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最新版「新聞値上げ」リストから見える新聞業界の現状

日本経済に新聞という非効率な産業を温存する余裕はない

新聞の値上げが続いています。昨日時点で調査をしたところ、昨年10月以降、今年11月までの時点で値上げをすると発表している新聞は、日刊の一般紙に限定しても、少なくとも53紙あります。これからもっと増えるかもしれません。当ウェブサイトではその個別リストを制作しましたので、本稿でそれを公開します。それにしても新聞というのもビジネスモデルが完全に破綻してしまいました。もっとも、新聞がなくなれば、その分、新聞トラック運転手や新聞配達員の方々は、違う仕事(たとえば宅配業)から引く手あまたかもしれません。

新聞の値上げ状況

文化通信の「購読料改定」タグ

業界全体が沈んでいるなかでの値上げは、どう考えても自分で自分のクビを絞めるようなもの。さりとて値上げしなければ原価も吸収できないという苦しい事情もあるようだ」――。

先週の『新聞部数が急減するなかで地方紙も「値上げラッシュ」』では、新聞の部数が急減しているにも関わらず、新聞業界では地方紙にまで値上げが波及しているようだ、とする話題を取り上げました。

値上げラッシュからは、こういった新聞業界の苦しい状況が見てとれます。

さて、これに関し、もう少し統一的・一元的に、新聞業界の値上げの状況を確認できるウェブサイトはないのかと思い、いろいろと調べてみたところ、便利なサイトを発見しました。

『文化通信』というウェブサイトの『購読料改定』という記事タグを表示する一覧ページです。

このページを10月16日時点で表示させてみると、全部で98件の記事がヒットします。

ただし、このうちの36件は2021年以前の値上げに関する記事であり(※ちなみに最も古いのは2017年6月7日付の「熊本日日新聞が2017年7月以降値上げする」という記事でした)、それらを除外し、2022年10月以降の62件について調べてみました。

このうちスポーツ紙や週刊紙・隔日刊紙、発行回数が週1回程度のタブロイド判、購読契約が「年単位」となっているものなどを除き、日刊一般紙に限定して集計すると、昨年10月以降の新聞の値上げは全部で53件あり、今年に入って以降の値上げが目立ちます。

値上げが表明された日刊一般紙は53紙

図表1は、これらのうちの朝刊(または統合版)に限って、その値上げ件数と平均値上げ額を調べたものです。

図表1 朝刊または統合版の値上げ件数と平均価格、平均値上げ幅(昨年10月~)
タイミング 値上げ数 平均価格 平均値上げ幅
22年10月 2紙 2,483円→2,900円 417.5円
23年1月 1紙 2,800円→3,150円 350.0円
3月 1紙 2,057円→2,400円 343.0円
4月 9紙 2,115円→2,433円 318.0円
5月 3紙 2,973円→3,360円 386.7円
6月 5紙 2,533円→2,956円 422.6円
7月 10紙 3,314円→3,780円 465.6円
8月 6紙 3,192円→3,683円 491.7円
9月 2紙 2,700円→3,100円 400.0円
10月 10紙 3,010円→3,455円 445.0円
11月 4紙 3,375円→3,825円 450.0円
合計/平均 53紙 2,777円→3,186円 408.2円

(【出所】『文化通信』の検索結果や各紙の社告などを参考に著者作成)

これら53紙、平均して408.2円値上げされた計算です。

ちなみに11月1日からの値上げを予定している新聞は、現時点で判明している限り、河北新報、千葉日報、京都新聞、山陽新聞の4紙です(もしかしたら今後増えるかもしれませんが)。

これらのうち、月ぎめ3,300円を600円に値上げする千葉日報を除けば、いずれも朝刊の月ぎめ購読料は3,400円から3,900円へと500円値上げされます。値上げ前、値上げ幅、値上げ後の価格がほぼ横並びというのも面白い話です。

値上げされた新聞の一覧表

ちなみに新聞の値上げ幅を一覧にしたものが、図表2です。

図表2 新聞の値上げ幅一覧

(【出所】『文化通信』の検索結果や各紙の社告などを参考に著者作成)

値上げから見える新聞業界の限界

値上げの傾向:なぜか一律・横並び!

