内閣支持率が低迷するなかで、岸田内閣を支えてきた麻生太郎総理が「岸田おろし」を仕掛ける一方、菅義偉総理や二階俊博・自民党元幹事長ら「非主流派」が不穏当な動きを始めた――。岸田首相が解散に踏み切れない理由に対する説明としては、いちおう筋は通っています。ただ、この説明が正しかったとして、そのまま岸田首相がひきずり下ろされるのかどうかは別問題です。
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読売調査でも内閣発足以来最低を更新
岸田内閣に対する支持率が低迷しています。
『時事通信でも支持率最低更新…しかし有力野党は不存在』でも触れたとおり、当ウェブサイトで「定点観測」的にウォッチしている6つの世論調査のうち、11月に公表された3つの調査で、内閣支持率は政権発足以来の最低値を更新しているのです。
また、日曜日に公表された読売新聞の世論調査でも、支持率は24%と内閣発足以来の最低を更新し、不支持率も62%と前回比で大幅に上昇しています(※ただし自民党への支持率は依然28%で、7%だった維新と比べると4倍という水準です)。
自民党が大敗を喫するという状況は考え辛い
この点、先週の『首相は「年内解散しない」と見せかけているだけなのか』を含め、これまでに当ウェブサイトで何度となく触れてきたとおり、仮に岸田首相に対する支持率が低かったとしても、岸田首相が衆院解散を決断すれば、「数字で見る限り」、自民党はそこそこの勝利を収める可能性が高いです。
「岸田首相が年内解散をしないと決めた」とする報道については、すでに当ウェブサイトでも取り上げてきたのですが、やはり不自然です。正直、選挙「だけ」を考えるならば、もし岸田首相が合理的に判断し、決断するのであれば、解散総選挙は早ければ早いほど自民党にとって有利だからです。あるいは「解散しない」と見せかけて解散するつもりなのだとしたら、岸田首相も案外老獪かもしれません(誉め言葉とは限りませんが)。こうしたなか、ウェブ評論サイト『デイリー新潮』に、ちょっと気になる記事が掲載されていました。「年内解散... 首相は「年内解散しない」と見せかけているだけなのか - 新宿会計士の政治経済評論 |
その理由は簡単で、衆議院議員総選挙は小選挙区・比例代表並立制を採用しており、参議院議員通常選挙と異なり、第1党とそれ以外の政党の獲得議席数に、極端な差がつきやすいからです。
いくつかのメディアの調査だと、自民党は依然として、政党支持率では他党を圧倒しています。
もちろん、政党支持率と実際の選挙での得票は、必ずしもリンクするものではありません。しかし、(かりにメディアの世論調査がある程度正確ならば、)政党支持率と現実の選挙での得票が逆転することは考え辛く、少なくとも自民党を上回る票を立憲民主党や日本維新の会が獲得する可能性は低いでしょう。
このため、仮に岸田首相が今すぐ解散総選挙に踏み切ったとしたら、自民党が多少、議席を減らすことはあるかもしれないにせよ、自民党が下野するまでに惨敗を喫するとは考え辛いところです。
むしろ日本維新の会が躍進すれば、「維新タナボタ効果」で自民党が議席を積み増す可能性だってあります。維新が(自民党だけでなく)立憲民主党の候補者からも票を奪うからです。
小選挙区で当選したものの、2位の候補者との得票差が少なかったという、いわゆる「ボーダー議員の人数」は、小選挙区での当選者に占める割合でいえば、立憲民主党の方が自民党よりもはるかに多いということを忘れてはなりません。
仮に得票差2万票以下を「ボーダー議員」と定義づけると、2021年の総選挙時点でのボーダー議員は自民党が58人、立憲民主党が41人でした。小選挙区の当選者が自民党が187人に対し、立憲民主党は57人に過ぎなかったことを思い出しておくと、ボーダー議員割合の高さは、立民の方が深刻です。
だからこそ、客観的に見て、「政権を維持する」というだけのことを考えるなら、岸田首相は日程的に見て、できれば年内または年明けすぐにでも解散すべきなのです(その解散に大義があるかどうかは別として)。
なぜ岸田首相は解散に踏み切らないのか
もっとも、現実問題として、もし岸田首相が解散に踏み切らなかった場合、「なぜ解散に踏み切らなかったのか」については、仮説を立てるなどして考察しておく価値はありそうです。
今朝がたの『「首相が日本国民の現預金を外資の食い物に」…本当?』では、『マネー現代』というウェブサイトに掲載された記事を巡る話題を(批判的に)取り上げたのですが、本稿でももうひとつ、同じく講談社が運営する『現代ビジネス』というウェブサイトの話題を取り上げておきたいと思います。
岸田総理の「味方」だったはずの「財務省」がまさかの裏切り…!「年内解散」「所得税減税」を封じた「すべての黒幕」の名前
―――2023.11.18付 現代ビジネスより
