昨日はずさんな計算結果に基づき、大変いい加減な記事を掲載してしまいました。重ねて深くおわび申し上げます。本当に申し訳ございませんでした。さて、本稿では昨日の記事に含まれていた事実誤認部分を修正し、実質的な国民負担のシミュレーションを再度実施してみました。結論的には低所得者層も「三公七民」、標準で「四公六民」、高所得者に至っては「五公五民」という、徳川幕府もビックリのザイム真理教政権です。
目次
改めておわび申し上げます
改めまして、昨日の『ザイム真理教「七公三民」の衝撃』の件では、読者の皆さまに多大なるご迷惑をおかけしましたことを、深くおわび申し上げます。
本当に、申し訳ございませんでした。
【お詫び】文中の計算結果に誤りがありましたので、『ザイム真理教「七公三民」の衝撃』につきましては全面的に撤回いたします。「七公三民」の前提となる計算結果が誤っていたからです。なお、記事自体は「撤回」しますが、当ウェブサイトにおける記事に誤りがあったことを証拠として残すため、そのまま公表を続けます。また、ご指摘くださいましたohha様には心より感謝申し上げたいと思います。訂正履歴 2023/12/07 09:30 記事の全面撤回を決定 2023/12/07 10:00 全面撤回の趣旨を加筆 2023/12/07 10:30 訂正記事『「ザイム真... 【お詫び:記事を全面撤回します】ザイム真理教「七公三民」の衝撃 - 新宿会計士の政治経済評論 |
昨日の論考は、現在の日本の所得税法や社会保険料徴収の仕組みなどを前提に、高校生を扶養するサラリーマンの額面給与と手取りの関係を探ってみるというもので、計算方法によっては「六公四民」、あるいは「七公三民」状態になっているケースすらあり得る、などとするものでした。
ただ、ohha様という読者の方から頂いたご指摘をもとに再計算してみると、計算が間違っていることが判明。
本来「控除」すべきところを「加算」してしまうという、極めて初歩的かつ単純で稚拙な誤りが原因でした。
貴重なご指摘を下さったohha様には感謝してもしきれません。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ただし、昨日の論考はその記事タイトルの原因となった「六公四民」、「七公三民」という事実自体が誤っていたため、「全面撤回」とさせていただきました(※読者の皆さまの検証に委ねる目的で、記事自体は当ウェブサイトが存続する限りは公開し続けるつもりです)が、その趣旨まで撤回するつもりはありません。
あらためて、昨日の論考をいったん「全面撤回」したうえで、その中でも重要な指摘を本稿にてもういちど展開しておきたいと思います。
実質的な税金とは?
複雑な税制、そして「税金と名乗らない税金」
改めて、昨日強調した論点を繰り返しておきましょう。
現在の税制といえば、私たち一般国民の生活にも深い影響を与えている消費税・地方消費税もさることながら、企業経営をしたら法人税・道府県民税・市町村民税・法人事業税等、働いて給料をもらったら所得税・住民税、といった具合に、広範囲にわたり複雑な制度が施行されています。
あるいは、近年、基礎控除が大幅に縮小された相続税、次第に要件が厳しくなる贈与税のように、財産を親から子、孫に譲渡するだけで課せられる税金もあります。下手をすると、資産家ですらたった三~五代で無一文になってしまうほど苛烈な税制です。
さらに、不動産を買ったら不動産取得税、酒を飲んだら酒税、自動車にガソリンを入れたらガソリン税。
まったく、数え上げていけばキリがありません。
ただ、これらの税金のなかでも、とくに「悪質」なものといえば、「税金と名乗らない税金」です。
NHKの受信料がその典型例です。
NHK受信料の問題点
というのも、これは「NHKの放送が映る設備を設置したら支払わなければならない」とされている、一種の「テレビ税」のようなものですが、根拠規定である放送法第64条第1項では、これは「税金」ではなく、あくまでも「視聴者が契約に基づいて自発的に支払う受信料」だからです。
放送法第64条第1項抜粋
協会の放送を受信することのできる受信設備<略>を設置した者は、同項の認可を受けた受信契約<略>の条項<略>で定めるところにより、協会と受信契約を締結しなければならない。<略>
ちなみにNHKやその監督官庁である総務省(旧郵政省)は、この受信料については「放送の対価ではなく、あくまでも公共放送を支えるための特殊な負担金である」、とする屁理屈を展開しています(いわゆる「特殊負担金」理論、『NHKが「特殊負担金」理論で説明会開催:理解求める』等参照)。
事実上のコンテンツの対価なのに、「これはコンテンツの対価じゃない!」、「NHK職員様たちの貴族のような生活と総務省の天下り先を支えるための、特殊な負担金なのだ!!」などといわれれば、これはまさに、「契約に基づいて支払うべき受信料」ではありません。
単なる「かなり悪質な税金」です。
したがって、NHK問題を「税金」という側面からみれば、NHK受信料が事実上の税金であるにも関わらず、NHK自身がその使途を事実上、勝手に決めていて、国会や会計検査院などの監視の目がほとんど入っていない、という点に特徴があるのです。
形を変えた「公金チューチュースキーム」の大掛かりなバージョンが、まさにNHKだ、というわけです。
