大阪のUSJがアルバイト人材の募集にあたり、「祝い金」名目で10万円の一時金を支給するなど、「手厚い待遇」を提示している、などとする記事が、日経新聞に掲載されていました。記事だけでは状況はよくわかりませんが、ただ、少なくとも日本全体で人材不足が顕在化し始めていることだけは間違いありません。
有効求人倍率とインフレ率
先日の『給食停止騒動に見る「過剰サービスから脱却する日本」』でも取り上げたとおり、現在の日本は国を挙げて「人手不足」に陥りつつあります。
インフレに伴う労働力不足が全国的に顕在化し始めているなかで、そろそろ破綻しそうなのが、「格安理論」――、すなわち「労働力の対価以上の過剰なサービスを提供する」という業者の存在でしょう。昨今は給食事業者の事業停止が問題となっているようですが、その背景にあるのは、「安いのは良い」といった意識ではないでしょうか。結局、適正なサービスを受けるためには適正なコストが必要だという、あたりまえの理論に行き着くのです。「段ボールを大事に扱え」という過剰サービス最近、当ウェブサイトでわりと頻繁に取り上げる話題が... 給食停止騒動に見る「過剰サービスから脱却する日本」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
基本的な統計数値を見るだけでも、有効求人倍率は1倍が大きく超過し(図表1)、インフレ率(とくにコアコア=「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」)も数十年来の高さとなっている(図表2)なかで、こうした状況は明らかです。
図表1 有効求人倍率と完全失業率
(【出所】厚生労働省『有効求人倍率と完全失業率の推移』バックデータをもとに著者作成)
図表2 インフレ率(総合、コア、コアコア/いずれも年率)
(【出所】『政府統計の総合窓口』ウェブサイト『消費者物価指数』データをもとに著者作成。「総合」は「総合指数」、「コア」は「生鮮食品を除く総合」、「コアコア」は「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」を意味する)
新幹線駅や空港で見かける大勢の外国人観光客
こうしたなか、著者自身も最近、複数の出張をこなしているのですが、明らかに各地で大きな変化が生じていることに気づきます。それが「人手不足」です。
たとえば某地方の場合、空港から街の中心部に行くための空港バスの本数が減らされていたのですが、これについても運転手の不足が原因だとされています。
また、ただでさえ人手不足となりつつあるなかで、受入キャパシティを超えた外国人観光客の急増も、おそらく近い将来、大きな問題になるのではないでしょうか。というのも、外国人観光客の姿が最近、空港や新幹線の駅で、やたらと目立つようになってきたからです。
東京駅から新幹線「のぞみ」号に乗車すると、大きなバックパックを持ち、指定席に間違って座ってしまったあげく、車掌さんから「あなたの持っているジャパン・レール・パス(※)ではこの列車(のぞみ号)には乗れない」などと宣告され、新横浜ですごすご降りていく外国人観光客を見ることもあるかもしれません。
ジャパン・レール・パスとは?
ジャパン・レール・パスはJRグループ6社が共同して提供するパスで、日本中を鉄道で旅行するのに適したお得で便利なきっぷ。購入できるのは外国人観光客か海外在住日本人に限られ、「のぞみ」「みずほ」などを除くJRの鉄道、バス、フェリーを利用することができる。発売価格は外国人用・おとな1名の場合、7日間で33,610円、14日間で52,960円(※いずれも普通車の場合)と、通常料金と比べ、かなりお得。詳しくは『JAPAN RAIL PASSとは?』等参照
ただでさえ人材難なのですから、正直、もう「ジャパン・レール・パス」のような価格破壊型の商品の発売など止めてしまえば良いのではないか、などと思わないでもありませんが、このあたりはJR各社の判断でもあるため、私たち部外者にとっては、何とも言い難い部分でもあります。
過剰サービスは維持できない
しかし、冷静に考えてみたら、深夜の時間帯も含めて24時間営業しているコンビニエンス・ストア業界を筆頭に、日本には労働力を無駄遣いしている産業が多くあります。
コンビニエンス・ストアの多くは、単に一般的な商品を売るだけでなく、郵便はがき・切手の販売、宅配便・商品等の受取サービス、各種チケット発行、ギフトカード・プリペイドカードの発行、コピー機を通じた住民票や印鑑証明の発行など、本当にさまざまな商品、サービスを扱うようになっています。
いまではコンビニエンス・ストアに銀行ATMが設置されていることも一般的ですし、アイス、ホットスナックなどの取扱い店舗も多く、それだけコンビニ店員には多くの負荷がかかっているものと推定されます(さすがにATM操作について、コンビニ店員に尋ねても対応はしてもらえないと思いますが…)。
これに、例の「マイセン男」(『「お客様は神様」と「デフレマインド」のコンビニ業界』等参照)のような理不尽な客の対応もしなければならないため、正直、時給が割に合わなくなってくれば、コンビニで働きたいと思う人も減るでしょう。
(※だからこそ、経団連としては「安くこき使える外国人単純労働者」を積極的に日本に入国させようとしているのかもしれませんし、また、経団連や一部メディアが日銀の金融緩和を敵視する理由も、それが雇用の拡大をもたらすからなのかもしれませんね。)
USJの対応はどうなのか
ただ、この労働力不足への対応は、「外国人労働者に単純労働を認めること」、ではありません。
人材を浪費する非効率な経営者に対し、市場からの積極的な退出を促すことです。
デフレ経営者の皆さんにはこの際、ひとり残らずお辞めいただき、きちんと「人材に適正な報酬を支払う会社」が評価される社会を作って行く必要があります。
こうしたなかで、ちょっと気になる記事があるとしたら、これかもしれません。
USJ、バイトに破格手当 祝い金10万円・家賃や転居補助
―――2023年9月11日 18:00付 日本経済新聞電子版より
大阪のテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」が「クルー」と呼ぶアルバイトを関西以外からも募集し始めたというのです。具体的には、「祝い金」名目での10万円の一時金にくわえ、家賃補助などの手厚い待遇を提示し、すでに関西以外から105人を採用した、としています。
この記事だけでは詳しい状況についてはよくわかりませんが、少なくともテーマパークを運営するうえで必要な人材が、関西圏内だけで調達できなくなっていることは間違いありません。いわば、「人材の募集競争」が生じ始めている、という可能性があるのです。
日本全体で人材難が生じているという点については、有効求人倍率やインフレ率などのデータで見ても想像がつきそうですが、いよいよ最低賃金が上昇し始める局面に突入してきたこと自体は、悪い話ではなさそうです。
ただし、現在の岸田文雄政権がこうした「インフレ社会」に対応し得るのかについては微妙です。社会全体がインフレ基調に入ってくると、所得税の税額控除を筆頭に、税制をそれに合わせて変更していかなければなりませんが、現在の岸田「宏池会」政権にそれができているフシは見られないからです。
このあたり、非常に気になる論点であることは間違いないでしょう。
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「奴隷待遇のスーパーマン募集求人」がイヨイヨ消滅するときがキマシタ?
