日本の文教・研究予算などを巡って、政府の経済財政諮問会議の民間議員の方が日曜日、NHKの討論番組『日曜討論』に出演し、「日本は国立にも私立にもお金をばら撒いてきたので研究力が低下した」、「まだまだ『集中と選択』が足りていない」としたうえで、「今後は成果の出せる大学や人に予算を付けなければならない」と主張したそうです。この主張、「これから値上がりする株式に集中投資せよ」、あるいは「これから当たる馬券に集中投資せよ」、と述べているのとあまり変わらない気がしますが、いかがでしょうか?
髙橋洋一氏「日曜討論は素人以下」
数量政策学者で嘉悦大学教授の髙橋洋一氏から舌鋒鋭く批判されているテレビ番組のひとつが、NHKが放送している『日曜討論』です。
デイリースポーツが先月22日付で配信した次の記事によると、髙橋氏は自身のYouTubeチャンネルで同番組について「出ているやつは、頭が悪いやつばっかり」、「素人以下」などと痛罵したのだそうです。
高橋洋一氏「NHK日曜討論に出るのは頭が悪いヤツばっか」「素人以下」ブッタ斬り 政策議論の間違い指摘「あんなの平気で放送して」
―――2023/08/22 17:40付 Yahoo!ニュースより【デイリースポーツ配信】
記事によると髙橋氏が批判したのは、『日銀“政策修正”物価・賃金は 日本経済は』をテーマに、日銀の金融政策修正についての評価、暮らしへの影響などについて、専門家が議論した、8月6日の放送回だそうです。
これについて髙橋氏はYouTubeで、次のように指摘したそうです(※原文は口語体ですが、引用に当たっては文面を少し修正しています)。
「『日銀が持ってる国債が多いことが副作用』って言っているが、副作用なんてまったくない。日銀に利払いしてその利払いが政府に入ってくるから、利払い負担がなくなるから副作用どころか、財政健全化になるだけ」。
「利払いが大きくなったらインフレ率が高くなって副作用、という話になるが、インフレ率自体、他の国に比べて全然高くないから、副作用なんか出てない。そこがまったく分かってないんだよ」。
当ウェブサイトとしては、この点について若干の異論もないわけではありません。
ただ、日本国債の市中流通量の半額近くを日銀が保有しているという状況が危険だ、などと主張する人もいるのですが、これは完璧な間違いです。日銀の国債投資ののファンディング(原資)は市中金融機関から預かった預金(日銀当預)ですので、国債は実質的に市中消化されていると考えて良いからです。
いずれにせよ、髙橋氏は番組出演者について「素人以下だよ」と断じたうえで、「あんなの平気で言って、NHKも堂々と流しているんだから、金取るレベルじゃないよ」と述べたのだそうですが、このくだりに関しては(ちょっと舌鋒鋭すぎる点はともかく)趣旨については完全に同意せざるを得ません。
日曜討論で「選択と集中足りない」=経済財政諮問会議議員
どうしてこんな話題を持ち出したのかといえば、同じ『日曜討論』を巡って、新たな話題が出て来たからです。
X(旧ツイッター)に投稿された複数の情報によると、政府の経済財政諮問会議(議長は岸田文雄首相)で民間議員を務める人物が、研究予算などを巡って、「日本は選択と集中が足りていない」、などと述べたのだそうです。
…。
はて?
政府、とくに文教予算を取り仕切る文科省、あるいは財務省や経済産業省など、霞が関の官僚に、「この分野を選択し、集中すれば、成果が上がる」という見極めができるのでしょうか?
なんだかよくわかりません。
X上の反応は?