今年4月頃までの値上げ幅は月額600円値上げした熊野新聞などを除けば200~400円程度というレベルでしたが、5月以降は全国紙の朝日新聞やブロック紙の西日本新聞が500円値上げしたこともあってか、その後は大胆になっていきます。

とりわけ6月の毎日新聞(600円)、7月の日経新聞(800円)、日刊工業新聞(600円)などは値上げ幅が大きく、また、地方紙の各紙も400~500円、場合によってはそれ以上、という値上げ幅の新聞も散見されます。

さらに面白いのは、朝刊の価格設定としては、3,400円から3,900円へと500円値上げされる、というパターンが非常に多いことであり、このパターンに当てはまっていなくても、主要地方紙はだいたい値上げ後に3,900円になる、といったパターンが目立ちます。

値上げ後の朝刊価格が3,900円の新聞の例

西日本新聞、神戸新聞、中国新聞、産経新聞、秋田魁新報、東奥日報、信濃毎日新聞、下野新聞、山梨日日新聞、上毛新聞、四国新聞、山陽新聞、京都新聞、河北新報

見事に横並びです。

ですが、ここでシンプルに疑問もわきます。

これらの各社、経営状態も発行部数もまったく異なるはずなのに、また、発行されている地域がら、輸送に係るであろうコストも異なるはずなのに、どうして一律で横並びなのでしょうか。べつに新聞の発行価格は一律でなければならないと規制されているわけでもないのに、どうして価格が硬直的なのでしょうか。

もう少し踏み込んだ言い方をするならば、昨今の猛烈な部数減の影響もあり、新聞社によっては数百円程度の値上げではコスト増をまったく吸収できない、というケースだってあり得るのではないでしょうか。

新聞にかかる無駄なコスト

というよりも、そもそも紙媒体の新聞は、極めて非効率で無駄が多い事業です。冷静に考えてみればわかりますが、新聞の発行には、かなりの無駄なコストがかかっているからです。

新聞工場の設備投資(とそれに伴う毎年の減価償却費)、工場で働く人々の賃金、物理的に新聞を印刷するために必要な紙代、インク代、電気代、刷り上がった新聞を販売店に届けるために必要なトラックなどの設備投資、トラック運転手の人件費、トラックのガソリン代――。

本社工場でかかるこれだけのコストに加えて、新聞が各販売店に届けられて以降は、配達員が梱包をほどき、折込チラシを一部一部セットして、それらをバイクや自転車などに積み込み、毎日、それを各家庭に送り届けるのです。

そして、もし新聞が全面ネット配信に移行した場合、これらのコストがすべて不要になります。

これが、非常に重要な点です。

2024年問題といわれる空前の人手不足の到来が予想されるなかで、トラック運転手や配達員などの貴重な働き手を新聞事業に取られている現状は、大きな問題です。日本経済に新聞という非効率な産業を温存する余裕はありません。

それに、こうした無駄なコストの削減は、新聞社経営にとっても大きな課題です。

もちろん、新聞がウェブ媒体になったとしても、新聞記事を書く人や写真、動画を撮影する人、それらを編集する人などは必要でしょうが、逆にいえば、それ以外のコストはかかりませんし、記事が書かれてから実際に読者に届けられるまで、新聞とは比較にならないくらい短い時間しかかかりません。

東京・山手線の駅名を冠した怪しい自称会計士が運営しているウェブ評論サイトの場合も、「紙に印刷して全国に配る」という工程がありません。必要なコストといえばPCの初期投資に加え、毎月の通信費とレンタルサーバ代、ドメイン(shinjukuacc.com)の維持費用くらいなもので、何なら本社すらも不要です。

紙媒体の新聞がコスト競争力でウェブ評論サイトに勝てるはずなどありません(事実、ウェブ媒体が成功していると指摘される日経新聞の場合、今年の値上げではウェブ契約の価格は据え置かれています)。

当然、当ウェブサイトの場合も、今のところ、購読料を値上げする予定はありません(というか、購読料はゼロ円ですが…)。

おや、朝夕刊セットで発行している新聞が減っている!

なお、今回の値上げ情報を調べていて気づいたのですが、図表2に出て来る「値上げした新聞」のなかで、朝・夕刊をセットで発行している新聞は、合計9紙でした(朝日新聞、西日本新聞、毎日新聞、日本経済新聞、神戸新聞、産経新聞、信濃毎日新聞、京都新聞、河北新報)。

といっても、全国紙である朝日、毎日、日経、産経に関しては、一部地域ではすでに夕刊の発行を取り止めていますので、図表2に出てきた新聞のうち夕刊を刊行しているブロック紙・地方紙は、西日本、神戸、信濃毎日、京都、河北新報の5紙しかありません。

また、上記リストに出て来ていない新聞のなかでも、たとえば読売新聞、北海道新聞、東京新聞、中日新聞、新潟日報、北國新聞などが、今年8月の時点で夕刊を発行しています。

夕刊を発行している新聞の例(今年8月時点)
  • 全国紙…読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞、日経新聞
  • 地方紙…北海道新聞、東京新聞、中日新聞、西日本新聞(以上「ブロック紙」)、京都新聞、神戸新聞、信濃毎日新聞、河北新報、新潟日報、北國新聞

(【出所】著者調べ)