四半世紀は遅い様にもオモワレマスが…
たーだ氷河期世代の(或部分)勝ち組が中央省庁のアッパー中核層クサいすけん、税制は罪務省がリード放さんでしょーナ…
コロナが防波堤になったけど、人手不足の日本を就職難に悩む韓国が目を付けて韓国の若者を日本の会社に就職させようと画策したのが数年前。ご丁寧にも日本企業も呼応して説明会の場まで設置した。未だ我が国が人手不足とは知らなかった。重労働や汚い現場で日本人が嫌う所で外国人が働いているのを良くみかける。外国人労働者から搾取している話も良く聞く話だ。留学とは名ばかりで労働目的で来てるから弱みがあり、劣悪な環境で働かざるをえない。
「ジャパン・レール・パス」は、廃止するか、もう少し価格を上げて販売すべきですよね。
日本人向けのJR全線利用可能だったお得な切符「フルムーンパス」を廃止しておいて、外国人向けだけ残すのはいかがなものかと思います。
「宏池会」のご本尊・池田勇人は、日本経済の立て直しに国民生活の安定と負担軽減が必要と考え、減税を実施したのですが岸田「宏池会」政権はどうでしょうね?
岸田さんが似非「宏池会」か否か注目するところです。
亡き池田氏は同じ広島出身の後輩である岸田氏が「増税メガネ」とあだ名されている様子を見て草葉の陰でどうお思いなんでしょうね。
いい話です。
日本人の給料が上がる傾向が見えてきました。
苦しくとも,安月給で働く外国人労働者を入れてはいけません。
過剰サービスをやめ,機械による自動化,賃金upにより対応するのです。
移民受け入れの増加を叫ぶ某政党体は,この流れをつぶして日本を破壊しようとする
危険な団体にしか見えません。
ドラッグストア系では、89314とか登録販売者の知り合いを紹介し、双方が何ヶ月間か在籍すれば15万ずつ30万円が支給される、なんて事をして有資格者を募集してたりしますね。
でも、平均勤続年数とか中途率とか分かる数字を見てくと、所詮は大量採用して搾取した後にポイ捨てし、後始末を社会に押し付けて自らの利益を最大化するブラック企業でしか無い訳で。
そんな企業で長く働くとしたら、お荷物社員としてどれだけ周囲から白い目で見られようとも「給料分だけ働く」事かなーと。
給料分以上の仕事をして会社に利益をもたらそうとすると、結局はサビ残とか必須になるだけ。
低賃金労働力の輸入は、外国人受け入れに伴う負担を自治体や住民に追わせ、低賃金というメリットだけを得ようという言語道断の政策です。経済学で言うところの、外部不経済というやつですね。公害垂れ流しみたいな。
また、日本人の非正規労働者やパートアルバイトの競争相手になっていますので、賃金アップの足かせにもなっています。
更に、労働力不足を補うための設備投資への意欲も削いでいますので、百害あって一利なしの政策です。
経団連やクオリティーぺーパーを自認す某経済新聞、視聴者から強制的に金を巻き上げている某放送局などはまさに日本国民の敵というべき存在です。
岸田首相は最低賃金アップを目指していますが、低賃金外国人労働者を規制しないと、より一層日本を目指す外国人労働者が増えるのではないでしょうか?
ごく普通に考えて、
「人出が足りない=賃金上昇」(わかりやすい)
この後で連想されるのは、
「先輩の給料を、後輩が追い越す」(いびつ)
じゃあ、
「まず既存従業員の給料を上げる」(シンプル)
ここで何故かけっつまずいてるような。
日本の組合はなにをやっとるんだ?
思い出されるのは、野党も連合もなんにも言わないのに、2%以上の賃上げを経団連に申し入れしたのは安倍晋三内閣でした。
普通ならば保守や経営者側ではなくて、革新やリベラルが率先して言い出すべきレーゾンデートルやろがい。
(笑)
ホンマ役に立たない人たち。
ジャパンアズナンバーワンと言われていたころ日本企業躍進の「三種の神器」というのがあった。
① 年功序列
② 終身雇用
③ 企業内組合
日本の成長が止まったら、「お荷物」か「役立たず」