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「労働力不足で留学生の就労制限を緩和せよ」の筋違い

慢性的な人材不足に加え、最近の物価高の影響もあり、外国人留学生の週28時間の就労制限を緩和すべき、とする主張が出てきました。本末転倒です。そもそも論として日本で就労しなければ学問も生活もできないような人たちを留学生として受け入れているという現実もおかしな話ですが、そこには外国人留学生を安い労働力として使い倒そうとする経営者らの事情も透けて見えます。

慢性的な人不足:求人倍率は1倍超

国内では現在、慢性的な人不足が顕在化しつつあります。

有効求人倍率が恒常的に1倍を超えているほか、失業率は「完全雇用」のめやすとされる3%の水準を割り込んでいる(図表)ことは、その証拠でしょう。

図表 完全失業率(反転表示)と有効求人倍率

(【出所】完全失業率は総務省統計局『労働力調査 長期時系列データ』、有効求人倍率は政府統計の総合窓口『一般職業紹介状況(職業安定業務統計)』データをもとに著者作成)

これは果たして、良い話なのか、悪い話なのか。

少なくとも、これまで「コストカット至上主義」に基づくデフレ経営を続けてきた業態の経営者らにとっては、大変に困った状態です。圧倒的な利益を上げるために必要だった、「安く使い捨てできる労働者」が、市場から枯渇し始めているからです。

だからこそ、最近だと「人手不足倒産」なる造語も出てきましたが、これも奇妙な話でしょう。本来、「人手不足だ」というのなら、適正な給料を払えば良いだけの話だからです。そして、適正な給料も払えないほどに儲けが少ないというのならば、それは経営者の努力が足りないだけの話でもあります。

雇用状況は私たち一般国民にとって歓迎すべき

いずれにせよ、私たち国民の多くは生活者であるとともに消費者であり、そして働き手です。

有効求人倍率が高く、失業率も低いという状態は、間違いなく、(ある程度のタイムラグを伴うにせよ)賃金水準の上昇という形で波及効果をもたらします(賃金上昇速度と物価上昇速度のつり合いが取れているかどうかについては別問題ですが)。

すなわち、圧倒的多数の働き手にとっては、賃金水準の上昇は、間違いなく、歓迎すべき状況なのです。

もっとも、人手不足が常態化していけば、安く使い倒せる労働力を、たとえば外国から連れてこようとする力学が働きます。「Fラン大学」と呼称される、教育水準も研究水準も決して高くない大学などが、留学生という形で定員割れを誤魔化している問題などは、有名でしょう。

そして、私立学校のなかでも大学や高校、中学などに関しては、私学振興助成法という法律で教育経費の最大半額が補助されるため、留学生などで無理やり定員を充足しているような学校に対しても、教育経費補助金という形で、私たちの税金が浪費されていることは、忘れてはなりません。

「留学生の就労制限を緩和せよ」?

こうしたなかで、理解に苦しむ記事があるとしたら、これかもしれません。

物価高に苦しむ留学生 週28時間就労制限は妥当か 人手足りぬ日本の現場

―――2023/10/25 15:44付 西日本新聞より

これは西日本新聞に25日付で掲載された記事で、学費や食費を自ら稼ぐ必要がある発展途上国からの留学生が物価高で生活に苦しんでいる、などとしつつ、週28時間までの就労制限が妥当なのかどうかと問題提起するものです。

気になった記述をいくつか拾っておくと、こんな趣旨のものがあります。

物価高もあり、短い就労時間では生活が困難な留学生が少なくない。人口減少で日本の人手不足が進む中、経営者側にも留学生の労働力に頼らざるを得ない事情が透ける」。

そもそも「留学生」とはその名の通り、就労者ではなく、日本で勉強する人たちです。(程度の差はあれ)自ら働かなければ生活ができない人たちが「留学生」としてわが国にやって来ているという時点で、その人たちには留学中の学費・生活費を払うだけの資力がない、ということではないでしょうか。

もちろん、財団などが優秀な学生に対して奨学金を支給し、学問の機会を与えるということは、世界的に行われている話ですが、そもそも奨学金を取れるほどのポテンシャルもなく、働きながらでなければ学べないような人たちを留学生として受け入れているということ自体がおかしくないでしょうか。

また、「経営者側も~」云々の記述も、言葉を補えば、こういうことではないでしょうか。

日本で労働力不足が進むなか、経営者側としては安い値段で雇える留学生の労働力に頼らざるを得ない」。

記事の中で疑問点があるとしたら、それだけではありません。次の記述などは、明らかに違法行為でしょう。

留学生側の情報を集めたところ、ダブルワーク(兼業)をしている人が大半。兼業と合わせると週28時間の就労制限を上回る人もおり、出入国在留管理庁などに兼業がばれないよう給料を手渡しで受け取っているという」。

就労制限を上回って働いていること自体も問題ですが、それが「ばれないようにするために」、給料を手渡しにしている側も、違法行為に加担しているようなものでしょう。なぜなら週28時間の就労制限は「本来活動の学業に影響を与えないため設けている」もので、「違反すれば在留資格が取り消されることもある」からです。