実際、X上では「そもそも現状認識が誤っている」、「エビデンスがない」、などとする批判が相次いでいます。
…。
たしかに、「Fラン大学」と呼ばれる、研究レベルが非常に低いと(一部では)指摘される大学を放置していながら、以前の『科学博物館「クラウドファンディング成功」の裏の問題』でも指摘したとおり、博物館や研究機関などに対する予算を絞っているのは、大きな問題でしょう。
昨今のコロナ禍や物価高騰により財源不足の危機にさらされている国立科学博物館(科博)がクラウドファンディングを始めたところ、たった数日で目標額を大きく上回る5億円近い金額が集まったそうです。ただ、これを「美談」として称賛するのは正しいのでしょうか。そもそも官僚機構による予算の使い方自体、正しいのでしょうか?2023/08/09 12:03追記書式を修正しております。科博のクラファン、あっという間に目標額達成!クラウドファンディングのサイト『レディフォー』に7日付で、国立科学博物館(科博)がクラウドファンディン... 科学博物館「クラウドファンディング成功」の裏の問題 - 新宿会計士の政治経済評論 |
何が間違っているのか
ちなみに選択と集中を巡って、この委員の方が主張している内容は、「将来値上がりする株式に集中して投資すれば良い」、というものと似たようなものでしょう。
「10年後に株価が10倍になる銘柄」を、いま全力で買っておけば、10年後には投資額が10倍になるわけです。この諮問委員の方は、NHKの番組になんか出ていないで、是非ともご自身でそのような投資行動を取るのが良いのではないでしょうか。
あるいは、もう少しわかりやすい例でいえば、「競馬では当たり馬券に買えば必ず儲かる」、「宝くじでは当選番号の券を買えば必ず儲かる」わけですから、当たり馬券や当選番号を予想してそれらに投資すれば良いのではないか、という気がします。
なお、これについてはエコノミストで前日銀審議委員の片岡剛士氏がきちんと真面目に反応しています。
何を選択し、何に集中するかの対象を巡り、片岡氏は「政府には正しい対象が何か、事前に把握することができない」と切り捨てます。これが答えでしょう。
いずれにせよ、政府(というか官僚)がお膳立てしている「有識者会議」のたぐいについても、国会議員あたりが一度、きちんと精査した方が良いのではないかと思う次第です。
オマケ:こんなコピペ
さて、「Fラン大学」という単語が出たついでに、ふと思い出したのが、こんなコピペです。
412 投稿日: 2013/01/19 21:03:25
FランのFはフェニックスのFや!例えこんなところで落ちぶれても不死鳥のごとく上流階級に返り咲くんや!!
414 投稿日: 2013/01/19 21:04:02
>>412
フェニックスは「phoenix」
…。
おあとがよろしいようで。
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経営ならば選択と集中が有効(な場面がある)だけど、研究や政府事業は対義語にあたる「多角化」の方が無難じゃねーかなと思った農業従事者。
なんでもかんでもマストに選択と集中をコミットしてウィンウィンを目指せばなんか良いこと言っているような気分になりますわな。
まず、研究よりも大学単位での選択と集中が必要ですね。
学生が減っているのだから、大学も減らしていかないと。
WindKnight.jpさま
>大学も減らしていかないと。
大学を減らすということは、日本全体での教授の就職先も減らす、ということですね。
教授として学習意欲の低い大学生のために時間を無駄にして研究時間を失うのが良いのか、よりLvの高い大学で准教授や助手として教鞭をとるのがよいのか、どこかの研究所に所属して研究をするのが良いのか、企業に所属して開発に携わるのが良いのか。
いろんな選択肢はあるでしょう。
減らされるような大学の教授ポストにそこまで価値はあるのでしょうか?
「教授」と言うポストは、マスコミと省庁の天下り先になっています。
何しろ「箔」が付きますからね。
そんな就職先、無くなった方が世のためです。
F欄は潰しましょう。
となると、マスゴミは自身の天下り先のために大学を新設するのでしょうか。(モリカケ問題は、どうなるのだ)
感想をみっつ書きます。
値上がりする株を予想することは不可能というのはそのとおりだと思います。
一方、値下がりする株には投資しないようにしたいですよね。でもこれもなかなか困難かな。
うろ覚えなんですが稲の種の発芽をさせるために水につける作業があると思うのですが、
浮いてしまう種は発芽しないので取り除いているように、だめなのを取り除く手段が欲しいですね。
この話題は研究予算の話ですけど、教育機関の組織を維持するために40万人の留学生を入れるらしいですけど、留学生を受け入れなければ存続できない機関は止めて頂いて、
その費用を研究予算に振り分けてもらいたいなあ。
存続できない機関の職員を研究機関の助手などとして雇用する手もあるかと思います。
集中投資はだめだということには、本当にそうなのかなという疑問もあります。
宇宙開発や核物理実験研究の様な大プロジェクトに集中投資すれば、関わる研究者や技術者の数も多いので思わぬ副産物的な成果がでる気がします。
