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    Categories: RMB金融

BRICS共通通貨では西側通貨体制が揺るがない理由

BRICSに6ヵ国が参加し、「BRICSAEEISU(?)」なるものが発足し、「ほんのり反米・ほんのりイスラム」という「わけのわからない集合体」になったとする話題に、続きがあります。いくつかのウェブサイトなどでは、とくにサウジアラビアなどを中心に、「原油のドル決済からの脱却」などの狙いもある、などと主張しているようです。はて、本当でしょうか。統計で見ると、脱ドルが進んでも「ドル以外の西側通貨」にシフトするのが関の山ではないかと思うのですが…。

脱ドルしてもほかの西側諸国通貨に代わるだけでは?

昨日の『BRICSに6ヵ国が加盟:わけのわからない集合体に』では、BRICS…、じゃなかった、「BRICSAEEISU(?)」なる集合体を巡って、「ただでさえわけがわからないのに、さらに6ヵ国が加わって、『さらに反米色・イスラム色強め』な代物と化した」、とする話題を取り上げました。

これに関連し、いくつかのウェブサイトなどでは、今回新たにこの「BRICSAEEISU(?)」に加わった国に産油国であるサウジアラビアが含まれていて、サウジの狙いには「原油のドル決済からの脱却」が含まれている、といった主張もあったようです。

ただ、これらの論考(?)っぽいものを眺めていて痛感するのは、「ドル脱却」は口で言うほど容易ではない、という事実でしょう。

COFERの内訳:人民元は増えているものの…

たとえば、当ウェブサイトでも常々取り上げる、国際通貨基金(IMF)が公表する「COFER」という統計があります(統計の英文の正式名称は “Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves” )。

このCOFERでは、四半期ごとに、世界各国の外貨準備に占める通貨別の金額・割合が示されているのですが、内訳判明分(2023年3月末時点で11兆1505億ドル)のうち、米ドルは59.02%であるのに対し、人民元は2.58%に過ぎません(図表1)。

図表1 COFER通貨別内訳(2023年3月末時点)
通貨 金額 割合
内訳判明分 11兆1505億ドル
うち米ドル 6兆5806億ドル 59.02%
うちユーロ 2兆2047億ドル 19.77%
うち日本円 6095億ドル 5.47%
うち英ポンド 5411億ドル 4.85%
うち人民元 2881億ドル 2.58%
うち加ドル 2707億ドル 2.43%
うち豪ドル 2211億ドル 1.98%
うちスイスフラン 277億ドル 0.25%
うちその他通貨 4071億ドル 3.65%
内訳不明分 8891億ドル
合計 12兆0396億ドル

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves をもとに著者作成)

また、人民元建ての金額、割合については、統計に出現し始めた2017年3月以降で見れば、2021年12月末に3373億ドルと過去最高を記録したものの、それでも割合として見れば、現時点においても3%に満たない水準です(図表2)。

図表2 世界の外貨準備に占める人民元建ての資産とその割合

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves をもとに著者作成)

ドルは減っても西側諸国通貨は顕著に減っているわけではない

これに対し、西側諸国通貨(2012年9月までは米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、スイスフランの5通貨、2012年12月以降はこれに加ドル、豪ドルを加えた7通貨の合計)については、たしかにシェアはジリジリ下がっているものの、依然として90%を超えていることがわかります(図表3)。

図表3 外貨準備に占める西側諸国通貨の資産とその割合

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves をもとに著者作成)

何のことはありません、外貨準備に占める米ドルの割合が減っていることは事実ですが、その分、ユーロや日本円、英ポンドといった「他の西側諸国通貨」に振り替えられているだけの話です。

ちなみに「その他通貨」の推移をグラフ化してみると、2012年12月末と16年12月末でそれぞれ急減していることが確認できますが(図表4)、これはそれまで「その他通貨」に含まれていた加ドル・豪ドルが12年12月末で、人民元が16年12月末で、それぞれ独立表示されるようになったためと考えられます。

図表4 世界の外貨準備に占めるその他通貨建ての資産とその割合

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves をもとに著者作成)

SWIFTランキングでは北欧通貨あたりが強そうだが?

この「その他通貨」の内訳はさだかではありませんが、SWIFTの国際送金シェアランキングのデータ(図表5)などから判断すれば、少なくとも人民元を除く「BRICSAEEISU」の通貨が大々的に含まれている可能性は高くなさそうです。

図表5 2023年7月時点の決済通貨シェアとランキング(左がユーロ圏込み、右がユーロ圏除外)

(【出所】SWIFT『RMBトラッカー』レポートをもとに著者作成。以下同じ。なお、黄色マーカーがG7、青マーカーがG7以外のG20の通貨を意味する)

すなわち、外貨準備の構成通貨のうち「その他」に含まれている可能性が高いのは、北欧通貨(デンマーククローネ、スウェーデンクローナ、ノルウェークローネ)あたりではないかと思います。せいぜい南アフリカランドかサウジアラビアディナール、あるいはシンガポールドルあたりが少額含まれている程度ではないでしょうか。

通貨の使い勝手ではBRICS通貨は先進国通貨に勝てない

ではなぜ、世界で広く通用する通貨の数は限られてしまっているのか――。

その大きなヒントは、「その通貨の使い勝手」にあります。

通貨の本質的な機能は「価値の尺度」、「価値の交換」、「価値の保存」の3点にあるとされます。価値の尺度は「モノやサービスの値段を通貨で数量的に示すこと」、価値の交換は「おカネを払ってモノやサービスの提供を受けること」、価値の保存は「経済的価値を未来に繰り延べること」です。

このうち地球上のどんな通貨にも備わっているのは「価値の尺度」ですが、「価値の交換」、「価値の保存」などの機能に関しては、地球上のありとあらゆる通貨に備わっているわけではありません。

