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「人手不足倒産」は宅配ピザ店にも及んできた…のか?

人手不足でピザ店の倒産が激増しており、今年1月から11月までで倒産件数が前年同期比2倍以上になった――。そんな衝撃的な話題がありました。ただ、記事をよくよく読んでみると、倒産件数は6件から13件に増えた、とするものであり、しかも少し古い情報ですが、大手ピザチェーン店の店舗数はむしろ増え続けているとするデータもあります。

人手不足倒産ってなんだ!?

個人的に、「人手不足倒産が増えている」という表現、あるいは「人手不足倒産」という用語そのものに対し、ある種の「うさん臭さ」のようなものを禁じ得ません。

というのも、理論的に見て、人手不足が深刻化している時期というものはたいていの場合、景気が拡大している時期でもありますので、そのような時期に事業に行き詰まり、倒産する事業者が激増するというのも不自然だからです。

実際、GDP(名目/実質)、CPI(インフレ率)、失業率、有効求人倍率など、さまざまなマクロ経済のデータから見ても、現在の日本では経済学の理論通り、経済が拡大し、インフレ率が上昇して失業率が低下しているとの現象が観測されています。

一般に「倒産が増える」という状況は、多くの場合、景気が後退し、経済成長も鈍化していることを意味するのですが、現在の日本経済がそのような状況にあるとは言い難いのが実情でしょう。

このことから、この「人手不足倒産」とやらの実態は、人件費が払えなくなって人が雇えなくなり、事業が継続できなくなっているだけではないのか、などと思えてなりません。

このあたりは「人手不足倒産」に明確な定義がない(あるいは検証可能性がない)以上、何ともいえない部分ではありますが、最近話題の「悪い円安論」と同じで、なんとかして「現在の日本経済の状況が悪い」といわんがために、無理やり持ってきた概念ではないか、という疑念は払拭できないのです。

ピザ店の倒産件数が前年同期比2倍以上に…!?

こうしたなかで、東京商工リサーチ(TSR)が22日付で、こんな記事を配信しています。

「宅配ピザ店」の倒産が倍増で過去最多  原材料費の高騰や深刻な人手不足が影響

―――2023/12/22 12:03付 Yahoo!ニュースより【東京商工リサーチ配信】

TSRによると、2023年1月~11月において、宅配ピザ店の倒産が急増しており、倒産件数が前年同期の2.1倍に達したというのです。これはTSRが「宅配飲食サービス業」の集計を始めた2009年以降、過去最多を大幅に塗り替えている、などとしています。

宅配ピザ店では5月、<中略>(株)シカゴピザ(大阪府茨木市)が、人件費高騰などの煽りを受け、約15億円の負債を抱えて破産した。また、大手宅配ピザチェーンのFC店でも倒産が発生し、『宅配ピザ店』倒産のうち、負債1億円以上は46.1%とほぼ半分を占めた」。

…。

なかなかに、深刻に見えます。

記事によると2023年1月~11月の飲食業倒産に占める負債1億円の割合は13.9%だったことからも、「宅配ピザ店」が事業規模にかかわらず厳しい状況にある、などとしています。

実態は「6件→13件」、そしてピザ店はむしろ増えている…!?

このあたりは、一種の数字のマジックのようなものでしょうか。

「倒産件数が前年同期比2倍以上」「過去最多」といわれると驚きますが、その具体的な倒産件数は、なんと13件です。

過去のデータでいえば、2017年、18年、22年の3年において各6件だったそうですので、13件を6件で割ればたしかに2.1倍ですが、正直、マクロ経済統計的には「誤差の範囲内」ではないか、という気がしてなりません。

ちなみにピザ屋の倒産が相次いでいるというのなら、その店舗数はいったいどうなっているのでしょうか。

これについては少し古いですが、日本ソフト販売株式会社のウェブサイトに今年2月20日付で掲載された『【2023年版】宅配ピザチェーンの店舗数ランキング』によると、宅配ピザチェーンの店舗数は2022年1月以降、23年1月まで、「ひと月も前月を下回ることなく、年間120店舗増加」したそうです。

これが、23年1月から11月にかけて、いきなりマイナスに転じたりするという可能性が、それほど高いようにも見えません。

というよりも、母数全体がわからないなか、一部業界の倒産件数だけを見て、「人手不足倒産が増えている!」などと結論付けることが、考察として、果たして適切といえるのでしょうか。

このあたり、「人手不足倒産が増えている」などとする印象を抱いてしまうのかもしれませんが、そのように結論付けるには少々慎重であるべきであることは言うまでもないでしょう。

新宿会計士:

View Comments (17)

