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    Categories: 外交

「親日派を応援し韓国を変えよう」という発想の傲慢さ

外交を通じて相手国を変えることができるのか――。もしそうだとしたら、地球上のさまざまな争いも、簡単に収まるに違いありません。ウクライナ、ガザ、台湾と、現に衝突が発生している地域、きな臭い地域はあります。問題が簡単に解決しないという事実は、外交を通じて相手国を変えることが難しいことの証左でしょう。それなのに、なぜ対韓外交で「韓国で親日派を増やせ」という発想が出てくるのでしょうか。理解に苦しみます。

鈴置論考とヤフコメの反応

今朝の『ハマスと韓国:鈴置氏「対韓譲歩論」の愚を改めて警告』では、優れた韓国観察者である鈴置高史氏の、こんな論考を紹介しました。

「ハマス奇襲」を見て韓国が慌てだした 「融和策が“北朝鮮奇襲”を呼ぶ」VS「“力による平和”こそ危険」の対立

「ハマス奇襲」が韓国の左右対立に拍車をかけた。第2次朝鮮戦争を引き起こすのは左派の対北融和策か、保守のイスラエル張りの強硬策なのか――。この論争に出口はなく「銃声なき内戦は激しくなるばかり」と韓国観察者の鈴置高史氏は言う。<<続きを読む>>
―――2023/10/31付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より

端的にいえば、優れた論考です。

記事の主題は「ハマスのイスラエル攻撃を受けた韓国国内の反応」ですが、これに加えて「日韓関係改善を進めよ」とする主張に対し、動かぬ事実を突きつけ、それを厳に戒めるという意味では、大変に重要な論考でもあります。

これについては『Yahoo!ニュース』にも転載されており、複数の読者コメントが寄せられているのですが、冷静なコメントも多く、とりわけ目に留まったのが、こんな趣旨のコメントです。

ウクライナ、中東、台湾、朝鮮半島なら、(米国にとっての)優先順位が一番低いのは朝鮮半島でしょうね」。

そもそも南北朝鮮は同じ民族同士ですから、どこかの国の「ケンポーキュージョー教」の信者の皆さんには、今こそ韓国に出掛け、「話し合いで北朝鮮の核放棄を実現させるべきだ」と呼び掛けていただきたいところです。

コストに合わない日韓関係

それはともかく、正直、日本にとっても米国にとっても、中東有事や台湾有事の方がはるかに重要であり、深刻です。産油地帯である中東情勢不安も、シーレーンを担う台湾海峡付近も、いずれも日本の安保に直結しますが、韓国・朝鮮半島にはそのような重要性はないからです。

もちろん、地政学的に見て、朝鮮半島は日本から非常に近い位置にあり、もしこの場所全体が中国、ロシアなどの敵対的な国の支配下はいし影響下に入ると、日本も国土防衛などの面で、少なくない追加負担が生じる可能性はあります。

しかし、「こうした負担を避けるために、韓国との友好関係を無理やりにでも維持しなければならない」、などといった発想は、大きな間違いです。そもそも韓国との国交を維持することに、日本はこれまでどれほどまでに大きなコストを負担してきたのか、考えてみた方がよいでしょう。

法的には日本がまだ占領下にあった1952年1月、韓国は一方的に「李承晩ライン」を宣言し、島根県竹島を一方的に自国側に編入し、1954年までには不法占拠を開始しています。また、竹島近海で多くの日本人漁民が拿捕されるなどの被害にも遭っています。

また、1965年の日韓基本条約・日韓請求権協定では、合計5億ドルに達する有償・無償の支援が盛り込まれたほか、その後も日本は韓国に対し、インフラ建設や産業振興など、莫大な技術と資本を惜しみなく支援してきました。

その結果、韓国は国内に日本と競合する産業を多数育成し、ときとしてそれらのメーカーによるダンピング、あるいは韓国の為替操縦を通じた国を挙げたダンピングなどを通じて日本の産業が潰されてきました。半導体産業などは、その筆頭でしょう。

東日本大震災後の日本に「義援金」の台湾、「慰安婦像」の韓国

しかも、日本が韓国に対し、莫大な支援を与えたにも関わらず、その韓国では「日帝36年」(※厳密には「35年」です)を合言葉に、日本に対する敵愾心が依然として鼓舞され、戦後80年を迎えようとするなかで、反日感情もますます盛んです。