いずれにせよ、NHK受信料は、この「税金と名乗らない税金」という意味において、本来ならば今すぐに改革しなければならない論点のひとつであり、理想論をいえば、NHK自体を解体したうえで、NHKが保有する優良不動産物件や1.3兆円に達する金融資産(年金資産含む)を国庫返納させるべきでしょう。
社会保険料、雇用保険料も事実上の税金
ただ、冷静になって眺めていくと、この「税金と名乗らない税金」は、NHK受信料だけではありません。
私たち国民(とくにサラリーマンと企業)が密接に関わっているのが、社会保険料です。また、企業が従業員を1人でも雇っていれば、社会保険に加えて雇用保険にも加入する必要があります。
このうちの社会保険、細かく見ていくと、健康保険料と厚生年金保険料から構成されており、健保料には40歳以上になれば介護保険料が上乗せされ、雇用主である企業に対しては、「子ども・子育て拠出金」なる負担金がシレッと上乗せされています。
ちなみに「厚生年金保険」は、かつては民間企業で働く人たちのための制度で、国家公務員や地方公務員、私学教職員らは共済年金に加入していたのですが、2017年の制度一元化に伴い、基本的には民間サラリーマン、公務員、私学教職員らがほぼ強制的に加入せざるを得ない制度となっています。
また、自営業者らの場合は、いわゆる「1階」部分である国民年金に加入しているため、「節税論」の立場からすれば、個人事業を営んでいる人が「法人成り」するかどうかを判断するポイントのひとつが、法人成りに伴い社会保険に加入する必要性が出てくることにある、とされているのは、有名な話です。
(※なお、厳密にいえば、制度論的には、サラリーマンらは国民年金と厚生年金の双方に加入していることになるのですが、この論点は細かいうえに論じてもあまり意味がないため、本稿では割愛します。)
所得税と酷似する社会保険料
ちなみにこの保険料の金額、基本的にはその従業員の給料に比例しますので、その部分だけを見ると、所得税や住民税と性質が酷似しています。
もちろん、このうち年金保険料部分については、納めた保険料に応じて将来受け取れる年金額が変わってくるという性質があるため、厳密に所得税と同じ、というわけではありません。
しかし、健康保険料部分については、納めた保険料に応じて受けられる医療サービスが変わる、ということはありませんので、限りなく税金(所得税)に近い性質があるといえます。
社会保険料の性質
- 健康保険料…所得額に応じて金額が増えるが多く納めても受けられるサービスは上昇しない
- 年金保険料…所得額に応じて金額が増えるが多く納めると将来貰える年金が増える
ちなみにこの社会保険料の料率、毎年のように変更されるほか、都道府県や加入する保険組合などによっても異なるようです。
協会けんぽウェブサイト『令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表』によると、東京都の政管健保の場合、2023年4月以降は健康保険料が40歳未満で10%、40歳以上で11.82%とされ、これとは別に厚生年金保険料として18.3%が徴収されます。
ただし、厚生年金保険料については、「報酬月額93,000円未満」の場合は16,104円、「報酬月額665,000円以上」の場合は118,950円で一定となるほか、健康保険料に関しても月給が1,355,000円以上となれば金額が一定となります。
(※余談ですが、いっそのこと月額給与をうんと引き上げてしまえば、厚生年金保険料、健康保険料ともに水準を抑えることができる、ということかもしれません。)
大きな特徴は「労使折半」
そして、この社会保険料、何より重要なのが、「労使折半」という特徴です。
現実には、たとえば介護保険の加入対象である40歳以上の「第2号被保険者」に該当している場合、健康保険11.82%、厚生年金保険18.3%、合計30.12%が徴収されるわけですが、このうち半額の15.06%を従業員が、15.06%を雇用者が、それぞれ負担します。
従業員の側としては、この支払った(給与天引きされた)社会保険料は所得税、住民税の計算上、控除項目にカウントされるほか、企業の側としても、同じく負担した社会保険料については法人税法上の損金に算入されます。
つまり、これを支払った会社の立場としては、社会保険料の会社負担分は人件費の構成項目となるわけであり、もしも「会社が社会保険料を半額負担する」という制度がなければ、あなたの給料はその分、増えていたかもしれない、という話でもあるのです。
あなたが会社に雇われている立場の場合、あなたの負担額はこの30.12%の半額の15.06%ですが、もしも年間の「額面の給与」が1000万円だったならば、あなたを雇っている会社は、年間150万円以上をあなたのために社会保険料として別途負担しているのです。
社会保険という制度自体が今すぐ廃止された場合、あなたは年間150万円ほど手取りが増えるだけでなく、会社がこれまで負担していた150万円をあなたに対する給与として上乗せしてくれるかもしれません(※ただし、社会保険料は所得控除項目なので、課税所得がその分増えてしまいますが…)。
このように考えると、私たちはこれまでに支払ってきた莫大な社会保険料が何に使われているのか、もっと関心を払うべきなのかもしれません。
おかしな税制議論
社会保険料の目的外使用!
