本稿はちょっと珍しい統計整理です。当ウェブサイトでは「数字」を大切にしているつもりであり、とりわけ世界銀行などの統計データベースはしばしば利用させていただいているわけですが、こうしたなかで、例の「BRICSAEEISU」や「G20」などに関連し、GDPデータと突合したらどうなるか、作業を実施してみました。世界のGDP第60位のエチオピアがBRICSプラスに参加していること自体、理解に苦しむところです。
目次
G20の形骸化はさらに進む
『形骸化著しいG20、今度はAU加え「G21」に変化』でも取り上げたとおり、「G20」にアフリカ連合(AU)が加わり、来年からどうやら「G21」になるそうです。
なんだか、ますますわけがわからない組織になってきたのかもしれません。もともと形骸化が著しいG20に、アフリカ連合(AU)が加わって「G21」になるのだそうです。組織が拡大するのは良いのですが、この組織に何らかの意味はあるのでしょうか?G20といえば、G7にBRICSなどを加えた20ヵ国・地域からなる連合体として知られています。G20とは?G7の7ヵ国にアルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコの12ヵ国、及び欧州... 形骸化著しいG20、今度はAU加え「G21」に変化 - 新宿会計士の政治経済評論 |
なんだか、よくわかりません。
ただでさえ現在のG20が「よくわからない集合体」になってしまっているなかで、これに輪をかけて、「よくわからない集合体」になってしまうようです。
いちおう振り返っておくと、現在の世界には大きく、米国、日本、英国、ドイツなどの先進7ヵ国などから構成される「G7」と、それに中国やインドなどを付け加えた「G20」と呼ばれるもの、さらには「BRICS」と呼ばれる新興市場諸国を中心とする協議体などが存在するようです。
また、最近だと「グローバル・サウス」なる表現もよく目にします。これ自体、おおむね「西側諸国でも中国・ロシアでもない南側の国々」、といった意味合いがあるようですが、定義はいまひとつ明らかではありません。
G20に共通点なし;いわんやBIRCSをや
以上をざっくりとまとめると、こんな具合でしょうか。
- G7…米国、日本、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダの7ヵ国+EU
- G20…G7に加えてアルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコの12ヵ国+EU
- BRICS…ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5ヵ国
- BRICSプラス…BRICSに加えてアルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6ヵ国
- G21…G20+AU
…。
なんだか、本当によくわかりません。
G7については非常にわかりやすく、「GDPで世界10位圏に入っていて、自由・民主主義・法の支配・人権といった基本的価値を共有する国々」と特徴づけることができます。
しかし、G20について、「基本的価値」の部分でG7と共通している国はせいぜい豪州くらいなものであり、約束を平気で破る国(たとえばアルゼンチンやブラジル、インドネシアや韓国)、強権的な国(中国、ロシア、サウジアラビア)など、私たち日本とは明らかに価値を共有しない国も混じっています。
しかも、GDPで見ても、アルゼンチンや南アフリカの場合のように、「存在感がない国」も紛れており、こうしたなかでG20に何らかの共通点を見出すのは困難です。
これがBRICSになるとさらにナンセンスで、地理的共通点もなければ歴史的・文化的共通点もなく、ひとりあたりGDP水準も異なれば社会のさまざまな制度もまったく異なっている、といった点において、共通点を探す方が困難です。
ちなみに「BRICSプラス」とは、当ウェブサイトで「BRICSAEEISU」と表現した、アレのことです(『BRICSに6ヵ国が加盟:わけのわからない集合体に~名付けて「BRICSAEEISU」…ちょっとだけ反米色・イスラム色強め~』参照)。
名付けて「BRICSAEEISU」…ちょっとだけ反米色・イスラム色強めBRICSがBRICSAEEISU(?)に拡大したそうです。もはや、何の集合体なのか、わけがわかりません。というよりも、BRICS自体、もともと価値観も人口・面積・GDP規模などもバラバラだった集合体でしたので、結局のところ、「拡大BRICS」は少しだけ反米色とイスラム色を加えたうえで、よりいっそうバラバラの度合いを強めただけの話ではないかと思えてなりません。G7の特徴半世紀近い歴史を持つG7G7という集合体があります。これ... BRICSに6ヵ国が加盟:わけのわからない集合体に - 新宿会計士の政治経済評論 |