  • 東京商工リサーチは、以前からおかしな記事を書いているのですよ。
    私も一度他の記事を見ていたら、クッキーにあたってメールが毎日飛んできた。

  • 現在の人手不足倒産というのは、原価が高くなっても転嫁すると実質賃金が19ヵ月も下がっているので売れなくなるので利益率が悪くなる中で賃金を上げることが出来ず、人が少なくなっても雇うことが出来なくて潰れる状態のことです
    電気代や配達のバイクの燃料もの固定経費も高くなっていますが大手のピザチェーンは安くしたように見せることで販売を伸ばそうとしているので、普通のところは難しいですね
    ピザの宅配自体も一般家庭では贅沢になっているのかもしれません

    • 今、話題の”人手不足倒産”がこの手の話であれば、市場経済・自由・民主主義の世界で生きる限り、当事者には申し訳ないが存在価値が亡くなったという事で当然の流れ、これを救済しようなどもってのほか。

      味なり技術なり価値を訴求できるなら存続できるでしょう。

      ただ、農林水産業等は安全保障(食・国土保全(治山治水・防衛))の視点(市場経済・自由がそぐわないもの)から、高付加価値化とは別に事業継続・安定供給を考える時に来ていると思います。

      その前に、医療・福祉費用の総量規制・効率化が先かな?

  • 宅配ピザの値段は、割高に感じるので自分生涯一度も頼んだ事はありません。
    なんで、あんなに高いのでしょう?

  • >なんとかして「現在の日本経済の状況が悪い」といわんがため

    これって結局どういう需要があるんでしょうかね?需要自体があるのは分かるけど、
    なぜそんな物を書きたがり読みたがるのかが理解できない。

    思いつく心理としては

    ①事実はどうでもよく(むしろ邪魔)とにかく日本のバッドニュースが読みたい
    ②悲観主義によって快感・優越感を覚える
    ③日本が”良い”と書いたらその予想が外れた時責任を取らされると言う強迫観念がある
    ④炎上万歳!炎上万歳!
    ⑤今までついてきたウソと矛盾する事は書けない

    あたりかなあ……?こういう物を書きたがり、読みたがる人は素直に質問に
    答える確率はとても低いので(Xなら勝手な勝利宣言か返答拒否が関の山)、
    彼らの心理は永遠に解明できなさそうだ。

    • 社会の不満を煽れば煽るほど、現在の政府を方針転換させよう、あわよくば転覆させよう、という勢力には有利になるので、そういう煽動目的なんじゃないかと。

      具体的にどんな勢力なんでしょうねぇ。

  • 安い人件費や人手不足の状態を維持する事で利益を確保する真性ブラック企業と、

    知名度不足などで人手不足な状態から抜け出せない仮性ブラック企業とに分けた場合に、

    宅配ピザ業界って真性ブラック業界だったんじゃないかなぁってな独断?と偏見?から、

    倒産しまくった方が世の為人の為なんじゃないかなーって。

    今の日本社会ではそんな真性ブラック企業がわんさと居るでしょうし、そんな会社は潰れ尽くした方が日本社会が良くなりそうなんですけどね。

  • 将棋の藤井さんが「5分で分かることをなぜ45分もやらなければならないか」
    と尋ねたという
    コロナ禍で分かったことはオンライン授業が充分機能できるという事だ
    高校生の学び方はもっと自由でいい
    例えば授業は午前中だけにして、不足する学習はオンラインで好きな時間に学ぶことができる
    お日様の輝く午後の時間はアルバイトするもよし
    スポーツに専念するもよし、極めたい学習に集中するもよし
    サークルやボランティア活動や社会的な活動に参加するもよし
    小遣い稼ぎにもなるし人手不足もいくらか緩和されるのでは?
    ま、そんなん実現しないだろうなあ
    100年後はしらんけど

    • 生徒はなにも文句ないと思いますが、抵抗勢力が大騒ぎするでしょうね。
      先生、教育委員会、教材業界、所轄官庁。

      「オンライン授業なんかヤメロ!」=分け前よこせ!(意訳)

      しかし、思えばユトリ教育は偉大な改革でした。
      日本の役所&役人が「権限を手放した」のですから。
      (少なくとも僕は他にこういう例を知らない)

      「文句言うなら自分でやってみろ。」

      その結果どうなったかと言えば、圧倒的にほとんどの家庭ではなんにもできずに、
      「やっぱり学校できちんと躾して」

      あれは恥ずかしかったですよねぇ。
      (僕が恥ずかしがる必要なんかゼロなんですが道義的に。)