さて、昨日の論考でも取り上げた、日経電子版が5日付で報じたこんな記事を、再掲しておきます。
高齢者の社会保障負担、金融資産を加味検討 政府改革案
―――2023年12月5日 21:16付 日本経済新聞電子版より
少子化財源の支援金、26年度から徴収 医療保険に上乗せ
―――2023年12月5日 22:33付 日本経済新聞電子版より
前者は現在、1~2割負担となっている高齢層の医療費負担について、一定以上の金融資産を持っている人にはさらに負担増となる、というものだそうです。
「金融資産を一定以上持っている」、を、どうやって把握するのかは知りませんが(マイナンバーを使うのでしょうか?)、これも繰り返しになりますが、「金融資産を持っていれば医療費が上がる」ということになれば、高齢層を中心に不動産投資が活発になるだけの話でしょう。
また、後者については、なぜか少子化対策の支援金を2026年度から「医療保険」(おそらくは健保のことでしょうか)から1人あたり月額500円程度を徴収する、というもので、これも明らかに形を変えた増税そのものでしょう。現在の「子育て支援金」の派生形のようなものでしょうか。
いずれにせよ、これだけ税収が上振れしているなかで、なぜ増税の話ばかりが出て来るのか、理解に苦しむところですが、理解に苦しむのはその点だけではありません。
明らかな目的外使用が堂々と議論され始めていることにあります。
いずれにせよ、財源は増税ではなく、「無駄な支出を削る」、「政府が持つ非効率な資産を売却する」、「電波オークションを実施する」、といった手法で調達するのが筋であって、それを社会保険料という本来は社会保障に充てるべき事実上の「目的税」に負担させようとする発想は、さすがに理屈に合いません。
とある簡易シミュレーション
さて、昨日の論考で盛大に計算間違いをしでかした「シミュレーション」を、もういちど実施しておきます。
これは、社会保険料については会社負担分も本人負担分も、本来ならば従業員個人が得られるはずだった給料から支払われている、とする考え方に基づき、社会保険料の総額と所得税、住民税を合算し、本来の「国民負担率」を所得階層ごとに求める、という試みです。
シミュレーションの前提は、こうです。
- 所得は給与のみであり、毎月定額で賞与はない。
- 厚生年金に加入しているが、基金には入っていない。
- 健保は全国健康保険協会管掌(東京都)とする。
- 第2号保険者(介護保険加入者)とする。
- 扶養控除対象者は1人とし、配偶者控除はない。
- 雇用保険については考慮しない。
- 社会保険料は単純に給与額面に料率を乗じて求める。
このような前提で計算すると、年間の給与と税額の対応表は、だいたい次の通りとなるはずです(図表1)。
図表1 給与と社会保険料(本人負担)、税負担の関係
給与(月額/年額) | 社保本人負担(年額) | 所得税+住民税 | 手取り |
10万円/120万円 | 180,720 | 0 | 1,019,280 |
20万円/240万円 | 361,440 | 66,784 | 1,971,776 |
30万円/360万円 | 542,160 | 165,676 | 2,892,164 |
40万円/480万円 | 722,880 | 282,568 | 3,794,552 |
50万円/600万円 | 903,600 | 431,780 | 4,664,620 |
60万円/720万円 | 1,084,320 | 613,204 | 5,502,476 |
70万円/840万円 | 1,210,140 | 899,458 | 6,290,402 |
80万円/960万円 | 1,281,060 | 1,235,182 | 7,083,758 |
90万円/1080万円 | 1,351,980 | 1,573,906 | 7,874,114 |
100万円/1200万円 | 1,422,900 | 1,937,143 | 8,639,957 |
110万円/1320万円 | 1,493,820 | 2,309,739 | 9,396,441 |
120万円/1440万円 | 1,564,740 | 2,784,862 | 10,050,398 |
130万円/1560万円 | 1,635,660 | 3,270,366 | 10,693,974 |
140万円/1680万円 | 1,699,488 | 3,758,920 | 11,341,592 |
150万円/1800万円 | 1,699,488 | 4,274,920 | 12,025,592 |
(【出所】国税庁『所得税の税率』、『給与所得控除』、全国健康保険協会『令和5年度保険料額表(東京)』等をもとに試算)