GDP上位10ヵ国、うち7ヵ国がG7
こうしたなかで、本稿では「資料集」的に、世界銀行のウェブサイトからダウンロードできる世界のGDP一覧表のデータを少し加工し、2022年における世界のGDPデータ(ドル表示)をもとに、それぞれの国がG7、G20、BRICSなどのどれに該当しているのかについてまとめてみました。
GDP (current US$)
―――2023/07/25付 THE WORLD BANK Dataより
まずは、上位10位までです(図表1)。
図表1 世界のGDP(上位10位まで、2022年)
国 | GDP | 備考 |
世界 | 100兆5620億ドル | |
1位:米国 | 25兆4627億ドル | G7/G20 |
2位:中国 | 17兆9632億ドル | G20/BRICS |
3位:日本 | 4兆2311億ドル | G7/G20 |
4位:ドイツ | 4兆0722億ドル | G7/G20 |
5位:インド | 3兆3851億ドル | G20/BRICS |
6位:英国 | 3兆0707億ドル | G7/G20 |
7位:フランス | 2兆7829億ドル | G7/G20 |
8位:ロシア | 2兆2404億ドル | G20/BRICS |
9位:カナダ | 2兆1398億ドル | G7/G20 |
10位:イタリア | 2兆0104億ドル | G7/G20 |
(【出所】世銀データをもとに著者作成)
これによると米国はいまだに世界のGDPの4分の1を占める経済大国ですが、その反面、中国のGDPはいまや18兆ドルで、経済成長がこのペースで続くなら、早ければあと数年で米国のそれを抜く可能性はあるでしょう(ただし、成長が「このペースで続くなら」、ですが)。
また、日本は世界3位の経済大国ですが、ドル建てで見ればドイツに迫られており、そのさらに後ろには経済成長著しいインドも控えています。円安傾向、インドの経済成長などが続けば、数年でGDPは一気に5位に転落する可能性もありそうです(※ただ、それが日本にとって悪いこととは限りませんが…)。
ただ、この図表の特徴は、世界10位に入る経済大国は、G7諸国、およびBRICSのうちの中国、インド、ロシアという3ヵ国である、という統計的事実を示している点にあります。この10ヵ国が、良い意味でも悪い意味でも、世界経済のキー・プレイヤー、というわけです。
第11位以下を眺めて気付くのは…
ただ、11位以下を眺めてみると、奇妙なことに気づくかもしれません。
いちおう、G20やBRICS、BRICSプラスの国名も上がって来るのですが、これらのどれにも属しない国も、GDPの上位国としてランクインしているのです(図表2)。
図表2 世界のGDP(上位11位から20位まで、2022年)
国 | GDP | 備考 |
11位:ブラジル | 1兆9201億ドル | G20/BRICS |
12位:豪州 | 1兆6754億ドル | G20 |
13位:韓国 | 1兆6652億ドル | G20 |
14位:メキシコ | 1兆4142億ドル | G20 |
15位:スペイン | 1兆3975億ドル | |
16位:インドネシア | 1兆3191億ドル | G20 |
17位:サウジアラビア | 1兆1081億ドル | G20/BRICSプラス |
18位:オランダ | 9911億ドル | |
19位:トルコ | 9060億ドル | G20 |
20位:スイス | 8077億ドル |
(【出所】世銀データをもとに著者作成)
それが、スペインとオランダ、スイスの3ヵ国です。
このうちスペインとオランダはEU加盟国であるため、EUを通じてG7やG20に参加している、という言い方もできなくはありませんが、スイスに関しては小国でありながらも立派な経済大国であり、かつ、SWIFTなどの決済通貨ランキングでも上位の常連通貨であるスイスフランの発行国です。
同様の違和感は、21位以降に関しても生じるかもしれません(図表3)。
図表3 世界のGDP(上位21位から30位まで、2022年)
国 | GDP | 備考 |
21位:ポーランド | 6882億ドル | |
22位:アルゼンチン | 6328億ドル | G20/BRICSプラス |
23位:スウェーデン | 5859億ドル | |
24位:ノルウェー | 5793億ドル | |
25位:ベルギー | 5786億ドル | |
26位:アイルランド | 5292億ドル | |
27位:イスラエル | 5220億ドル | |
28位:UAE | 5075億ドル | BRICSプラス |