ところが、これらのうちの北海道新聞と信濃毎日新聞に関しては、9月末をもって夕刊の発行を取り止めてしまいました。特に北海道新聞の夕刊に関しては、ブロック紙としては初めてのことです。

新聞業界の未来

新聞廃絶への道は、まずは夕刊から

そういえば、先日より報告している通り、日本新聞協会のデータをもとに、2017年から22年にかけての新聞部数の減少が今後も同じペースで続いたと仮定した場合の部数については、朝刊よりも夕刊の方が、早く寿命が尽きるという計算結果となっていました(図表3)。

図表3-1 朝刊部数の予測値

図表3-2 夕刊部数の予測値

 (【出所】一般社団法人日本新聞協会のデータをもとに著者作成。「予測値」は2017年から22年までの部数変化が今後も続くと仮定した場合のもの)

すでに全国紙でも一部地域では夕刊の発行が取り止められている事例が相次いでいますし、ブロック紙の一角を占める北海道新聞も夕刊を取り止めました。地方紙に至っては、いまや夕刊を発行している新聞の方が珍しいでしょう。

そして、夕刊の次は、朝刊かもしれません。

朝刊自体がなくなってしまった事例としては、すでに大阪日日新聞という事例がありますが(『廃刊ラッシュはいよいよ始まるのか=大阪日日新聞休刊』等参照)、想像するに、部数がこれから損益分岐点売上を割り込む新聞がますます増えて来るはずです。

おそらくあと3年もしないうちに、夕刊の廃止は主要紙にも及ぶでしょうし、遅くとも5年後には主要地方紙のなかで廃刊するという事例が出て来るかもしれません。それだけ新聞部数の減少が激しい、ということでもあるのです。

配達員やトラック運転手は引く手あまた:新聞記者は…?

ただし、いくつかの新聞が廃刊となってしまった場合に、新聞トラックの配送運転手や新聞配達員の方々が失職してしまうことになるのかといえば、必ずしもそういうわけでもありません。運送業界は現在、慢性的な人材不足状態にあるからです。

まさに、「引く手あまた」、といったところではないでしょうか。

もちろん、宅配業者と新聞配達業界では、配達ノウハウも異なれば勤務形態も異なるため、単純に新聞販売店が運送業者の拠点に衣替えできるというものとは限りません。

しかし、むしろ「紙媒体の新聞」という非効率なシステムを残したままで、「運送業の2024年問題」などを議論すること自体がナンセンスでもあります。

さらにいえば、新聞社が消滅しても、ジャーナリストという職業に対する需要がこの世から消えるわけではありません。むしろ、専門性が高い記事が書ける人材は、フリーランスとしても十分に活躍できますし、経営のセンスがあれば、新たな会社を立ち上げてウェブ評論サイトを作る、といった選択肢もあるでしょう。

したがって、新聞業界に携わる方々のなかで、とりわけ「専門性がない記者」の方々は、今のうちに専門性を身に着けておくべきではないかと思う次第です。

(※もっとも、いま流行の「記者会見の場でダラダラとした演説をぶつ」という、まるで活動家のような「記者」「ジャーナリスト」の方々は、正直、新聞社が消滅した場合に、潰しが効かないという可能性もありそうですが…。)

新宿会計士:

View Comments (21)

  • 値上げの話題ですが、寧ろ、今の時代に1ヶ月配達して、2千円台、3千円台でやって行けるの?という感慨のほう方が先に来ました。今まで、1千円台でやっていた所があることが、強烈な驚きです。
    ここ迄無理な努力をして、この新聞事業というもの、やる必要あるのかな?と強く感じました。
    本稿の内容の通り、このように社会に必要性が無くなっている産業に貼り付けられている労働力その他は、他の成長産業に振り向けた方が良い、とはっきりと感じました。

    • 私もそう思いますね。
      値上げしても月1800円の「津軽新報」ホームページを見ると発行数15000部。
      従業員が50人もいる。
      1800円x15000部x12か月で計算すると3億2400万円
      広告収入もあるだろうから年商は4億円くらいか?
      従業員一人当たり800万円の売上の会社だ。
      こういう数字をみていると新聞というビジネスは「しぶとい」と感じる。

      • あ、
        地元である津軽新報がこんなところで注目を浴びている(笑)

        青森県内の新聞社は全国紙を除けば、こんな感じ。
        「東奥日報」「デーリー東北」「陸奥新報」「津軽新報」

        「東奥日報」(196000部 2021年データ)
        「デーリー東北」(92000部 同上)
        「陸奥新報」(53500部 データ時期不明)
        「津軽新報」(15000部 同上)