これによると、年間120万円もらっている人の手取りは1,019,280円、年間1800万円もらっている人の手取りは12,025,592円となり、年収が上がれば上がるほど、「実質的な税金」として持って行かれる額が増える、という計算です。
所得税の計算ロジックは、簡単にいえば、給与所得については額面から給与所得控除を引き、社会保険料(本人負担分)と基礎控除(48万円)、扶養親族控除(この場合は高校生1人なので38万円)を引いたうえで課税所得を計算する、というものです。
また、住民税は基礎控除を43万円、扶養親族控除を33万円と置いたうえで、一律に10%の税率をかけて求めます。したがって、事実上の税負担は、適用される所得税率に対し、だいたい10%を上乗せしなければならない、ということです。
なお、社会保険料については上限があって、東京都の場合は月額1,355,000円以上の場合に保険料は頭打ちになります(実際、月額140万円と150万円で社会保険料は変わりません)。
何とも痺れる、恐ろしい事実
ただし、上記は従業員自身の立場から見たときの話です。
これに会社負担の社会保険料を加えたものが、実質的な税負担である、とする考え方に立脚し、こうした観点から、所得税、住民税、社会保険料(会社負担分)、社会保険料(自己負担分)の4項目を「実質的な税負担」と定義して、給与額に対応する税負担率を計算してみましょう(図表2)
図表2 実質的な税負担
給与(月額/年額) | 社保+所得税+住民税 | 実質的な税負担率 |
10万円/120万円 | 361,440 | 30.12% |
20万円/240万円 | 789,664 | 32.90% |
30万円/360万円 | 1,249,996 | 34.72% |
40万円/480万円 | 1,728,328 | 36.01% |
50万円/600万円 | 2,238,980 | 37.32% |
60万円/720万円 | 2,781,844 | 38.64% |
70万円/840万円 | 3,319,738 | 39.52% |
80万円/960万円 | 3,797,302 | 39.56% |
90万円/1080万円 | 4,277,866 | 39.61% |
100万円/1200万円 | 4,782,943 | 39.86% |
110万円/1320万円 | 5,297,379 | 40.13% |
120万円/1440万円 | 5,914,342 | 41.07% |
130万円/1560万円 | 6,541,686 | 41.93% |
140万円/1680万円 | 7,157,896 | 42.61% |
150万円/1800万円 | 7,673,896 | 42.63% |
250万円/3000万円 | 13,358,232 | 44.53% |
350万円/4200万円 | 19,358,232 | 46.09% |
450万円/5400万円 | 25,832,758 | 47.84% |
700万円/8400万円 | 42,332,758 | 50.40% |
(【出所】国税庁『所得税の税率』、『給与所得控除』、全国健康保険協会『令和5年度保険料額表(東京)』等をもとに試算)
これで見ていくと、年収120万円の人でもすでに30%を超える「実質税負担」が生じているほか、たとえば月給が110万円前後のあたりから、この負担率は40%を突破してしまいます。月収が700万円を超えたら税負担は50%を超えます。
昨日の「七公三民」はさすがに言いすぎでしたが、実態は「三公七民」、「四公六民」、あるいは「五公五民」、なのです。
やっぱり徳川幕府もビックリのザイム真理教政権の世の中です。
歴史教科書で見るに、徳川家康氏は「民は生かさず殺さず」などの迷言を吐いたそうですが、現代のザイム真理教は徳川氏もびっくりの絶対王政ぶりそのものです。
しかも、この「四公六民」あるいは「五公五民」、あくまでも所得税、住民税、社会保険料(会社負担+自己負担)だけの話です。
正確な「民の負担割合」を求めるためには、これに法人税や事業税、道府県民税・市町村民税など法人に関わる税率の議論も入って決ますが、いずれにせよ、この日本においてビジネスで大成功しても財を成すのがいかに難しいか、その理由の一端がわかるのではないでしょうか。
さらにいえば、財を成したら財を成したで相続税、贈与税が、稼いだおカネを使えば消費税が、家を買えば不動産取得税が、酒を飲んだら酒税が、海外旅行に出掛けたら出国税がかかりますし、株式配当は配当所得、不動産賃貸は不動産所得など、所得税がいくらでもあなたを狙ってきます。
節税を指南する税理士業が大盛況であるのも、税制が複雑怪奇であることの裏返しです(といっても、著者自身も業種柄、信頼に値する税理士の先生方を多く存じ上げていますし、べつに税理士を貶めるつもりはいっさいありませんが…)。
高校生扶養手当の圧縮の影響
