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完全雇用状態の日本を「最悪の状態」と表現したテレ朝

現在の日本では労働力が不足し、失業率が過去最低水準に張り付いている状況です。これは私たち一般国民、とりわけ労働者から見れば、大変好ましい状況です。私たちの労働力が高く売れる、ということを意味しているからです。ただ、デフレマインドに染まった経営者にとっては、「安くこき使える労働力が足りない」、という意味でもあります。こうしたなか、テレ朝newsが28日に報じた記事では、完全雇用状態で労働力不足が生じている現在の日本経済の状況を、「最悪」と表現してしまったようです。

デフレは失業者を増やす

デフレとは、わかりやすくいえば、「モノの値段が下がる現象」ですが、それだけではありません。

経済全体に与える悪影響のなかの最たるものが、「雇用の喪失」です。

2008年9月のいわゆる「リーマン・ショック」前後から、日本は有効求人倍率が1倍を大きく割り込み、民主党政権の最中にはこれが0.5倍をも下回ったこともありましたが、アベノミクスが始まって以来、(おそらくは日銀緩和のおかげで)有効求人倍率は2013年10月に1倍を上回って以降、(コロナ期などの限られた例外を除いて)1倍を下回ったことはありません。

これについて、有効求人倍率と完全失業率を重ね合わせて表現したものが、図表1です(※ただし、左軸も右軸もゼロから始まっていないのに加え、左軸に示した完全失業率は反転表示させていることに注意してください)。

図表1 完全失業率(反転表示)と有効求人倍率

(【出所】完全失業率は総務省統計局『労働力調査 長期時系列データ』、有効求人倍率は政府統計の総合窓口『一般職業紹介状況(職業安定業務統計)』データをもとに著者作成)

日銀緩和が労働市場を好転させた証拠

ある意味、非常にわかりやすいグラフです。

日銀の「黒田緩和」が始まったのが2013年4月のことですが、有効求人倍率と完全失業率は、コロナ期以降を除いてほぼ同じグラフを描いています。そして、有効求人倍率が多少下がったとしても、完全失業率はほとんど動いていません。まさに、現在の日本は「完全雇用」に近い水準にあるのです。

また、日銀緩和はべつに為替相場を円安誘導することを目的としたものではありませんが、それと同時に金融緩和を行えば雇用市場が逼迫するとともに外為市場では円安に振れる傾向があるはずです。

現実に為替相場と有効求人倍率を同一のグラフに表現してみると、図表2のとおり、かならずしもきれいに創刊しているとは限らないにせよ、やはり円安と労働市場の逼迫にはある程度の相関が認められるのです(※ただし、両者は因果関係にあるとは限りませんが、この点については本稿では割愛します)。

図表2 有効求人倍率と為替相場

(【出所】有効求人倍率は政府統計の総合窓口『一般職業紹介状況(職業安定業務統計)』データ、為替相場は The Bank for International Settlements, “Download BIS statistics in a single file”, Debt securities statistics および US dollar exchange rates (daily, vertical time axis) をもとに著者作成)

すでに賃金水準も上がり始めている

おそらく、日銀の金融緩和の影響で世の中がインフレ傾向となり、失業率が低下したことと、同じく金融緩和の影響で円安が進行していること、さらには円安のおかげで多くの企業の業績が上昇していることは、日本経済にきわめて大きな好循環をもたらしている可能性が濃厚でしょう。

これに加えて『雇用増に続き民間平均給与も2年連続上昇…円安効果か』でも取り上げたとおり、現実に日本人の賃金水準も上昇を始めています。まさに、労働市場の需給が逼迫している証拠でしょう。

当ウェブサイトではつい先日、イタリアの物価をもとに、「日本人は貧しくなっている」などとしたうえで、「日銀は金融緩和を止めるべき」と論じた記事を紹介しました。その記事は内容もメチャクチャなのですが、客観的な統計データとも明らかに矛盾しているというお粗末な代物です。これに関連し、もうひとつ、「日本は貧しくなった」論者にとって不都合なデータが出てきました。2022年の平均給与が前年と比べて11万9千円も上昇したのです。「円安で日本が貧乏になった」とする珍説先日の『日本人の年収を外貨建で議論しても無意味な理...
雇用増に続き民間平均給与も2年連続上昇…円安効果か - 新宿会計士の政治経済評論

