制御分」として天引きされていた、などとするエピソードが取り上げられています。

記事によると8月にも同様に「半分近くが引かれていた」、などとしているのですが、記事を読む限り、自然に考えて最も可能性が高いのは、夏場に発電量が増え過ぎ、出力調整を受けたからではないでしょうか。

記事によると、この男性はこう憤るのだそうです。

有無を言わさず一方的に売り上げの半分も持っていくなんて、やり方がえげつない。九電の人が逆の立場だったらどう思うのか」。

「有無を言わさず」もなにも、出力制御は需給バランス、送電容量制約などさまざまな要因で発生するものであり、また、年間の出力制御にはあらかじめ上限も設けられているため(資源エネルギー庁『出力制御について』等参照)、制度としてはなにもおかしなことはありません。

「えげつない」という表現が当てはまるのは、むしろ各家庭・事業所から半強制的にカネを取り立てているわりに、電力の安定供給にまったく寄与していない現在の再生可能エネルギー賦課金制度そのものではないでしょうか。

いずれにせよ、効率も悪く環境にも優しくない太陽光パネルを日本の国土全体に設置することの是非については、そろそろ見直すべきですが、それだけではありません。

原発再稼働が進めば、石油、LNGといった鉱物性燃料の輸入量を削減し、貿易赤字を減らすとともに物価上昇圧力を緩和することができるでしょうし、なにより日本のエネルギー購入量が減れば、世界のエネルギーの需給にも影響が生じ、エネルギー価格が下がり、産油国であるロシア経済に間接的打撃が生じます。

その意味で、再稼働可能な原発を可能な限り早く再稼働することを急ぐことが、日本の国益にとっても必要であることは改めて指摘しておく必要があると思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (16)

  • 売電収入をあてにしてた方からすると、半分以上天引きされてたら「えげつない」って思うのもわからないでもないのです♪

    ただ、出力調整だと太陽光はそれなりに優遇されてて、火力とか水力のあとだし、そもそも出力調整が必要な状況で、電気いっぱい作って送りつけられても、買う側からしたら押し売りみたいなものなんだとも思うのです♪

    解決策は、領収書に買った分の電力量しか記載しないようにするとかかな?
    あとは、供給量にかかわらない固定額での買い取りプランを設けるとか?

    それにしても、事業として予見可能性の低いものを、無理に推し進めても上手くいかないってことな気がするのです♪

  • 原子力発電。構築し支えてきた人々が引退しノウハウが継承できなくなることをとても案じています。彼らが栄誉を早く取り戻し、誇りをもって再度従事されることを切に望んでいます。

  • 本論稿、論旨明確、再エネについて論じて欲しかった事を、数値をベースにスッキリ書いて頂きました。
    そろそろ、再エネ遊びは止めて、本格的な国の電力政策を確立しましょう。

  • 原発再稼働により、兎に角、化石燃料発電を極小化すべきと考えます。
    また太陽光発電については、民主党が乱開発の引き金を引いたメガソーラー/集中発電方式は最悪手だと思います。
    一方で、都市部では、降り注ぐ太陽エネルギーを無策のまま熱にしてしまい都市温暖化しつつ、その冷却の為に大量の電力を消費して更に温暖化を進めてしまっていると考えます。
    なので、都市部では発電・蓄電あるいは蓄熱などで太陽エネルギーを取り込み、少しでも無駄な都市温暖化の抑制しつつ、外部からのエネルギーを抑制すべきで、そのためには各建物の屋根や壁に太陽光パネルを配置し併せて蓄電を備えるのが良いハズだと思います。

  •  太陽光発電は次世代「ペロブスカイト」と大気圏外発電に限定して「パネル」は全面禁止でよいと思う

     原子力発電の設備利用率は
    震災前で最大70%
    他国では80~90%は当たり前
    設備利用率を80~90%に引き上げれば
    環境破壊の再エネは必要ない

  • 太陽光発電のそれも所詮は押し売りしてる訳なんだから、売る側が品性を備えれば良いじゃん?って思うんですけどね。

    作れば作っただけ売れるなんて夢のようなお話しですが、やっぱ夢でしかなく。

  • 原発立地県在住者としては、東京の為にリスクを負うことを理不尽に感じる。1kwh当たり1円程度は原発事故賠償積立金として徴収しても、再エネ賦課金に比べたら微々たるもの。(利権を生むだろうけど。)
    パチ倒さんの主張だと、山中にソーラーパネルを設置するために森林を伐採するから、熊の被害や豪雨に依る土砂崩れ等の災害が発生しやすい、とのことだが、全くの同意しかない。

  • 再エネ賦課金とは、再生可能エネルギー発電促進賦課金のことで、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(再生可能エネルギー特別措置法)により、2012年7月に定められた制度です。とのこと。
    ----当時は野田内閣。2012年12月に安倍政権発足。結局、「悪夢の民主党政権」(を悪用した官僚)の最後のおみやげですね。

  • > 九電に「なぜこんなに天引きが多いのか」と電話したが、対応した事務員は要領の得ない説明を繰り返すばかりだった。

    要領を得ないのは九電じゃなくこの人の方でしょう。
    借り入れまでして多額の投資をしているのに、制度を知らない。自分のリスクですわね。
    インタビュー記事という体裁で一方的な見解を流布する朝日新聞。よくあるマスコミの仕草ではあります。

  • 昔、企画院事件で投獄され、戦後、経済安定本部で傾斜生産方式などをはじめとした戦後復興策の中心の一人だった明治生まれの人から聞いた話を思い出します。「エネルギーがなくなると、生活が不安定になり、人心も乱れ、民主主義もおかしくなります。いま、原発反対と言っている人たちが、明日には、エネルギーをよこせというようになります(「米よこせ運動」を念頭に置いていたようです)」。「原子力発電を、自然エネルギーが採算が取れるまでの、つなぎのエネルギーと考えても良い。原子力発電という準国産エネルギーによるエネルギーの安定供給は、安定的自然資源の発見や自然エネルギーの開発までは必要です。」シー・レーンの不安定化や、パイプラインや送電線網で繋がれた欧州との違いを念頭に置いて、発言されていました。

    その人の亡くなった後、東電の福島第一の事故は、エンジニアの直訴を経営重視派が無視したことも原因だと思います。また、浜岡原子力発電所が耐震基準を上げたり、東北電力が女川原発の設置場所を高くしたことへの嫌がらせをする業界体質なども問題だと思います。一方で、消費税には敏感で、怒るのに、再エネ賦課金には鈍感な政党、マスコミ、国民もどうなのかと思います。原子力反対なら、事故の時の影響は、沿海岸に並ぶ中国の原子力などをどう考えるのか。
    そういうことに切り込まずに、新エネ賛成、原発反対という安易な政治家やマスコミの報道の流れも残念すぎる。
    エンジニアも育たなければ、日本は対外的にも無力になります。
    原子力に頼らないですむ「神風」が吹いてくれれば良いですが。

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