日本が東日本大震災で深く傷ついた2011年といえば、台湾が200億円という圧倒的に巨額の義援金を届けてくれたことも私たち日本人の記憶に残っていますが、それ以上に強烈な話題があるとすれば、韓国・ソウルの日本大使館前に慰安婦像が建立されたという事実でしょう。

傷ついた日本人に温かい手を差し伸べてくれた台湾と、自称元慰安婦問題という「捏造問題」に基づいて日本を積極的に傷つけた韓国。有事が生じた際に、そのどちらを優先的に助けるべきか――。

地政学的な要因を除けば、国民感情としては正直、台湾の方が大切だと思っている人が多いのではないでしょうか(※もっとも、最近だとテレビがやたらと「韓国推し」をしているためか、情報弱者層を中心に、韓国への関心も高まっているようですが…)。

「韓国国内の親日派を応援しよう」

こうしたなかで、日本の側では「韓国の親日派を見捨てるべきではない」との意見も出てきました。

韓国の「親日派」を見捨てるな 日本の保守系に分断、慰安婦合意など「甘いことをしても、ちゃぶ台返しされる」との声

―――2023/10/31 17:00付 Yahoo!ニュースより【zakzak配信】

これは産経系のウェブメディア『zakzak』が31日付で配信した記事で、尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権が対日関係で文在寅(ぶん・ざいいん)前大統領の時代とは「打って変わった合理的姿勢である」としたうえで、「『親日派』を見捨てては、長期的に『親日派』を増やせない」、などとするものです。

端的にいえば、普段から当ウェブサイトで取り上げている、「外交を通じて相手国を変えることができると勘違いしている典型的な事例」そのものでしょう。

記事の中では、こんな記述が出てきます。

韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が対日関係で、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領時代とは打って変わった合理的姿勢であることをめぐり、日本の保守系の人たちに分断がみられる」。

保守派でなくても、朴槿恵(パク・クネ)元大統領の『告げ口外交』とか、文政権の徴用工問題への無責任な姿勢を怒っていた人は多いからだ」。

『韓国には甘いことをしても、ちゃぶ台返しをされるだけ』という人もいる。安倍晋三首相が在任当時、朴大統領(同)に対して信じがたいほど辛抱強く門戸を開け続けて慰安婦合意にこぎ着けた一方、文大統領は相手にしないというメリハリを付けたことを思い起こすべきだ」。

慰安婦合意、反故にされてしまっていますが…(笑)

そのうえでこの記事では、「慰安婦合意で米国を巻き込んで『最終的かつ不可逆的な解決』をうたって歯止めにしたように、周到に工夫すればいいことだ」、などと述べるのです。「合意を破られないように工夫しろ」、などとおっしゃるわりに、現に慰安婦合意は反故にされてしまっていますが…(笑)。

慰安婦合意に関しては2015年12月、故・安倍晋三総理大臣の命を受けた岸田文雄外相(現首相)が韓国・朴槿恵(ぼく・きんけい)政権と取り交わしてきたものですが、文在寅政権時代に完全に反故にされ、現在に至ります。

その慰安婦合意自体、文在寅政権が反故にしたことを、岸田首相自身が当事者として関わった案件であるのに、尹錫悦大統領に対して問い詰めている形跡は見られません。その意味でも、岸田首相の政治的センスのなさ、実務能力のなさは、絶望的です。

(※慰安婦合意は安倍総理の下で当時、官房長官を務めていた菅義偉総理大臣が深くかかわっているとの情報もありますが、合意を取り交わしてきたのは岸田首相本人であるため、やはり慰安婦合意破りを不問にした問題の責任は、菅総理ではなく、岸田首相にあると見るべきでしょう。)

しかも、この記事では日韓関係において、「政治家に限らず、『親日派』に報いる方策を多角的に考案すべき」、などと述べます。わかりやすくいえば、「親日派にご褒美を与えよう」、という発想です。

「外交を通じて相手国を変える」という傲慢不遜な考え方

このあたりを見ていただければだいたいわかると思いますが、「親日派にご褒美を与えよう」は、日韓関係の現実を無視した、極めて甘い認識であるだけでなく、外交や経済的利益で相手国を変えようとすること自体、大変に傲慢な発想ですし、相手国にも失礼というものでしょう。