ちなみに記事によると、福岡市で留学生活を送る20代のネパール人女性は「時給950円でアルバイトをし、月約10万円を稼いでいるが、家賃と食費でほぼ消える」、「お金持ちではないので実家からの仕送りは厳しい」としたうえで、「週30~35時間は働かせてほしい」と訴えるのだそうです。

この時点で、おかしいでしょう。「留学生」という設定なのに、週30~35時間も働けば、日本滞在の主目的は、もはや学業ではなく就労そのものです。

就労制限緩和を求める経営者のホンネ

ちなみに記事では留学生の生活が苦しくなっている要因として、「物価の高騰」や「記録的な円安」を挙げているのですが、現在が「記録的な円安」だというのなら、それこそご実家から仕送りをしてもらっている学生の場合は、(送金通貨にもよりますが)むしろ円建ての手取りが増え、就労時間を減らせるはずでしょう。

また、記事では留学生が「留学には渡航費など100万円以上を前払いする必要があり、借金して来日する人が多い」と述べているそうであり、「その返済や生活のため、違法と知りながら制限時間を超えて働く人もいる」、などとしていますが、それは日本という国が配慮すべき話ではありません。

そして、雇う側の言い分も、明らかにメチャクチャです。

記事によれば福岡市でサービス業を営む50代経営者は「外国人に頼らざるを得ない」としたうえで、週28時間の就労制限については「雇う方も効率が悪いし、留学生も生活できない」、「実態に即した制度に変えた方がいい」と述べた、などとしていますが、これもおかしな話です。

「私には経営能力がなく、日本人の従業員に適正な報酬を支払うことができません」、「仕方がないから安く使い倒せる外国人をこき使っています」、「週28時間といわず、もっと長時間こき使えるようにしてください」、と述べているのとまったく同じだからです。

ちなみに出入国在留管理庁は「見直しに慎重」だそうですが、当たり前でしょう。

いずれにせよ、外国人留学生の就労制限の問題は、結局のところ、人手不足という問題だけではなく、文部科学省の学校法人に対する許認可利権と私学振興助成法利権、そして外国人留学生を安く使い倒したい経営者という、複合的な要因が絡み合っているといえるのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (17)

  • >これは西日本新聞に25日付で掲載された記事で、学費や食費を自ら稼ぐ必要がある発展途上国からの留学生が物価高で生活に苦しんでいる、などとしつつ、週28時間までの就労制限が妥当なのかどうかと問題提起するものです。

    新宿会計士様の仰るとおり、
    >学費や食費を自ら稼ぐ必要がある
    という時点で留学生の資格がないと思うのです♪
    別に自腹じゃなくてもいいから、出身国なり、なんかの財団なりから、留学期間の生活費と帰りの飛行機代の保障があって、はじめて留学生になる資格があると思うのです♪

  • サムライアベンジャー(「匿名」というHNは、在日コリアンの通名と同じ恥ずべき行為) says:

     地元であるとき、おそらく東南アジア系の若者のたくさんの集団がぞろぞろ歩いていました。その集団の後ろに、日本人サラリーマン風の男が何やらきょどきょどおどおどついてきているのです。明らかにこの集団を率いている人物でしょう。その集団の行き先まで見たわけではないのではっきりとはわかりませんでしたが、おそらく工場のような職場まで連れて行っているのでしょう。その日本人男の態度を見るに、なにか違法ぎりぎりの働かせ方をさせていると簡単に想像できます。
     こういったテレビや新聞に情報が載らない、日本の社会の動きをよく見ていきたいものです。

     こういった留学生なり移民受け入れなりの話で、経団連に忖度してか日本のメディアどもは「制限を緩和せよ」「人材不足だから外国人を使おう」といった論調で報道するのでほんとうに注意が必要です。移民国家がどうなるのか、報道の人間はまったく知りもしないドあほうばかりなんだなと思いますが。

     国家の情勢がどうであれ、我々は全力で外国人受け入れを緩めることに反対しなければなりません。「移民国家」化するのを全力で防がなければなりません。「移民国家」にいいことは一つもありません。移民のいい点ばかりが目立つアメリカも、おびただしい「悪い移民」の上に成り立っています。アメリカ人は移民国家であることにちっとも面白いと思っていません。企業が安い移民を欲しがっているだけです。

     わたしはどちらかというと、よい留学生・留職の外国人をよく知っています。その私が、「外国人の受け入れ・留学生の労働時間の緩和」に猛烈に反対しています。移民国家がよくないことをよく知っているからです。

     人手不足はたしかに簡単に「じゃあ外国人を入れよう」という流れになりがち。国民で知恵を絞って、人手不足・物価上昇などの問題を考えていきたいものです。今のところよい処方箋が思い浮かばないんですけれど、経済評論家の三橋氏https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entrylist.htmlなども強烈に反対してますね。移民で栄えた国はないと。

     