29位:タイ | 4953億ドル | |
30位:ナイジェリア | 4774億ドル |
(【出所】世銀データをもとに著者作成)
ポーランド、スウェーデン、ノルウェー、ベルギー、アイルランドなどは、G7でもG20でもBRICSでもありませんが、GDPという意味では世界経済に存在感を放っており、BRICSプラスを構成するUAEよりもGDP水準では上位にあります。タイ、ナイジェリアも、アジア、アフリカでそれぞれ存在感の強い国です。
ちなみにエチオピアのGDPは世界60位…
そして興味深いのが、今回「BRICSプラス」に加わったエジプトやイランと、昔からのBRICS参加国である南アフリカの関係です(図表4)。
図表4 世界のGDP(上位31位から40位まで、2022年)
国 | GDP | 備考 |
31位:エジプト | 4767億ドル | BRICSプラス |
32位:オーストリア | 4714億ドル | |
33位:シンガポール | 4668億ドル | |
34位:バングラデシュ | 4602億ドル | |
35位:ベトナム | 4088億ドル | |
36位:マレーシア | 4063億ドル | |
37位:南アフリカ | 4059億ドル | G20/BRICS |
38位:フィリピン | 4043億ドル | |
39位:デンマーク | 3954億ドル | |
40位:イラン | 3885億ドル | BRICSプラス |
(【出所】世銀データをもとに著者作成)
BRICSプラスのメンバー国であるエジプトやイランがこのグループに入っていますが、くしくもBRICSの昔からのメンバーである南アフリカや、欧州諸国のオーストリア・デンマーク、アジアのシンガポール、バングラデシュ、ベトナム、マレーシア、フィリピンなども顔を覗かせています。
ちなみにBRICSプラスに加わったうちのエチオピアに関しては、GDPは1268億ドルでなんと世界60位であり、これは世界54位のギリシャ(2191億ドル)や世界58位のウクライナ(1605億ドル)などよりも低い数値です。
どうやってG7に「脅威」を与えるのか
もちろん、G20、BRICS、BRICSプラスには、それぞれのメンバー国を加える「意図」がそれぞれにあるのだとは思いますし、中国やロシアなどの危険な強権国家を支持する国が「グローバル・サウス」にちらほらと出て来ているという点については、留意点ではあります。
ただ、正直、客観的な統計データ(たとえば世界のGDP)などと突合してみたら、ちぐはぐ感は否めません。「BRICS」や「BRICSAEEISU」などで共通市場を創設するというのも非現実的でしょうし、ましてや、「BRICS共通通貨」など夢のまた夢、といったところでしょう。
この点、一部のメディアはしつこく、「BRICSプラスはG7に挑戦する組織である」、などと述べています。しかし、少なくとも金融面や経済面、法的側面などで見る限りにおいては、共通点がなさ過ぎて、逆にどうやってその組織がG7に「脅威」を与えるのか知りたいところだと思うのですが、いかがでしょうか。
View Comments (6)
今のところBRICS+6だか7だかは知らないが、あんまり存在感は感じない。経済規模が先進国とは、格差がありすぎる。ただオーストラリアやインド、中国、ブラジル辺りは人口も多いし、天然資源も日本よりはあるだろう。問題は技術力。技術がなければ開発はできないし、開発には資金も必要だ。共存共栄の精神のない中国が入ってる時点でどうかとは思うが、、、
一部メディア「だって、”中国に新しい国際秩序なんかつくれっこない”なんて
正直に書く訳にはいかないし……」
ただの想像です。
BRICSは不良の集まり。金持ちのC、けんかっ早いRに貧乏人のBやSが何かおこぼれにあずかろうと仲間のふりをしている。I君には「君には将来があるのだからあんな連中と付き合っちゃだめだよ」と言ってやりたい。
まあ、G7諸国に虐げられてきたと思っている国ばかりですので、「植民地支配被害者の会」とでも名付けたほうが分かりやすいと思います。
G8だと言っている隣の半島の国もこちらのほうが相応しいと思いますので、是非入れてあげてください。
難癖の付け方、集り方などをアドバイスしてくれると思います。
建設中のエチオピアのダムはいろんな意味で注目しています。 中国がやっている対印問題のダムとかも。 中国資本・中国企業・中国労働者・その他付属企業(中国人相手の個人企業とか) 発展途上国では、やりたい放題の彼らですね。
>BRICSプラスはG7に挑戦する組織である
G20の成り立ちは、恐慌回避のためのオリエンテーションでした。
立ち位置でいえばBRICSプラスはG7に”要求する組織"ですね。
*価値観的には、「豪を加えたG8 vs the end.」・・。