日本が日本の判断や利益で動くのと同様、韓国は韓国の判断や利益で動きます。

もし日本が国を挙げて、韓国国内の「親日派」(?)とやらに利益を与えようとすれば、それは韓国国内の内政に干渉しているのと同じですし、また、韓国国内の党派争いに、日本が積極的に関わっていくということを意味しています。

日本がかつて日清・日露戦争を戦った背景には、朝鮮王国(や大韓帝国)が積極的に国内の派閥争いに外国勢力を引き入れてきた、という要因があったことを、忘れてはなりません。

むしろ日本としては、外国の内政の問題に、「積極的に関わるべきではない」のです。

自称元徴用工問題も、自称元慰安婦問題も、せっかく安倍、菅両総理が「韓国の国内問題」にしてくれたのです。自称元徴用工問題に関しても純粋に「歴史問題」ではなく「韓国の国際法違反問題」であり、「解決の全責任は韓国にある」とだけ述べて放置すべきだったのではないでしょうか。

その意味で、「ウソツキ外務省」に騙されたのか、岸田首相の稚拙な対韓外交は、日韓関係史における汚点となったことは間違いありませんし、今回の『zakzak』の記事を執筆した方のような、「韓国は日本の努力で変えられる」とする傲慢不遜な発想は、日本外交にとっては百害あって一利なし、なのです。

いずれにせよ、今朝も論じたとおり、したり顔で韓国との友好を説く人は、日韓関係を「日韓」だけで見るから、こういう間違いを犯すのでしょう。

そして、外交を通じて相手国を変えることができるのならば、世界の争いはもっと少なくなっているはず。それが実現できていない時点で、「外交で相手国を変える」は、絵空事であると断言せざるを得ないといえるでしょう。

新宿会計士:

View Comments (19)

  • >韓国の「親日派」を見捨てるな
    未だにこんなこと言う人がいるのですね
    (´Д`)ハァ…

    100歩譲って、半万年かけて新日派とやらを増やすにしても、アメを与えることの無意味さは、この数十年で思い知ったと思うのです♪

    やるんなら、韓国がおかしな言動を示すたびにムチを与えることが先だと思うのです♪
    そうやってちゃんと韓国をコントロールしてる中国に学ぶべきだと思うのです♪

    ぶっちゃけ、韓国人が内心で日本や日本人を憎んでたりするのは別にどうでも良いのです♪
    その内面を言動として現したらゲンコツを喰らうってことを教えて、そんなことしないようになってくれれば十分だと思うのです♪

  • 韓国に「親日派」なんかいないでしょ。いるのは「用日派」だけ。
    この八幡和郎と言う人は、大層立派な肩書だけれども、何を見てきたのか。

    まず反日教育をやめろと言いたい。話はそれからだ。

  • 日韓関係のみのスコープで対韓外交を語りたがる人って、日韓関係でメシ食ってる人か視野狭窄の人くらいなんでしょうかね。相対的な位置づけは知らないより知っておいた方がいいに決まってるんだし。まあ、そういう言説はあまり参考にしない方がいいのでしょう。

    以下、どうでもいいのですが(上もどうでもいいけど)、「傲慢不遜」と「傲岸不遜」の違いを考えてみました。よく使われるのは後者かと思います。
    傲慢も傲岸も、おごり高ぶっている意味が含まれるそうですが、傲岸はその状態を単純に示すのに対して、傲慢は「相手を見下す」意味が含まれるらしいです。辞書系のサイトによると。
    この場合どっちが正しいか・・・その行為の由来が韓国なら「傲慢不遜」で合ってるかもと思いました。

  • もし「親日派を応援して韓国を変えよう」が成立するなら、「鳩山由紀夫(元)総理と朝日新聞を応援して日本を変えよう」も成立するのではないでしょうか。(後者が成立するから前者も成立する、と言いたいのでしょうか)