さて、ついでに「高校生扶養手当圧縮の効果」についてもおさらいしておきます。『動き出した税の亡者・財務省…岸田首相の距離広がる?』でも少し取り上げたとおり、国会では現在、扶養控除のさらなる減額などが検討されています。
「現在、中学生(満15歳に達してから最初の3月31日)まで支給されている児童手当の支給対象を、高校生(満18歳に達してから最初の3月31日)にまで広げる。その代わり高校生の扶養控除(所得税38万円、住民税33万円)をそれぞれ25万円、12万円に引き下げる」――
先ほどの図表1、図表2で示した前提条件をそのまま流用し、報道通りに扶養控除を減らしたうえで、年間12万円の児童手当の増収となった場合の家計影響をシミュレーションしてみた結果が、図表3です。
図表3 「児童手当拡充」-「扶養控除圧縮による増税」の差額
給与(月額/年額) | 増税部分(A) | 12万円-A |
10万円/120万円 | 0 | 120,000 |
20万円/240万円 | 27,500 | 92,500 |
30万円/360万円 | 27,500 | 92,500 |
40万円/480万円 | 27,500 | 92,500 |
50万円/600万円 | 34,000 | 86,000 |
60万円/720万円 | 47,000 | 73,000 |
70万円/840万円 | 47,000 | 73,000 |
80万円/960万円 | 47,000 | 73,000 |
90万円/1080万円 | 47,000 | 73,000 |
100万円/1200万円 | 50,900 | 69,100 |
110万円/1320万円 | 53,518 | 66,482 |
120万円/1440万円 | 63,900 | 56,100 |
130万円/1560万円 | 63,900 | 56,100 |
140万円/1680万円 | 63,900 | 56,100 |
150万円/1800万円 | 63,900 | 56,100 |
(【出所】国税庁『所得税の税率』、『給与所得控除』、全国健康保険協会『令和5年度保険料額表(東京)』等をもとに試算)
結論的には、「もし所得制限のない児童手当が導入されれば」、どの所得階層においても増税の影響と児童手当の影響が相殺し合い、結果的に家計にはプラスの影響を与えることがわかります。
ただし、児童手当が支給されるのはその児童が18歳を迎えて最初の3月31日までです。
ちなみに法的に「18歳になる」のは、その人が生まれてから18年目の誕生日の前日ですので、たとえば4月1日生まれまでの人は3月31日に年を取ってしまうため、結果的に4月2日生まれの人と比べ、もらえる児童手当は1年分少なくなるという「トリック」があります。
したがって、早生まれの人がいる家庭だと、この「恩恵」が及ぶのは2年だけで、それ以外の年は実質増税になるという点に注意が必要です。
ザイム真理教の権力の源泉は「複雑に取って複雑に配る」こと
しかし、家計の手取りを増やすのが目的ならば、こんなまどろっこしいことをすべきではありません。
児童手当を拡充するのではなく、扶養控除の拡大でそれを実現すべきでしょう。
何でこんなわかり辛いことをやるのかといえば、それはおそらく、「複雑に取って複雑に配る」ことに、利権が生じるからでしょう。
財務省は権力を持ち過ぎました。国のサイフを全面的に握っているからです。
民主的に選ばれたわけでもない官僚ふぜいが、国税庁という入口と主計局という出口を一手に支配し、並の国会議員を大きく上回る政治権力を手にしてしまったことで、この日本という国を滅ぼす方向に、税制を複雑怪奇化させ、ひたすら増税を実現し続けて来たのです。
正直、子育てを支援するつもりがあるのならば、その分、「所得制限付きの児童手当」など廃止し、そのかわり、年少扶養控除を復活・増額してくれた方が、よっぽどスッキリするのではないでしょうか(※ただし所得階層によっては扶養控除よりも児童手当の方がありがたい、という事例も出てきます)。
いずれにせよ、本人の所得階層に応じて児童手当を出したり出さなかったり、所得税額をいじったり、と、「複雑に取って複雑に配る」ことで、ザイム真理教の権力が生まれてきます。こうしたわけのわからない操作をするよりも、税制はシンプルなものとする方が望ましいのは当然です。
やはり、複雑な制度設計を続けている財務省は、「取って配る」ことで自身の権力を維持しようとしているようにしか見えない、というわけです。
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(稿の論点からズレます)
>この社会保険料、何より重要なのが、「労使折半」という特徴です。
「増大する社会保障費の財源確保」の手立てとして消費増税に言及した経団連。
海外拠点の多い大手は「労使折半の保険料アップよりも得」だったりなのかな?