いずれにせよ、2013年4月の黒田緩和以降の日本は、まさにマクロ経済学の教科書に書かれている、「貨幣供給量を増やせばインフレ率が上昇する」、「貨幣供給量を増やせば失業率が下がる」、「失業率が低い状態が続けば賃金水準が上昇する」、を地で行く展開となっているのです。

もっとも、このように考えていくと、最近、一部のメディアを中心に、「日銀は金融緩和を撤回しろ」などと唱える人たちには、何らかの「邪(よこしま)な目的」があるのではないか、などと想像したくなるのも無理はありません。

先日は「日本人がイタリア旅行をしたら物価高に驚く」、「円安を食い止めるために日銀は金融緩和を止めるべきだ」などとする、明らかに経済・金融の素人によるものと思われるメチャクチャな論考を紹介しましたが(『日本人の年収を外貨建で議論しても無意味な理由』参照)、これもそうしたもののひとつでしょう。

この最良の状態をテレ朝は「最悪」と報じてしまう

ただ、それ以上に驚くのは、現在の完全雇用状態を、まるで「悪いこと」であるかのように報じるメディアの存在です。

テレビ朝日が28日付で報じた次の記事など、その典型例でしょう。

人手不足“過去最悪”中小企業で7割近くに 看護、飲食、建設など深刻 日本商工会議所が調査

―――2023/09/28 15:10付 Yahoo!ニュースより【テレ朝news配信】

記事の内容自体は、日本商工会議所の調査で「中小企業の7割が人手不足と回答した」とするものですが、記事タイトルからもわかるとおり、これを「最悪」と表現しているのです。

いったい、なにが「最悪」なのでしょうか?

私たち一般国民、とりわけ労働者の立場からすれば、現在の状況は「労働力が高く売れる」、ということを意味します。

完全雇用とは、「働きたい人は、仕事を選ばなければ誰でも働ける」、という状況を意味しているのですが、現在はここからさらに進んで、「その気になれば給料が高い仕事もたくさん転がっている」、という状況になりつつあるのです(事実、賃金水準は上昇しています)。

いわば、デフレマインドの経営者――、すなわち「労働者を安く使い倒してやろう」と考える者たち――にとっては、非常に都合が悪い状況ですが、国民生活という観点からは、現在の状況はまさに理想的です。

それを「過去最悪」と報じること自体、テレビ朝日に「現在の労働力不足は悪いことだ」という価値観が垣間見えてしまうわけであり、まさに放送内容の政治的中立を義務付けた放送法第4条第1項の規定に正面から反するものでもあります。

賃上げすれば済む話

ちなみにテレ朝newsの記事によると、人手不足の深刻度が高いのは、とくに介護・看護、宿泊・飲食、運輸、建設などの業種ですが、これを解決する最善の方法がひとつあります。

それは、「賃上げ」です。

他所よりも高い給料を出すといえば、人は集まってきます。

日本の経営者は残念なことに、この「失われた30年」のデフレ時代において、「労働力には適正報酬が必要だ」という当たり前の発想を忘れてしまっているケースが多いのですが、労働に見合った対価を支払えば、労働者はいくらでも集まるものです。

逆に、労働者を適正報酬で雇えないほど利益水準が低いということであれば、それはその経営者の経営努力が足りないだけの話であり、少し厳しい言い方をすれば、そのような経営が経営する会社は、今すぐ市場から退出すべきです。

いずれにせよ、某自称経済新聞を含め、新聞やテレビを中心とするオールドメディアが声をそろえて「日銀は金融緩和を止めるべき」、「円安は悪いことだ」、などと言い出していることは、逆にいえばこれらのオールドメディアがデフレを「良いこと」だとするプロパガンダを垂れ流している間接的証拠といえるのかもしれません。