  • 話せばわかる、、これをロシアやイスラエルあるいは中国で実践できたなら、
    オレも「友愛」を標榜する宇宙人ユッキーを信じてあげよう。話してもわからない奴がいるから諍いが絶えないのだ。学歴が人格に比例しないことは痛烈におしえて貰った。大部分の日本人がどうせ尹大統領の間だけつかの間の友好?とかんじているはずだ。そういう意味ではレーダー照射や竹島の帰属問題など韓国が我が国に仕掛けた暴挙は解決しないままの友好は絶対にありえないのだ。こんな小さなサイトでも(会計士さん失礼!)みんな、、あるいは一部の人を不快にさせても自説を曲げない人もいるのだ。国同士ならなおさらで理解し合うことは非難の技だと思うしかない。疑問がのこる。核ボタン一つで相手国を殲滅できるのだ。朝鮮半島生命線設はまやかしとかんがえる。岸田の支持率が30%を割った。退陣は時間の問題だと思いたいが、嫌なことは岸田に押し付けそうで恐ろしい。岸田リスク、、、なにもしないで欲しい。切実に思う。

    • 生命線設→生命線説
      非難の技→至難の技
      訂正させてください。

  •  「親韓派を応援して日本を変えよう」が一時成功しちゃっていましたが、情報技術の進歩のお陰か自然の成り行きか、反動で大変な事になっていますからね。長期的には無理な考え方なのでしょう。諦めてなさそうだけど。
     八幡氏は、戦国時代等の歴史観や安倍総理評などは参考になる記事を多々書かれますし、保守を自認していそうなのですが、こと韓国の扱いとなると実態に沿わない理論……「韓国を敵にするよりは味方にした方が良いに決まっている」等が多く見られる気がします。「そりゃあそうだったら良かったんだが」的な。
     常識というメガネで奴らを見てはいけない。

  • 日本の国会議員のなかには、朝鮮語が喋れる人や、鈴置氏や西岡力氏のような朝鮮半島の情勢を国益の観点から、客観的に分析できる人がいないですね。近視眼的にしか判断できない人が多い。
    ちょっと過激なことを言うと左翼のメディアが騒ぐのも問題ですけど。
    これでは、北朝鮮に拉致された人は永久に帰ってきません。

    • ”とにかくあかん、るい松川”議員が、韓国語に堪能なようですね。
      ・・・・・
      ご褒美が欲しいだけの人たちに、先渡しは厳禁です。
      「貰えるものを貰う」までが行動原理だからですね。

  •  この意見の方は、武藤元大使やエッフェルおばさんなど、外務省関連に、それなりにいるようにお見受けします。米国にとっても都合が良いアイデアでしょうからね。
     韓国が中国側に付くよりは、日米側に付いた方が、日本の国益に叶う(異論はあると思います-不確かな味方はいない方がまし、とか)とは思います。しかしながら、韓国を日米側に引き留めておくために、日本が何らかの譲歩・思いやり・配慮をすることには、断固として反対です。それほどの価値があるとも思えない。
     いわんや「韓国の保守派を見捨てるな」。具体的に何を言いたいのだろう?放っておいても、下駄の雪と同じで、韓国は日米側に付いて来ますよ。むしろガツンとやった方が、はっきり立場を明らかにさせると、私は思います。コウモリ外交に褒美をあげてはいけません。

  • 前の文ちゃん政権は倒日派でしたが
    今の政権は用日派であり、
    比較すると一見 親日のように誤認させれらそうになりますが
    どちらも反日であることにはかわりはありません。

    新宿歌舞伎町で例えると同じチンピラでも、
    路上でカツアゲ派と
    甘い言葉でボッタクリバー誘い込みポン引き派の
    違いのようなものでしかないんだなあというのが
    私の感想です。
    そして、
    そんな反日の用日派を親日だ(笑)と囁いてくる
    韓流の人たちは
    用日派ボッタクリバーへのポン引きさん
    のお仲間のようにさえ感じます。

    はるばる来日される外国人観光客に
    日本が人気なのは嬉しいことですが
    ただでさえもオーバーツーリズムの日本に
    困ったことに一番たくさん来てしまい
    日本を直接その目でみても
    自国の嘘捏造で謝罪賠償求めるチンケな姿勢を
    批判するのはごく少数にとどまっているのが韓流なのには呆れます。

    愛犬家の人に聞いたのですが
    ノラ犬に心開かせ共生までいくのは大変ですが
    とても素敵なことです。
    ただ、どんなに愛情注いでも元来の習性から
    どうしようもない野良犬もいて
    お互い不幸になるだけなので
    最初餌をあげる際には その見極めが大切なのだそうです

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