お金持ちの経営者たちには、庶民の暮らし向きがわからないのでしょう。
会社負担増はまっぴらごめんなのも本音なのでしょうが。
車を買うと乗っても乗らなくても「重量税」、不動産を買うと住んでも住まなくても「固定資産税」、テレビを買うと見ても見なくても「NHK受信料」
こりゃあ確かに「テレビ税」だね。
そして家にソーラーパネルを付けていなくても巻き上げられる「再エネ賦課金」。
健康保険組合は後期高齢者保険に対して「支援金」を拠出させられているが、子育支援の財源はそれに上乗せするつもりだろう。
ただし各健康保険組合の財政は火の車で解散するところが続出している状態。
解散が増えることになりそうだ。
まれに社会保険料を折半以上負担してくれる企業がある。
その場合折半を超える部分は従業員の所得税の計算上は収入になり課税される。
医療関連は比較的わかりやすい分野かもしれない。
医者にかかり薬をもらった費用を誰がいくら負担しているかということ。
患者の窓口負担、保険料からの負担、国の負担。
国の負担は税金のこと。
煎じ詰めれば国民と雇い主が払った保険料と税金で支払っているだけのこと。
みなさんザイム真理教に毒された信者達に、言ってあげてください。
多分テレビ付のお年寄りに多いんで。
一人当たりの借金など国民に返済義務はない、と。
財務省は国民の敵だ、と。
主税局と主計局を完全に分離する議論をそろそろすべきですね。
金融庁を分離させたように。
とにかく、ザイム真理教を叩く人達を増やしたい。
そして、こういう素晴らしい記事を見るたびに、払ってる人達にNHKなんかに金払ってんじゃねーぞ。お前らが既得権益を助長させんだ!って言いたくなります。笑
取って配る税制は効率が非常に悪くなりますね。
取った時に事務処理が必要ですし、配る際も事務処理が発生します。
事務処理が発生すると、人件費等の経費が発生します。
この経費はすべて税金です。取って配らなければ経費分の他のことができるのです。
国民の大半はこのことに気づいています。気づいていないと思っているのは国家公務員と国会議員だけですね。税金の無駄遣いを減らしていただきたいですね。
児童控除と言いますが、所得税率が20%のところの人の控除40万円だと年間8万円バック、子供手当(月2万円)だと24万円バック。
収入の少ない人にとっては、控除より子供手当のほうがよほど助かるはずですが、そういう指摘を見ないのはなぜでしょう?
一線を卒業した世代には申し訳ないですが、社会保険料の負担は、現役世代はもう限界です。1万円昇給しても数千円しか手取りが増えません。切実に思います。社会保険の抜本的な改革を本当にお願いしたいです。
物価が上がっているならば、控除額こそ増やして欲しい項目なのに、逆に削るとは、マジなめてるとしか思えません。
ただ、周りの人に「社会保険料高いよね!」って聞いても、ほとんどの人が「???」で、あまり実感が無いようです。教育って大事だなと思います。まずは、自分がいくら取られてて、何に使われてて、どんな不正があるのかしっかりと広く国民が理解する必要がありそうです。
日本は「福祉やり過ぎ大国」です。
介護施設には、医者、歯医者、マッサージなどの業者が入り込んで、必要かどうか疑わしい「治療」を延々と行っています。
無駄を排除する仕組みを工夫しなければ、ザルに水を灌ぐようなものです。