岸田総理、大誤算…いよいよ「二階」元幹事長が動きだした!〈「徹底的にやるぞ」と菅前総理の前で呟いて…〉
―――2023.11.18付 現代ビジネスより
端的に申し上げると、この記事に書かれている内容が正しいのかどうかを判断するだけの材料を、著者自身は持っていません。「たしかに言われてみれば、現実と整合しているなぁ」、と思えるくだりもある一方で、「岸田首相が本当にそんなことを述べたのか?」と疑問を抱く記述もあります。
したがって、現時点でこの記事については、あくまでも「仮説」として読むのが正しいのではないかという気がします。
ごく大雑把に要約すれば、岸田首相自身は11月9日、朝日新聞と読売新聞がそれぞれ朝刊1面トップで報じた「年内解散見送り」の報道により、事実上、解散が封じられただけでなく、「味方」だったはずの財務省の裏切りに遭った、というものです。
ちなみに記事リード文にある「私はそんなこと言ってない」は、岸田首相の発言なのだそうです(真偽不詳ですが)。
財務省の裏切りとその裏に麻生総理の影
この「財務省の裏切り」とは、いくつかあります。
ひとつは鈴木俊一財相が8日、衆院財務金融委員会で「税収の増えた分は、政策的経費や国債の償還などですでに使っている」、「減税をするなら国債を発行しなければならない」と述べた、とするもので、これは「岸田(氏)が言ってきた『税収増を還元する』という所得税減税の理屈を真っ向から否定した」ものです。
もちろん、この鈴木財相の答弁は、おそらくは自分で考えて作ったものではなく、財務官僚が執筆した内容を棒読みしただけなのでしょう。
実際、この「鈴木答弁」を「財務省の倒閣運動」と見る向きは多く、この現代ビジネスの記事でもその見方を踏襲していますが、それだけではありません。『週刊文春』が9日、「神田憲次財務副大臣が過去に税金を滞納して差し押さえを受けていた」と報じ、辞任に追い込まれた件も、その倒閣運動だとしています。
このあたり、国税庁を抱える財務省が、税金滞納の事実を知らないはずがありませんので、岸田首相が神田前財務副大臣を任命した際に、財務省は知っていてその情報を隠していた可能性があるというのは、そのとおりでしょう。
要するに、岸田首相の減税方針が財務省にとって不都合だから、財務省が岸田内閣を倒すために、その「切り札」のひとつを切った、という可能性です。
では、いったい誰がその糸を引いているのか。
現代ビジネスはこう述べます。
「先述した『解散見送り』報道といい、あまりにもタイミングがハマりすぎてはいないだろうか。これだけの大きな絵を描ける人物は、今の永田町に一人しかいない。財務大臣を8年9ヵ月務め、財務省の権化と言われる麻生太郎副総裁である」。
麻生太郎総理大臣が「財務省の権化」だという表現は、個人的にはあまり耳にしたことはありませんが、この点は脇に置きましょう。現代ビジネスによると、ここ最近、岸田現首相と麻生総理の間で隙間風が吹いていると指摘されていたのだそうです。
麻生総理vs菅総理・二階元幹事長
こうした「隙間風」の発端となったのは、岸田首相が所得税減税を打ち出した際に、岸田首相は麻生総理に対して「丁寧な説明や相談をしなかった」(全国紙政治部記者)ことなのだとか。
「麻生が、言うことを聞かなくなった岸田を降ろして、別の人に首をすげ替えようとしている─そう見る政界関係者が増えているのだ」。
そして、麻生総理がこのタイミングで倒閣を仕掛けている理由は、岸田首相の迷走ぶりにある、というのが現代ビジネスの見立てですが、それだけではありません。自民党内で「小石河連合」、つまり小泉進次郎、石破茂、河野太郎の各氏を中心とした党内非主流派が急速に盛り返し始めたことなのだとか。
その「小石河連合」の背後にいるのは非主流派の大親分である菅義偉総理大臣と二階俊博元幹事長です。
現代ビジネスによると、菅総理と二階氏は9日、森山裕総務会長を交えて会食したそうですが、こうした動きを麻生総理が警戒し、早めに岸田おろしを仕掛けようとしている、というのが現代ビジネスの見立てでしょう。
ちなみに記事を読んでいて浮かぶのは、「ポスト岸田って誰?」という疑問ですが、これについても仮説が提示されています。朝日新聞と読売新聞に「年内解散見送り」とリークしたのが茂木敏充幹事長だ、というのがこの記事の情報だからです。
要するに、支持率の低迷で自らの党内への影響力低下と菅総理・二階氏の影響力上昇を恐れた麻生総理が、いまのうちに岸田首相のクビをすげ替えようとしていて、その「後釜」を茂木幹事長が狙っている、といった構図です。
くどいようですが、この説が正しいのかどうか、著者自身はその妥当性を判断する材料を持っていませんが、説明としては、それなりにすっきりしています。
このまま引きずりおろされるのか、それとも…
ただ、岸田首相もなかなかに老獪な人物です(※著者私見。なお、ここでいう「老獪な」、は、ほめ言葉とは限りません)。