  • ものすごーーーーく単純化して言えば、外国人労働者を入れたい経営者の本音は

    「もっと安い労働力を!それで貧富の差が激しくなっても、日本人失業者が増えても、
    治安が悪くなっても、俺たち”富裕層”には関係ナッシング!」

    なんでしょうかねえ?さすがに単純化しすぎかも知れませんが。

  • 外国人留学生に人気のアルバイトって、時給の高い夜勤バイトなんですよね。夜勤明けで登校して、授業中は爆睡・・・ネットでそういう画像が拡散されたこともありましたね。

    しかも、ほとんどの留学生は、日本語もそれほど上達しないうちに留学期間を終えます。(日本語能力試験のN3レベル) 日本語が下手なので事務職に就職することができず、アルバイトでやっていた低賃金の単純労働を続けようとする人が多いです。

    そういう人達が日本に住み続けて、家庭を持ったりしたら、当然、貧困世帯になります。すでに一部の自治体では、そんな外国人住民が増えていて、対処に困っています。ゴミの分別もしない、できない。自治体から 「大切なお知らせ」 が届いても、読めないので放置・・・。

    >留学には渡航費など100万円以上を前払いする必要があり、借金して来日する人が多い。

    技能実習生もそうですが、ブローカーを通すからそうなるわけで、本来はこういう人達にビザを出しちゃダメですよ。

  • 補助金は麻薬です。
    もらう方も渡す方も人間がダメになります。

    外国人留学生を安く使役できることも、麻薬みたいな中毒性があるのでしょうねえ。

    制度自体は有意義なものだと思いますけど、立法した人が性善説の世間知らずだったのか?

    小耳情報では、当局担当者も少ない人手で現状把握や追跡調査しておられるようです。

    地域ぐるみでうまいこと回る仕組みに改善したらいいな、と思います。

  • 多少時給を上げても応募のない仕事はあるだろう。
    思い浮かぶのはホテルの部屋の掃除。床に掃除機をかけ、トイレを掃除、ベッドを整えてタオルを交換。原則2人でやる。部屋の造りはみな同じ。
    ああいう単調な仕事、時給が高くても日本人の応募は少ないのでないか。

  • たとえ外国人であろうと、苦学生を一概に否定しようとは思わないので、留学生が留学費用の足しにするためにある程度アルバイトをするということ自体にさして問題があるとは思いません。しかしながら、留学生はあくまでも勉強するために来日しているので、アルバイトに時間と体力を取られて勉強に支障をきたすというのは本末転倒な話です。
    週28時間働けるということは、週7日働けば一日4時間、週5日でも約5.5時間働けるということになります。労働内容にも拠りますが、毎日そんなに働いて、学習に支障をきたさないものなのか、少々心配になります(専攻にも依るでしょうが)。そう考えれば、上限緩和などというのは、本末転倒を推奨するようなものであり、出稼ぎ目的の偽留学生を増やすだけとなりかねません。

    ただし、運用上の問題として、すべての週で28時間以下とはせず、例えば、1か月あたり112時間までとか、3か月で336時間までならOKというやり方は可能かもしれません。要は、短期集中で収入を得てもらって、残りは学業に専念するという趣旨です。このような方式であれば、キリをよくするため、1か月120時間、3か月360時間程度の上限拡大はやむを得ないような気もします。
    結局のところ、排除したいのは最初から出稼ぎを目的としている偽留学生であり、真剣に勉強したいと考えている(貧しい)留学生ではありません。

  • 外国人労働者の件については、下記の問題も噴出しているみたいですしね。

    外国人技能実習生の賃金が高卒初任給と同等に:日本的経営はもう限界? アゴラ編集部
    https://agora-web.jp/archives/231026012858.html

    今までのツケが回ってきた感がありますね。
    何処かで血を流すくらいの大規模な改革をしなければいけなかったのを、ずっと先延ばしし続けてきたから、この様な事になったのでしょう。
    日本人にある事勿れ主義の弊害とも言えますね。

  • 移民大賛成
    少子化してるんだから移民2000万人必要と自民党も言ってる
    もっともっと安い労働力が日本経済に必要なのは明らか
    ここでアベノミクスの成果にケチつけてるヤツは反日
    自由移民党万歳

    • x60 様

      どのレベルの移民を考えています?

      ドイツ・英国は移民受け入れ失敗例となっています。

      移民(主に技能実習生・留学生)政策はアベノミクスの失敗例だと思いますよ。
      消費増税はアベノミクスには入っていませんが、それと双璧。

      この二つが無ければもう少し早く(2015年~17年)デフレから脱却できていた筈。

      • ドイツの惨状については、川口マーン恵美氏のいくつかの著書を、そしてヨーロッパ全体の話であれば、以下をお勧めします。

        『西洋の自死: 移民・アイデンティティ・イスラム』ダグラス・マレー著

        かなり読みでのある本ですが、とても参考になる本です。最低限でも、移民受け入れに賛成するのであれば、本書に書かれた内容を踏まえた上でにするべきでしょう。

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