とりわけ上場株式、非上場株式、プライベート・エクイティ、債券、証券化商品、ファンド、シンプルな金利スワップ、高度なデリバティブ取引などに関しては、その金融商品が複雑化すればするほど、取り扱われている通貨が限られてきます。

これらの金融商品については、(おそらくは)北朝鮮ウォン建てのものは存在しませんが、米ドルや日本円、ユーロ、英ポンドなどには存在しています。

結局のところ、ある通貨が国際的に通用するものであるかについては、その通貨で提供されている金融商品の種類がどれだけ豊富か、その通貨を使った決済にどれだけ信頼性が高いか、といった、「通貨システムそのものに対する信頼性」の問題に行き着くのでしょう。

くどいようですが、現状、「BRICSAEEISU(?)」11ヵ国の通貨のなかで、いちおう自由に取引可能な通貨は南アフリカランドくらいなものであり、それにしたってメジャーな通貨とはいえません。

また、人民元はSWIFTランキング、COFERランキングなどに近年、頻繁に登場していますが、その一方で人民元取引には規制が多く、西側諸国と同等の通用度はありません。

つまり、通貨の使い勝手ではBRICS通貨は先進国通貨に勝てないのです。

そもそもBRICS共通通貨自体、『ユーロの例で考える「BRICS共通通貨」の非現実性』でも指摘したとおり、基本的には実現不可能であると考えられます。

しかし、こうしたハードルを乗り越え、なんとか「BRICS」あるいは「BRICSAEEISU(?)」諸国が共通通貨を創設したところで、それが米ドル、あるいは西側諸国通貨体制を揺るがすほどの力を持つようになるかどうかについては、なお、慎重な見方をせざるを得ません。

(※というか、そんな通貨を作ってもすぐに崩壊するのが関の山ではないかとも思うのですが…。)

敢えて実現する可能性があるとしたら、BRICS通貨統合に先立ち、BRICS各国通貨に連動する「通貨バスケット」のようなものを創設し、それを疑似的な共通通貨として使用する、といった構想でしょうか。

ただ、IMFの特別引出権(SDR)ですら、現状、決済手段として、ほぼ利用されていない現実に加え、BRICSAEEISU各国の通貨が自由に交換・利用できない状況を踏まえると、そのような構想自体もうまく行くとはいえないのではないか、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (9)

  • 経済制裁の国。独裁者の国。通貨危機に常にさらされてる国。信用のない国。政治的対立のある国、更にいえば、中国が入るだけで瓦解する。一帯一路がいい例で必ずあの国は、組織を撹乱する存在になる。日本のリスクは岸田だけ。周りがしっかり手綱を締めればなんとやら。でも、バカだからなぁ。

  • 自分ルールの国の集まりに何かができる訳ないと思うんですよね。
    欧州にして「『ツーカーの仲』は一日にして成らず」ですものね。

  • 決済という以前に原油やゴールドのような国際商品はアメリカにマーケットがあり、そこでドル建ての“価格”が決まっている。
    サウジが原油の代金をBRICS通貨で受け取ることはできるが、その価格はマーケットで決まった価格にならざるを得ない。つまりUSD/BRICSという為替レートで換算したものになるのだろう。今まで米ドルをため込んでいたのがBRICS通貨をため込むことになる。サウジは西側諸国からの石油掘削機械、精製設備、メンテナンスの代金を払う時「BRICS通貨で払います」で通用すると思っているのだろうか? また、たまったBRICS通貨を投資したい時どこに投資するのだろう。いちいち米ドル、ユーロに替えてから投資するつもりなのだろうか。それともBRICSの中のどこかの国か。
    このようなことを考えるとBRICS通貨とは、非現実的な話に思えるが。

  • 英語という事実上の世界共通言語とドルという事実上の共通通貨、膨大な金の保有、先進技術や資源の保有などにより、米国を中心に世界が回っているのは間違い無く、これらが米国を圧倒的優位な立場であり続ける要因になっているのは事実でしょう。
    かと言って、それ相応の国としての信頼性確立や国際警察としての役割など、有利な立場相応の努力をしているのも事実。
    それらの基盤や矜持や覚悟のない国々がそんな立場を望んだところで野合、妄想というしかないとしか思えません。

  • 品揃えがなく、店舗数も少ないコンビニのポイントと何にでも交換できる現金とどちらを皆が欲しがるかは自明の理。

    中共様の元を基軸通貨にしたいという願いは 一般人が日銀に憧れて家庭内で使ってる子供銀行券をスーパーで使いたいというのと同じような気がします。

  • BRICSは「ブリックス」で割と通じると思うけれど、
    BRICSAEEISUってどう発音すれば良いんでしょうかね?

    「ブリックサエーイス」と読めば良いのだろうか……
    寄せ集め感、闇鍋感が強化される読み方だなあ。

    • ブリックス(って)さ え?(そんなもの)イーデス
      とやんわりスルーされるものかと (^^);

  • ドルは太陽系の中心にある太陽のようなもの。
    太陽が消えたらどうなるか。引力を失い惑星はふわふわと漂うだけ。

  • まあ、世界金融の場末の片隅で
    ドグロを巻くような存在にとどまるでしょう。

    もし、
    この同盟が価値があるものなら
    G20の中でも脆弱通過国グループなのに
    思い上がりと見栄っ張りが強い
    韓国さんがしゃしゃりでて
    「今や世界をリードし羨望を集める
     我が韓国が主導することで
     世界経済の潮流の中心に一気に踊るでるのだニダ」?
    とか囃子立てるでしょうが
    それが無いところを見ると
    利にさとく金に汚いだけの
    韓国さんみたいなものにも
    その利用価値を感じては貰えないような
    その程度の価値の同盟なのでしょう。