解散の大権は首相にありますので、岸田首相が「解散する!」で押し切れば、法的には解散可能ですし、自民党がそこそこ議席を減らした場合、それこそ岸田首相が茂木幹事長や、場合によっては自民党副総裁の麻生総理に対し、責任を取らせるという形で引導を渡す可能性もあります。
あるいは、現在の岸田政権の党内支持基盤は宏池会(岸田派)、平成研(茂木派)、志公会(麻生派)ですが、岸田首相が清和政策研究会(安倍派)の支持を取り付け、茂木派と麻生派を「切る」という老獪さを見せることができるかどうかも、政局を読む上でのポイントとなり得るかもしれません。
いずれにせよ、自民党内で岸田首相の退陣を願っている勢力がいることは間違いないところですが、「岸田首相が退陣間際に追い込まれている」とまで断言して良いのかについては、微妙ではないかと思う次第です。
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本件に関しては、新宿会計士さんの主張に全面的に賛成します。内閣支持率が落ちても、本人が辞めるあるいは次の総裁選に立候補しないと言わない限り、なかなか総理の首は取れません。
二階さん菅さんのような反主流派がどれだけ騒ごうと、高市さんのように現職閣僚が勉強会を立ち上げようと、そんなことで倒閣には至らないと思います。
望みは限りなく薄いですが、岸田さんとしては、6月までは、内閣支持率をあげるべく、政策に没頭するしかないでしょう。そしてそれでも国民の支持率が回復しなけければ、潔く「次期総裁選には立候補しない」と宣言してほしい。菅さんもそうしたしね。ここでもあきらめず、岸田さんが変にもうひと粘りすると、次期総選挙で、いよいよ自公の過半数割れがあり得る展開になってしまいます(それでも総体多数なので、政権は自公でしょうけれど)。
ココに至り 池田大作 氏の訃報が"選挙基盤に自信ない自民党議員"にどの様な影響を及ぼすのか、ヲチ
紆余曲折はあるだろうが、おれは岸田には解散は打てないだろうと推察する。
ボーダーラインにいるだろう50人あまりの議員が不満分子の核になり、それぞれの派閥の長に泣きつき、選挙の顔をすげ替える、、と見る。ただ男性議員では陰謀臭がつきまとう。国民にしっかりと根付いた自民党不信はなかなか払拭はできない。斬新なイメチェンを行う必要がある。単に岸田を総理の座から引きずりおろすだけでは意味はない。憲政史上初の女性首相ならば100%でなくともイメージは良化する。理想は高市。保守層が支持してる。岩盤支持層がもどるかもしれない。対抗に上川。ただ、中国絡みで力を発揮していない。不当な勾留者の解放、中国ブイ撤去の問題、輸出規制の帰趨が立ちはだかる。国民が嫌う親韓議員だというのも引っ掛かる。党内基盤があるのは上川。嫉妬渦巻く権利闘争で決断できるだろうか。できないな。早速高市勉強会に横槍がはいるくらいだもんな。なぁセコメガネ!
概ねサイト主どのの見解に同意しますが、岸田文雄首相が今の地位に踏みとどまることこそがせっかく回復基調に乗り始めている日本社会の未来に対する「不確実性」「不明朗性」の根源であると国民総意が固まるなら、日々実績稼ぎに現を抜かす今のやりかたは通用しないのではないでしょうか。
自民党のパーティー券にまつわる不正疑惑問題に検察が捜査を始めたらしく、今後大きくなりそうな情勢です。
パーティー券収入な関する不正は、自民党のすべての派閥で行われていたようなので、この問題は、岸田政権だけでなく自民党の支持率を大きく下げる事が予想されます。
このような事態になれば、解散はますます困難になると予想されます。
岸田政権は、このまま任期満了まで継続するという感じになって来ました。
次回の衆議院選挙で、自民党が過半数を失う可能性もありそうです。
岸田の減税をめぐるごたごたを見て感じるのは、自民党税調がかなり力をもっているのではないかということ。
かつて山中貞則という税調会長がいたが隠然たる力をもっていた。
政府税調を軽視しているのではという記者の問いに、「軽視はしていない。無視している」
自民税調は「税は国家の根幹だ」という考えがあり人気取りのための減税などさせないという態度。インナーと呼ばれる税調幹部は金庫の前に座っている番人と言ったところか。
こういう頑固者がいるということは一種の内部統制、牽制の機能をもっているとも考えられる。
ただ自民税調が影響力を行使できるのも自民党が政権与党だから。
あんまりケチなことばかり言って政権失えば元も子もないと知るべきだ。
麻生黒幕説……ですか。
麻生元首相が故安倍元首相に匹敵する程マスコミに嫌われていた事を考慮すると、
あんまり信用できない説だなあ。完全に否定もし難いけど。
人事での失望は政策以上に取り返しが付かないと思います。即時解散しなければ再任断念でしょう来年