なお、何度強調してもし過ぎではないと思いますので、いつもの「円安・円高のメリット・デメリット」一覧表を、本稿でも再掲しておきます(図表3)。

図表3 円高と円安のメリット・デメリット

この図表、出所さえ示していただければ自由に利用していただいて構いませんので、どうかご自由にご活用ください。

新宿会計士:

View Comments (19)

  • >他所よりも高い給料を出すといえば、人は集まってきます。

    私は人生で4回転職した。転職の動機は「他所がいまよりも高い給料を出す」から。
    かつてタブーだった転職、転職支援サービスがテレビ広告を流す時代。これから転職者は劇的に増えるだろう。

    • 転職が当たり前になり、転職できる能力のある人(勝者)は給料が上がるでしょう。
      その一方で能力のない人(敗者)は減給ないしは解雇されてしまうでしょう。
      働く人は二極化し、数からみると勝者は一部で大多数は敗者でしょうね。

      多数を占める敗者は立憲民主党や共産党に票を投じるので政権交代が起こるでしょう。
      問題は政権交代が起こる状況になるまで立憲民主党や共産党がもつかどうかですw

      安倍元総理が第三の矢を放てなかったのはこれが理由でしょうね。

      • 敗者が多数で立憲、共産に投票するって、その政党の支持率見てから言ったらどうですか?
        支持率低下の一方じゃないか笑

      • 解雇される人は業種を変えればよいだけですね
        とりあえず日本にはマダマダいろいろなお仕事がございます
        オシナベテ1.0超え、有効求人倍率がソレより高い職種もいろいろ有りますヨ

        • 35歳以上は職業訓練が効かないんですよ。
          生活保護の生業扶助でケースワーカーが皆悩むところです、
          というか効果がないのが実情です。

          日本人の平均年齢が48.4歳。
          なので考えるだけ無駄。
          大変な世の中になってしまったものです。

          • ちょっとわかりずらかった。

            35歳以上は職業訓練が効かないんですよ。

            35歳以上は職業訓練が効かないので職種の転換は難しいです。

          • 今、全国でバスのドライバー不足が深刻化しているから、心身ともに健康な人には二種免許を取ってもらって、バスのドライバーになってもらえないですかね?

            函館~札幌結ぶ都市間バスの便数半減 背景に ”運転手不足” 事態さらに深刻化か【北海道発】| FNNプライムオンライン
            https://www.fnn.jp/articles/-/574396

            大阪の金剛自動車、路線バス全路線を12月で廃止 運転士不足などで:朝日新聞デジタル
            https://www.asahi.com/articles/ASR9C4WF2R9COXIE01N.html

          • 35歳でダメ??
            切実に高求人倍率のブルーカラーなら若手過ぎて失笑モンすナ
            DX進展で先細りの事務屋切られた無能ならサッサとアキラメテ現業に移ればイイだけ
            中高年向けの職業訓練もハロワにでも訊いてみりゃイイ
            ジブンの無能受け入れられず職種変えられないガキメンタルだから切られたと自覚すれば無問題
            そうやって生きていくために進めず、全て他人のせい社会のせい政府のせい与党のせいと責任回避責任転嫁他力本願サンが立民とかの支持に回ってるダケで拡がりに欠くから議席数もジリ貧一直線なんでネすか???
            まずは職種選り好み出来るだけの能力が無いことを自覚させんといかんやろね、ケースワーカーも大変デスナ()

          • 生活保護を担当していた時の経験から言うと、
            20歳台や30歳台前半の生活保護受給者は
            職業訓練を受けて介護職や溶接などの技能を身につけ
            正社員として採用され生活保護を抜けていきます。
            (福祉事務所ではこれを「保護廃止」と言います。)

            ところが30台後半からは難しくなっていき、
            50台で正社員に採用されて保護廃止になったりすると、
            生活保護課内で職員がざわめきたつほど難しいのです。

            生活保護受給者は普通の人より仕事の能力が低いので
            35歳の区切りは割り引いて考える必要がありますが、
            問題は、平均年齢48.4歳の普通の人がそのような目にあえば
            どのような政治行動をするかということです。