      日本の国民も大手メディアも、文句は言うくせに
      「じゃあお前がやってみろ」
      と言われたら実務的にはなんにもできなかった訳ですから。

      なんやかんやで、今の633制度はうまいこと機能してると思いますけどね。
      オンライン授業は、適時適所に取り入れるとしても、イチかゼロかじゃなくてボチボチ変えて行けばよいかと。

  • E.T.という映画を見てはじめて「アメリカにはピザの出前があるのか」と知った。
    あの映画は1982年の公開。それまで日本にはそばの出前はあってもピザの出前はなかった。
    たった40年しかたっていないんだね。
    そばは「出前」でピザは「宅配」なぜなのか。

  • 『奴隷労働を受け入れる社畜』が存続に必須となる企業が「人手不足倒産」して社会から退場してゆくのは "歓迎" デスが、ソノヨウナ企業が提供していた商品なりサービスなりを "買って" いた顧客が「(商品なりサービスなりの)対価を見直す」までは…
    ナカナカ、チョットイカンのヤロウなァ…(トオイメ

  • 「人手不足倒産」を子供の数で見ていくとちょっと違うかもしれません。

    群馬県桐生市に住んでますが、子供の数の減り方が尋常でないですね。
    消滅都市ランキングでベスト10にノミネートされているので事情が違うと思われるかもしれませんがここ15年で半分以下です。21歳のうちの子が小学校に上がった時の同級生の数と今の小学校一年生の数を比べた結果です。

    自分の母校ですが娘の中学時代の人数と自分の年代を比べるとすごいことになります。
    昭和55年で見た場合、中学校が3校にを分かれていて、それぞれ約160人いました。
    約480人ですね。娘の場合、6年前は3校が合併していて学年で約130人でした。ちなみに今の小学校一年生は2校に分かれていますがそれぞれ30人弱で、合わせて50人ちょっとですね。

    何が言いたいかと言うと、大学生や高校生の数が少なくアルバイトの確保がかなり難しいのです。非正規の求人数が就労人口の4割になっていますが、学生アルバイトの確保が難しくなったことを隠していたのだと思います。

    第二次ベビーブーマーの就職時は就職氷河期でしたね。非正規での就職が多く学生よりも上の世代でそれ以前に学生が担っていた求人を満たしたのだと思います。

    就労人口の減少数に対して若い世代の就労人口の増加数が全く追いついていないための「人手不足倒産」になっているのではないかと思います。地方のコンビニのロードサイト店はパートの主婦や大学生でなく外国人が占めています。就労ビザのあるなし関係なしに外国人を雇用している零細工場もそれなりにあります。

    本来、マスコミが報道すべきは就労人口の減少であるべきなんですけどね。
    岸田政権の少子化対策では全然足りないと感じます。今後20年ぐらいは子供一人に年間150万ぐらいの給付をして、人口を増やしていかないと内需も伸びませんから経済が縮小するばかりと見えますね。都内にいると気づけないことと思います。

    地方都市の行政の一部は、地域に住民のボランティアで回っています。ごみ収集後の後かたずけや地域の公園の美化維持等ですね。青少年保護の補導などは、わずかな金額でやっています。集合場所へのガソリン代ぐらいですね。運送業界でも介護業界でも同じですね。若い世代がいないことが問題の本質なのでその方向での報道を期待します。

    • 繊維工業で有名だった市が、書かれているような現状とは、俄かには信じがたいです。
      機械工業でも有名だったと思います。群馬大学の工学部も所在するとのことですが。

      仰る通り、安心して産める、安心して育てることが出来る、財政支援と環境支援を思い切ってやらないと、本当に手遅れになりますね。

      • 既に手遅れ
        還暦まであと10年程の団塊ジュニア~氷河期世代まではワリ喰って終了
        今後は令和生まれを助ける為の手立てデスな

        スデニ逃げ切った方々はせーぜー「ワリ喰った世代」がGTAに移行せずモノポリー続けてくれる様お祈りくださいまし

        …ゆとり以降世代の方がGTAに移行しとる気もスルな…

    • 人手が足りないなら足りないでなぜ自動化をしないのでしょうね。
      日本のファストフード店には(年単位で)久しく行ってないけど、海外ではマックもケンタッキーもタッチパネルかスマホ注文で、対面で注文している人は少ないですね。
      日本でもマックはかなり自動化を進めているけど、実際の顧客の利用はどの程度なのだろう。

      • 海外ではって具体的にどこですか?ってツッコミが入る前に。
        ここでいう海外とは日本を除く全世界を意味するものではありません。
        だいたい西ヨーロッパだとマックやケンタッキーでタッチパネルで注文するひとばかりです。