研究テーマに悩む研究者や開発技術者にはありがたいかもです。
確かに選択と集中は難しいですが、定員割するような大学は容赦無く潰していく、留学生がいないと成り立たないような大学も潰していけば、底辺は淘汰できるのではないでしょうか。
確かに 選択と集中は理想論ですが
「日本学術会議」とか、選択可能なゴミは確実に存在します
まあ、NHKの番組ですから、「もしできれば、誰も文句は言わない」ことした言えないのでは。(民放でも同じかあ)
肥沃な土壌があってこそ、立派な作物が実る。
プランター栽培並みに、化成肥料ガバガバやってりゃ、大収穫なんて、
農業のイロハのイも知らぬ、ド素人の言説。
高橋洋一氏が「あんなの平気で放送して」というのも、よく分かる。
中空氏の発言の「集中と選択」の対象は、「研究分野」じゃなくて「大学」だと思うのです♪
>「将来値上がりする株式に集中して投資すれば良い」
ってのはダメだと思うけど「業績が堅調で財務状態の良い株式に投資すれば良い」なら、アリだと思うのです♪
だから、あたしは、中空氏の発言はそんなにおかしなことじゃない気がするのです♪
ただ、新宿会計様がXから引用してる「選択と集中はこの2,3年で始まったものじゃないのだから、・・・・」のとこは、そのとおりだと思うのです♪
あと、科学技術の発展みたいなざっくりした目標だと、政府が正しい対象を把握できないってのは、そのとおりだと思うけど、個別の政策として研究の必要性がある分野ってのはあると思うのです♪
そういうのは文科省とかを通さずに、それそれの役所から配分できるようにしたらいいんじゃないかって思うのです♪
一番投資しなきゃいけない対象は、修士、博士課程の学生とポスドクだと思います。収入が無くて上の過程に進めない学生は少なくないですし、アパートの電気や水道を止められた博士課程の先輩も知ってます。
博士課程に進むこと自体が半分国への就職のようになっていなければおかしい。
生活に汲々としていては余裕のある発想などできるはずもないでしょう。
結局はベンチャーを生み出さなければいけないわけで、ベンチャーの種は大学院に多くあるはず。今の日本の制度はそこに行く人を絞っているし、ベンチャーに資金を供給するベンチャーキャピタルも弱い(日本人が銀行好きのためと自己資本比率規制のせいで銀行がベンチャーにお金を出せないのが見事にコラボしている)
この辺を何とかしてほしいです。
namuny様
返信ありがとなのです♪
修士、博士、ポスドクへの支援については、研究費の配分でやるべきなのか、個人への支援をすべきなのか、よくわかんないのです♪
ただ、博士課程の方が、光熱費を払えないってのは、なんとかしなきゃいけないんだろうって思うのです♪
あと、ベンチャー支援の必要性には同意なのです♪
ベンチャーとは違うかもだけど、国も「スタートアップ支援」という施策があるみたいなので、こういうのを拡充したり、使いやすくしたり、大学院なんかが取りやすくなればいいのかな?って思うのです♪
経産省>新規事業・スタートアップ
https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/index.html
なんなら、大学への補助金とか、学術会議の事務経費を減らしてでも、こういうのに回すのもひとつの方策じゃないかな?って思うのです♪
ありがとうございます。
昔はベンチャーは地元の地方銀行や信用金庫とかがお金を出してたんだと思うんですが(ついでに、経営のアドバイス)、技術が進みすぎてそういったところの役割じゃなくなってる気がします。上のスタートアップ支援はそこの代替なのかな。
結局日本の預貯金は銀行にあって可視先を探している状態なので、銀行がベンチャーキャピタルにお金を出す際に、自己資本比率への計算を50%とか、30%(住宅ローンと同じ)になるように政府保証を入れるのが有効だと思います。
あと、企業と学生の接点をもう少し増やせる仕組みが欲しいですね。企業の開発の一部を大学生に任せることで開発のアウトソーシングと資金をそちらに流したいです。ただ、そのつながりを作るには基本的に学会参加した企業の人間と教授との付き合い経由くらいしかないし、今では学会の参加人数もコスト削減(とコロナ)で減って、夜の付き合いも参加しにくくなっているし。そういう場所での雑談が一番大事なのに。
別系統で学生を知る機会を作れるならそれもありでしょうが。
「お金をばら撒いてきたので、研究力が低下した」という理屈がよくわかりません。そもそも、官僚(素人)が研究を選別しなければならないほど、日本政府はお金に困っているのでしょうか?
オワンクラゲがなぜ光るのか→ノーベル賞、なんて誰も予測不可能です。
短期に成果が出そうな研究は、他人の研究をキャッチアップしているものが多いから、そんなところから革命的な発見・発明はまず出てきません。結局、トップランナーから核心技術を高額で買わされることになります。
確かに選択と集中は大切な考え方だと思います。
そこで、ちょっと過激ですが、所謂Fランク大学なるものは全部潰して、そこに垂れ流しているお金を科学技術の研究開発へ集中して廻したほうが将来多くの富が得られると思いますけれども。