            普通の人にも1票が当然あります。
            そのような人は立憲民主党や共産党などに
            投票するようになるのではないですか。
            政治が悪いとか、以前のようにアベガーなどと言って。

            自民党がそのようなリスクのある政策を採用するとは思えないのです。
            将来の経済成長より現在の政権維持を優先するのではないですか。
            ましてや国家観など何もない岸田総理ならば。

  •  今なら(経営視点の)過去最悪の人手不足、逆のときは(労働視点の)過去最悪の失業率、とか言ってれば、ずっとご飯が食べれるぞっと。
     今日も「過去最高の何か」の逆に位置するだけの「過去最悪の何か」を探していることでしょう。考えてみれば彼ら、治安が良ければ「息苦しい」だの、景気が良ければ「欲にまみれて心は貧しい」だの、安定していれば「つまらない日々」だのと、昔からずっと言っていた気がします。良い商売だ。

    • オールドメディアは社会の公器でもなんでもなく、その場その場で売れるためにしていることをしているにすぎません。安定して「つまらない日々」だと、オールドメディア+特定野党の存在意義がなくなります。
      オールドメディアの特権や異常な優遇は剥奪すべきだが、政府や官僚が都合よく利用している面もあるので、なかなかそうはいかんのでしょう。

    • まさに悪い円高、悪い円安と同じですね。
      彼らの行う報道には原理原則や論理性は一切ないですね。あるのはエセヒューマニズム。

  • テレビ業界の転落は自社製作をおこたった20数年前から起こった現象かもしれない。「冬のソナタ」の大ヒットで各局衛星テレビも含め、作るより買うで韓国ドラマが席巻した。聖地巡礼とばかり韓国をおとずれ老若男女が引きも引かさず韓国びいきをうみだした。テレビのなかを実際と勘違いしお花畑よろしく現実のものと混同した。テレビ番組は衰退し、くだらないバラエティーで同じメンバーがブラウン管のなかを占めいい役者が育たない。悪循環である。もう韓国ドラマはやめるべきだ。自国の俳優を育て、脚本家を育て、演出や音楽をうみださなければ業界は終わる。

    • テレビに広告効果ないからスポンサーが金ケチるんですよ。
      だからグルメもの、旅もの、お笑いタレントのしゃべくり(みんな低予算)、それらの組み合わせになる。

  • 世の中は

    景況感回復→物価上昇→人手不足→賃金上昇→税収増→減税・公共投資増→景況感改善

    このサイクルが本格的に回り始めたところ。

    蚊帳の外になっちまったのが、テレビ・新聞業界

    スポンサー収入・販売数減→人余り→賃下げ・早期退職圧力

    まあ、恨み節のひとつも言いたくなるのは分からんじゃない。
    でも、ホントのところは言いたくないから、
    「酸っぱいブドウ」の言い訳に飛びつく(笑)。

  • 自虐に取りつかれた左派や自称知識人たちは、常に日本が「最悪」の状態じゃないと都合が悪い。今日もせっせと日本の「最悪」を探し続ける事でしょう。

    そして、そんな日本の報道を見て韓国が悦に浸るまでが定番。

  • コロナだってそうだ。
    あれだけ口を極めて日本のコロナ対応を批判していたが、一段落したら日本は人口比で感染者、死者世界で最も優れた国の一つ。

  • テレ朝
    =頭が付いて居るかいないか判らない玉川某を何時までも使っている
    =頭が付いて居るかいないか判らないテレビ局

    やっていることは 上の農民様のコメント(2023/09/29 09:38)の様な脊髄反射。

  • サムライアベンジャー(「匿名」というHNは、在日コリアンの通名と同じ恥ずべき行為) says:

     まあなんで日本のメディアがバカなのか分析する気も失せます。
     日本のメディア(世界のメディアも)その多くがサヨクなのですが、日本を非難する・悪く言うこと=頭のいい人間、と思っているんです。
     日本のメディアの英語版なんてみんな読んでくれれば分かりますが、日本の英語んのめでゃは悪い記事を書くのが当たり前になっています、怒りが抑えられないところです。

     私たちは、左翼どもに「囲まれてしまっている」のです、まずこれを何とかしないと。