        この中では、県内シェア率54.3%(2021年データ)を誇る「東奥日報」が青森県内ではメジャーな新聞社です。
        でも、太平洋側(旧南部藩エリア)は八戸市に本社を置く「デーリー東北」が圧倒的に強く、八戸市内ではシェア80%を超えているそう。
        また「陸奥新報」は弘前エリア(旧津軽藩エリア)で強く、弘前市では52.5%のシェア(普及率)だそうです。

        ご承知の通り、青森県は歴史的背景もあり、商用圏は「青森市エリア」「八戸市エリア(南部地域)」「弘前エリア(津軽地域)」の3つに大きく分かれますので、新聞社も見事にそれを表していますね。
        人口減少率2位、高齢化率5位の青森県、「津軽藩だ、南部藩だ」と仲違いなんかしてる以上、県全体が限界集落になるのもそう遠くなさそうです・・

        おや、われらが「津軽新報」は?
        配達エリアは黒石市(32000人 県内人口順位8位)を中心にごく狭いエリア(黒石市+南津軽郡)を担当しており、県内でも無名な新聞社です。
        さらに言えば、日本新聞協会会員社ではありませんでした(笑)

        機会があれば、購入(定期購入にあらず)してみます。
        がんばれ「津軽新報」

    • さより様のおっしゃるように新聞事業をやる必要は日に日に少なくなっていると思います。
      ただ会計士様が指摘していますが、優秀なジャーナリストはどのような状況になっても情報の発信を止めないでほしいです。
      将来新聞社が少なくなっていく過程でも、記者クラブがある限りはそこから情報を得るための組織はなくならないと思います。
      ある種の特権ですから。

    • まーまだ折り込みチラシの市場もなんぼかありますしな、販売店的には

  • 毎度、ばかばかしいお話しを。
    新聞社:「赤信号、みんなで渡れば怖くない。テレビCMも、みんなでやめれば怖くない。新聞代、みんなで値上げすれば怖くない。新聞社、みんなで不動産業に転身すれば怖くない」
    これって、笑い話ですよね。

  • 新聞の記事に魅力とか関心がなくなっている。それはネットが普及したことによって利用者に変化が出てきた。
    テレビも同じでCMの多い民放や、一日同じニュースばかりしているNHKにも飽きが来ている。
    ネットでも、動画が少なければやがて同じ運命を辿ることになる。Youtubeのニュースは次の時代を担っているようなのですが、今は天気予報が多くアップされている。思うにTverのようなテレビの動画を扱う、ニュース専門サイトができないかな。それであれば各社の視聴した回数によって収入が確保される。料金はYoutubeより安く設定すると、視聴者が増えるかもしれない。

  • ローカル紙の一部売り(税率10%)が150円→200円になった。(まったく売れなくなった)
    お風呂(五右衛門風呂)の焚きつけ用に買ってくれてたお客様も来なくなりました・・。

  • 新聞制作にコストがかけられなくなったから、夜討ち朝駆け的な取材より記者会見で暴言吐いて頑張る方向性になってるのかな。記者会見なら勤務時間もコントロール出来るしね。
    ジャニーズ問題とか記者たちの仕事作りのためにやってるのかなぁとか思っちゃう。もう案件としては終わってるでしょあれ。
    (なんだか慰安婦と同じような話になってるなとは思う)

  • 新聞はもちろん、NHKなども見てる人がバカにされる時代がすぐそこにきてそうですね。

  •  ものすごく単純な話、今現在で「月2,000~4,000円の価値が無い」から部数減少しているのですから、「5,000円でも買わなければと思われるくらい価値を上げる」努力というものは出来ないものでしょうかね。
     「素人が無責任な無理を言うな」と言われるに決まっていますが、これが出来ないのであれば何をしたって未来が無いのは、無責任な素人にもわかります。

  • あ!
    新聞が絶滅したらアノ新型炊飯器どーすんだろ?

  • 英邁な経営者ならば先を見越して事業の転換を模索する。30年前ならインターネットも携帯もない時代。バソコンよりワープロの時代だった。これからの時代はスピードと容量を競う時代になる。必ず値下の時代がパソコンや携帯電話にもおとずれる。東京新聞の望月記者のような活動家記者は本来の業務より反政府の活動を個人でやらざえなくなるだろう。記者クラブにははいれない。情報をどう取得するのか?技術進歩は日進月歩。まさか電話でテレビがみれる時代がくるとは思わなかった。

  • >まるで活動家のような「記者」「ジャーナリスト」の方々

    名実ともに活動家になるだけでしょ。某持ち逃げ遺書子は「ArcTimes」という反日活動の場を既に確保している辺り、新聞業界の行く末をある程度感じ取っている可能性もありますね。
    東京新聞が消滅した場合、日々のやらかしに対する批判からもう守ってくれる隠れ蓑はなくなるでしょうがw

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